赤字経営の医院に就職すると「いらぬ苦労」をする可能性が…
■ 記事作成日 2012/4/20 ■ 最終更新日 2017/12/6
一昔前は「病院は潰れない」などと言われましたが、不況などの影響もあり今や病院とはいえ潰れるか分からないのが実情です。
せっかく転職しても、その経営実態に驚かされるということは少なくありません。表面的には健全経営をしているように見えて、実態は赤字に陥っているというケースがあるのです。それならば、なぜ採用をするのか。理由は簡単で、経営に見切りをつけた医師が退職してしまったからといえるでしょう。
貴重な時間を割いて転職活動をするのですから、そんな失敗転職は避けたいところです。そこで私は、入職前に診療時間内の病院へ行ってみることをお勧めします。
通常の採用フローでは、面接だけが病院へ足を運ぶ機会となるでしょう。あとは、入職するまで病院へ行く機会はありません。しかしこれが、実はとても危険なことなのです。
小規模の病院やクリニックなどの場合、ほとんどの場合に面接官は責任医師です。そのため面接は、必然的に診療時間外となるでしょう。なぜなら診療時間は、患者の診療に追われて医師が時間を割けないからです。
中・大規模病院の場合でも、同じことがありえます。まず面接官となる事務長や人事担当は、医療スタッフではありません。そのため面接では事務室など医療現場外へ通されることとなるでしょう。配属科の責任医師も面接官を務めますが、この場合は小規模の病院と同じことが起こります。
これでは、病院内の実態など分かるはずもありません。そのため面接以外にも、転職候補先の医療機関の経営状況を事前にしっかりと調べておくことが重要となってくるのです。
机上調査と実地調査
医療機関や医療法人の調査を行うには、財務諸表などを調査する机上で行える調査と、実際に現地に足を運ぶ実地調査の2つに大きく分かれます。机上調査は、過去3期分の決算情報を入手することで、数値上での経営状況を定数的に把握すること。実地調査は、数字でははかり知ることができない現場の情報、空気、感覚、人間関係などを定性的に把握することとなります。
財務調査のポイント
一昔前に比べ、医療法人の財務諸表を手に入れることは難しくなくなってきています。基本的には対象となる医療機関を運営する医療法人に財務諸表の開示を依頼するのが筋道ではありますが、株式公開をしている一般企業と異なり、「はい、わかりました」と馬鹿正直に財務諸表を開示してくれる医療法人はまずないでしょう。
従って、下記いずれかの方法によって財務諸表を入手するのが現実的な手段となり得ます。
- 財務諸表を含んだ医療法人データベースを購入する
- 財務情報を持っている医師紹介会社から入手する
- 都道府県庁にて医療法人の財務諸表閲覧を申請する
1.財務諸表を含んだ医療法人データベースを購入する
医療法人のデータベースについては、いくつかの企業が販売をしています。当然有償ですから、個人が気軽に購入するというわけにはいかないものの、その調査内容の充実度はとても有益であり、直近の財務諸表だけでなく、どの医院がどの医療法人グループに属するかが一瞥できるものなども存在しています。。自身が所属する医療業界の研究を兼ねて、購入してみるというのも悪くないと考えます。
※医療法人データベースの例(http://www.landscape.co.jp/medicaldb.html)
2.財務情報を持っている医師紹介会社から入手する
大手の医師紹介会社の収益源は、医師側ではなく医療機関側への課金です(医師に対する紹介料は無料が基本)。当然ながら、資金的に潤沢な医療機関がどこであるかは常に情報収集に怠ることがなく、営業ツールとして、上記のような医療法人データベースを外部から購入したり、自社営業マンが医療法人の与信情報をあらゆる場所から収集しているケースが多く見られます。
医師紹介会社に登録してすぐに転職を促されるところはともかく、まともな医師紹介会社は転職を性急に促したりは致しません。医師紹介会社に登録した段階で、じっくり医療機関研究をしたい要望を先方に伝えるとともに、情報収集の手伝いをしてもらえないか依頼することです。その際に、手元の情報からターゲットとしている医療機関の直近3期分財務諸表及び付随データをシェアしてもらえるよう、頼むのが良いでしょう。
この場合、無料で調査資料が手に入るというのも、個人医師にとっては、非常に大きなメリットです。
備考
ここでは3つの医療法人財務諸表の入手方法を示しましたが、具体的な財務諸表の見方については長くなりますので割愛させていただきます。書店でよくある「初心者向けの財務諸表のみかた」といった書籍を購入してもよいですし、厚生労働省のウェブサイトにも医療法人財務諸表の見方や病院経営指標の見方に付いて、詳しい説明が載っていますので参考にしてください。
3.都道府県庁にて医療法人の財務諸表閲覧を申請する
医療法人は、医療法の規定にて、毎会計年度終了後3月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書等を都道府県知事に届け出ることが義務付けられています。
平成20年以降、一般人が医療法人の財務諸表開示を都道府県に申請することができるようになりました。医療機関が籍を置く自治体により申請方法が異なる可能性がありますが、基本的には都道府県庁に出向き、開示閲覧を申請するだけというシンプルなものになります。
下記の静岡県庁のように、申請すら必要なく自由閲覧になっているところも多いようです。
※静岡県庁ウェブサイトより
ただし、医療法人の財務諸表はコピーができない自治体がほとんどのようで、閲覧のみに制限されているケースが多いのに注意してください。また、閲覧申請先の部署なども各自治体によって異なるので、事前にウェブサイトで調査をするか、当道府県庁の総合窓口に1度連絡を入れてから足を運ぶ方が良いでしょう。
医院実地調査のポイント
実地調査とは、読んで字のごとく、実際に対象となる医療機関に足を踏み入れてみて、五感でその病院の良し悪しを感じとる調査のことです。
小規模病院の場合には、中に入ると気付かれて怪しまれる可能性があります。その際は、窓から中の様子を見るだけで行って価値はあります。言葉で説明するのは難しいものの、ブラック病院にはそれなりの雰囲気というか空気があふれているのは間違いないようで、人間の直感に訴えるものがあるとは、ベテランコンサルタントがよく口にする言葉でもあります。
では実際に、何を見れば良いのか。それは、以下のような点です。
- 患者はどの程度いるか
- 病院スタッフの接客はどうか
- コメディカルが挨拶をしてくれるかどうか
- トイレはきれいに掃除されているかどうか
- 病院内外にゴミはおちていないかどうか
ポイントは色々あるものの、経営に詰まっている医療機関には、顕在化した倒産の兆候が必ず目に見える形で現れます。それが掃除の不行き届きだったり、挨拶や笑顔のなさだったりするわけです。
また、病院周囲の街並みや住宅状況なども調べておくと必ず役立ちます。対象の病院についたら、周囲を10分程度ぐるっと回るだけでもいいでしょう、これだけでも周辺住民質(外来患者候補)質のイメージがわくようになります。
病院は、患者がいなければ経営が成り立ちません。暫く経ってもほとんど患者が来ないようなら、経営状態を怪しんでみるべきです。朝や昼後、診療終了直前はどこの病院も患者が増える傾向にあるので、こうしたタイミングで見てみるとより安心です。
また病院スタッフやコメディカルの接客は、「笑顔があるか」「声が明るいか」といった点がポイントとなります。
経営状態の悪化は、そのままスタッフの態度にも表われるものです。なぜなら給与が下がったり、経営改善のために無理な取組みを押し付けられたりと、スタッフのストレスを増やしてしまうことが多いからです。接客の雰囲気が暗いようであれば、あまり経営状態は良くないかもしれません。
院内に入れるのであれば、清潔さが保たれているかも確認しましょう。面接時だけ、キレイにされていた可能性もあります。清潔感のない病院は当然ながら患者も寄りつきませんし、細かな配慮をする余裕がないということにもなります。
病院の経営状態は、なかなか面接では分からないものです。「面接では良いことばかり言う」と聞いたことがあるかもしれませんが、実態はその通りでしょう。
既に医師紹介会社に登録して転職活動をしているのなら、こうした実地調査面について担当コンサルタントが知っている可能性もあります。必ず、求人を紹介された際に聞いておくようにして下さい。
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