医療現場からの医工連携、自分と他者のニーズギャップ
■ 記事作成日 2018/1/10 ■ 最終更新日 2018/1/10
元看護師のライター、紅花子です。
医療とものづくり+ITを絡めたこのコラム。8回目の今回は、とある医療機器を開発した経験のある医師のお話しです。そのきっかけや、実際の開発について伺ってみました。
すでにある技術を新しい視点でとらえたA医師
A医師は、50代半ばのベテラン医師。A医師は外科系の医師ですが、まだ新人~中堅くらいの頃から、「この手術器械、もうちょっとココがこうなると使いやすいのに」という思いを実現させてきた医師です。
過去にもいくつかの手術器械の改良に携わってこられたそうですが、今回はこれまでとは全く違う方法で、新たなモノを生み出すことにつなげてきたようです。
A医師の発想は、一言でいえば「有るようで、無かったもの」です。
まったく新しい何かを作り出すのではなく、医療とは違う分野で発展してきたもの、それらをいくつか組み合わせて「有るようで、無かったもの」を生み出すことに成功しています。
そこで必要だったのが「工」の部分。前述の通り「医療とは違う分野で発展してきた」のは、IT分野でした。
それは、今現在IT分野で活躍している人たちからすれば、決して新しいものではなく、単に「普段の生活をほんの少し、楽しく便利にするもの」というレベルのもの。
そういった「知ってる人は誰でも知ってるアノ技術」を、これまでとは違う視点で眺めてみると、全く新しい使い方が見えてくるという、典型的な例かもしれません。
まったく新しい発想で、新たな技術の開発に臨んだB医師
もう一人の医工連携の立役者であるB医師は、まだ40代前半。ご本人も「元々、工学系も好きだった」と仰るように、常に色々な方面にアンテナを張り巡らせている、内科系の医師です。
B医師は、日常的に診療を行いながら、ある時「これがあれば、もっと検査や治療がやりやすくなるし、患者さんの苦痛も減るのではないか」ということを思いつきました。
その後B医師は、日常診療の傍らで、工学系の方々とともに、夢の実現に向けて様々な試行錯誤をくり返します。
やがて、とある展示会で、まさにB医師が求めていた「新しい技術」を持った企業と知り合いました。
そこからすぐに、全く新しい医療機器開発に向けて、動き始めたのだそうです。
そこから数年の時を経て、ようやく試作品が完成。さらに数年間かけて改良を重ね、新しい医療機器を世に送り出すことに成功しました。
医と工、どちらの発想が生きているか
今回ピックアップさせて頂いた例は、いずれも「医の発想」から誕生した医療機器です。しかし、これを実現するためには「工」の発想や技術が必要不可欠でした。
では、二人の医師は、どこで「工」の技術と知り合ったのでしょうか。
A医師は、「すでにある技術が使えないか」という発想から、インターネットで調べることをメインに、情報収集をされたのだそうです。
今や、インターネット上には、「誰かが知りたい情報」が溢れています。こういったところから、「医」とは違う発想で発展してきた技術に、めぐり合うことがあります。
一方のB医師は、「工」と知り合うきっかけが、展示会でした。さまざまな技術が一堂に介す展示会、これは年間を通じて、数多くのものが開催されています。
全ての展示会を見て回ることは無謀だと思いますが、ここ数年は「保健医療福祉分野に向けた技術の展示会」という主旨のものも多く開催されています。
こういった展示会等で技術展示を観ることで、何かしらのヒントが見いだせるのかもしれません。
まとめ - 医師には無い発想?「知的財産権」の守り方
もし、医師が医療機器開発等に関わることになったら、常に意識しておきたいのが「知的財産権を守る」という考え方です。
知的財産権には、いくつかの権利があります。今回は、その一部をピックアップします。
新しいものを作り出す時には、医療分野、IT分野等に関わらず、「この発想は誰のものか」を守っていく必要があります。もちろん、そうしなくても新しい医療機器は開発できるのですが、せっかくならば「これは自分が開発した」と名乗りたいですよね。
しかし、知的財産権の発想が無いままで、例えば医療機器メーカーに機器の改良をお願いしてしまうと、自分の発想で開発された機器に関わらず、まったくの第三者に改修されてしまったり、本来の価格よりも安価な価格で流通してしまうことがあります。
もしも最初から知的財産権を守るよう働きかけていれば、いずれ商品となって世の中に流通したときに、ちょっとしたロイヤリティが入ってくることがあるのです。中でも特に「特許」を取得しておけば、特許権に関する収入を得ることもできます。
なぜなら特許権は「客観的内容を同じくするものに対して排他的に支配できる【絶対的独占権】」とみなされるためです。
こうした手順を踏まなかった場合、仮に新しい手術器械を思いつき、医療機器メーカーが開発した後、いつの間にかその医療機器メーカーのカタログに掲載されているかもしれません。すると、自分自身は何の権利も主張できなくなってしまうのです。
そうならないために、「これを思いついたのは自分だ!」ということを主張できるよう、どこかのタイミングで必ず「権利」を取得しておくことを、お勧めします。
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医療機器を生み出すHUB(ハブ)となれる人材を探そう =連載コラム「医工連携時代」|医師紹介会社研究所
参考資料
HOSPEX Japan 2017
http://www.jma.or.jp/hospex/
経済産業省特許庁 知的財産権について
http://www.jpo.go.jp/seido/s_gaiyou/chizai02.htm
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