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戦友の女性医師が幸せな出産! (そして退職へ…)

■ 記事作成日 2017/5/28 ■ 最終更新日 2017/12/5

 

勤務医の庄司幸平です。最近友人の女性医師が出産を機に退職をしまして、しばらくは子育てに専念するとのことでした。

 

彼女とは医学部生時代からの腐れ縁だったのですが、女性医師のキャリアなどについても色々と相談をする仲であり、医療現場では「戦友」のように泣き笑いを共にしてきた大切な仲間です(彼女は年齢的に高齢出産の部類に入り、実際に出産に至るまでに妊活の道のりは、とても涙ぐましいものがありました…でも本当によかったです)。

 

今回は彼女の出産退職を機としまして、女性医師の転職とキャリアについて、私が日ごろ考えていることを述べてみました。

 

女性医師の数自体は増え続けているが…

 

厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、女性医師の割合は2012年時点で全医師数の19.7%を占めています。また、文部科学省「学校基本調査」によると、2012年時点での医学部入学者や国家試験合格者に占める女性の割合は全体の約3分の1となっています。このように、医学部に入学する女性や若い女性医師の数が増えてきています。

 

最近の医学科の新入生を見ていると、概ね1学年100人として、30人から、多いときは40人くらいを女性が占めています。さらに、新入生が入学した後のキャンパスを見渡すと、女性が圧倒的多数を占める看護科と一緒であることも相まって、女性の数が多い共学校のような雰囲気です。

 

昔は女性で医学部へ行くなんていうのはレアケースでしたが、最近は結婚後にも自分で稼げるようにと、まるで花嫁道具のひとつかのように、娘に医師免許をとらせるパターンまで見られるようになってきました。今回はそのような女性医師の、特にその結婚とキャリア形成についてフォーカスを当ててみたいと思います。

 

それでもまだ少ない、第一線で働き続ける女性医師

 

女性医師の総数が増えてきたとはいえ、実は女性医師が医師として第一線で働くことや、キャリアを積んで出世していくケースは、男性に比べて圧倒的に少ないのが現状です。そもそもポストにつくという話ではなく、単に就業率でみても、女性全体でみる就業率と同様に、大学卒業後に年々減少し、36歳ごろを谷としてその後回復するというM字カーブをつくります。

 

医師が不足しているだとか、偏在しているだとかについて議論していると、医師が足りないのは女性医師比率の増加が原因だとする意見が必ず出てきますが、実際まわりをみても、同級生で臨床をバリバリこなして研究もして第一線の医師として活躍している女性医師は、2~3割といったところです。

 

では、いったいどうして女性医師は働き続けることが難しいのでしょうか。

 

女性医師の結婚戦略

 

女性医師が戦線離脱する最初の理由は、結婚です。結婚を機に女性が家庭に入ることは、何も医師に限ったことではないかもしれませんが、女性医師の人生における結婚には、一般の女性の結婚とは異なる要素があります。それは、女性医師の結婚にはハードルが多いということです。

 

男性医師の生涯未婚率が2.8%なのに対し、女性医師の生涯未婚率は約36%ともいわれています。医学部に入学した女性がまず女性の先輩から教わることとして、「女医が幸せな家庭を築く確率は3分の1」だという事実です。これは、3分の1が結婚し幸せな家庭を築き、3分の1が結婚するけども離婚し、3分の1がそもそも結婚しない、ということです。

 

そもそも、女性医師の結婚が難しい理由の1つとして、1人前の医師になるまでに長い期間がかかるということです。たとえ現役で医学部に入学し、留年せず卒業し、つつがなく医師国家試験に最短で合格したとしても、その時点で24歳です。その後、2年間の初期臨床研修を終え、さらに専門医を取得するための後期研修に3-4年程度要し、ようやく1人前になったころには30歳になっています。

 

大学卒業~初期研修までに大学や研修先の同期または先輩と結婚するのが一番よくあるパターンですが、そこに乗り遅れてしまうと、忙しい後期研修の中であっという間に30歳を迎えてしまいます。

 

30歳になった時点で、さて結婚したい、と思っても簡単に相手が見つかるとは限りません。後期研修では初期研修と異なりいろいろな科をローテ―トするわけではありませんので、職場での出会いは少なくなります。
時折、若い時代を独身貴族として謳歌してそろそろ落ち着きたいと考えている指導医と体よく結婚するようなケースもありますが、外に出会いを求めて出かけていく暇もないため、初期研修中に結婚しなかった女性医師は大抵30歳前後までそのまま独身でいることになります。

 

このように「医師として普通に研鑽を積んでいたらいつのまにかもう30歳」という状況に陥った女性医師は、婚活を意識するようになります。

 

ではいったいどのような男性と結婚することを望むのでしょうか。女性でも医師であり、30歳前後ともなれば、自分自身である程度のことはできるようになっており、年収も軽く1000万はこえている、そのような状況で婚活を始めますので、当然理想もそれなりに高いのです。

 

よくある希望としては、「可能なら優秀な医師で、イケメンだったらいいなー」「それが無理なら、妥協して学歴は自分より下でもいいとして、まぁ東大出か早慶出で一流企業に勤めていればよしとするか」などのようです。基本的に女性医師が、自身と比べて社会的地位や収入が遜色ない男性を選ぼうとすると、自然と上記のような希望になります。

 

しかし、現実問題として「女医である」ということは、必ずしも条件のよい男性の希望に沿っているわけではありません。特に、たとえ医師免許を持っていても、特段容姿が優れているわけではない30歳前後の女性と結婚する層は限られているのが現状です。

 

このような流れによって結婚のチャンスを逃している女性医師は多数おり、それを病院実習に出る医学部5年生頃から、たびたび目にすることになります。そうした状況を知った、利に聡い女性医学部生は、戦略的にいい結婚をするための行動をとることになります。

 

どのような相手と、どのようなタイミングで結婚し、結婚した後の仕事をどうするかということを考え始めるのがこの時期です。最も多いケースとしては、「自分と同等以上で、仕事を理解してくれて話も合う男性医師が無難で安全牌」だと考えます。そして、医師夫婦としてやっていくためにはどうしたらいいかを次に考えます。

 

医師は朝も早く、当直もあり、どうしても時間的拘束の多い職業です。夫婦で医師をやっていると、意識して2人で時間を合わせないと、結婚生活が成り立ちません。忙しすぎる科だと、男性医師からも結婚相手として敬遠されてしまう可能性が高まります。そのため、「本当は外科に行って忙しくても頑張りたいけど、当直の義務も少なくて、定時で帰れて、少し時間的余裕のある科がいいな」と考えるようになります。

 

一般的に医師が進路を決める時期は初期研修2年間が多いですが、女性医師の多くはそうした事情で皮膚科、眼科、耳鼻科、麻酔科、精神科などの比較的拘束時間の多くない科を選んでいるのが現状です。

 

このように、「ハードルが多い女性医師の婚活」をクリアすべく、キャリアは二の次になってしまうことが多いのではないでしょうか。

 

出産と育児による戦線離脱

 

次のターニングポイントは、妊娠・出産です。まさに今回の記事のきっかけになった、私の友人女性医師(もはや戦友に近いですが)がぴったり当てはまります。

 

一般的なキャリアウーマンと同じく、女性医師も出産や育児でどうしてもキャリア形成を一時的に中断したり、仕事のペースを落としたりせざるをえません。

 

中には並みの男性以上にパワフルな女性医師もいて、産気づくまで仕事をして、産後1週間で職場復帰を果たしたという話も稀にありますが、それは所詮レアケースであり、特に夫婦で医師の場合はどちらかの親の手厚いサポートが無いと戦線離脱せざるを得ないことも多いのが現状です。

 

さらに、夫が医師の場合、この時期にかぶりやすいのが、夫の大学院進学です。医師は、多くは大学卒業後しばらく臨床現場で働き、30歳前後で医学博士を取得するために数年間大学院にいくことになります。大学院に行くと、基本的に研究と臨床の二足のわらじを履くことになり、非常に多忙になります。

 

すると、プライベートでも出産・育児と忙しく、さらに夫は研究と仕事が忙しく全く帰ってこない。かといって、特段お金に困るわけでもない。そうなると、自然と「歯を食いしばって働くよりは、自分はサポート役でいいか」と考えるようになるわけです。

 

多くは、子どもが幼稚園や小学校に入学する頃になって、非常勤で職場復帰をするようになりますが、それでも週2-3日、午前中だけ、といった勤務になりがちです。

 

数年働いて慣れてきたと思ったら、今度は中学受験が始まります。最近は中学受験の塾も低学年から通うようになってきており、小学校入学と同時に塾に入るケースもあります。医師は自身が高学歴であるがゆえに、子どもも当然同じように教育を受けさせたいと考えます。そして、中学受験が徐々に近づく4・5年生になってくると、塾の送り迎えや勉強の面倒を見ることなど、子どもの教育が忙しくなってきて、自分の仕事を増やしているどころではなくなります。

 

このように、学生時代から頑張り続けて、無事いい相手と結婚し、妊娠出産子育てと、ジェットコースターのような多忙な人生を送るうちに、いつの間にか「医師としての高いキャリアを積み上げていく」ということはおざなりになってきてしまい、キャリアの積み重ねを中断せざるを得ないことが多いのです。

 

女性医師と転職、ホントのところ…

 

男性医師と同様に「自分の専門を活かしたい」「スキルアップしたい」「年収をアップしたい」など、女性医師が転職を考える理由には、男性医師が転職を考える理由と共通しているものもあります。しかし、特に女性医師に多い転職理由は結婚、妊娠、出産、育児、夫の転勤など、ライフイベントに伴うものです。

 

日本医師会「女性医師の勤務環境の現状に関する調査報告書」の調査では、休職したり離職したりして女性医師が仕事を中断した人の70%が休職したり離職したりした理由に「出産」を挙げています。これは、女性医師が仕事を休職したり離職したりした理由の第1位となっています。また、第2位の「子育て」は38.3%の人が休職や離職の理由に挙げています。

 

実際に転職を考えるケースとして例を挙げてみます。

 

  • 家庭との両立を考えて療養型病院で働いていたのに、雑務が多く、診療に専念できず、結果として残業も多い(内科・42歳)
  • 夜間の呼び出しのせいで家事や育児との両立がうまくできず、プライベートの時間もつくれない(麻酔科・40歳)
  • 育児中なので時短勤務をしていたが、病院の当直体制が変わったことによって時短勤務をしにくくなった。(小児科・35歳)
  • 人手がある大学病院で働くことにしたものの、「小さな子がいる女性医師では即戦力にならない」と言われてしまい、給与や社会保険もない「無給医局員」扱いになってしまった。(呼吸器科・30歳)

 

結婚している社会人は、社会人としての職務をこなす一方、親として子どもを育て配偶者との時間も確保するといったように、仕事と家庭の両立が求められます。また、出産は女性しかできませんし、日本では特に育児や家庭のことに関しては、男性よりも女性の負担が大きくなっています。

 

女性医師は、医師としての仕事に出産・育児が加わります。そのため、産休や育休を取得したり離職したりするなど、男性医師よりもキャリアを積む時間が少なくなってしまいます。キャリアを中断している間にも、医療に関する知識も技術も日々進歩しますので、産休明けや育休明けに職場に戻りにくく感じるといった問題もあります。また、復職しても、夜勤があったり、24時間いつでも対応できるようにしておかなければならなかったり、時短勤務ができなかったりと、職場が育児中の女性医師のことを理解してくれない場合もあるため、家庭との両立のために転職といった選択をせざるをえなくなるのです。

 

産休や育休に入る前に勤務していた職場で時短勤務をしたり、託児所があったり、夜勤や時間外勤務を免除してもらうことができたり、ブランクを埋めるための研修があったり、といったように、子どもを育てる女性医師に理解のある職場であれば、それほど大きな不安を抱かずに復職することができるかもしれません。しかし、自分が求める勤務環境が整った勤務先に転職することや、プライベートとの両立ができる科に移ることも、仕事と家庭を両立し、充実した生活を送るためには大切な選択肢です。

 

どうしても外的要因によってキャリアが中断されやすい女性医師にとって、職場の選択肢が豊富にあることは非常に重要です。医師紹介会社も多数あり、中には日本医師会女性医師支援センターという公的な紹介機関もあります。

 

医局からの斡旋に頼るだけでは、他の医師が実は割を食っていて、不評を買ってしまうというようなケースもよく見られます。それによって人間関係がこじれてしまい、ますます女性医師のキャリア維持が困難になる、ということはどこの医局でもあることでしょう。


まとめ…もっと最前線で女性医師に活躍してほしい反面、QOLも重要ですし…本当に難しい。

 

今後ますます女性医師の比率が増えてくる中、以前はいくらでもあったような割のよい求人も徐々に少なくなっています。多大な投資をして取得した医師免許を最大限に生かし、キャリアを維持していくためには、日頃から多様な選択肢にアンテナを貼っておくように心がけることが重要になってくるでしょう。

 

このように医療の最前線で女性に活躍してほしいと思う反面、医師というラベルを完全に取り除いた「一人の女性」としての幸せを考えると、医師という職業のハードさ、難しさは、女性医師の幸せにとって時には障壁になったりすることも多いな…と考えさせられてしまいます。

 

まとめとしては結論が出ずに恐縮なのですが、私個人の気持ちとしては、もっと女性医師が増えてほしい、同時に、多くの女性医師には個人人生の幸せもそれはそれとして手に入れてほしいな…と、複雑な気持ちが共存しているのが実際のところなのです。

 

この記事を書いた人


庄司 幸平(Dr.K)

北関東在住の勤務医師(30代男性)。常勤勤務先に加えて定期的にアルバイト(スポット、定期様々)を数多くこなしてきましたので、勤務医の本音コラムに加えて、私の体験から見たおすすめアルバイト等をご紹介、執筆しております。

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私の「戦友」勤務女性医師が、ついに出産で離職した話=連載コラム「勤務医はつらいよ」


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