個人医院(クリニック)開業のリアルな収支の姿とは?
医院(クリニック)開業についての悩みで最も多いのが、開業後の事業収支に関することです。要は、開業後にいくらの医業収益(介護収益)を上げて、支出をいくらに抑えればクリニック経営が安定するのか?を当然のことながら皆さん知りたがっています。今回は開業後の収支についてのお話です。
厚生労働省中央社会保険医療協議会のデータ
開業資金をやっとこさ用意した新米開業医の方にとって、日々の収益は開業準備の次に直面する、非常に頭がいたい問題です。借り入れをして開業をしている方なら特に、毎月融資返済金を支払っていく必要があるわけですから、気が気ではありません。そもそも、経済的に裕福になることを目指してクリニックを独立開業したにもかかわらず、集患失敗の果てに、勤務医時代より貧乏になってしまっては元も子も無いわけです。
開業後の収支を考えるには、厚生労働省中央社会保険医療協議会のデータに、開業医の一ヶ月収入および費用の参考となるデータである「医療経済 実態調査」が存在します。
この調査データは、病院、一般診療所及び歯科診療所並びに保険薬局における医業経営等の実態を明らかにして、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的として、中央社会保険医療協議会が実施したものと定義されていますが、開業後の収支状況が診療科目別に明示されているので大変重宝します。開業希望の方はまず目を通しておいたほうが良い資料です。平成25年11月現在、過去19回実施されたデータが公開されています。
このデータを元にして、おおまかな診療科目ごとの収支状況をみてみましょう。この金額をクリアすれば、とりあえずはクリニック経営としては一般的なレベルをクリアとおおまかに考えても良いかと思います。
個人医院(クリニック)の診療科目別収支
件の「医療経済 実態調査」では、個人医院(クリニック)と医療法人双方の収支調査の結果が公表されています。そのデータを使って大まかな収支を診療科目別にまとめてみました。
個人医院(クリニック)の場合は、売上、支出、最終利益のどれもが整形外科がトップです。下記図表の「利益」の項目から、医院オーナー(院長)の給与を算出しなければなりませんので、毎月の利益が129万円しかない外科に比べると、圧倒的に多額の300万を超す給与を整形外科の開業医は手にすることが数字上では可能となっています。
項目名1 | 収入 | 支出 | 利益 |
---|---|---|---|
精神科 | 460万円 | 298万円 | 162万円 |
産婦人科 | 750万円 | 568万円 | 182万円 |
外科 | 620万円 | 491万円 | 129万円 |
小児科 | 452万円 | 318万円 | 134万円 |
皮膚科 | 610万円 | 388万円 | 222万円 |
内科 | 679万円 | 504万円 | 175万円 |
眼科 | 620万円 | 387万円 | 233万円 |
整形外科 | 1,100万円 | 759万円 | 341万円 |
耳鼻咽喉科 | 467万円 | 333万円 | 134万円 |
医療法人の診療科目別収支
個人クリニックより組織規模が大きいケースを見てみましょう。医療法人の場合、個人医院の会計とことなり、法人としての青色申告をすることになりますので、あまり法人に大きな利益が出ると税金でごそっと持って行かれてしまいます。一部赤字の診療科目がありますが、それらが本当に経営が苦しいから赤字なのか、それとも、節税対策の結果赤字が多いのか、もしくは、データ上、一部の医療法人が莫大な赤字を出して全体平均を大きく引き下げたのかは、元データからは計り知ることができないので注意です。
よって下記図表の「利益」は、院長の給与を既に差し引いた後の法人利益となっています(前段の個人クリニックとは異なって表記されているので注意してください)。また、医療法人によっては家族を理事に据えることで節税対策を行っている事も多く、当然、家族理事の給与も既に支払った後の「法人利益」が下記表の「利益」額となりますので併せて注意です。
それにしても、もし下記赤字の診療科目が本当に医院経営が苦しいから赤字だとしたら、その診療科目を専門とする医師の方は、開業よりも勤務医のほうがずっと経済的には潤う可能性があるとも分析できますね。例えば、外科の先生などはその傾向を疑っております。
項目名1 | 収入 | 支出 | 利益 |
---|---|---|---|
精神科 | 597万円 | 573万円 | 24万円 |
産婦人科 | 1,015万円 | 841万円 | 174万円 |
外科 | 1,196万円 | 1,262万円 | -66万円 |
小児科 | 762万円 | 849万円 | -87万円 |
皮膚科 | 871万円 | 765万円 | 106万円 |
内科 | 1,221万円 | 1,206万円 | 15万円 |
眼科 | 1,109万円 | 1,015万円 | 94万円 |
整形外科 | 978万円 | 938万円 | 40万円 |
耳鼻咽喉科 | 803万円 | 827万円 | -24万円 |
このように、診療報酬と収支の関係をみながら開業のための戦略を建てることはとても重要案ことであり、医師の皆さんが開業後のリアルな収支状況について、常に興味津々なのも当然のことといえるでしょう。
この記事を書いた人
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