開業医、フリーランス医師必見!医師への税務調査とその対策
■ 記事作成日 2016/6/20 ■ 最終更新日 2017/12/6
医師にだって普通に税務調査が入ります
「センセ、●●税務署の◆◆と申します。これから税務調査にお伺いしたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
税務署からの調査依頼電話は、ある日突然、先生の院(事務所)にかかってきます。そう、ドクターマネー第四回目のテーマは、誰もが気になる「税務調査」についてのお話です。
こんな話を耳にすると、どんな先生でも何となくいい感じがしませんよね?たとえ全く後ろ暗いことがなくても、やっぱり税務調査は嫌なものです。しかしながら、この「いつ来るかわからない税務調査」に関してきちんとした理解を今のうちにしておけば、いざ調査という段階になっても、落ち着いて善処することができるのは間違いありません。
では、その税務調査について基本的なところから紐解いていきましょう。
次の6つが抑えておくべき基本項目です。
- 税務調査の種類
- 税務署の組織
- 調査に入る確率と特徴
- 当日までの準備事項
- 当日の対応方法
- 税務署目線
1.税務調査の種類
そもそも税務調査と言ってもそれには大きくわけて3種類の調査があります。
1.強制調査
昔、伊丹十三監督作品の「マルサの女」という映画が大変流行いたしました。宮本信子さん演じる女性調査官が、脱税をしていた山崎努さんを捕らえる映画でしたね。東京国税局 査察部です。法人税法違反の疑いで家宅捜査に入ります。
「はい、動かないで!」
そうです。この調査は、“強制”と記しているだけあって、悪さをした人や会社(病院)を逮捕しにくる場合の調査のことを言います。これには、数百人の調査官が動きますので、数億円の脱税の見込みがある会社に行われるため、当たり前ですが、滅多なことで調査に来ることはありません。
2.任意調査
一般的な税務調査と言えば、この任意調査のことを指します。私ども税理士事務所が対応する税務調査のほとんどは、この任意調査の立会いになります。読んで字のごとく“任意”なので、先ほどのような強制ではございません。従いまして、調査を拒否することは一応できます。
しかし、一般的には拒否する例はありません。当たり前ですが、何か変なことをしているからと勘繰られるだけなので、この任意調査はきちんと対応すべきでしょう。
3.反面調査
この反面調査というのは、あまり聞きなれないかもしれません。というのも、税務調査は税務調査なのですが、本当の目的は調査に入った先生の病院や会社ではなく、その取引先、関係先などその反面する病院や会社が本丸で見たいのです。
なので、調査官も「今回は反面調査なのでよろしく・・・」なんて丁寧に説明はしません。私がこれまでの経験から推測しているだけなのです。でも、このような調査の場合には、目的があなたの会社から税金を取ろうというものではなく、資料収集、情報収集が主目的となるので、その対応によっては、そんなに厳しい追及はしてきません。
2.税務署の組織
次に、税務調査にやってくる税務署の組織がどのようになっているのか、そして実際に調査に来る人はどんなタイプの人なのか、をご説明いたします。
まず、税務署長を筆頭に、副署長、特調官といった偉い人たちが並んでいます。その下に、管理部門、徴収部門、個人課税部門、法人課税部門、資産課税部門などがあります。
管理、徴収は、資料の管理や納税の管理、取り立てなどを主な仕事にしている、いわば税務署のバックヤード部隊です。なので、税金の滞納をしていなければ、ほとんど一般の方々とは接しない部門といえます。
逆に言えば、滞納をしている場合には、徴収部門との折衝になるので、はずれの人にあたった場合には“タフな交渉”が必要になります。(あまり真摯な対応をしていないと、債権差押えなどを取引先などにやられてしまうので、円滑な営業活動に支障が生じてきます。)
実際に私たちが接する人は、個人課税部門、法人課税部門、資産課税部門の人になります。
各々の部門の特徴を見ていきましょう。
1.個人課税部門
いわゆる個人で確定申告をする人に対して調査をしてくる部門を指します。
2.法人課税部門
いわゆる法人で確定申告をする人に対して調査をしてくる部門を指します。
3.資産課税部門
基本、個人で不動産を売却した人や、相続税や贈与税の申告をした人に対して調査をしてくる部門を指します。
では、この部門で働く調査官について見ていきましょう。
まず部門のトップは、統括官という肩書を持ち、一般企業では課長クラスです。その下に上席(じょうせき)がいて、係長クラスです。更にその下に調査官がいて、いわゆる一般社員です。肩書がついていなかったり、事務官という肩書を持つ人は、税務署に入って間もない新人です。税務調査の経験が浅い人です。
調査では、1人でくるケース、2人でくるケースなど色々とありますが、それは調査をする相手側の規模などに応じて決定されます。
上席が単独でくる場合は、ある程度慣れた方なので、鋭い人ですとこちらが突っ込んでほしくないところばかり追求してくるので、その対応には十分注意をしなければなりません。
ただ、限られた時間での調査なので、すべてを確認できるわけではありません。そのため、絞られた案件での折衝となるので、そこから外れた案件はスルーされるという利点はあります。
調査官が単独でくる場合には、その経験年度によって調査自体に慣れている人、まったく慣れていない人に分かれます。慣れている人は、先ほどの上席同様にある程度的を絞って見てくるので、こちら側の対応次第となります。慣れていない人が来ると、対応自体は非常に楽なのですが、ほとんど資料を見ることが出来ず、調査官が税務署に戻って、統括官に調査報告をしても「どこ見てんだ~」と怒られるのがオチで、調査後のやり取りに相当な時間を費やすため、かなり非効率になってくるケースが多いです。
ある程度の規模になりますと、複数で調査に来ます。この場合の複数は、上席と調査官、あるいは調査官2人というケースとなります。この場合には、役割分担で効率よく調査をするケースが多いので、かなりの資料をチェックされます。
従いまして、事前にしっかりと打ち合わせをして、ぬかりのない準備が必要となります。ただし、場合によっては、(OJTのように)上席が新人の調査官を指導教育するという場合もありますので、その場合には私と上席がある意味一緒になって調査官を導くという変な?調査になる場合もあります。
3.税務調査に入る確率と特徴
そもそも税務調査ってどのような病院、会社、人に入るのでしょうか?その前に、税務調査を実施する会社の数、個人の申告者の数に対する、全会社数や個人の割合がどの位だと思いますか?
実は10%ありません。
10社に1社、10人に1人程度も税務調査って入らないのです(少しは安心できる数値ですね)。それというのも、国税局で働く人の数はここ数年間でほとんど増えていないのです。それに対して、税務調査対象となる法人の数はどんどん増えているのです。従って、調査に入る割合(これを“接触率”と呼びます)はなかなか上がらなくて、現場の調査官はこの接触率を上げるために、日々奮闘しているのが現実なのです。
そうなってくると、どのような場合に税務調査が入るのか、ご賢明な先生ならばもうおわかりになるでしょう。そうですほとんどは黒字の病院、法人、個人に的を絞って税務調査が入ることになります。
赤字の病院、法人や個人へ調査に入っても、追加で税金をとることは容易ではありません。それに反して、黒字の会社や個人であれば、見つけ次第税金が取れるということになります。
税務署の方は絶対に否定しますが、調査に入って税金が1円も取れないというのは成績が上がらないことを意味するため、ちょっと恥ずかしいし、担当職員にとっても、昇給昇進にも多少響くことになるからです。
ただし、赤字の会社や個人に絶対に入らないかというとそうではありません。
以前私のクライアントで、2,000万円以上の赤字法人がありました。そこに税務調査が入ったのです。一体どのような理由でこんなことがおこるケースが考えられるか?その場合には、明らかに研修のためでした。
というのも、新人調査官が勉強のために単独で調査に来ることがあるのですが、この時もまさしく勉強中で、単独での調査が2回目という20代前半の男性でした。
私は当然優しく(?)教えながら調査の立会をしたものです。
ただしここで注意をしなければならないのは、赤字なのに複数で調査に来るケースや、上席(係長相当)が単独でくるケースは、事前に何らかの情報をつかんで乗り込むこともあり得るので注意が必要です。
では、税務調査に入る頻度はどうなっているのでしょうか?
よく3年に一度、5年に一度なんて世間では言われていますが、最近では先ほどの接触率を上げるために、頻度は確実に落ちています。多くても5年程度に一度というのが最近多く見受けられます。
これは不思議な現象なのですが、ずっと黒字を出し続けている病院や法人であっても10年くらい調査に来ていないケースもあります。
また、どんな業種業界がよく入るのでしょうか?(医療関係への調査動向はどうでしょうか?)
実はここ最近の傾向では、医療関係、看護介護関係はあまり入っていません。特に保険診療中心のクリニックは入っていません。しかし逆にいうと、自由診療中心は定期的に税務調査に入っています。これは売上がある程度ガラス張りになっているか否かに関係します。
さて話しを戻します。
直接に医師の皆さんには関係ないかもしれませんが、一般的に税務調査に入る頻度の多い業種はここ数年間ずっと変わりません。
1位:風俗、クラブ、バー
2位:パチンコなどの娯楽産業
3位:産業廃棄物処理業
しかも、徴収税額も同様に上位ですね・・・皆さんも何となくイメージが湧くかと思います。
では、業種業界に関係なく税務調査に入る確率を下げる方法はあるのでしょうか?実はあるんです・・・
それは、「ランク付け」です。
昔はかなり厳密に分かれていたのですが、最近はその基準も曖昧にはなってきました。しかし、先ほどから何回も申し上げているように、接触率を上げ、効率よく税金を徴収しようと思ったら、取れそうなところから行くべきと考えるのが当然の成り行きでしょう。
そのため、税務調査対象となる法人には、このランクというものが存在するのです。
- Aランク:優良法人
- Bランク:準優良法人
- Cランク:普通
- Dランク:準不良法人
- Eランク:不良法人
言葉尻から何となく想像はできると思います。
まずは、Aランクの優良法人というのは、毎年億単位の税金を納めて、きちんとした帳簿を備えている法人で、法人会にも加盟しており、税務署から見るとありがたい存在なのです。このような会社の税務調査は、概ね5年~8年に調査は入りますが、“表敬訪問”と言って、非常に優しい調査です。基本、何も変なことはしていないだろうという目線で来ますので、アットホームな調査となります。
昔は表彰式までやっていたほどなんですよ・・・
このAランクに該当する会社は、全体数の5%未満というごく少数となります。
次のBランクの準優良法人は、Aランクほどではないのですが、それに準じるほど毎年すばらしい営業成績を残され、納税している法人を指します。概ね5年程度に一度調査に入りますが、この調査も比較的優しい調査となります。つまり、このBランクの仲間入りをすることが、現実的にストレスにならない税務調査につながるということになってきます。
このBランクに該当する会社は、全体数の10%未満です。
さてCを飛ばして、Dランクの準不良法人は、もともとはCランクという普通の会社だったのですが、税務調査時にかなり黒に近いグレーな処理を行っていたり、税務調査に非協力的だったりと、調査官から反感を買った場合にランク付けをされたケースです。
ここに該当してしまうと、3年程度に一度は税務調査に入られ、しかも“何か変なことをしているな”という目線で見られるので、非常にやりづらい調査となります。このDランクに該当する法人は、全体数の10%程度存在します。
Eランクはというと…もうみなさんお分かりだと思います、最悪です。ここにランクされたら、ほぼ毎年か隔年ごとに調査に来ます。しかも、Dランクの比ではないほど、徹底的に見られます。
信用がほぼゼロに等しいので、何でもおかしいという目線で見てくるので、調査対応は非常に厳しいものとなります。このEランクに該当する法人は、全体数の5%程度存在します。
最後に残ったCランクは、これまでに説明した会社以外を指します。ほとんどの会社はここに該当すると思ってください。(もちろん、スタートもここになります。)なので、まずはDランクというレッテルを張られないことが肝要となってきますので、税務署における法人のランクは、初めての税務調査での対応力で全てが決まると言っても過言ではありません。
税理士はよくよく選ばないと、あとで後悔することになります。
かといって、あまりにも節税対策もしないで真っ白な?処理しかしない、何も提案もしないという税理士もいかがなものかとは思いますが・・・逆に、イケイケドンドンの真っ黒い処理を勧めてくる税理士はもっと怖いですが・・・。
4.税務調査当日までの準備事項
さて、これまで税務調査の基礎知識について税務署内部のこと、接触率などについてとめどない話しをしてきましたが、ここからは実際の税務調査に備えた心構えについて言及したいと思います。
1.事前連絡無し、アポ無しの場合の心得
まず、税務調査の日程は通常どのように決められるかご存知でしょうか?一般的には、対象となる法人や個人に税務署から連絡が入り、そして税理士事務所にも連絡が入ります。
ただ、このやり方は税理士業界からかなり不評を買っていたので、直接病院や会社、個人には連絡を控える調査官が増え、税理士事務所へ日程確認の連絡がくることがほとんどになっています。そこで、私ども税理士事務所では、お客様との事前打ち合わせや、準備のための日数を確保するために、1ヶ月程度の時間をいただき調査当日を迎えます。
以上のような場合には、特に慌てることも無く当日を迎えるわけですが、以下のような場合には、アポなしで突然調査官が直接会社や個人宅に乗り込んでくることがあります。
- 現金商売がメインの業種:飲食業、小売業などが該当します
- Dランク、Eランクにレッテルを貼られた会社、個人
- 内部告発者によりタレこみがあった場合
- 外部情報からアポ取りをしていると仮想隠蔽される恐れのある場合
特に現金商売の方は、幹部や従業員たちにも“アポなしで税務署が来るかもしれない”旨は常に話しをしてください。マルサの女ではないですが、いきなり逮捕令状をもって来るわけじゃありません。あくまでも任意調査なので、アポなしで来たとしても、決して慌てずに対処してください。
といっても、どのように対処すべきかわからないとおもいます。
まずは、
- これは任意調査ですか?と確認してください。
- 普通は任意なので、まずは会議室か外で待ってもらってください。
- そして、関与税理士へ直ちに電話をしてください。(当たり前ですが、つながるまでかけてくださいね。携帯電話がすぐにつながらなかったら、税理士事務所にかけて、税務署が来ている旨を伝えてください。)
- 社長もしくは本人が不在の場合で従業員や身内の方が対応した場合でも同じことです。
なので、事前にコメディカルや事務スタッフにも心得として伝えておいていただきたいのです。
繰り返しになりますが、強制調査とは違って任意調査は逮捕権や“動かないで~”という強制権が無いので、むしろ調査官は勝手に資料に触ることもできません。ですので、怖がることはないのです。
あとは、税理士が電話で調査官と話しをしますので、大抵は調査は後日ということになります。
2.稟議書、議事録、契約書、金庫の事前チェック
次に、調査当日までにどんなことに気を付けておけばよいのでしょうか?まずは原始資料です。稟議書が存在するのであれば、そこを重点的に税務署は見ます。請求書や領収書とは違い、書面として様々な人が作成するものですので、変な話しですが、そこには真実が書かれているからです。
領収書だけでは分からない詳細なこと(それを支出する根拠や説明など)が書かれているので、例えば会議費なのか、交際費なのか、販売促進費なのか?などなど、税務上問題になってくることがあるからです。
また、役員報酬の決議や、役員退職金支給の決議など、取締役会議事録が存在していないと否認する可能性のあるものや、関係法人間の契約書などもきちんと揃っていないと、その経費性自体否認される可能性が高くなります。
そして、金庫ですね。
昔こんなことがありました。事前の打ち合わせで、理事長に「金庫内には変なもの入れておかないでくださいね!」と口頭だけで終わらせてしまったケースです。
調査当日に、調査官から金庫の中を見せてくださいと言われ、中を開けるとビックリです。他の法人の通帳、印鑑、商品券などなどが入っているではないですか?
生きた心地しなかったですね・・・
様々な言い訳(?)をしてその場は凌ぎましたが、印象は決してよろしいものではありませんでした。くれぐれも金庫内には疑わしいと思われるものは除いておいてください。
3.請求書、領収書のチェック
そして、最もボリュームがあり、最も調査官がチェックする筆頭の請求書および領収書も事前にチェックが必要となります。ただし、正直なところ事前にすべてに目を通すことは現実的ではありません。
では、どこを中心に事前チェックすべきか?
これは法人や個人事業の規模にもよりますが、年間の取引の中で明らかに突出している桁数に着目します。例えば、経費項目の中で、ほとんどが5桁以内(即ち、万円単位)であれば、6桁以上の経費をすべて確認します。
つまり、調査官が総勘定元帳という一年間の取引記録簿を見た際に、他の項目よりも目立ってくるのが桁数なのです。調査官も限られた日数の中で調査を行うわけですから、いかに効率よくやろうとすると、比較的大きめな項目を確実にチェックしてくるのです。
また、経費項目で言うと、交際費、会議費、福利厚生費ですね。
これは会社の場合、年間の限度額というものが交際費にはあるので、それが超えそうになると、会議費などに振り分ける習性(?)があるためです。そして、これらの領収書の現物はよ~くチェックされます。
大きな声では言えませんが、領収書の折り方、クセなどをベテランの調査官はよく見ます。それは、その領収書が本当に先生ないし法人内の担当者本人が使ったものなのかどうか?疑っているからです。特に、クラブなど比較的大きな金額なものです。くれぐれもお気をつけてくださいね!
以上が、調査当日までに準備しておくべき最低限のことです。あとは、税理士事務所ごとに違いはあるでしょうが、ここまで準備をしておけば大きな問題は起こらないでしょう。ただし、事前に私たち税理士へへ隠し事をしていたらわかりませんよ…大変なことになっても手遅れになるので注意してください。
5.税務調査当日の対応方法
さて、こうしておよそ1か月の準備の後、いよいよ調査当日を迎えることとなります。税務調査が初めての先生の場合は、ちょっとドキドキしてしまうのも仕方ないというものですね。
ちなみに税務調査で一般的な調査日数は2日~3日です。これは規模によって差が出てきます。なので、先生や本人としては、この間ずっと一緒にいないといけないのかな~、嫌だな~、どこかに行ってしまいたいな~ なんて思いますよね!
いいですよ!どこかに行ってきてください・・・ただし、初日の午前中2時間だけお付き合いください。私どもの調査の立ち会い方は、いつも本人には2時間のみ、あとはプロである私どもが立ち会います。これなら少しは安心できるのではないでしょうか。
では、その2時間の対応についてお話ししていきましょう。
基本は10時~開始となります。なので、私どもは9時半ころには到着します。そこで、10時に備えて最後のおさらい(?)をします。 といっても、ほとんどが雑談となりますが・・・(資料が揃っているかの確認をします)
そして税務署の方が到着します。
名刺交換を済ませた後、ちょっとした雑談から始まります。その流れの中で、調査官は、法人(事業)の概要と社長(先生)の経歴です。起業するまでにどんなことをしていたのか?どうして起業しようと思ったのか?など、個人に関わることから事業概要と今後の考え方などを中心に根掘り葉掘り聞いてきます。
そこで、事前に準備していた会社案内や事業概要案内(パンフレットなど)を中心に説明をすることになります。また業界動向なども聞かれます。(特に最近の調査官は勉強不足の方が多いので、事前に業界のことをあまり調べてこないのです。)
ここで注意していただきたいのは、席次表や内線表が存在する場合です。親族の方に給料を支給している場合です。席次表や内線表にその方の名前が存在しない場合、税務署はあとでそこをついてきます。つまり、「働いていない人に給料を支払っているのですか?」と・・・
常勤なのか?非常勤役員なのか?監査役なのか? 具体的な業務はなんですか? 仕事の割にはちょっと給料が高くありませんか?などなど・・・嫌ですね~ ねちっこいですね~ でも税務調査なんです。
「院長はよく海外へは行かれるのですか?」
「奥様はどのくらい院には来られるのですか?」
ベテラン調査官になると、この2時間で情報収集のための質問をしてきます。これに引っかからないようにすることが大事なことなのです。
なので、事前にどのような経歴の方が調査に来るのか? 職責は? 若手、中堅、ベテラン、査察にいたのか?などなど様々な角度から情報を入手して臨みます。それによって、こちら側の攻め方、守り方を決定することになるのです。
6.税務署の目線を考えてみる
そうこうするうちに、約束の時間が過ぎていきます。
先生、、初日2時間お疲れ様でした、午後以降は私どもにすべてお任せください。
ただその前に、税務署はそもそもどんなことが気になって調査に訪れたのでしょうか?即ち税務署目線から見たら、どのような決算書が気になるのか?といったポイントを知識として仕入れておくのは、非常に有効な対抗手段となりえると思います。
- 粗利の低下、在庫の急減
- 人件費の増加
- 外注費、支払手数料、広告宣伝費の増加
- 交際費、福利厚生費、会議費の増加
- 営業外費用、特別損失の発生
他にも要因はありますが、主だったものとしては以上の5点があげられます。
一つ一つ紐解いていきましょう。
1.粗利率の低下、在庫の急減
一般的に粗利率が大幅に低下することはありません。余程安売りを繰り返したり、商品自体が陳腐化して廃棄した場合ならいざしらず、大きくは変動しないのが普通です。
ではこの大幅なというのは、どの程度の範囲をいうのでしょうか?概ね5%以上の低下を指します。そのくらい一般的には変動しません。そこで、目に付くのが在庫です。意外と中小規模の組織では在庫の実地棚卸はあまり頻度よく行っていないのが現実です。
在庫帳もきちんとつけていないと、本当の在庫数は正確には把握していないでしょう。そうなってくると、不自然な在庫、棚卸金額となります。それが過度に少ないと原価が上がり、結果粗利益は下がります。よって最終利益も減ることになるので税金も少なく済む・・・税務署はそのような目線で見てくるのです。
2.人件費の増加
医療法人では人件費が大きな経費として占められることが非常に多いのは、皆さんご理解いただけるかと思います。給料が大幅に増加しました。売上はあまり増えていないのに・・・?税務署としては気になりますよね。
これは、架空人件費を意識しています。現金で支給していたり、履歴書が無かったり、短期間で退職した人、給料が未払いなコメディカルがいる・・・いずれも調査で相当突っ込まれる部分です。この架空というのはもちろん悪質と認定されますので、調査で否認されると“重加算税”という重い罰金が課税されます。(通常の税金に約40%加算されます)
この架空とされないためには、その人はうちに在籍していたという証拠を必ず残しておいてください。
例えば、履歴書・・・ たまに辞めた人の分は捨てているよ!という先生がいらっしゃいますが、少なくとも税務調査が来るまでは保存をお勧めします。現金で支給している場合には、その人から直筆で受領書をもらってください。タイムカード、日報、業務報告書なども当然有効になりますので、仮に変な辞め方をした人でも、短気を起こさずに保管する癖をつけてください。
3.外注費、支払手数料、広告宣伝費の増加
外注費や支払手数料ですが、これも急激に増加したら非常に目立ちます。架空外注費、架空手数料・・・ 先ほどの人件費と同様です。一般的に外注費や手数料を支払う前に、相手側と契約書などを取り交わすことが多いかと思います。何もないのに金銭の支払いをしている、特に現金で支払っているなんて、益々怪しい? そんな風に税務署は見てきます。
できる限り、振込をお勧めします。しかし、振込だから無条件で大丈夫かというとそうでもありません。契約書に基づいて支払ってはいるのですが、そもそもその外注費高くないですか?
その手数料、一般的なものと比べて異常に高額では?なんて税務署が判断したら、その金額算定の根拠、それに見合う収益アップなど、調査官は追及してきます。
それは広告宣伝費や販売促進費なども同様です。自費診療などを行っているクリニックは、広告宣伝費やPR費用に予算を大きくかけているところもあるでしょう。金額の妥当性もさることながら、決算月の直前で多額の宣伝費を計上していた場合には、それがその期のものであるのか?本当は来期以降のものではないのか?などかなり疑った目で見てきますので要注意です。
たまに勘違いなされる方もおられますので、改めてご説明いたしますと、この広告宣伝費や販売促進費は“短期前払費用”には該当しません。
これは、保険料や家賃など毎年固定的に発生する経費は、向こう1年分を前払いしても、支払った時点で一括して経費にしてもOKというものです。ですが、広告宣伝費などはいわゆる変動費なので、その期の収益に対応した部分でなければ経費に計上することはできません。
ただし、ホームページの製作費用などは完成した時点で一括経費計上は認められています。
4.交際費、福利厚生費、会議費の増加
交際費、福利厚生費なども一般的には急激に増加することは考えにくいと言われています。にも拘らず、しかも売上の増加もあまりない中で、人も増えていないのに、交際費は増加するわ、福利厚生費は増加するわですと、税務署としてはなぜ?と疑った目で見てくる可能性は大です。
法人組織ですと、資本金が1億円以下の場合、年間の交際費の枠が800万円となります。ちなみに、1,000万円年間の交際費を使うと、200万円は経費にすることができません。もったいないから、これを会議費や厚生費に振り替えてしまおうと考えてしまうのが、経営者なんですよね・・・
個人経営クリニックですと、交際費の限度額というものは存在しないから、だったら個人経営の方がいいや!と考えるのは早計です。そもそも、個人経営の場合の経費の考え方は、“売上を上げるために直接要した費用”のみが経費として計上できると規定されているのです。
なので、交際費などの遊興費的なものは徹底的に調べられたら認められなくなると言いうわけです。
ここで“やり過ぎ“というレッテルを貼られるかどうか、調査官も人の子ですから、”まあこの程度だったら、金額的にもいいかな?“と思わせる程度にしておかないと、本気で取りに来てしまいます。
5.営業外費用、特別損失の発生
最後に、営業外費用や特別損失など、通常ではない支出についても調査官は目を光らせます。このような特別な支出は金額も大きくなることから、それが本当の損失なのか?という目線で厳しく見ます。
例えば、固定資産除却損や廃棄損などです。本当に除却したの?本当に捨てたのか?ということを証明しなさいと言ってきます。このような場合には、廃棄証明書を事前に入手しておくとひとまず安心です。これは廃棄と称して、実は売却していたということが経験上あるからなんです。
特に現在は鉄くずなどスクラップとして高い値がつくものがありますので、それは調査官が必ず押さえています。
さあ、今回のテーマはいかがでしたか?税務調査と一言で言っても、様々なことがあります。こういうシーンこそ、私たち税理士が必要とされ、本領を発揮できる機会であるといえるでしょう。しかしながら、医療機関やフリーランス医師を対象とした税務調査に強い税理士、慣れている税理士は限られています。
それは普段のお付き合いの中で、一般的なアドバイスしかくれない税理士なのか、かゆいところに手が届く存在なのか?決断するのは先生、あなたご自身となってくるのです。
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
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