年々増加傾向の女性医師…転職etc.は彼女たちの人生にどんな影響を与えているか
■ 記事作成日 2015/10/7 ■ 最終更新日 2017/12/6
「女医」というと、昭和の時代までは、やや特別な存在の人たちを指していました。医師という職業に就く女性は少なく、「女だてらに医師になったなんて、頭が下がる」…と言われるような、稀有なものだったと言います。
しかし、今や時代は進化しています。厚生労働省の資料によると、医師全体における女性医師の数は約20%、20代医師における女性医師の数は約35%程度(2012年)とされています。そしてこの割合は、今後一気に増加していくだろうと推計されているのです。
それゆえ、団塊の世代が退職した後、女性医師の割合は一気に増える…その時、女性が働きやすい医療現場を作っていなければ、日本の医療制度は危機を迎える…と危惧されてもいます。
なぜか?
女性は、結婚・出産・育児と言う、家族を作るライフイベントの中心的存在になります。女性が家庭生活を営みながら、納得のいくキャリアパスができる環境が、まだまだ整っていないのです。
性差を無視しても、医師不足が社会問題になっている現代…医療の大きな担い手である“女性医師”が活躍できる社会でなければ、より深刻な医師不足になる事は目に見えています。そんな背景から、国を挙げての施策が多角的に行われようとしていますが…その実現には、女性医師のみならず男性医師をはじめとする全ての医療従事者そして行政や地域社会が一体となって、「女性医師が輝くキャリアパス」について理解を深めなければなりません。
女性医師を取り巻く環境はどこへ向かうのか?その方向性を考えてみる事にしましょう。
女性医師の就業状況を見てみると
診療科別に見る女性医師の割合
医師全体に占める女性医師の割合を診療科別に見ると…皮膚科・眼科・麻酔科・産婦人科・小児科などの診療科の割合が非常に高くなっており、軒並み約35%前後(2012年)を占めています。特に皮膚科にいたっては、約45%に迫る勢いです。
これらを年代別に見ると、20代医師の中で占める女性医師の割合が、皮膚科で約69%、小児科で約49%にも上っており、これから10年20年も経てば、彼女たちが指導医や管理職に就く事が想定され、女性医師がそれら診療科を牽引する役割を持たなければならないはずです。
一方、外科(約7%)や脳神経外科(約5%)など、全体で見ると極端に女性医師が少ない診療科もありますが、こちらも年代別に見ると、20代医師の中で占める女性医師の割合が、約20%にも上っている事がわかっています。
つまり、診療科における女性医師割合の偏在はあるものの、総ての診療科において女性医師の割合は確実に増加しており、特定の診療科における問題ではないという事が分かります。
女性医師の非正規雇用割合とM字曲線
病院における女性医師の雇用状況を見てみると、医師全体における正規雇用の割合が約8割に対し、女性医師は7割にとどまっています。(2012年厚生労働省)これは、医師全体と女性医師の比較ですが、男性医師と女性医師を比較すると、さらなる開きがあると推測されます。
女性医師は、正規雇用の割合が少なく、「正規短時間雇用」や「非常勤雇用」などの割合が高いのです。その背景は、紛れもなく、結婚・出産・育児などのライフイベントと密接にかかわっていると言えるでしょう。
一方、女性の就業率は「M字カーブ」と表現され、結婚・出産・育児期は、就業率が低下すると言われています。医師の場合も例外では無く、医学部卒後を契機に就業率がどんどん下がって行き、卒後11年の36歳頃(25歳で卒業したと仮定した年齢)に底値のピークを迎え、約76%まで落ち込みます。それからまた年齢と共に就業率は上がっていく訳ですが、女性の就業が、ライフイベントに左右される事は明白です。
また、女性医師のM字曲線は、女性全体のM字曲線と比べ、底値のピークが高いのが特徴です。女性全体での底値は、36歳頃で約69%まで下がるのですが、上記の通り、女性医師は約76%で留まります。これは、しっかりとキャリアを積んできた女性医師には、高い就業意欲があるという事が伺える数字です。
しかし…これ以上M字曲線の底値を上げる事は、個人の意欲ではどうしようもないものです。
女性医師本人は、
「一人の女性として、妊娠・出産を経験したい。」
「キャリアを継続したい。」
と考えます。
社会は、
「少子高齢化社会において、一人でも多くの女性に子供を生んでほしい。」
「女性医師にもっと活躍してほしい。」
と考えます。
これらの矛盾した本音はどちらも正論です。そしてこの矛盾に折り合いをつけるために、今こそ、社会全体の取組として、女性医師が輝くキャリアパスの仕組みを考えなければなりません。
女性医師が輝くための基本的なチェック項目
女性医師の活躍の場を拡げ、医療の担い手として輝くキャリアを積んでいってもらうために、厚生労働省は、以下のようなチェックリストで、医療機関に現状確認を求めています。女性医師本人も、男性医師も、医療機関の管理職や事務方職員も、これらの項目をチェックし、理解を深める事が重要です。
【全体】
□管理者自らが職場の女性医師の勤務状況やニーズについて把握している。
□職場において育児等をしながら働き続けるための制度や社会資源を把握している。
□性別や職種に限らず職場全体に共通した取組を行っている。
【職場の理解】
□管理者や職場の上司自らが声かけをするなどして、職場の雰
囲気作りを進めている。
□職場で利用可能な制度や社会資源について、パンフレット等にしてわかりやすく伝えている。
□管理者や職場の上司が、育児等をしながら働くために配慮を受ける医師とそれ以外の医師の両者について、適切な業務配分や給与体系の見直し等により公平感を醸成している。
□管理者や職場の上司等が参加する研修や会議において、育児等をしながら働き続けやすい環境整備に関する内容を取り扱っている。
【相談窓口等】
□ライフイベントに応じた勤務等について相談できる窓口の設置や専任スタッフの配置を行っている。
□先輩の経験を共有できる機会の提供や情報ネットワークの紹介、関係団体の支援活動への参加の配慮を行っている。
【勤務体制】
□短時間勤務や交替勤務制など、育児等をしながら働き続けやすい柔軟な勤務体制をとっている。
□当直や時間外勤務への配慮を行っている。
【診療体制】
□医療関係者や事務職員の役割分担を確認している。
□事務補助職の活用を行っている。
□複数主治医制や多職種によるチーム医療において、効率的に情報共有や診療の提供を行っている。
□多くのスタッフの参加が必要なカンファレンスを勤務時間内に行っている。
□地域における医療機関の役割を確認し、診療の連携や集約など、診療体制の効率化を図っている。
【保育体制】
□育児を行う職員の勤務体制や診療体制と調整が図れるよう、院内保育所の柔軟な運 営や保育サービス提供の配慮を行っている。
□病児保育の提供など、子どもが病気になった場合の対応について配慮を行っている。
□院内保育所の設置や病児保育の対応ができない場合、保育所の共同設置や共同利用、民間のシッターサービスが利用しやすいような工夫をしている。
【復職体制】
□復職する際に e-learning や実技実習の提供を行うなどの支援を行っている。
□勉強会等への参加について配慮を行っている。
これらの項目に一つでも当てはまらなければ、その医療機関は、女性医師のキャリアパスのために、新しい体制作りを進めなければならないという事です。
女性医師の悩み事…「婚活」について
多くの女性医師が、結婚・出産・育児などのライフイベントに直面し、様々な悩みを抱えています。ここでは、そのケーススタディーを知る事で、解決の糸口を探してみましょう。
まずは「婚活」について。
医師という職業の多忙さは誰もが知るところです。大学病院や市中の大病院に勤めているならば、休日も勤務時間も不規則で、充分な休日を確保する事もままならないでしょう。
そういった時間的制約の中で、一般的なOL女子が体験するような、男性との出逢いを求めた「パーティー」「合コン」などの機会がなかなか得られない職業なのかもしれません。
また、特に産婦人科医や小児科医になった女性医師は、職場の多くの同僚が女性といった環境もあり、輪をかけて恋愛機会が少ないと言われています。
女性医師の中には、婚活のために非常勤勤務を希望する人もいるくらいです。しかしそのドロップアウトが、キャリアの断絶につながる危機を招くことは否めません。
また、結婚・出産後も仕事を続けたいと考える女性医師は、パートナー選びも慎重にしなければなりません。育児や家事を二人で協力し合えるかどうか?妻の医師という職業に理解を示してくれるかどうか?夫は転勤が多い職業ではないか?夫に家業などの責任はないか?夫の職業や家業にスムーズに医師を続けられそうにない背景があった場合、解決の手段はあるか?
難題が山積みの中、婚活に成功した女性医師たちは、どのように生活の折り合いをつけていたのでしょうか?
発想の転換で「婚活」を成功させたA子さん
昭和の頃は、「女医は結婚できにくい。なまじ頭が良く稼ぎがあったら、女として可愛げがない。」…などと揶揄される事もあった女性医師ですが、今やキャリアを築ける女性は、適齢期男性に高い人気があります。
“ゆとり世代”や“さとり世代”と言われる現在の若者層の辞書に、「男の沽券」なんて言葉はありません。むしろ、男性である自分だけが社会に出て稼がなければならない事に恐怖を感じており、一緒に稼いで家庭を運営してくれる妻と結婚する事を、理想としている人が非常に増えています。もちろん彼らは、家事や育児も当たり前に分担するスタンスです。
しかし、女性の方に、まだまだ「白馬の王子様願望」がある事が婚活を成就させない要因の一つにもなっています。自分より背が高くて、自分より稼ぎがあって、自分より優秀で、自分を守ってくれる逞しい男性にいつか出会いたい…と。
大学病院に勤めるA子さんも、そんな発想の女性の一人でした。けれども、女性医師というキャリアを選んだ時点で、か弱く美しいお姫様ではありません。自らの力で道を切り拓く、勇気ある女性です。自らのキャラクタを正確に把握し、「私のパートナーは白馬の王子様ではない。」…と、早めに理解する必要があります。
ある日A子さんは、昔ながらの王子様的理想像を捨て去り、自分のキャラクタやキャリア志向を軸に、男性を見るようにしたそうです。すると、それまで恋愛対象にもならなかった男性が、たちまち結婚相手として浮かび上がってきたといいます。
A子さんが結婚したのは、行きつけの珈琲ショップの店員さんです。気さくで優しく、コーヒーのハンドドリップがこの上なく素晴らしく、女性の様な濃やかな気配りをしている男性です。年収はA子さんの半分以下でしたが、A子さんが主な家計の担い手となりキャリアに邁進すれば、経済的に何も問題はありません。その珈琲ショップは彼の実家の経営だったので、育児においても彼や彼の家族に大部分を担ってもらう事ができそうだと思ったそうです。
女性医師として第一線で働き続けるならば、帰ってくる家庭は「ほっとする」場所である事が重要です。妻のキャリアにライバル心むきだしの夫では、休まる所には成り得ません。A子さんの夫は、A子さんの帰りに合せて、「至福の珈琲」を毎日淹れてくれるそうです。
いくら時代は変わったとはいっても、社会のDNAに刻まれた古い考え方が、女性医師の根底に生き続けている事もあります。女性医師としてキャリアを積む環境が整っていたら、相手に経済的な側面を求める必要は無いはずです。自らが発想の転換さえできれば、結婚相手がいないわけではないのです。
出かける機会を増やし、結婚相談所も利用したB子さん
女性医師は忙しい…
「残業にオンコールに休日出勤で、出逢いのチャンスがない!」
多くの女性医師は、自身の婚活がうまくいかない理由をこのように語ります。市中の総合病院に勤める20代後半のB子さんも、そう嘆いていました。
しかし実際そうでしょうか?道を歩けばたくさんの男性を目にします。男性自身がいない訳ではないのです。いつしか忙しさにかまけて、病院と自宅だけの往復の生活となり、そもそも誰かに出逢おうとしていない女性医師が非常に多いと見受けられます。
B子さんは既婚の先輩女性医師からそのような旨を指摘され、「ハッ」としたと言います。そして、あらゆる出かける機会を自ら作って行ったそうです。
まず、これまでパスしていた、所属病院や所属学会の勉強会や講演会や懇親会にも積極的に参加するようにしました。そして、スポーツクラブにも入会しました。さらに、結婚相談所にも入会し、お見合いやパーティーにどんどん顔を出していったそうです。
もちろん、仕事の忙しさは変わらないので、たまたま空いた時間があれば婚活に充当すると言ったスタンスでした。しかし、前向きに出かける心づもりをしただけで、結構時間は作れるものだったそうです。
B子さんは、たくさんの男性と出逢い、良い刺激を受け、異性の友人も増えて行ったそうです。そして、そのような出逢いの経験が、B子さんをコミュニケーションを上手にさせました。
そしてある日…運命の出逢いが訪れます。お見合いパーティーで出逢った男性が、B子さんと真剣交際をしたいと言っている旨、結婚相談所から連絡があったのです。B子さんが改めてその男性とデートを重ねてみると、「運命の人」と言いたくなるくらい、理想的なしっくりくる相手だという事がわかり、とんとん拍子で結婚の話がまとまったそうです。
女性医師の多くは、結婚相談所やお見合いに頼るのは、最終手段だと考えている人が多いようです。しかし、お見合い偏差値が高い20代~30代前半の若いうちこそ、そのような出逢いの場にもチャンスを求めてみると高い効果が得られるのです。30代後半~40代~では、たちまちお見合い偏差値が下がります。もちろん、結婚適齢期や魅力度は個人に拠るものであり、加齢が悪いものではありません。しかし、個人の魅力にスポットを当ててもらう前に、年齢と言う外形評価で機会を損失してしまうのです。
出逢いはどんなものでも、素晴らしいものです。「こうでなくてはならない」という固定概念を捨て、結婚相談所を含めた多様な出逢いを肯定すれば、忙しい医師にぴったりの効率的な婚活ができるはずです。
女性医師の悩み事…「妊娠・出産」について
婚活の次は、「妊娠・出産」について…
女性のキャリアパスにおいて、もっとも深刻な悩みの種となるのは、この「妊娠・出産」のタイミングかもしれません。結婚はキャリアを阻害する要因にはなりにくいですし、育児は様々な支援を受けて、何とか段取りがつく事もあります。しかし妊娠・出産だけは、女性医師が自らの体でやり遂げなければならない、代わりのいない一大ライフイベントです。
妊娠・出産のためには、どんな女性医師でも必ず、100%、キャリアを中断しなければなりません。どんなに短期間でも、戦線離脱する事になりますし、長きに渡って戦線離脱しなければならない場合もあるでしょうし、どんなにうまくいっても、ペースダウンからは逃れられません。
女性医師本人の幸せのためにも、日本社会のためにも、妊娠・出産は非常に歓迎されるべき喜ばしい事です。しかしながら、女性医師がキャリアを継続しながら妊娠・出産に安心して臨むための体制は万全ではないのです。
子供を産んだ後の育児に関する制度は随分と進化しているにも関わらず、妊活・妊娠・出産といったフローにおいて、女性医師に圧し掛かる負担は非常に大きくなります。
そんな中で、出産を経験した女性医師たちは、どのように遣り繰りをしていったのでしょうか?そのケーススタディを見てみる事にしましょう。
妊娠を契機に退職に追い込まれたC子さん
C子さんは、市中の小規模病院に勤める医師です。結婚四年目の33歳の彼女は、真剣に妊娠を望んでいました。しかし、C子さんの勤める病院は、常勤医3人で外来から病棟管理まで全てを回している病院です。その激務たるや散々なものですが、自らが大切な戦力である事は自覚していましたので、なかなか抜ける訳にはいきません。上司からは、「〇〇さんは子供がいないから当直できるよね」…と言われ、仕方なくずるずる引き受けていたそうです。
しかし、このままでは夫とゆっくりした時間はとれないと、妊活の危機を自覚していました。結婚当初は妊娠を避けていたC子さんですが、いざ、妊娠しようとしても、なかなか子供を授かりません。そしてC子さん夫婦は不妊治療を始め、薬を服用するようになると……すぐに妊娠が分かったそうです。
身重の体でこの激務は耐えられないと、職場に勤務緩和を申し出てはみたものの、院長は「それは困った」と言い、C子さんのために特に策もとらずに退職に追い込まれる羽目に。どんなに雇用側に悪気がなくても、小規模病院では大病院のようなサポート体制をとりにくいのが現実。勤め先の現場をよく分かっていたC子さんは、事を大きくする事は辞め、退職を受け入れたそうです。
悔しいですが、面倒な事になって、妊娠期や出産に悪影響を起こしたくなかったからです。
出る所に出れば、立派なマタニティ・ハラスメントに認定されるであろう事が、小規模病院などでは当たり前に行われています。そして、そうせざるを得ない、医師不足・医療経営危機という背景は、一介の医師一人でどうする事もできない事です。C子さんは妊娠・出産のために、今まで積み上げてきたキャリアを一度リセットし、出産後に新たな道を模索しなければならなくなりました。
C子さんの失敗要因は何なのでしょうか?
今は独身で結婚や妊娠の予定が無くとも、将来的に妊娠・出産を経験したいと思っている女性医師は、就職をする段階で、その医療機関の妊娠・出産・育児のためのサポート制度までをきちんと把握して、入職するか否かを決定すべきです。C子さんもそうすべきだったのです。
結婚・妊娠・出産のチャンスは、いつ訪れるか分かりません。本来は喜ばしいライフイベントを、キャリアの側面から喜べないものにする必要はないのですから。
女性医師の悩み事…「育児・復職」について
生まれたばかりの可愛いわが子を見つめていると、子育てを優先し、キャリアをおざなりにしても良いと思う事もあるでしょう。その選択肢もすばらしい事ですが、医師という職業を長い目で見捉え、社会的意義や生涯収入を考えると、簡単にキャリアを諦める事は非常に勿体ない事です。
医師不足とはいえ、一旦職場を離れると、条件の良い職場に再就職する事は容易ではありません。ですから、簡単に退職や転職の結論を出さずに、女性医師としてのキャリアパスをしっかり考える時間を持って欲しいものです。長い人生を総合的に考えた際、第一線を離れる期間は、できるだけ短い方が良いと言えるでしょう。
必要な時期に必要なサポートを受ける事さえできれば、医師としてのキャリアと家庭生活を両立は、必ずできるはずです。
ライフイベントとキャリアの狭間で悩んだ時は、必ずその道の専門家に相談して下さい。大きな病院ではカウンセラーを配置しているでしょうし、厚生労働省の支援窓口もあります。とにかく一人で悩まず、前向きに事を捉える事が重要です。
子育ては大変な事ではありますが、同時に大きな幸せである事に間違いはありません。また、医師というキャリアにおいても、子育ての経験は大きなメリットになる事を覚えておいて欲しいのです。
ここでは、結婚・出産を経て、育児をしながらの復職を果たした女性医師の、ケーススタディを見てみる事にしましょう。
サポート制度の穴で困った事になったD子さん
D子さんの勤めていた病院は、育児サポートに関する様々な支援がありました。それを見越して就職をしていたD子さんですが、いざ妊娠してみると、予想しなかった事態に陥ります。
妊娠初期からツワリが酷く、仕事がままならない体調になってしまったのです。妊娠中の時短勤務や当直免除など、緩和勤務制度は充分にあった職場でしたが、仕事そのものがきません。出産時の産休や出産後の育児休暇は充分にあっても、妊娠期間中に全く働けない状態では、サポート制度にも限界があったのです。
その後D子さんは切迫流産になって入院を余儀なくされたため、出産や育児の制度とは別のところで、「休職」をせざるを得なくなりました。そして出産が迫ったタイミングで、病院側に「産休」と「育休」を申し出たのですが、「既に就労の義務が無い者に、産休や育休を取得させるのは論理的に難しい」と返って来たそうです。
病院の言っている事も分かります。しかし、このタイミングで復職する事は不可能です。D子さんのようなケースはかなりグレーゾーンなもので、休職中でも産休・育休を取らせないといけないという行政指導例はあるものの、明確な線引きは無く、個別具体的に管轄の労働局に照会するような性格のものにあたるようでした。結局D子さんは退職をし、せっかく積み上げてきたキャリアが中断される事になったそうです。
しかし、子供が成長し、産後一年も経つと、「働きたい」という気持ちがフツフツとわき上がり、自分のおかれた環境を疎ましく思い、育児にも身が入らなくなってしまったそうです。これではいけないと、育児中の先輩女性医師に相談してみると、「良い相談場所があるわよ。」…と、ある場所を紹介してくれました。
ここでは、女性医師のライフステージに合せた就業の相談に乗ってくれ、就職先の斡旋もしてくれます。そして何より、育児をしながら就業できる病院環境に関する情報が集約されていて、自分で一件ずつ照会していくよりも、いとも簡単に、子育て支援が充実している求人を探す事ができるそうです。D子さんは、保育園を併設し、病児保育サービスもある大病院に、当面は時短勤務ができる条件で、再就職する事ができたそうです。
どんなに妊娠・出産・育児のサポート制度が敷かれても、D子さんのような突発的な事態に陥り、不幸にも制度の穴にはまってしまう事もあります。しかしそうなった場合でも、女性医師が復職し、輝くキャリアを積むためのサポート制度が他にもあるのです。どんなに壁にぶつかっても、「働きたい」という気持ちさえあれば、妊娠・出産・育児というライフステージの中で、道を切り拓く事はできるはずです。
女性医師の悩み事…「転職」について
女性医師の転職については、既に触れたように女性特有のイベント、ライフスタイル、個別事情を勘案しての(男性医師とは異なる)キャリア戦略の立案がどうしても必要になってきます。
したがって、医師紹介会社や転職エージェントを選択する際には、上記のような女性医師特有の事情について、しっかりと理解をしている企業、コンサルタントを選択することが非常に重要になってくるのは言うまでもありません。
また、近年は女性医師のキャリア設計に対する意識づけも一昔とは大きく異なってきており、「子供の世話をはじめとする家事も、常勤勤務医としての仕事も完璧にこなさなければならない」といったような、モーレツ型女性医師としての生き方を拒絶する先生も増えているようです。
「私はもっと家庭を大事にしながら、非常勤で週2~3日勤務で十分」
という女性医師の先生には、私も結構お目にかかる機会が増えているように感じます(もちろん、常勤としての仕事と家事を完璧に両立されている先生も、未だ多数いらっしゃることは間違いありません)。
こういった先生のお気持ちや事情を十分理解してくれる医師紹介会社には共通の特徴がありますが、簡単にまとめると下記のようになります。
- 医師紹介会社社内に女性社員が多い
- 社内制度的にも女性の社会進出、家事との両立をバランスよく支援している
- 女性医師の転職支援経験が多い
上記の特徴全てを満たしている企業は案外少ないのですが、当研究所で企業評価をしている紹介会社の中から女性コンサルタントが多く女性医師転職に強い企業ピックアップするならば、エムスリーキャリアエージェント、民間医局あたりが具体的にはおすすめできるでしょう。
女性医師が公私ともに輝くために
女性医師が結婚・妊娠・出産・育児という、大切なライフイベントに直面した時、充分なサポート下でそれを乗り越えられれば一番良いのですが、まだまだ発展途上の社会インフラにおいて、今の職場を退職するなど、不本意なドロップアウトをしなければならない事もあるでしょう。
しかし、キャリアを諦めないで下さい。女性医師の皆さんの力は、日本の医療現場に不可欠なものです。そして、ライフイベントと何とか折り合いをつける方法も見出せるはずですから。
もしも不幸にも退職を余儀なくされてしまったならば、女性医師の転職に強い、優良な転職エージェントに相談するのも一つの手です。厚生労働省が推進している医師会の相談窓口も良いサービスなのですが、保有している求人数と、サービスを受けられる窓口の多さは、民間のサービスが圧倒的に凌駕しているのです。キャリアを諦める事無く、是非、是非、相談して下さい。女性医師の皆さんは、日本の未来を担う輝きそのものなのですから。
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
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