一般病院での医師の働き方とは
■作成日 2017/3/4 ■更新日 2017/12/6
当コラムでは以前、一般病院への転職について、医師の視点からの考察をご紹介してきました。今回はその中でも、働き方を“常勤”と位置づけ、常勤で働く上で何を見てどう考えていくと良いのかについて、考えてみたいと思います。
まずは、一般病院での医師の働き方について見ていきます。
厚生労働省が行った平成22年度の調査データによると、医師の働き方は一般的に正規雇用(常勤)、短時間正規雇用、非常勤の3つに分類されることとなり、現職医師167,063人中、正規雇用で働いている医師数が132,937人、短時間正規雇用で働いている医師数が3,532人、非常勤で働いている医師数が30,594人となります。
ここで、1つの疑問が浮かびます。それは、医師転職会社などを利用すると「医師の派遣」という言葉が出てきますが、派遣の医師は存在しているのかどうか、ということです。
日本では、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(通称「労働者派遣法」)及びその施行令等により、労働派遣ができない業種が定められていますが、実はその中に、医師という職業も含まれているのです。
この法律によると、病院等における医療関係の派遣業務は、いかなる場合にも禁止されています。
しかし例外があり、紹介予定派遣をする場合、当該業務が産前産後休業・育児休業・介護休業を取得した労働者の業務である場合、医師の業務であって当該業務に従事する派遣労働者の就業の場所がへき地・ 地域における医療の確保という目的である場合は、医師にも派遣労働者として従事させる必要があるとされ、厚生労働省令で定める場所のいずれかに該当する場合は、医師でも派遣業務が可能となります。
つまり、転職会社などで医師の派遣と称されるのは、職業紹介をしているということになり、便宜上の分かりやすい言葉として、派遣という言葉を使っているケースが多いようです。もし、医師転職紹介会社を利用する場合は、この点はしっかりと確認してください。
“多忙”な診療科はどこか
次に、転職を考えている医師が気になる項目として挙がるのは、どの診療科が多忙であるかということではないでしょうか。
平成26年に日本医師会が行った調査データから、診療科別にみた医療施設に従事する医師数を見ると、従事している医師数が多い診療科は内科、整形外科、小児科の順となります。
逆に従事している医師数が少ない診療科は気管食道外科、アレルギー科、産科であり、1番多い内科と1番少ない気管食道外科の医師数の差は、およそ61,000人以上の開きがあります。
次に、日本病院会などが行った「平成 27 年 病院運営実態分析調査」によると、医師1人が1日当たりに診療を行う入院患者数は、患者数が多い順に、精神科(15.5人)、リハビリ科(13.9人)、整形外科(7.8人)となります。
また、医師1人が1日当たりに診療を行う外来患者数は、皮膚科(1.77人)、眼科(16.4人)、肛門外科(14.5人)でした。
このことから考えると、やはり1人当たりが診る入院患者数が多い精神科、リハビリ科、整形外科は、多忙な診療科といえるかもしれません。それに加えて気管食道外科、アレルギー科なども医師の絶対数が少ないことから、少ない人数で業務をこなさなければならず、やはり多忙な診療科となると考えられます。
さらに、少し古いデータではありますが、診療科ごとの業務時間で見てみると、直近1週間で業務時間が長かった順に、救急科(74.4時間)、外科(65.0時間)、脳神経外科および産科・産婦人科(63.9時間)でした。
外科系の医師のように、病棟や外来での業務以外にも手術などの業務がある診療科や、24時間対応が必要となる産科などのいつ何が起こるかわからない診療科は、やはり多忙を極める傾向があるようです。
常勤医の業務負担と改善策
では、これだけ過酷な勤務を強いられる常勤医には、業務負担を軽減できる具体的な策はあるのでしょうか。
厚生労働省の資料によると、医師の業務の一部を全く違う立場のメディカルスタッフに移譲するというものがあります。「医師事務作業補助者」と呼ばれますが、あくまでも医師に指示のもとに、以下の作業を行うことが出来るとされています。
- 診断書などの文書作成補助
- 診療記録への代行入力
- 医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、医師の教育や臨床研修のカンファレンスのための準備作業等)
- 行政上の業務(救急医療情報システムへの入力、感染症サーベイランス事業に係る入力等)
仮に、病院内でこういった役職の人材を確保し、業務を遂行した場合、医師15人に対して1人の場合は860点、医師30人に1人の場合は435点など、診療報酬上の加算ができることになっています。
色々と細かい取り決めはあるのですが、この制度がスタートして以降、医師事務作業補助体制加算の届出は、特に40対1以上で増加傾向にあります。
この加算ができる体制と医師の負担軽減との関係ですが、「効果があった」、「どちらかといえば効果があった」と回答した施設が、9割を超えていたようです。この他にも、「病棟薬剤業務実施加算」や「栄養サポートチーム加算」など、医師の業務軽減につながるような体制を整えた上であれば、いくつかの加算ができるようになっています。
しかし、やはり一番の問題は、医師の確保対策ではないでしょうか。
「勤務医の負担の現状と負担軽減のための取組みに係る調査の概要」を見てみると、常勤医師の業務負担を軽減するための改善策として病院側が取り組んでいる対策はいくつかあり、中でも「診療科で取り組んでいる勤務医負担軽減策の効果」としては、常勤医師の増員による成果があったと、8割以上の医師責任者が回答しています。
さらに、医師の負担に思う業務として診療以外の業務挙げられていることから、医局に事務スタッフを多く雇い、医師の本来業務以外の業務負担の軽減などを行っています。その結果としてここ数年、医師の転職市場は、かつてない賑わいを見せているのかもしれません。
大学病院か、市中病院(一般病院)か
では、医師の働く環境として、大学病院、一般病院(市中病院)を比べると、どちらがより良い環境にあるといえるのでしょうか。
近年、大学医学部の医療機能が低下しており、平成14年から平成22年までの7年間で、大学病院で臨床研修を受ける人の割合は、約25%も低下しているというデータがあります。しかし、医学部を卒業した臨床研修医の数そのものは増えているわけですから、より多くの研修医が、結果的には一般病院での臨床研修を受けていることになります。
かつてのような「医局に属するのが当たり前」という風潮では、無くなってきているということです。それぞれの特徴を考えてみましょう。
一般病院でも、規模やその病院に課せられている使命によっては、医師の業務はどんどん細分化されますし、必ずしもこの通りではないかもしれません。しかし、医師数がそれなりに確保できており、研修や研究といった診療以外の業務が少ない一般病院であれば、常勤医として働きやすい環境が整っているところが増えているようです。
地方へいけばいくほど、医師の確保対策は、その地域の医療を支える重要な骨組みとして捉えられています。また地域によっては、大学病院の立場が強い地域、一般病院が中核医療を担う地域、それぞれの特色があるようです。
まとめ
医師の働く場所として、大学病院が良いか一般病院が良いか、それぞれの価値観にもよりますので、一概に「どちらが良いか」を結論付けることは出来ません。教育重視なのか実践重視なのか、スペシャリスト志向なのかジェネラリスト志向なのか。研修医であれば、いずれの立場も選びやすいかもしれません。
しかし、医師になって数年後の転職先として考えるのであれば、医師人生の途中から若い研修医と肩を並べるよりも、自分が培ってきたスキルを武器にし、一般病院で活躍することも可能なのではないでしょうか。
【参考資料】
厚生労働省 病院等における必要医師数実態調査の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ssez-img/2r9852000000ssgg.pdf
厚生労働省 労働者派遣事業を行うことができない業務は
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai06/dl/manual_03.pdf
平成26年(2014) 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
一般社団法人日本病院会 平成 27 年 病院運営実態分析調査の概要
https://www.hospital.or.jp/pdf/06_20160317_01.pdf
社会保障審議会医療部会(11/11)資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000w95c-att/2r9852000000w9ok.pdf
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