勤務医師の本音を語ろうかなと思うのです
■ 記事作成日 2017/5/2 ■ 最終更新日 2017/12/5
どうも、私は勤務医の庄司幸平と申します。
専門は内科ですが某北関東の中堅都市で勤務をさせていただいておりますが、医師紹介会社研究所の所長野村氏とご縁があり、勤務医の本音を語るコラムを執筆することになりました。
初回のコラムはやはり「勤務医の転職方法」
ネットサーフィンをしていると、「え、もしかして、私の年収低過ぎ?」のような、転職サイトの広告を目にすることがありますよね。
勤務医の年収は平均して約1500万円と、世の中一般から見れば十分高い給料です。
しかし、高校の同級生の中には証券会社や外資系金融にいったり、親の後を継いで社長になっていたりと、同窓会にいっても意外と年収で負けてしまった、という経験は誰しもあるのではないでしょうか。
たとえ年収で勝っていても、退職金や年金まで計算に入れると、70歳まで頑張って働かないと生涯収入では負けてしまう、といったこともあるかもしれません。
もちろん、医師という仕事の魅力は金銭面だけではありません。
営業で頭を下げなくてもいい、訴訟が増えたとはいえやりがいを感じることも多い、勤め先が倒産しても再就職に困らない安定性、学術的好奇心が満たされる、といった、医師という仕事のいい面もたくさんあります。
なんだかんだといって、自分の子供が医師になりたいと言ったら、「これから医者は大変だぞ」と言うものの、やはり嬉しいし、応援してあげたくなりますよね。
医療という業種は健康保険によって成り立っている側面が強く、一般的な市場原理が働きづらいところがあります。
そのため、労働市場においてイレギュラーな状態が発生しやすいという特徴があります。
端的に言えば、ある特定の条件が揃うと相場よりも大幅に高い給料を得られる場合と、不当に安い給料や劣悪な待遇で働かされる場合が、一般の労働市場に比べて発生しやすいということです。
「医師としてもう少し給料が高くてもいいのではないか」「給料は十分だから、休みが欲しい」「もっと最先端の医療に携わりたい」など、いろいろな要望があるかと思います。
「大きな不満があるわけではないけれど、もう少しこうだったらいいな」と思うことがあるならば、具体的な行動にうつすかどうかはさておき、アンテナをはっておいても損は無いでしょう。
勤務医が転職したいと思うときは3回ある
現在の医師のモデルコースとしては、初期研修が終わった後に医局に入局し、後期研修を行い、専門医を取得します。
その前後に大学院に入学し、2-4年基礎研究などを行い、専門医も取得します。医師がまず初めに今後のキャリアを考える時期が、専門医と学位をとった時期です。
医師としては7-10年目くらいであり、一人前の医師としてある程度のことは自力でできるようになっています。
年齢的にも、多くは30代前半くらいであり、プライベートでは結婚をしていて子供がいる、といった方もいるでしょう。
これくらいの年齢で、将来的にアカデミックポジションに残り教授を目指すのか、臨床医として関連病院で臨床スキルに磨きをかけるのか、それとも開業医を目指すのかといったところを漠然と考えるようになります。
それから5-10年程度、臨床または研究生活を送り、40歳前後になると、自身の医師としての将来性が見えてきます。
自分は臨床に向いているのか、それとも研究を続けて教授を目指すことができるのか、といったところがぼんやりと分かりますので、そこでまた今後の身の振り方を考えることになります。
実際、多くの医師にとって方向転換をする絶好の時期は30代後半~40代初めです。
開業をするにしても、初期投資を回収してある程度の貯蓄をするには概ね20年程度必要と言われますので、40代後半以降の開業は次第にリスクが高くなってきます。
また、たとえば製薬会社に転職するにも、あまり年齢を重ねすぎると相応のポジションでの採用枠しか無くなるため、医師とはいえ採用されるのが難しくなりますので、それくらいの年齢が最も需要があります。
その次の機会としては、40代終わり~50代に差しかかった頃です。今の環境でどこまでいけるか、すでに先がみえており、定年後のことも考えるようになります。
また、同時にプライベートにおいても、子どもの大学進学を控える時期です。「実は子どもが医学部行きたいっていっててさ。学費のために転職(または開業)しようと思ってるんだよね」、というセリフはどの医局でもよくある日常会話でしょう。これも、転職を考える医師の中で実は意外と多い理由のひとつです。
医師の転職手段の3パターン
多くの医師は、一度は医局に属したことがあります。臨床研修制度がはじまって、一時的には全く医局に属さない医師が増えたものの、最近は専門医制度の変更もあり、再び医局回帰への動きが出てきています。
医局経由の転職であれば、言われたとおりに新しい勤め先に赴任すればいいだけですので、転職活動自体において特に苦労することはありません。では、医師が医局からの指示ではなく、自分の医師で転職先を探してみよう、と思った時にはどのようにすればいいのでしょうか。
医師が転職する手段としては、3つあります。
1.医局人事として転職する方法
医局関連の病院内で転職したいと思った場合、医局長または教授と相談することになるでしょう。
話すタイミングや根回しに気を使わなくてはなりませんが、一旦話がまとまってしまえば、転職としては一番楽で労力が少ない方法です。
たとえば「離婚してシングルマザーになったので、時間の融通がききやすい職場がいい」といった要望があったとします。
普通であれば、労働力としてやや不安定な状態であるとすれば病院側からすれば積極的に高給で採用するのは憚られるかもしれません。
しかし、多数の医師の人事権をもっている医局からすれば、「面倒見てくれたら、その代わり、もう1人優秀な医師を送るよ」というように、交換条件をつけることができるのです。病院側としても、増員されて診療業務が拡大すれば、より収益が見込めますので、お互いにとってメリットのある人事となります。
このように、もともと顔を知った仲間内での転職であるため、1人で行う転職活動の際には提示できない条件などによって話が通りやすいところが最大のメリットですが、「労働条件はその通り実現するから、代わりに田舎に行ってくれないか」などの要求をされることもありますので、そこは我慢する必要があるでしょう。
医局とはいわば医師の互助会ですので、そういった側面をうまく活用することです。
2.直接応募する、または知り合いのツテを利用する方法
時折送られてくる医療系雑誌などに広告として出している求人や、病院のホームページをみて、医師募集があれば直接連絡をして応募する方法もあります。
また、求人が掲示されていなくても、直接病院にコンタクトをとって、医師の需要が無いか尋ねてみる、という方法もあります。
ただし、この方法はかなり時間がかかりますし、そもそもどの病院がどれくらいの条件を提示してくれるかを事前に調査することは大変です。
病院側にとっても、応募してきた医師がどんな医師であってどのようなスキル・人格の持ち主かの情報が無いため、(特に常勤採用に関しては)高い給料を出してくれることは少ないのが現状です。
また、現在勤めている病院を退職する際にも、後任となる医師が決まっていないことも多く、退職の際に病院に強く引きとめられたり、それまで医局経由で働いていた場合は迷惑がかかってしまったりする場合があります。
知り合いの医師に口利きをしてもらったり、学会の情報交換会で近づいて情報を得たりという手法もありますが、採用の話がある程度進んでしまうと、断りづらい状況になる可能性もあります。
全国で医師は30万人いますが、医師の世界は狭く、簡単に噂は広まってしまいます。無用なトラブルはできる限り避ける必要があることを念頭において、冷静沈着な行動をとることが求められます。
3.転職エージェントを利用する方法
転職エージェントを利用する方法もあります(このサイトのメインテーマでもあるのでしょうが)。
最近は医師専門の転職エージェントもかなり増えてきました。中には、登録するだけで5000円から1万円の商品券がもらえるところもあります。それだけ紹介会社が増えてきているということは、それだけ医師の転職市場が大きくなってきているということに他なりません。
では実際、転職エージェントを利用するメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、医師が転職する際に最も手間がかかるのは、希望にあった求人を探すことであり、最も難渋するのが、細かい条件をすり合わせることです。転職エージェントの最も重要な役割は、この2つです。
転職エージェントを利用した際の、やり取りの流れとしてどのようなものでしょうか。私が実際、複数の転職エージェントに登録した際に聞かれた内容としては、下記のような内容でした。
- 今つとめている勤務先と所属している医局
- 保有している資格、これまでの経験
- 希望する仕事
- 希望する地域
- 希望する年収
- 重視する条件(時短がよい、稼ぎたい、など)
- 勤務日数・条件・当直可否
これらに加えて、エージェントによって追加で質問される事項としては下記のような内容が挙げられます。
- 将来的にどのようなキャリアプランを描いているか
- なぜ転職をしようと思ったか
- 専門分野以外のフィールドでの活躍は考えているか
複数のエージェントに同時に登録してみると分かりますが、エージェントによって(または担当者によって)個性があります。
医師であればMRと話す機会は多々あると思いますが、それと同様に会社のカラーというものがあります。
レスポンスの速いエージェント、案件数が豊富なエージェント、マニュアル通りではなく個人に合わせた返信をしてくれるエージェント、など、実にさまざまです。
転職エージェントを利用して転職する際に大事なのは、転職先よりもまず転職エージェントをきちんと選ぶことです。
産業医や製薬会社など、医師として臨床を行うわけではない職場に興味がある場合には、そうした方面に強い大手の会社を選ぶことになりますし、よりきめ細やかな対応をしてくれるエージェントが希望であれば、小さくても機動力のあるエージェントを利用する方がいいと思います。
その次に、もし気になる医療機関があるようなら、エージェントと実際にあって面談を行います。多くは勤務先や自宅近くのカフェなどに資料を持参してきてくれます。
そこで希望に沿った、気になる求人があれば、実際に医療機関での見学と面接に進むことになります。
このように、転職エージェント選びなどの手間はかかりますが、3つの方法の中では一番網羅性が高く、広いエリアから転職先候補を選ぶことができます。
ただし、医局人事でしか採用しない病院もありますので、そういった医療機関は候補から外れることになります。
反面、転職エージェントを利用することで病院側からすると決して安くないマージンが発生します。
もちろん医師側にはコストは発生しませんが、そのあたりを加味した交渉術については別のコラムでお話したいと思います。
まとめ
医師は、会社員と異なり、新卒の際にいわゆる就職活動を自ら行った経験は少ないことがほとんどです。
臨床研修病院を選ぶ際に似たようなことはしますが、2年限定であり、一生を左右するものではありませんし、ブランド病院にこだわりがなければ、そこまで大変でもありません。
社会人になる際に、企業研究、自己分析、といった作業を行ったことのない医師が転職を考える際には、まずいろいろな情報が入ってくるようにアンテナを立てることが第一歩です。
医局を経由した人事異動は、網羅性は少ないものの人のつながりが強いため安定した雇用が魅力です。
直接応募したり人のツテを頼ったりする場合は、選ぶ際の自由度は高いものの、不安定であり、未知数です。
転職エージェントを利用する場合は、高い網羅性と、手間が省けるといった大きなメリットがありますが、病院側に大きなコストが発生する(その分、初年度の年俸が高くなりづらい)といった側面も加味しなければなりません。
また、希望する病院が医局とのつながりが強い場合には、求人を受け付けていない場合もあります。
それぞれの転職方法について、メリットとデメリットを考えながら、より自身にあった転職方法を検討しましょう。
転職は人生の一大イベントの1つですので、まず情報収集をして、後悔しない転職方法を選ぶことが大切です。
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
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