東京都の第7次保健医療計画 - 他の道府県とは少し違う?
■作成日 2018/5/7 ■更新日 2018/5/7
2018年4月から、各都道府県の保健医療計画が「第7次保健医療計画」になり、東京都の保健医療計画も一新されました。今回は、東京都の第7次保健医療計画を中心に、第6次との比較も含め、確認していきたいと思います。
東京都が他の道府県と違う理由
さて今回のタイトルは「他の道府県とは少し違う?東京都の保健医療計画」です。東京都は政治の中心、経済の中心など、さまざまな分野で中心的な存在です。特別なことをしなくても常に人が集まり、人口は日本一。当然ながら患者数も日本一です。
医科大学の付属病院数は日本一、医師や看護師といった医療者数も日本一、日本一がもっとも多い地域です。
では、人口動態に関するデータのうち、都道府県別に集計されたものをいくつか見てみます。まずは出生数です。
図1 都道府県別 出生数(2016年)
当然ながらではありますが、出生数はダントツで日本一です。しかし、出生率や合計特殊出生率では、少し違ってきます。
図2 都道府県別出生率(人口1,000につき)
東京都は若い世代が多く集まる都道府県ですが、出生率は全国5位でした。では合計特殊出生率はどうでしょうか。
図3 都道府県別 合計特殊出生率
女性1人あたりが生む子供の数としては、全国でもっとも少ない1.24でした。
東京都は人口が非常に多く、若い世代、子育て世代も多いところではありますが、元々の人口に比べると、子供が増える割合が少ないという特徴があります。
東京都のもう一つの特徴として、高齢者数と高齢化率を見てみます。
図4 都道府県別 高齢者数と高齢化率
東京都は、高齢化率は全国でもっとも低いのですが、高齢者数はやはり日本一。2位大阪府とは、1.3倍近くの差があります。これは2017年時点での数値を元にしたデータですが、全体の人口が多い分、高齢者も非常に多いということが分かります。
では、東京都の人口の推移をみていきます。東京都は現在、高齢化率が全国でもっとも低いレベルを維持していますが、今後の人口予測も含めるとどうなるでしょうか。
図5 東京都 人口の推移
今のところは高齢化率が低いとはいえ、やはり今後は、人口全体の減少、特に15歳~64歳という、いわゆる「働き手」の人口が減少していくことが予測されています。またそれと反比例するかのように、65歳以上人口は増えていくと推測されています。
東京都の保健医療計画、その特徴は?
人口動態という側面から見ても、東京都にはいくつかの特徴がありますが、これが保健医療計画に反映されている部分があるのでしょうか。
東京都の第7次保健医療計画の目次をみると、他の都道府県ではあまり見かけたことの無い文字が並んでいます。「フレイル・ロコモティブシンドロームの予防」と「COPD(慢性閉塞性肺疾患)の予防」です。
他の都道府県、例えばお隣の千葉県や神奈川県の第7次保健医療計画の中には、明記されていない項目です。
これらはいずれも、加齢性の変化による病態であり、高齢者が多ければ多いほど、取り組んでいくべき課題であり、数ページずつとはいえ、項目立てて目標値を設定しているところに、
東京都の特徴があるのかもしれません。
ところで、東京都には13の二次医療圏が設定されています。
医療圏は3つの区分で制定することが決められており、おおよそ次のような違いがあります。
- 一次医療圏:入院を必要とはしない疾患や傷病に対応する
- 二次医療圏:入院治療を必要とする疾患や傷病に対応する
- 三次医療圏:高度救急医療を含む特殊な医療を提供する
東京都の場合、一次医療圏は各区市町村、二次医療圏は島しょを含む13の圏域に区分、三次医療圏は都全域としています。
図6 東京都 二次医療圏
また、東京都はどの医療圏でも病床数は他の都道府県と桁違いの規模になっています。
昨年度までは、病床数については既存病床数と基準病床数での比較のみとしていましたが、東京都は特別に第6次保健医療計画と、第7次保健医療計画での違いがわかるよう、2つを並べてみました。
まずは、「区中央部」と「区南部」です。
図7 既存病床数と基準病床数の比較 区中央部、区南部
「区南部」は、第6次、第7次ともに大きな増減はなく、現行よりもやや増床となるようです。
一方の「区中央部」は、13,000床あまりの原稿病床数を、およそ半分以下まで減床したい意向なのかもしれません。しかしこのエリアには複数の大学病院があり、「医療の集積地」とも呼ばれる文京区・本郷を擁しているため、ベッド数を絞ることは容易ではないでしょう。
次に「区西南部」と「区西部」です。
図8 既存病床数と基準病床数の比較 区西南部、区西部
「区西南部」は、既存病床数、基準病床数ともに多めではありますが、大きな増減はみられません。
一方の「区西部」は、第6次までは既存病床数と基準病床数の間に大きな差は見られませんが、第7次では基準病床数を既存病床数が2,000床あまりも超えています。
次は「区西北部」と「区東北部」です。
図9 既存病床数と基準病床数の比較 区西北部、区東北部
「区西北部」は、東京都の中でも既存病床数、基準病床数ともにもっとも多い圏域です。
豊島区、北区、板橋区、練馬区の4つの区で構成されていますが、この4つの区の人口は190万人以上であり、今後も人口増加が見込まれるためか、第7次の医療計画の中でも増床が見込まれている圏域です。
「区東北部」も同様、600床近くの増床が必要と考えられている圏域です。
次は「区東部」と「西多摩」です。
図10 既存病床数と基準病床数の比較 区東部、西多摩
「区東部」は、前述の「区西北部」に続いて人口が多く、墨田区、江東区、江戸川区だけでおよそ146万人が暮らす圏域であり、3つの区とも出生率、合計特殊出生率ともに23区内で上位になるため、今後も人口増加が望めると考えられます。
一方、「西多摩」は東京都内で唯一の山間部を擁する圏域であり、面積は広いのですが人口は少なく、今後はやや人口減少傾向となると予測されます。
次に「南多摩」と「北多摩西」です。
図11 既存病床数と基準病床数の比較 南多摩、北多摩西
この2つの圏域は既存病床数、基準病床数ともに大きな変化はありませんが、「南多摩」では、第7次保健医療計画において800床あまりの増床が検討されています。
次に「北多摩南」と「北多摩北」です。
図12 既存病床数と基準病床数の比較 区西北部、区東北部
グラフ上ではこの2つの圏域も、既存病床数と基準病床数の間に、大きな変化は無さそうです。「北多摩南」では、80床あまり多い状況ではありますが、「北多摩南」では、400床あまり過剰となっていることになります。
東京都の医師確保対策は、少し違う?
東京都の第7次保健医療計画にはもう一つ、特徴的な部分があります。それは「医師確保対策」という項目が無いことです。
もちろん、医師が不足している圏域などはあるのですが、東京都の場合は「保健医療を担う人材の確保と資質の向上」という、他の道府県とは少し違う表現になっています。では、東京都内にはどれ位の医師が勤務しているのでしょうか。
平成28年(2016年)の「医師・歯科医師・薬剤師調査」がありましたので、そちらも追加しています。
平成28年(2016年)現在、日本の医師数はおよそ32万人です。東京都内にはこのうち1割以上の医師が勤務している計算になります。
東京都による医師確保については、次のようなポイントがあります。
- 東京都地域医療医師奨励金
- 医師確保が困難な、小児医療・周産期医療・救急医療・へき地医療に、将来医師として従事する意思がある学生に奨学金を貸与
- 東京医師アカデミーの取組
- 複数の都立病院等の連携による研修等の多角的な取組により、総合診療能力を有する専門医の育成を推進
- 東京都地域医療支援ドクター事業
- 地域医療の支援に意欲を持ち、医師経験5年以上の即戦力となる医師を都職員として採用、多摩・島しょ地域の医師不足が深刻な市町村公立病院等に一定期間派遣し、地域の医療体制の確保を支援
- へき地勤務医師の確保
- 東京都へき地医療対策協議会による派遣計画の策定、自治医科大学卒業医師の育成及び派遣、へき地専門医療確保事業等を実施、へき地勤務医師の安定的な確保を図る
現在のところ、東京都内にいわゆる「無医村」は有りませんが、山間部を有する多摩地方や、遠く離れて点在する島しょ(大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ケ島、小笠原島)の医療を担う医師は、非常に不足している状況のようです。
この圏域の既存病床数は80床ですが、基準病床数が254床となっていますので、今後はより一層、医療機能の充実、医師を始めとする医療者の確保に、力を入れていくのではないでしょうか。
参考資料
東京都 第7次保健医療計画
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/iryo_hoken/kanren/zenbun2/index.html
東京都保健医療計画(平成25年3月改定)の概要
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2013/04/DATA/70n41200.pdf
厚生労働省 平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/index.html
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