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転職市場で「人気」となる医師人材とは?

■ 記事作成日 2017/2/28 ■ 最終更新日 2017/12/6

日本では現在、“経済財政改革2008”により医学部増員が図られ、全国の医師数は着実に増えています。推計では、平成36年ころに医師の需要と供給は均衡するといわれています。

 

医師全体の人数が増えてくると、世の中の情勢などにより“本当に必要とされる医師”像も、以前とは大きく変わってくることになるでしょう。今回は、現代の“本当に必要とされる医師”の姿について考えていきます。

 

実は増えている医師数

 

国が平成9年に医学部の定員を削減して以降、毎年新たに医師になる人数は減っていました。しかしその後、全国での医師不足が社会問題化し、平成20年から今度は「医学部の定員を増員しよう」となりました。それ以降、医師数は着実に増えています。人口10万対でみると、平成24年の時点で244.9人(全国平均)、20年前と比較するとおよそ1.3倍に増加しています。

 

都道府県ごとの医師数の状況は、医療施設に従事する医師数が多い都道府県(人口10万人対)が京都府(307.9人)、東京都(304.5人)、徳島県(303.3人)となります。一方で、埼玉県(152.8人)、茨城県(169.6人)、千葉県(182.9人)では全国平均よりも少なくなっています。

 

実は、47都道府県中22都道府県で、医師数が全国平均を上回っている、という現状があります。これだけを見ると、日本の約半分の都道府県で医師数が充足し始めているのではないか、と考えてしまうかもしれません。しかし、必ずしも「全国平均=必要医師数」ではありませんし、医師の絶対数と地域較差の問題もありますので、決して医師が足りているわけでは無いのです。

 

現在、各都道府県では、

 

  • 特定の地域や診療科での勤務を条件に“地域枠”を活用した医学部入学定員の増員
  • 地域医療支援センターを設立して地域における医師の偏在解消を図る

 

など、それぞれの地域独自の医師確保対策を進めています。今後は、医師の絶対数を増やすだけではなく、地域較差の是正に向けた対策が、強化されていくことになります。

 

今後、必要とされる医師は何科の医師?

 

医師数が着実に増えていく中で、今後必要とされる医師はどの診療科の医師となるのでしょうか。ここでは、2010年と2015年に行われた“必要医師数実態調査”の結果を比較してみます。

 

2010年の調査結果をみると、全国的に必要医師数が多い診療科は、リハビリテーション科、救急科、産科となっています。5年後の2015年に行われた同様の調査では、リハビリテーション科、アレルギー科、救急科でした(図1)。

 

図1 必要医師数倍率と必要求人医師数倍率の推移

 

ところで、団塊の世代が75歳以上となる2025年以降、医療や介護への需要はさらに増加するにも関わらず、医療者全体で人手不足となる可能性があります。

 

その対策として国が打ち出した“地域包括ケアシステム”では、急性期病棟の入院期間の短縮化、在宅復帰率の向上を示唆しています。このことからも、残存機能を生かした在宅復帰に向け、リハビリテーション科は、さらに医師の需要が高くなると予測できます。

 

それを裏付けるように、2004年から2014年の10年間で、回復期リハビリテーション科の病床数はおよそ2.5倍以上に増加しています。

 

一方で、リハビリテーション科の専門医がカバーする領域は、保健・医療・福祉分野と幅広く、その専門性と役割が他科と比べて極めて広いという特殊性があることから、従事する医師数が少なく、なかなか増えてこない、という課題もあるようです。

 

また、2010年に必要医師数の倍率として上位に挙がっていた産科は、2015年にはやや順位を下げています。

 

その背景としては、女性医師数が増加し、産科を希望する医師増えていることが影響していると考えられています。しかし産科は“非常勤勤務が難しい”科ともいわれていますので、いずれはこのバランスも変わってくるかもしれません。

 

さらに超高齢化社会という現実に絡み、内科、整形外科などの“高齢者の受診率が高い診療科”も必要医師数は多くなってはいますが、専門としている医師数が比較的多いことからか、求人倍率としてはほぼ平均値となっているようです。

 

5年間で“必要とされる医師”はどう変わったか

 

2010年と2015年の必要医師数を比較すると、大きな違いが見られたのは、5年前には平均以下であった“アレルギー科”が増えていることが挙げられます(図1)。

 

この背景には、アトピーや花粉症などのアレルギー疾患が若年層にも見られることや、患者数が全体的に増加傾向にあることなどから、老若男女問わずに診療の対象となっていることなどが考えられます。また、美容外科も、2010年から2015年の間に必要求人医師数が急に増えています。

 

これは、

 

  • 美容外科は診療行為が自費診療となり高額な診療報酬が得られること
  • 必ずしも入院施設を必要としないため夜勤が必須ではないこと

 

などの理由から、ライフワークバランスの維持につながるため、医師による開業が増えていることが大きな理由となっていると考えられます。

 

一方で、必要医師倍率が高いにも関わらず、“必要求人医師倍率”が低くなるのは、産科、アレルギー科、肛門外科科などです(図2)。

 

図2 必要医師数倍率と、必要求人医師数倍率との比較(2015年調査結果より作図)

 

これらの診療科に対する求人理由としては、現職医師の負担軽減や退職医師の補充が挙げられますが、実際には

 

  • 求人を出しても確保が見込めない
  • (足りないことは分かっていても)具体的な求人計画は今後検討する

 

などの理由から、必要人数を確保できるだけの“求人”がなされていないのが現実のようです。つまり、これらの診療科の医師が転職しようと考えた場合は「医師数としては必要とされているが有効な求人が出てない」可能性も、考慮しておく必要がありそうです。

 

まとめ

 

日本の状況だけに限ってみれば、時代によって求められている医師は、社会情勢や日本の経済的な情勢などにより、変化していることが分かります。

 

医師全体の人数が増加するのは良いことですし、地域独自の医師確保対策がなされてはいますが、現実的な課題として、地域や診療科による“医師数の偏在”は、ますます拡大していくのかもしれません。

 

医師として働き続けることにどのような“意義”を見い出すのか。本当の意味で“成功する転職”をするためには、自らが必要な情報を集め、現在の自分の立ち位置や“目指す医師像”と比較するなど、自らが行動を起こすことが、鍵となってくるのではないでしょうか。

 

 

【参考資料】

 

文部科学省 高等教育局 医学教育課:これまでの医学部入学定員増等の取組について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2011/01/18/1300372_1.pdf

 

厚生労働省:高齢期を支える医療・介護制度
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/1-03.pdf

 

厚生労働省 地域ケアシステム
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/

 

厚生労働省;個別事項 
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000105860.pdf

 

厚生労働省H26年 受療率 
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf

 

公益社団法人日本リハビリテーション医学会 
http://www.jarm.or.jp/member/member_specialists/member_specialists_supply-demand.html

 

日本医師会 病院における必要医師数調査結果 
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP346.pdf

 

厚生労働省 外来医療 
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000081548.pdf

 

厚生労働省:病院等における必要医師数実態調査の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ssez-img/2r9852000000ssgg.pdf

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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