医師転職市場分析 ママさんドクターへの「思いやり」はどこまで?
■ 記事作成日 2017/6/14 ■ 最終更新日 2017/12/6
医療業界に限らず、女性が社会で働き続ける上でキーワードとなるのが、結婚、出産、育児という課題です。これらの課題が解決できれば、女性も働き続けることが可能となりますが、実際は、女性医師が休職・離職する理由の7割強が、出産、子育てとなっているのが現状です。今回は、ママさんドクターへの思いやりを医療現場はどこまでもっているのかをみていきます。
医師確保対策に必要なことは何か?
現在、女性の医学部への入学数及び、女性医師が増えており、医療の現場でも多くの女性医師が活躍しています。医療機関は医師を確保するためにどのような取り組みをしているのでしょうか。2015年に行われた、日本医師会による「病院における必要医師数調査結果」の結果から見ていきます。
このグラフのうち、濃い青で示している項目は、特にママさんドクターにとって「働きやすい」と考えられる項目かと思います。
このデータからは、処遇改善はもちろんのこと、医師事務補助者の配置、看護師との業務分担など「医師の負担軽減」に対する取り組みは、多くの医療機関で行われていることが分かります。しかし、これは働く医師への処遇改善と捉えられ、医師であれば誰しもが受けられるものです。
今回女性医師が働き続けるという上で注目したいのは、この中でも「院内保育所の設置」と「院内学童保育所設置」という施策です。この2つは、支援を受けたとしても、給料や働き方に直接つながりはないものの、「働くための環境」という視点では、女性医師にとって必要不可欠な取り組みです。
またすべての医師が受けられるわけではなく、お子さんを持つママさんドクターだからこそ受けられる特権ともとれるでしょう。場合によっては男性医師も利用するケースはあるとは思いますが、やはり「自分が働いている間、子どもをどこに預けるか」という課題を持つのは、女性医師の方が多いと考えられます。
“女医”が増えているという現実
では次に、平成26年に発表された「病院における必要医師数調査結果」から、「医師数及び構成割合の年次推移」を見ていきます。
全体的に医師数だけでなく、女性医師の人数、構成割合ともに、年々増えていることが分かります。
「日本医師会が考える女性医師勤務環境整備」によると、女性医師は25歳~35歳の就業率が低下し、35歳では75%にまで落ち込みます。しかし、それ以後では上昇していることから、出産、育児は女性医師の就業率に大きな影響を及ぼしていることが分かります。
つまり、医師という職業の継続と、出産・育児というライフサイクルの変化は、女性医師の「働き方」を大きく変えてしまうのです。このことからも、院内保育所や院内学童保育所を整備することは、女性医師が働き続けるために必要な取り組みであると考えられます。
女医さんウェルカムな都道府県はここだ
ここからは各都道府県の保健医療計画に記載されている「医師確保対策」を参考に、女性医師が働きやすい環境を整えている都道府県をご紹介します。
このうちいくつかの対策をご紹介します。
- 石川県:復職研修の調整、院内保育や病児保育など、女性医師に対する就労支援
- 長野県:短時間勤務の導入、院内保育所の設置や24時間・病児保育の実施
- 広島県:院内保育ではなく、院外の別施設で保育サービスを受けた場合に、利用料金の負担を行う
という対策を行うと明記されていました。
一方で、院内学童保育所について明記している都道府県は、現在のところ0箇所という結果となりました。これらの結果から勘案すると、大都市であることと、女性医師が働きやすい環境が確保されているかという点は、関連性が低いのかもしれませんが、医師数が全体に多くは無い(医師確保対策が急務である都道府県)であるほど、「院内保育所」や「時短勤務」などを支援する傾向にあると思われます。
また、院内保育等についての対策は明記せず、それ以外の対策で女性医師を支援しようとしている都道府県が、意外と多いことが分かります。
さらに、未就学児への「保育」については対策として考慮している一方で、就学児童=学童への具体策はほとんどの都道府県が講じていないということもわかりました。これは、すでに市区町村単位で小学校に設置されている「学童保育室」を利用できるからではないか、ということが推測できます。
まとめ - 積極的な女性医師子育て支援を明記した福岡県
今回、全国各都道府県の「保健医療計画」の資料を確認し、ほぼすべての都道府県が「女性医師に対する就業支援策の推進 」を明記していることが分かりました。ただし、院内保育所、院内学童保育所などの具体策について明示している都道府県は少なく、47都道府県中10県でした。
その中でも、福岡県では「病院内保育所の充実、柔軟な勤務体制の導入、復帰支援などを進めるため、 平成 24 年度から医師会、大学教授、病院代表者による女性医師確保対策検討委員会を開催し検討を行っています」と明記されています。
単に「○○を整備」「△△を支援」という漠然とした対策よりも、さらに一歩進んでいるのといえるのかもしれません。
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【参考資料】
厚生労働省 病院等における必要医師数実態調査の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ssez-img/2r9852000000ssgg.pdf
日本医師会総合政策研究機構 日本医師会 病院における必要医師数調査結果
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP346.pdf
厚生労働省 日本医師会が考える女性医師勤務環境整備
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000091622.pdf
宮城県保健医療計画 207頁
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/206144.pdf
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