■ 記事作成日 2018/7/23 ■ 最終更新日 2018/7/23
2018年度から、新たな専門医制度がスタートしました。
これまで、専門医の養成・認定は各学会が独自に行っていましたが、今後は、学会と日本専門医機構が「医療の質」を保ちつつ「国民への分かりやすさ向上」を目指し、共同して行うことになりました。
しかし、質の維持を追求するべきではありますが、関係施設に対するハードルはさらに高くなる可能性があり、「地域間・診療科間の医師偏在が助長されるのではないか」という指摘もあるようです。
実際に、地域間・診療科間の医師偏在はあるのか、厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」から「標榜可能な専門医」についてのデータを参考に、考えてみたいと思います。
平成28年現在、全国の「標榜可能な専門医」は、延べ32万人
厚生労働省では、医師・歯科医師・薬剤師の分布、及び就業の実態等を把握する目的で、2年ごとに「医師・歯科医師・薬剤師調査」を実施し、その結果を公表しています。
平成29年(2017年)に公表された「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、「標榜可能な専門医」は、麻酔科標榜医を除くと、全国におよそ28万人いるようです。
それでは、まず各専門医の人数を見ていきましょう。
専門医の人数が多い方から順に、総合内科、外科、整形外科、消化器病となっています。これに、小児科、循環器、消化器内視鏡などが続いています。
標榜可能な専門医の調査は、厚生労働省のホームページの資料を見る限りではH22年に始まったと思われますが、平成22年(2010年)と平成28年(2016年)の同調査結果を比較すると、「精神科専門医」が標榜可能な資格として増えていることが分かります。
また、この6年間で、専門医が増加している科とその人数は、1位から順に以下の通りです。
- 精神科専門医 9,623人
- 総合内科専門医 8,088人
- 消化器病専門医 3,686人
- 消化器内視鏡専門医 2,908人
- 小児科専門医 2,672人
- 整形外科専門医 2,326人
- 循環器専門医 2,212人
- 外科専門医 1,993人
- 産婦人科専門医 1,860人
- 肝臓専門医 1,776人
ただし、「精神科専門医」は、平成22年(2010年)の時点では「標榜可能な専門医」になっていなかったため、一気に増えたように見えています。
それを踏まえて上記のグラフと照らし合せると、やはり元々専門医の多い診療科は、増加人数も多い傾向があることが分かります。
逆に、平成22年(2010年)と平成28年(2016年)で比較すると、専門医が減っている診療科もあります。
- 気管食道科専門医 -1人
- リハビリテーション科専門医 -29人
- 小児外科専門医 -29人
- 漢方専門医 -64人
- 心療内科専門医 -115人
- 一般病院連携精神医学専門医 -174人
減っている理由はさまざまなことが考えられますが、例えば「需要の低下」や、「仕事が厳しいという医学生の先入観」などがあるのかもしれません。
医師の「専門医」制度、現在は専門医機構で一括して調整?
専門医制度に共通する課題に取り組み、さまざまな調整を行うために、平成25年(2013年)から「一般社団法人日本専門医機構(以下、「専門医機構」)」が発足しました。
専門医機構のホームページには、現在82の専門医の資格認定等が明記されていますが、このうち、二つの領域での専門医資格と、それぞれの有資格者人数が記載されています。
<専門医の領域>
Ⅰ.基本領域専門医(学会):18
Ⅱ.Subspecialty領域専門医(学会):64
さらに、専門医機構にて資格取得等を管理している専門医資格のうち、56の資格が標榜可能となっています(平成25年(2013年)8月現在)。
ただ、厚生労働省が統計を行った時期と、専門医機構が統計データを公表した時期が違うため、人数に若干の差異があります。
また、厚生労働省の調査では、レーザー専門医、気管支鏡専門医、呼吸器外科専門医、熱傷専門医も対象となりましたが、専門医機構のリストには含まれていないことには、注意が必要です。
専門医の集中度合を見てみると…
診療科ごとの医師数から今度は、都道府県ごとの状況を見てみましょう。
人口が集中する、いわゆる「5都府県(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡)」は、やはり医師数が多く、特に東京は飛び抜けて多いことが分かります。北海道は土地柄として医療機関数が多いため、医師の数も多くなっているようです。
さらに、都道府県ごとの「標榜可能な専門医」の人数をグラフ化すると、次の通りです。
医師全体の人数を見ると、多少の高さの違いはありますが、5都府県はやはり専門医も多い傾向があり、その他の道府県との「偏在」があることは否めないようです。
また、医療機関に勤務する医師数よりも、標榜可能な専門医の方が多いことに違和感がありますが、これは複数回答可での質問だったため、一人で複数の資格を所有する医師が多いことや、ある程度の経験年数が過ぎれば「専門医」の資格取得に動いているためと推測できます。
では、人口10万人に対する医師数や標榜可能な専門医数を見てみるとどうでしょうか。上が「人口10万対医師数(医療機関勤務)」、下が「人口10万対標榜可能な専門医数」のグラフです。
棒グラフの形は、ほぼ同じように見えますね。違いが分かるよう、5都府県のみ、数値も入れてみました。医師数の実数(医療機関勤務医/標榜可能な専門医)と比較すると、都道府県ごとの差は縮まっているように見えるのではないでしょうか。
しかし、例えば人口10万対医師数が元々少ない埼玉県では、標榜可能な専門医も少ないですし、東京都はいずれも日本で一番多い都道府県であることは事実です。
また、人口10万対で医師数よりも専門医数のほうが多いように見えますが、これは前述の通り、専門医については複数回答可として質問しているためです。つまり、一人で複数の専門医資格を持つ医師も一定数は居ることを、現しているのではないでしょうか。
2019年度以降の専門医資格はどうなるか
ここまでで見てきたデータから勘案すると、今のところ、地域間・診療科間の医師偏在は確かにあります。
そこで、新しい専門医制度では「5大都市圏の採用数上限」を設けて医師の5大都市への集中を防ぐなどの方向で動いているようです。
しかし、この上限数の設定が適正ではないのではないか、といった指摘があるなど、まだ完全ではありません。
今後も、日本専門医機構は「2019年度の専攻医定員」などを、どのように設定すべきか検討する考えのようですので、専門資格取得に関しては、これからまだまだ取り決め等の変化があるかもしれません。
まとめ
医師からすれば「己の道を究める」ことに繋がり、患者さんや地域の人たちからみれば「医療に対する安心感」や、医療の安全性にも繋がる専門医制度は、医療にとって必要な体制といえます。つまり、専門医の資格取得は、医師の転職には有利な面があるということです。
しかし、専門医の分布には、まだある程度の地域偏在や、科の偏在が残っており、「今この地域ではどのような専門医が求められているのか」という点も、転職先を検討するときのポイントになるのではないでしょうか。
【参考資料】
平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450026&tstat=000001030962&cycle=7&tclass1=000001109395&tclass2=000001109396&second2=1
第27表 医師数,主たる従業地による都道府県-指定都市・特別区・中核市(再掲)、主たる業務の種別
第28表 人口10万対医師数,主たる従業地による都道府県-指定都市・特別区・中核市(再掲)、主たる業務の種別
第48表 医師数-(再掲)医療施設従事医師数,主たる従業地による都道府県-指定都市・特別区・中核市(再掲)、取得している広告可能な医師の専門性に関する資格名及び麻酔科の標榜資格(複数回答)別
第49表 人口10万対医師数-(再掲)人口10万対医療施設従事医師数,主たる従業地による都道府県-指定都市・特別区・中核市(再掲)、取得している広告可能な医師の専門性に関する資格名及び麻酔科の標榜資格(複数回答)別
平成22年 医師・歯科医師・薬剤師調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450026&tstat=000001030962&cycle=7&tclass1=000001047384&tclass2=000001047385&second2=1
第48表 医師数-(再掲)医療施設従事医師数,取得している広告可能な医師の専門性に関する資格名(複数回答)・従業地による都道府県-指定都市・特別区・中核市(再掲)別
日本専門医制評価・認定機構 加盟学会の専門医数の一覧表
http://www.japan-senmon-i.jp/hyouka-nintei/data/index.html
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