医療脱毛とエステ脱毛の真実について医師が自ら語ります
■ 記事作成日 2016/8/1 ■ 最終更新日 2017/12/5
当サイトには「現役の医師」、「医師を目指す学生」、「医師紹介会社の方」など様々な方が訪れますが、最近では一般の方によるアクセスも増えており、身の回りの医療に関する素朴な疑問をメールしてきたりするケースがあります(ちょっとサイトの主旨をお間違えかもしれません 笑)。
そんな中で、女性を中心に多く頂くご要望で「医療脱毛とエステ脱毛、安全性の違いを医師に説明してほしい」というものがあります。
というのも、世にあふれる情報が、企業(特に脱毛サロンを運営する企業)自身による宣伝文句にあふれており、何が真実だかわからないからだそうです。
正直、男性である私ではご回答すべくもないご要望でして、私が知っていることといえば、近年、エステ脱毛を経営する会社が、医師法等違反でしばしば逮捕される事件が目につくということを知っている位です。
ここは当サイト連載コラム「勤務医お悩みおさらば塾」でご活躍中の、女性医師でもある春萌(はるも)先生にご登場いただき、医療脱毛とエステ脱毛の違いをはっきり語ってもらいました。
ではここから先の解説は春萌先生、
解説のほうをよろしくお願いします!
医療脱毛とエステの脱毛の安全性は大きく異なる
こんにちは、医師の春萌(はるも)です!
いつもとずいぶん異なるテーマですが、たまにはこういうのもいいですよね。私も女性ですから、脱毛に関してはいろいろと興味深々だったこともあり、誰でもわかりやすいように今から脱毛業界の真実について、ご説明させていただきますね。
まず最初に、結論からお話してしまいます。
女性のみなさん、もし自宅以外で脱毛をお考えの場合、相手業者に対して最低この5つの質問は契約前にぶつけてみてください。
安全な「脱毛」をするために、業者に必ずすべき5つの質問
この質問に満足いく答えが得られない場合、
その脱毛業者での施術は、あなたの安全性を大きく損なう可能性があります。
上記質問の模範解答は、ここからの記事を読んでもらえばよくわかります。
脱毛には2種類あり、安全のためにも双方は区別して考えるべき
現在よくおこなわれている脱毛には大きく分けて2種類あるのをご存知ですか?結構、女性の中にはご存じの方も最近は増えてきていると感じていますが、10代20代前半の若い女性の中には「え、初耳です」とお答えになる方もいるかもしれません。
脱毛なんて、どこでも気軽にできるじゃないか、と思っているかもしれませんが、きちんと「どこで」「どんな」脱毛を受けるかを見極めないと、取り返しのつかないことになるかもしれません。
脱毛サロンでの火傷事故で、ローン+治療費の二重苦に陥った!
これは実際に起こったことです。ある女性はある脱毛サロンで施術を申し込みました。しかし、実際に施術を受けたところ火傷を負ってしまったのです。
彼女は脱毛のために組んだローンと、火傷の治療費を二重に支払わなければなりませんでした。このような出来事はたまたま運が悪かった人におきたこと、というわけではありません。
実際にいくつかのサロンで脱毛に関連し逮捕された事件があります。
- 2012年大阪府警が光脱毛専門サロン『永久保証のドクタータカハシ』の経営者ら8名を医師法違反で逮捕。
- 2012年大阪府警がエステサロン経営会社『エアフール』の社長ら3人を医師法違反容疑で逮捕。
- 2014年兵庫県警が姫路市の脱毛サロン『ハニーフラッシュ』経営者ら3名を医師法違反容疑で逮捕。300人以上の顧客がやけどなどの被害にあっていた。
これらはすべて医師法違反で逮捕されています。
どうして医師法違反での事件ばかりなのでしょうか?
まずは脱毛のしくみについて説明しましょう。
毛は毛穴の一番奥にある毛乳頭というところから、毛の元になる毛母細胞が栄養を受けて毛をつくっています。
つまりこの毛乳頭を壊してしまえば次の毛が作れなくなり、完全脱毛ができる、という理論です。
ではこの毛乳頭はどのように破壊するのでしょうか。それは毛に光を当てるのです。
昔、虫眼鏡で太陽の光を集めて、黒い紙を燃やしたことはありませんか?原理は同じで、黒い毛に光を当てると熱が生まれ、毛の周囲の細胞を熱で壊すことができるのです。
余談ですが白いものは光をほとんど反射してしまうので熱が出にくく、白髪はこの方法で脱毛できません。金髪の人も同じように脱毛できないため、ブラジリアンワックス脱毛などをするのです。
さらに、黒く日焼けをしていると光は毛だけではなく、皮膚にも吸収されるため脱毛しにくくなります。
ちなみに完全脱毛は基本的に1回で完了することは出来ません。1回だけのレーザーでは毛の量は40-80%にしかならないと言われています。
完全脱毛が1回でできない理由は毛の成長サイクルにあります。
1つの毛に注目すると、毛が成長する「成長期」、毛の成長が止まる「退行期」、毛が抜け落ちて毛穴だけになっている「休止期」の3つを繰り返しています。
全身で考えると実際にはこの「成長期」「退行期」「休止期」の状態が混じっています。そのうち、レーザーや光をあてて効果があるのは「成長期」だけです。
なぜなら成長期の間だけ毛が毛乳頭と接しているからです。
「退行期」の時には毛根は毛穴から抜けかけたようになっているため、毛穴の一番奥にある毛乳頭に接していません。
「休止期」にはそもそも毛がありません。
そのため「成長期」だけが、毛を通して伝わった熱により毛乳頭にダメージを与えることができるのです。
ですから最初の1回目の脱毛で「退行期」や「休止期」だった毛が「成長期」になったタイミングで2回目を行います。
通常はこの期間は2か月程度です。そのため2か月サイクルで脱毛を繰り返して、徐々に完全脱毛に近づけていきます。
レーザー脱毛と光脱毛
さて、みなさんが自宅以外で脱毛をしようと思った時には、大きく分けて2種類から選択することになります。
1つは医療機関で行われている「レーザー脱毛」、もう1つはエステなど医療機関以外で行われている「光脱毛(別名フラッシュ脱毛)」です。
これらの違いは脱毛にレーザーを使用するか、光を使用するかの違いです。
では、レーザーと光にはどのような違いがあるのでしょうか。
レーザーのイメージは、大学教授がスクリーンを指すときに使うレーザーポインターや、映画の中で標的に銃の標準を合わせている赤いレーザーを想像して下さい。
レーザーは波長が一定で、まっすぐに進むのが特徴です。そのため、レーザーポインターは遠くに向けてもほぼ1点だけで光ります。
光のイメージは懐中電灯でよいでしょう。
光は色々な波長が混じっており、レーザーと比べると進む方向はバラバラです。なので、懐中電灯をある方向に向けると点ではなく、ある範囲を照らすことができます。
さて、これらで脱毛を行うとどのような違いがあるのでしょうか。
レーザーは、目的としたポイントに同じ波長のものを当てるため、効率的に細胞にダメージを与えることができます。
光でも効果はありますが、周りの皮膚にも光があたってしまうことや、脱毛に適した波長以外にも強い波長や弱い波長が混じるため皮膚トラブルが多いのが欠点です。
そもそも光はレーザーに比べて弱いのですから、もしレーザーと同じ効果を得ようとすると光を強くするしかありません。
すると毛へのダメージは増えますが、散らばった光も強くなり周りの皮膚への影響も増えてしまいます。つまり光脱毛は効果と副作用を考えるとレーザーよりも調節が難しいのです。
逆に皮膚トラブルが起きないように光脱毛を弱めで行うと、脱毛の効果が少なくなるためレーザーよりも多い回数を行わなければなりません。
レーザーであれば通常5-6回(約1年)で終わる完全脱毛も、光脱毛では理論上15-20回(約3年)かかる計算になります。
何故、脱毛サロンは優れた「レーザー脱毛」を使用しないのか?
レーザー脱毛と光脱毛を比べると、レーザー脱毛がすぐれていることはわかっていただけると思います。
では、なぜサロンでレーザー脱毛をしないのでしょうか。それは医師法第17条が関係しています。
医師法第17条とは「医師でなければ、医業をなしてはならない。」というものです。
この1文について東京都医師会はそもそも医師法第17条で規定されている「医業」とは医療行為を「業」として行うもの、と説明しています。
「業」とは“反復継続する意思を持って、不特定の人に対して行う行為”です。
つまり、患者自身や患者家族が、患者に対して行うのは“不特定の人”には当たらないので「業」には該当しない。また応急手当は反復継続するものではないので「業」に当てはまらないと説明しています。
ところがこの「医師でなければ、医業をなしてはならない。」というシンプルな一文は不必要に拡大解釈されて、医師や看護師の免許をもたない者が医行為をおこなう状況を生み出していました。
その一因は「ある行為が医(療)行為かどうかは個別的に判断すべき」とされていた曖昧さにあります。
そのため平成13年に、この医師法第17条の解釈に関して「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」という通達が厚生労働省から出ました。
厚生労働省による通達(クリックで原文へリンク)
内容を要約すると「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為を医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反する」というものです。
つまり、完全脱毛は医療行為であり、それを行うものは医師免許を持っていなければいけない、ということなのです。
この通知を受けて日本美容医療協会も
「いわゆる脱毛現象が生じるような強いエネルギーを照射するということは、全て医行為であると解釈しなければならない。脱毛は人体への危害を生じさせる可能性のある行為であり、その施術には医師の医学的知見と技術が必要であり、万が一やけど等が生じた場合でも、医師、医療機関であれば迅速かつ適切な対応が合法的にできる。消費者保護の立場から、違法なエステ脱毛行為は絶対に認めないと言う判断をしている。」
と声明を出しています。
つまり、エステでの脱毛は違法なのです。
脱毛ではなく減毛に過ぎない
このように、脱毛エステは違法の判断が明確になりました。ではエステで行う“いわゆる”脱毛は実際は何なのでしょうか?
実はエステの脱毛は「脱毛」ではなく「減毛」といった名目になっています。毛乳頭は破壊しない、つまり脱毛はできない、だから「脱毛をする」レーザーはエステサロンでは使えないのです。
さて、ここまでは業界側の事情です。
脱毛を行いたい消費者はどう考えるべきか
実際の消費者は「脱毛したい!」と思った時、どう考えるでしょうか?
数回の施行で最終的に完全脱毛が可能な医療機関でのレーザー脱毛と、実は脱毛ではなく減毛であり、理論上は一生繰り返し通わなければいけないエステサロンの光脱毛を比べれば、やはりレーザー脱毛を選ぶことでしょう。
しかしそれではエステサロンは継続できません。
そこで、現在のエステサロン側の営業作戦はこの2つとなっています。
- 1つは徹底的に値段を下げること。
- 光脱毛で(こっそりと減毛ではなく)脱毛を行うことです。
実際に医療機関の脱毛とエステのいわゆる脱毛を比較すると値段はエステの方が安く、中には100円で脱毛できると宣伝しているところもあります。
それはそれで強引な勧誘で他のコースに入会させるなどといった問題もあるようですが、ここでは脱毛の効果について限定しますので詳しくは述べません。
しかし理論上、減毛であるエステの脱毛は安くても繰り返し繰り返し通うことが前提です。
これは手間がかかりますが、消費者が受け入れるのであれば特に問題はありません。
ですがもう1つのこっそりと脱毛は体に関わる問題になります。
女性の体にリスクを負わす、無資格者の光脱毛はいかがなものか?
前述した『永久保証のドクタータカハシ』は効果が高いことで人気であったようですが、逆に言うと効果が高いということは減毛ではなく、脱毛にあたり、医師法違反であると判断されたのです。
もし、光を使用して脱毛をしようとすると、光の強さを強くしなければいけないことは先に述べました。しかし光を強くすれば周りの皮膚のダメージも強くなります。
よく言われる合併症は「トラ柄」と呼ばれる縞の火傷の跡です。
せっかく脱毛をしてもこのような火傷の跡が残っては水着や肌を露出するファッションができなくなってしまいます。
もう一度言いますが、エステでの光脱毛を使用する人は資格は不要です。つまり、誰がやっても問題ありません。初めて機械を触る人が行っても法的には問題がないのです。
そのため、光の強さは使用する人次第といっても過言ではありません。
いまだに医療機関での脱毛と同じ効果を求める消費者がいれば、サロンもそれに応えようとします。(そうしなければ医療機関での脱毛に人気を奪われてしまうからです。)
しかし、機械の扱いに不慣れな人では、その人の体質や毛の状態、部位に合わせた調節はできないでしょう。
その結果「脱毛に行ったのに効果がない」(光が弱い場合)もしくは「脱毛に行ったのに火傷した」(光が強い場合)といったトラブルが頻発するのです。
その割には今でもあちこちのサロンで脱毛の宣伝をしているじゃないか、と思われるかもしれません。
その通りです。
ただし、よくよく気をつけて見聞きすると「脱毛」という言葉は使っていません。「脱毛」という言葉を使わずに、「脱毛」を想像させるような写真やイラストなどを使用しています。「脱毛」と言ってしまったら即違法ですから当然です。
また、サロンで施術を受けたら毛が少なくなり、脱毛っぽいではないか、と思われる人もいるかもしれません。
それもその通りです。しかし、あまりに「脱毛をしている可能性のあるサロン」が多すぎて、手が回っていないのが現状なのです。
そのため火傷などで多くの被害届が出たサロンしか摘発できていないのです。
では医療機関の脱毛であれば100%安全かというと、そういうわけではありません。こんな事件もありました。
- 2012年山形署が診療所「ブラッサム美容皮膚クリニック」に関して、安全管理や医薬品の管理を怠ったとして、医師法違反容疑で千葉県の医師を逮捕。併設するクリニックでは医師免許を持たないものが脱毛治療をしたとして、医師法違反で3人を逮捕。
これは医師が管理する診療所に、医師が名義貸しをして、実際には医師は常駐していなかった(どころか、1回も診療所にいたことはなかった)というものです。
もちろんサロンでの脱毛そのものも違法ですが、中にはこのように医師の名前の名義貸しと言う事件があったことも知っておきましょう。
医療機関での脱毛は基本、医師の診察があり、医師自身もしくは指示を受けた看護師が機械を操作して施術するのが基本です。
看護師が機械を使用して施術することに関しては「医師が指示をして」行うのであれば問題ありません。
医師が施術に立ち会う必要もなく、万が一皮膚トラブルがあった場合に医師の診察が受けられる環境であればよいのです。
ちなみに“准”看護師がレーザー脱毛を行うのは違法です。
看護師と“准”看護師の違いは看護師は医師国家試験に合格し厚生労働省に認可された資格であるのに対し、“准”看護師は都道府県が認可した資格だということです。
そのため、看護師を区別するために「正看護師」「准看護士」という言葉もあります。
しかし、普通の病院でも「“正”看護師です」「“准”看護師です」と自己紹介をすることはほとんどなく、「看護師の○○です。」と言われますから、こちらが聞かない限りこの区別は難しいです。
それではこれまでの内容をまとめます。
- 脱毛は医療行為。医療行為をしてよいのは医療機関だけ。施術は医師、もしくは医師の指示を受けた正看護師により行われる。
- エステは脱毛をすれば法律違反。
施術前に知っておいて損はない、レーザー脱毛の知識
さて余談になりますが、脱毛について知っておいて損はない知識を少し紹介しましょう。
医療機関で使用されるレーザー治療はさらに使用されるレーザーによっていくつかの種類に分けられます。
- ルビーレーザー (波長 694nm)
- アレキサンドライトレーザー (波長 755nm)
- ダイオードレーザー (波長 810nm)
- ロングパルスYAGレーザー (波長 1064nm)
波長は長いほど(数字が大きいほど)皮膚の深くまで届くため、毛根が深いヒゲの場合はダイオードレーザーやロングパルスYAGレーザーが用いられます。
ちなみにヒゲは人の体の中で最も太くて強く、深い位置から生えている毛です。そのため他の部位の脱毛よりも手間がかかります。
最近ではレーザー脱毛の進歩で少なくなりましたが、「ハリ脱毛」という方法があります。これはヒゲの毛穴に針を刺し、直接毛根を焼く治療です。
メリットとしては毛のサイクルが「退行期」でも「休止期」でもできるということがあります。しかしデメリットとして毛穴1つずつ作業をするので時間がかかり費用も高いこと、そして痛みが強いことが挙げられます。ちなみにハリ脱毛も毛乳頭を破壊しますので医療行為にあたります。
脱毛施術時の「痛み」について
脱毛で皆さんが心配されるのは痛みのことだと思います。通常脱毛の痛みは指ではじかれる程度、と表現されますが個人差はあります。
脱毛の痛みは毛の密度と関連しています。また皮膚や脂肪が厚い部分は痛みがあまりありません。脱毛で痛みを感じやすい部分はヒゲとVIO(陰部)です。
少しでも痛みを減らして脱毛をしたいという人は麻酔クリームを使用する方法もあります。脱毛する部位に塗ってから処置すると痛みが半分くらいになるそうです。
そのため、人によっては痛みのために弱いレーザーしか使用できなかった場合、麻酔クリームを使用することでレーザーを強くして脱毛の効果を上げることもできます。
痛みが心配な場合はカウンセリングで麻酔クリームについて相談しましょう。
医療脱毛とエステ脱毛の違い まとめ
最近ではどこでも、手軽に、脱毛ができるようになったため、どこで施術を受けるか深く考えず決めてしまうこともあるかもしれませんが、費用と効果のバランスや皮膚トラブルのリスクも考慮して、取り返しのつかないことにならないよう、熟考して判断しましょう。
最後にもう一度、冒頭に紹介した5つの質問を確認して今回の記事は締めくくります。
安全な「脱毛」をするために、業者に必ずすべき5つの質問
女性のみなさん、安全な脱毛ライフを送ってくださいね。
参考:医師運営の医療脱毛クリニック 患者数ランキング
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
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