厚生労働省が行う“医師臨床研修マッチング”
■ 記事作成日 2015/10/24 ■ 最終更新日 2017/12/6
医師臨床研修マッチングとは、平成16年度に“医師の臨床研修が義務化”されたことに合わせ、導入されたシステムです。
医学生など、これから臨床研修を受けようとする者(以下、参加者)と、臨床研修を受け入れる病院側(以下、病院側)が公表している研修プログラムとを、お互いの希望を踏まえた上で、一定の規則(アルゴリズム)に則って組み合わせを決定するシステムです。
これには特定のコンピュータシステムが使われており、いわば「機械的に振り分けを行う」ことに近いのではないでしょうか。このコンピュータによるマッチングは、臨床研修を行う病院などの団体で構成される「医師臨床研修マッチング協議会」により、行われているそうです。
コンピュータでどのように“マッチング”を行うのか?
この制度は、「医師臨床研修マッチング協議会(http://www.jrmp.jp/index.html)」のサイトから利用することができる。おおよその流れはこうなっているようです。
- 参加者は、病院側が公表している研修プログラムを確認し、第1希望から第4希望までを登録する
- 病院側は、登録されている参加者の中から、希望する人員を登録する
- 参加者側の希望と、病院側の希望が合致するまでマッチングを行う(→ただし、一度「仮マッチ」となった参加者でも、病院側が登録した定員と優先順位により「アンマッチ」となってしまうことがあり、その場合は、第2希望、第3希望へとマッチング対象が変わる)
- 一通りのマッチングが行われると
- マッチングができた参加者
- 第4希望までマッチングしても出来なかった参加者
- 定員まで参加者とのマッチングができた病院側
- 結果的に定員割れとなる病院側 が存在することになります。
ここでマッチングできた参加者と、定員までマッチングができた病院側にとっては、非常に喜ばしい結果になったといえるかもしれません。しかし見方を変えれば、第4希望まで進んでも研修先が決まらなかった参加者と、結果的に定員割れになってしまう病院側にとっては、かなり厳しい結果になるといえるのではないでしょうか。
それでも全体としては、参加者9,216人のうち、研修先が内定したのは8,687人で、内定率は94.3%ですから、一定の効果は出ているとも読み取ることができます。
そのうち、80%以上は第一希望で決まっているとのことです。
- 第1 希望マッチ者数:7,008 名(80.7%)
- 第2 希望マッチ者数:1,063 名(12.2%)
- 第3 希望マッチ者数: 381 名(4.4%)
- 第4 希望以下のマッチ者数:235 名(2.7%)
※マッチングできた参加者に対する割合のため合計で100%になる
時代は“中央の大学病院”から、“地方の一般病院”へ?
ここ数年間の傾向を、地域性と病院のタイプ別にみてみましょう。
まず、地域性でいえば、ここ5年間は「6都府県以外の都道府県」の割合が伸びています。ここでいう6都府県とは、大都市のある、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、福岡の合計であり、その他とはそれ以外の道府県のことです。つまり、都市集中型から地方への分散型になってきているように見えます。
しかし、ここにはちょっとしたカラクリがあります。
そもそもこの制度は、平成16年度に新たな医師臨床研修制度が導入されてから始まりました。それ以降、「研修医が特定の地域に集中しやすい」との指摘があり、平成22年以降、都道府県別の募集定員の上限を設けるなど、仕組み全体の見直しを行っているそうです。
その目的は、「研修医の地域的な適正配置を誘導する」ことです。
また、病院のタイプ別にみると、かつてのように「大学病院へ集中する」状況から、「臨床研修病院への振り分けが行われている」ように見えます。
ここにもカラクリはあります。この制度が発足した当初は、大学病院の方が研修医の受け入れが多いという状況でした。
これも徐々に解消され、平成21年ころまではほぼ同数に分かれていることが分かります。さらにここ5年ほどは、臨床研修病院が優位になっています。
平成27年度の研修より、「研修医の地域的な適正配置を誘導する」という観点で、都道府県別の募集定員の設定やその上限の決定の見直しが行われた結果のようです。
臨床研修先での“出会い”がその後の医師人生を決めることも
医師として社会人の1歩を踏み出す時、その時点で「将来は○○科の医師になる」と決まっている人は、どれくらいいるのでしょうか。例えば、「実家が眼科開業医だから眼科を選択」というケースはさておき、多くの場合は、臨床研修医時代を経て、進むべき道を決めるのではないでしょうか。
都内の某臨床研修病院で臨床研修を受けたA医師(女性)は、学生時代に「産科だけは無理」と考えていたそうです。その病院へやって来たばかりのA医師の希望は、まだ漠然としており、単に「外科系が良いかな?」というものでした。
その病院の研修方式は、幅広い診療能力が身に付けられる総合診療方式(スーパーローテイト)。本人の希望に関わらず、内科系も外科系も、A医師が「無理」と考えていた産科も、研修の対象となっていました。A医師は2年間のいわゆる前期臨床研修後、結果的に某大学病院の産科へ進みました。その臨床研修病院へ産婦人科医を送り込んでいる大学の、産婦人科の医局へ入局し、後期研修がスタートしたわけです。
A医師は心境の変化について「ここでお世話になった産婦人科の医師たちに教わったことを、もっと勉強してみたくなったから」とのこと。具体的にどのようなことなのかは、彼女だけが知ることですが、学生時代に「無理」と考えていた産科医を目指すことになった彼女の前期臨床研修は、とても有意義なものだったのではないでしょうか。数年後に合ったA医師は、「産科医になって良かった」と言っていました。
医師という職業も、働きかたは実に様々です。その中でも、もっとも多くのことを学ぶ「臨床研修をどこで受けるか」は、その後の医師人生に大きな影響を与えるものかもしれません。その第一歩をどこで踏み出すのか――医学生にとって人生最大の決断を、コンピュータがアシストする時代になった、ということでしょうか。
参考
厚生労働省 平成27年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000101968.pdf
同上 平成 27 年度 研修医マッチングの結果
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000062062_1.pdf
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