佐賀県で働く医師の姿と第7次保健医療計画の影響
■作成日 2018/6/2 ■更新日 2018/6/2
前回から「新保健医療計画にみる都道府県の医療のゆくえ」がスタートしました。
当コラムでは、地域の平成30~35年の6年間で実施される第7次保健医療計画について、各都道府県と政令指定都市の中から1つ選んでお伝えしていきたいと思います。今回は、佐賀県を取り上げてみました。
佐賀県の概況
佐賀県は九州北西部に位置する農業や畜産業が盛んな県です。近年は九州新幹線が開通し、以前よりも交通の便がよくなってきました。東は福岡県、西は長崎県と隣接しており、隣県と相互に協力して医療の確保を行っています。
また、県が人口減少・少子高齢化対策として取り組んでいる結婚、妊娠出産、子育てへの支援を手厚く行う政策が、医療整備の面にも反映されているようです。
佐賀県の人口・出生率・高齢化率について
佐賀県の人口は平成27年10月1日現在で832,832人。平成22年国勢調査の時の人口849,788人に比べると、16,956人の減少となりました。
さらに将来の人口を国立社会保障・人口問題研究所の人口推計(中位推計)で見ても、2025年には774,676人、2035年には713,583人へと減少していくと予測されています。
県内の人口を年齢別に区分して、その推移を表しているのが次のグラフです。
図1 佐賀県 人口の推移
65歳以上の高齢者人口は、全体の27.5%、そのうち、75歳以上の後期高齢者が占める割合は全体の14.4%。一方、15歳未満の年少人口は13.9%と後期高齢者よりも少なく、15~64歳の生産年齢人口は58.0%となっています。
それでは県内の出生率を、全国と比較しながら見ていきましょう。
図2 都道府県別 出生率
人口1000人当たりの出生数を表す出生率を見ると、佐賀県は8.3で全国8位と高い水準にあります。次に合計特殊出生率を見ていきます。
図3 都道府県別 合計特殊出生率
女性一人が一生のうちに産む子供の数を示す合計特殊出生率は、佐賀県では全国よりも高い値で推移しています。平成28年の合計特殊出生率は1.64となり、平成17年に最低を記録した合計特殊出生率1.48からは若干改善している模様です。
さらに、1年間の佐賀県での出生数を見てみましょう。
図4 都道府県別 出生数
平成28年の出生数は、過去最低の6,811人でしたが、総人口は全国43位なのに対し、出生数は39番目となっているのは、出生率、合計特殊出生率が共に他県よりも高い水準にあるためでしょう。
一方、高齢者の振り返ってみると、平均寿命は、平成27年で男性 80.65 歳(全国 80.77 歳)、 女性 87.12 歳(全国 87.01 歳)。男性は全国よりもやや低め、女性はやや高めの値で、全国平均とほぼ同水準で推移しています。
県内の高齢者数は、22万9000人となっています。
図5 各都道府県の高齢者数と高齢化率
平成27年の国勢調査をもとに全国と比較してみると、前述のとおり県人口は全国で少ない方から5番目ですが、高齢者数は全国で少ない方から4番目。高齢化率は全国平均の26.6%をやや上回る27.7%と、その割合が高くなっています。
次に、県民が1年間で使う医療費を他の都道府県と比較してみます。
図6 都道府県別 人口一人当たり国民医療費
佐賀県では、県民1人当たりの医療費は39万2500円で、全国8位。佐賀県は入院・外来共に受療率が高く、特に外来受療率の高さは全国でトップクラス。後で述べる通り、在宅医療への移行が進んでいないことも、医療費が高い要因のひとつであることが考えられます。
佐賀県における医療ネットワークの進捗状況
佐賀県では、画像や検査情報などの患者情報を各医療機関が共有できるシステム「ピカピカリンク」の運用を平成22年11月から開始し、平成27年には地域連携クリティカルパスのシステムを追加して、脳卒中パスのシステム運用を行っています。
平成29年10月末現在で、304カ所の医療施設が参加し、隣接する福岡県地域のネットワークとも相互接続を行っています。佐賀県の調査によると、病院のピカピカリンク加入率は平成29年で62%となっており、平成35年までに100%の加入率を目指しています。
第6次保健医療計画の目標達成と第7次計画の主な目標
第6次保健医療計画についての目標達成状況を見ると、60項目の数値目標を設定したうち、27項目が達成見込みである一方、22項目は達成困難という結果でした。
達成困難だったのは、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の検診・特定健診の受診率、精神疾患の退院率・長期在院患者数、救急医療の二次救急告示医療機関数、災害拠点病院指定要件の充足、医療機関防災マニュアルの策定などです。
5疾病5事業+在宅医療について
佐賀県では、5疾病5事業+在宅医療については、独自の施策体系表を作成して個別施策の効果や進捗を効果指標と検証指標によって把握し、目標の達成に向けた具体的な取り組みを行っています。
がん
佐賀県では、がんによる死亡率が全国平均よりも高い水準にあります。75歳未満年齢調整死亡率(人口10万対)は全国平均に近づいてはいるものの、特に肝がんの死亡率が全国ワースト5に入っています。
ところで佐賀県には、平成25年5月に「九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット)」が整備され、重粒子線がん治療が可能になりました。
現在、国のがんゲノム医療の拠点病院整備などに伴い、佐賀県では、佐賀大学医学部と佐賀医療センター好生館の2施設が、がんゲノム医療連携病院に指定されています。
脳血管疾患
脳血管疾患は、平成28年における佐賀県の死亡原因の第4位(8.5%)、要介護の要因で第1位です。
県内には専門的な外科治療などを行える急性期医療機関のほか、各二次医療圏にも一般的な急性期医療が行える施設が整備されており、ほとんどのケースでDPC病院へのアクセス時間が60分以内です。
また、急性期後の回復期・維持期を支えるリハビリに対応できる医療機関も多く、これらの医療機関の連携を、前掲の「ピカピカリンク」を活用して推進していく方針です。
心筋梗塞等の心血管疾患
県内の高血圧性を除いた心疾患による死亡者数は、平成28年で1,326人。死因の第2位(13.6%)ですが、虚血性心疾患の年齢調整死亡率(人口10万対)は、男女共に全国で最も低くなっています。
県内における救急患者は、狭心症、急性心筋梗塞ともに98%以上が、DPC病院へ60分以内にアクセスできます。
心疾患は再入院率が1年間で約20~40%と高いため、かかりつけ医と急性期医療を担う基幹病院との連携が必要です。
糖尿病
佐賀県では新規人工透析者のうち約40%が、糖尿病によるものです。
糖尿病の専門治療や急性増悪時の治療を行う基幹病院は、各医療圏に1カ所以上、県内に合計8カ所あり、佐賀県医師会が中心となって地域連携パス「佐賀県糖尿病連携手帳」の活用を推進。
また、「佐賀県糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定し、糖尿病の重症化リスクの高い未受診者・治療中断者を治療に結び付ける手順を定めるなど、発症予防と重症化予防、新規人工透析者の減少を目指しています。
精神疾患
これまでは、県全体を1つの精神医療圏としていましたが、第7次計画から二次保健医療圏と同じ中部、東部、北部、西部、南部の5圏域に分けました。県内には精神科病院が18病院、精神科診療所等は23施設、認知症疾患医療センターも4カ所あります。
県内の精神科の入院患者数は、地域移行が進んだため減少傾向にあり、通院患者数が増えました。しかし、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムが不十分のため、体制の整備が必要です。
また、多様な精神疾患に対応できる医療連携や、精神疾患の正しい理解を県民に普及・啓発することも課題となっています。
救急医療
佐賀県では、3次救急を担う救命救急センターが4カ所、2次救急医療機関43カ所ですが、3次救命救急センターへの搬送割合が33.4%(平成27年)で、全国平均(16.4%)のおよそ2倍です。
救急隊は、ほぼすべての救急要請に救急救命士が常時乗車。救急車にタブレット型端末を配備して、救急医療情報システム(99さがネット)を運用しています。
平成26年1月にはドクターヘリの運航も開始。福岡県や長崎県とも共同運航を継続しています。
災害医療
災害医療は県全域を担う基幹災害拠点病院2施設と、地域災害拠点病院6施設を指定し、災害拠点病院の医師など12名に「佐賀県災害医療コーディネーター」を委嘱しています。
原子力災害医療については、佐賀県医療センター好生館と唐津赤十字病院を原子力災害拠点病院として指定するほか、高度な被ばく治療を行う長崎・千葉の病院と連携体制を取っています。
重要施策として、研修会を実施し地域災害医療コーディネーターの育成・確保・災害拠点病院におけるBCPの策定促進を進めています。
周産期医療
周産期医療では、全国と比較して病院よりも診療所での分娩が多いのが佐賀県の特徴です。
分娩可能な診療所数は、平成20年には23カ所でしたが、平成26年は19カ所に減少。県内には高度な周産期医療を担う病院が3施設ありますが、すべて中部医療圏に集中し、他の医療圏には地域周産期母子医療センターがありません。
重要施策としては、他の医療圏への地域周産期母子医療センター設置、正常分娩の医療提供体制の確保、高度な医療提供体制の充実を掲げています。
そのため、修学資金を活用した産科医確保、NICUの整備支援などによって、周産期母子医療センターの高度な医療提供体制を充実させることに取り組むとしています。
小児医療
県内では小児救急医療について、中部+東部医療圏、北部+西部医療圏、南部医療圏の3つの小児医療圏を設定しています。
新生児~小児の死亡率は、おおむね全国平均より良い状況となっています。小児科医師数は平成22~26年まで横ばいでしたが、平成28年には増加し、124人となりました。
課題としては、初期救急が地域ごとに対応時間のばらつきなどがあり、初期小児救急の体制見直しが必要です。また、高度かつ専門的な小児医療を担う県内唯一の小児外科は、佐賀県医療センター好生館にあります。
平成30年現在の段階で、佐賀大学医学部附属病院への小児外科設置を検討中です。
へき地医療
佐賀県には無医地区がなく、準無医地区は唐津市向島の1カ所のみ。へき地診療所は、離島などに計9カ所設置されています。
へき地の医療従事者への指導や、研修、遠隔診療などの診療支援が必要ですが、県内にはへき地医療拠点病院がないため、唐津赤十字病院の指定を検討する方向です。
重要施策として、唐津市の離島における保健指導、自治医大卒医師の派遣などによる医師確保、ドクターヘリの活用などによる高度医療の提供などが挙げられています。
在宅医療
訪問診療の利用者数は、二次医療圏や市町ごとの地域差があり、訪問診療の実施件数は東部、特に鳥栖市が群を抜いて多くなっています。
県内の在宅医療はある程度確保できており、人口10万人当たりの訪問診療を実施している医療機関数は、すべての二次医療圏で全国平均を上回り、人口10万人あたりの在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院の届出数も全国平均を上回っています。
平成29年9月に実施した県の独自調査によると、自宅への訪問が少なく、施設等への訪問が多いのが特徴で、現場レベルで医療と介護の連携も始まっています。
今後の在宅医療の需要は、平成35年には6,713人(2013年からで38.5%増)、特に東部では83.0%の増加が見込まれており、これに対応する在宅医療の整備が課題となっています。
平成30年度ガイドラインが改訂された看取りについて見ると、佐賀県は病院での看取り率が80.9%(全国4位)と高く、在宅での看取りが少なくなっています。
下のグラフは在宅・介護老人保健施設・老人ホームを合計した病院外での死亡率の推移ですが、佐賀県は病院外での死亡が全国平均よりも低いことが見て取れます。自宅や介護施設など、患者が望む場所で最期をむかえられる体制の構築が課題となっています。
図7 佐賀県 病院外での死亡率の推移
二次医療圏について
佐賀県の二次医療圏は、第6次計画の時と変わらず5医療圏に分かれています。
図8 佐賀県 二次医療圏
年齢別人口の推移を医療圏ごとに見てみると、中部・東部医療圏と北部・西部・南部医療圏で、その傾向が異なっています。
北部、西部、南部の各医療圏の65歳以上人口は、平成37年をピークに減少する一方、中部・東部医療圏では平成52年まで横ばい~微増傾向。
また、75歳以上人口はどの医療圏も平成47年にピークを迎え、その後は北部、西部、南部医療圏は減少、中部・東部医療圏は横ばいとなっています。
佐賀県の病床数
次に、佐賀県の病床数の推移を見てみましょう。
佐賀県の病院病床数は14,990床で、人口10万人当たり1,810.4床です。これは、全国平均の1,229.8床を大きく上回り、全国第7位となっています。
病床種別ごとの人口10万人当たりの病床数で見ると、特に療養病床は522.0床で全国(258.5床)の倍以上、精神病床も510.0床で全国(263.3床)の倍近くと、かなり多くなっています。
図9 佐賀県 病床数の推移
厚生労働省病院報告によると、平成28年1年間の病床利用率は、全ての病床種別において全国平均を上回っています。平成27年1年間の病院の平均在院日数では、療養病床を除いて全国平均より長く、二次医療圏別に見ると、東部が特に長くなっています。
次は第7次計画の基準病床数と既存病床数を、二次医療圏ごとに見ていきましょう。
図10 佐賀県の既存病床数と基準病床数
大学病院や3次救急、母子周産期医療センターなどの集中する中部医療圏は、特に病床数が多くなっています。
佐賀県内の新病院建設や再編の現状
今後、高度急性期・急性期のさらなる充実を目指す佐賀県では、特定機能病院である佐賀大学医学部附属病院が46床から140床へ、地域医療支援病院である佐賀県医療センター好生館は38床から77床へと、高度急性期の増床を予定しています。
また、同じ中部医療圏にある小城市民病院と多久市立病院は、佐賀県内で進んでいる新公立病院改革プランの中で、統合に向けて協議を進めています。
佐賀県で働く医師の現状
医療体制がよく整っており、へき地医療も無医地区のない状況に整備されている佐賀県。働く医師の現状は、どのようになっているでしょうか。
図11 佐賀県 医師数の推移
県内の医療施設に勤務している医師数は、平成28年で2,292人です。
人口10万人当たりの人数で見ると、県全体では全国平均を上回っています。しかし二次医療圏ごとに見ると、中部が全国平均を大きく上回る一方で、北部・南部は全国平均とほぼ同程度、東部・西部は全国平均を大きく下回る状況です。
医師総数で見ても、下図のとおり、医師の約6割が中部医療圏に集中し、佐賀市以外の地域では医療人材の確保が難しいといった地域偏在の問題を抱えています。
図12 佐賀県 二次医療圏ごとの医師数
主な診療科目別にみると、今後医療需要の増加が見込まれる循環器内科・心臓血管外科・脳神経外科・整形外科については一定数を確保していますが、やはり地域ごと、診療科ごとにばらつきがあります。
図13 佐賀県 診療科別医師数と10万対医師数
小児医療の分野では、小児科は全国平均以上、小児外科も全国並みの医師数は確保できていますが、十分な医療体制を維持するには、さらに一般小児医療・高度な小児医療を担う医師の確保が重要となっています。
現段階では医師修学資金を貸与する不足診療科として、産科、小児科、救急科、麻酔科が対象となっていますが、将来の医療需要に照らして妥当かどうかは、今後検討が必要とされています。
さらに県内で従事する医師の養成・確保・定着が必要であり、修学時や研修時等の各段階において、新専門医制度や医師の働き方改革などによる制度変更への対応が必要となっています。
佐賀県の医師確保策
こうした状況を踏まえて、佐賀県では医師確保に向けた今後の目標として、医師修学資金貸与者の就業者数、自治医大卒医師義務年限内従事者数、医師臨床研修マッチング数などの調整や、医師偏在指標を踏まえた、医師少数区域/医師多数区域の設定、医師の確保数や不足診療科の特定などを行う方針です。
さらに
- 医師修学資金の見直しによる将来不足が見込まれる診療科の医師確保
- 自治医科大学卒業医師および地域枠医師を、キャリア形成支援と共に活用
- 県内の臨床研修病院のマッチング率向上に向けて研修内容を充実
- 県基幹病院による合同臨床研修プログラムの見直し
などの取り組みによって、医師の確保を進めていく予定です。
まとめ
早い時期から医療体制の整備を推し進めており、医師数も全国平均より多くなっている佐賀県。医療は他県に比べておおむね整っているようですが、救急医療や糖尿病対策、小児医療などについては、さらに充実させたい方向にあります。
佐賀県への転職を考える場合、今後は高度な救急医療を担う医師のほか、糖尿病専門医、小児科医、さらに在宅医療を支える医師のニーズがあるようです。
参考資料
佐賀県第7次保健医療計画
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00361067/index.html
佐賀県ホームページ
https://www.pref.saga.lg.jp/
総務省 平成27年国勢調査
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.html
厚生労働省 平成28年医師・歯科医師・薬剤師調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/33-20.html
内閣府 平成29年高齢社会白書
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/index.html
厚生労働省 人口動態統計
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei16/index.html
厚生労働省 平成27年国民医療費
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/15/index.html
平成29年度第1回佐賀県医療審議会地域医療対策部会資料1「第6次佐賀県保健医療計画の評価について」
http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00356880/3_56880_60253_up_1w4z0gp1.pdf
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート