ミクロの世界を覗いてみよう Vol.2 ちっちゃいけれど働き者『血小板』その1
■作成日 2018/2/27 ■更新日 2018/5/9
元看護師のライター紅花子です。
先月からスタートした「ミクロの世界をのぞいてみよう」と称したこのコラムは、知っておくとほんの少しだけカッコいい、元看護師による看護師のための薀蓄(うんちく)コラムです。
2回目の今回は、「ちっちゃいけれど働き者!血小板のお話し その1」です。働き者すぎるため、2回に分けてお伝えします。
血小板とは
看護師として勤務していると、さまざまなシーンで見かける「血小板」という文字。血の小さい板?この名称は何を表しているのでしょうか。
血小板のはたらきをひとことで言えば、出血を止めること、つまり止血です。
血小板は、血漿内に溶けている「血液凝固因子」という物質との、共同作業によって止血をおこないます。
血小板が止血をどのようにおこなっているのかも含め、血球の元となる「造血幹細胞」から、一人前の血小板になる過程をみていきましょう。
もとはひとつの細胞から
赤血球の項目でもお話ししたように、すべての血球は、もともとひとつの造血幹細胞から分化・成熟期間を経て、オトナの血球へと成長していきます。
もちろん、血小板も赤血球と同じように、一人前の血小板に成長することで、骨髄中から関所を通り抜けて静脈洞へと入り、中心静脈・静脈へと進んでいきます。
静脈へと進んだ血小板は、約10日間、全身を循環し、主に脾臓(赤脾髄)で破壊され、その一生を終えます。
血小板の構造
血小板の元となる造血幹細胞から分化した幹細胞は、成熟が進むごとに大きさが増し、巨大化していきます。関所である「小孔」を通過する直前の段階では、その大きさは骨髄細胞内で最大!になっており、この状態を「巨核芽球」といいます。
巨核芽球からさらに成熟し、巨核球となった細胞は、その細胞質の一部がちぎれ、「血小板」を放出しますが、この状態になって初めて、関所を通り抜けることができます。
血小板はとても小さく(径は2~4㎛)、不活性の状態では球がややつぶれた円板形をしています。
しかし、一度活性化すると球形に変形し、偽足(突起)を出します。
血小板が他の細胞と少し違うところは、「核」を持っていないことです。しかし血小板の中には、密小管系、解放小管系、血小板特有の細胞内顆粒であるα顆粒や密顆粒(濃染顆粒とも)など、様々な構造や物質が備わっています。
血小板の中にある構造や物質は、それぞれが独自の機能を持っています。
- 密小管系:Ca2+の貯蔵庫
- 解放小管系は:Ca2+の流入や、顆粒内容物の放出などの通路になる
- 密顆粒(濃染顆粒):Ca2+のほか、セロトニン、ATP、ADPなどで構成される
- α顆粒:抗ヘパリン物質(血小板第4因子)、トロンボプラスチン、血小板由来成長因子(PDFG)、βトロンボグロブリン(βTG)などで構成される
これらはすべて、「止血」という血小板の機能を果たすために、必要な要素(構造、物質)です。
止血の3TEP
日常的な業務の中で「あ、出血が止まって来た」と感じることは、多いと思います。逆に「出血が止まらない!」というシーンは、日常的にはあまりお目にかかりたくない情景です。一言で「止血」といっても、そこには、大きな3つのSTEPがあります。
まず、出血するようなケガを負ったときには「傷ついた血管の損傷部位の血管が収縮する」という反応が起こります。これによって血流速度が遅くなり、この後の血小板による反応を行いやすくしています。もちろん、血管が自ら収縮することで、出血量を減らす効果が期待できます。
次のSTEPは、血小板が主役となる「一次止血」で、その後にフィブリンが主役となる「二次止血」の二段階の過程が存在し、これにより強固な止血がおこなわれます。
一次止血:血小板凝集による『一次血栓』または『血小板血栓』
一次止血は、血小板による「粘着」「放出」「凝集」の、3段階の機能によって進んでいきます。
【粘着】:血小板が、血漿タンパク質のvWF因子を介し、血小板の膜状タンパク質と結合する
- 血管内皮細胞が損傷し、コラーゲンが露出する
- コラーゲン線維に血小板が粘着する
【放出】:活性化された血小板から、止血に必要な物質が放出される
- コラーゲンと接触した血小板は活性化し、互いに密着する
- Ca2+流入や貯蔵Ca2+の放出が起こり、細胞内のCa2+濃度が上がる
- 密顆粒内物質(セロトニン、ADP、ATP、Ca2+)が細胞外に放出され、血小板をさらに活性化
- 細胞内のホスホリパーゼA2(PLA2)が活性化し、細胞膜リン脂質からアラドキン酸が遊離
- アラドキン酸の産生物のトロンボキサンA2(TXA2)※1が細胞外に放出される
※1 TXA2:血小板活性化作用(血小板凝集作用)と血管収縮作用があり、止血にはたらきかける
【凝集】
- 血小板同士がフィブリノゲンを介して連結され、凝集する
- α顆粒から放出される「血小板第4因子」などが、血小板凝集を促進する
血小板の働き、すなわち「止血」に関するメカニズムは、これがすべてではありません。創部の表面に、いわゆる「かさぶた」ができるまでの過程には、まだまだ長い道のりがあります。詳しくは次回の当コラムでお伝えしますが、次の「二次止血」の過程では、「カスケード理論」と呼ばれる反応が登場します。
ところで、「出血が止まらない」疾患に「血友病」があります。これはカスケード理論のうち、2つの過程のどちらかが上手く機能しないために、「止血」に至らないという疾患です。次回はこの辺りにも触れていきたいと思います。
参考資料
一般社団法人 日本血液製剤協会 血が止まる仕組み
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/hemophilia/hem_02.html
CSLベーリング株式会社 ヘモフィリアナビゲーター 血友病とは
http://www.hemophilia-navi.jp/disease/index.html
書籍
医療情報科学研究所 病気がみえる vol.5: 血液
日本医事新報社 カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版 第3版