独立開業の第一歩 =医療法人の立ち上げ方を知る=
■ 記事作成日 2016/6/3 ■ 最終更新日 2017/12/6
ドクターの顧問業務を得意とする、税理士清水です
はじめまして、税理士の清水努です。開業医の先生はもちろん、勤務医の先生、また、将来開業をお考えの先生の顧問業務を得意とする税理士事務所を、東京の銀座で開業しております。
このコラムでは、勤務医の先生や開業をお考え、または、すでに開業をされているドクター向けに、「ドクターとお金の問題」について、楽しく、且つ、真剣に語らせていただきます。
本日のコラムテーマは「独立開業の第一歩 =医療法人の立ち上げ方=」です。開業予備軍のドクターは必見内容です。
医療法人をお考え?でもその前に…
医療法人の前に、個人であるドクターは勤務医か開業医かという選択肢がございますね! 税理士の世界も同様なんですが、まずはどこかの事務所で下積みをして、その後個人開業、少しずつ規模を拡大しスタッフを採用したのち、法人成りをして税理士法人を設立します。
従いまして、ドクターも勤務医⇒個人開業⇒医療法人というステップを踏むものと思われます。
開業医と医療法人の違い
そしてこの開業医と医療法人の違いとは何でしょうか? すべてのドクターは医療法人を目指すべきなんでしょうか?
そのメリット・デメリットを以下考察していきましょう。
<開業医と医療法人の違い>
- 税金の計算方法が違う
- 行政への届け出関係が違う
- 院長の立場が違う
- 院長が亡くなった後が違う
- お金の残し方が違う
では、今から一つ一つずつ見ていきましょう!
税金の計算方法が違う
まず最も違うことは、税金を計算する根拠法が違うことです。開業医は“所得税法”、医療法人は“法人税法”に則って計算をすることになります。お互いに利益(専門的には“所得”といいます)に対して所定の税率を乗じて税金を計算することになります。
所得税の税率は累進課税方式といって、その所得によって5%~45%もの差があります。住民税は現在一律10%なので、それを加味すると15%~55%の段階差があります。
例えば、所得が年間500万円の開業医(勤務医も個人なので同様です)は、税金が約100万円かかります。それに対して、年間5,000万円の場合には、約2,270万円もかかるのです。
所得が10倍に対して税金は約22倍も増えてしまうのです。
これが累進課税という仕組みなのです。富裕層が嫌がるのも無理が無いですよね・・・
ところがこれが医療法人の場合はどうなのでしょうか?
所得は同じ例として見てみましょう。まず所得500万円の医療法人は、税金が約130万円、所得5,000万円の場合には、税金が約1,800万円かかります。
同じ所得は10倍なのに税金は14倍と所得税と比べるとそこまで差はありませんよね!
しかも、500万円の所得の場合には、開業医の方が税金は安いのに比べて、5,000万円になると断然医療法人の方が税金は安いですね。
つまりある特定の利益水準を超えると法人成りにした方が税金計算上は有利となります。この特定のというのはいくらなのか?概ね1,000万円前後の利益が安定的に出ている場合を指します。
ここは押さえておいてくださいね!
また、節税対策は断然医療法人の方がメニューは豊富です。(というよりは個人経営の場合にはほとんど節税対策はありません。)
行政への届け出関係が違う
次に行政への届け出関係ですが、これは圧倒的に開業医の方が少ないですね・・・
医療法人はその設立段階から大量の資料を作成し、しかも届け出ではなく申請することになります。
申請ということは承認を得てからということになりますので、非常にしょうにんまでに時間がかかるということです。現在は概ね申請後6ヵ月程度は見ておくべきでしょう。(その申請書類の作成を外部の税理士事務所へ依頼するとその費用もかかります。)
さらに、法人成り後も資産の変更登記、役員の変更登記など定期的に届け出をしなければならず、登記費用など開業医ではかからないコストがかかります。
院長の立場が違う
ここでいう立場とは、他人から見た場合のことを言うのではありません。法律的に見た立場の違いのことを指します。
開業医の場合には、先ほども申し上げた通り所得税=個人ですので、診療所の売上も使った経費もすべては個人に帰属することになり、結果利益から税金を控除した残りはすべて院長先生のモノになります。そのお金をどのように使おうが、貯蓄しようが先生の自由です。(当たり前ですよね!)
それに対して医療法人の場合の院長先生の立場は、その法人の理事長=院長先生=トップという目線は変わらないのですが、法的には法人の元での個人なので、売上も経費もすべて法人のモノになります。そのお金を先生が個人的に流用してはいけないのです。極端な言い方をすれば、会社のお金を勝手に使ったという行為とみなされます。
スタッフを採用したケースを考えるとわかりやすいのですが、開業医がスタッフを採用した場合の雇用主はもちろん院長先生個人となりますが、医療法人の場合には、雇用主はあくまでも医療法人であり、院長先生ではないのです。
よって、給料も医療法人から支払うことになるので、院長先生も役員報酬として医療法人から受けた給料で個人の生活を賄うことになるのです。
この役員報酬の決め方も、理事会や社員総会で決議することになり、原則として1年間変更することはできません。
開業医のように、今月は入用だからとか、旅行に行くからなどの理由で、法人の金庫から勝手にお金を持ち出すことはできなくなるのです。
(まあちょっと大げさには書きましたが、少なくとも開業医に比べると窮屈感は出てきますね!)
院長が亡くなった後が違う
少し縁起が悪いのですが、万一院長先生がお亡くなりになった場合を想定してみましょう!
開業医の場合にはあくまでも個人なので、そのまま診療所は閉院することになります。せっかく積み上げてきた患者さんや地盤は第三者に引き継ぐことはできません。
その資格は個人に帰属しているため、開業医という届け出はその時点で無効になってしまうからです。ただし、親族の方がそのまま引き継ぐ場合には速やかに行政への届け出が必要になりますのでご注意ください。
それに対して医療法人の場合には、院長先生がお亡くなりになっても法人自体が死亡したわけではないので、理事長の変更(役員変更)を行うことで、法人自体には影響がありません。もちろん理事長の力で利益のほとんどを捻出してきた場合には、継続はできたとしても存続は別問題となります。
突然死の場合は別ですが、そのようなことも踏まえ、事業承継に関しては早め早めに準備しておくことが肝要です。
それも医療法人にしたメリットなのですから・・・
お金の残し方が違う
開業医の場合には、利益を出して税金を支払った後の残ったお金は、先生個人が自由に使うことができます。逆に言えば使わなかったお金は丸々残るということです。
それに対して、医療法人の場合は、院長先生は役員報酬というお給料でお金を受け取るため、その給料から税金を支払った後の残りにしか自由になるお金はありません。お金は医療法人には残ってはいても、それはあくまでも法人のモノで院長先生個人のモノではありません。
「でも、法人の出資者は自分なんだから、実質的には法人のお金は自分のモノでしょ!」という声も聞こえてきそうですが、現在の医療法人は持分が無いタイプしか設立できないので、院長に万一の場合にどなたか継ぐ人がいない場合には、国に没収されてしまうのです。(後継者がいればもちろん大丈夫です!)
以上のように、お金を個人で残したいのか、法人に残すことで病院を継続することに重点を置くかで、お金の残し方は変わってきます。
利益、資金繰り、事業承継などを総合的に勘案し、より良いお金の残し方を選択すべきですね!
当然ですが、個人経営、法人経営のどちらかが良くてどちらかが悪いということではございませんので、そこは心配なさらずに・・・
この記事を書いた人
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