「何をつくりたいか」によって、医療機器開発までの道のりは異なる
■ 記事作成日 2018/1/25 ■ 最終更新日 2018/1/25
元看護師のライター、紅花子です。
医療とものづくり+ITを絡めたこのコラム。9回目の今回は、医療機器としての開発の進めやすさについて考えてみます。
医療機器の「レベル」を再確認
「医療機器」には「レベル」があります。「クラス」という呼ばれ方ですが、患者さんへの侵襲度に応じて、Ⅰ~Ⅳまでのレベルに分けられていることは、皆さんもご承知の通りです。
ひとまず、これを振り返ってみましょう。
前回の当コラムでお伝えした医療機器の一つは、クラスⅢ~Ⅳに該当します。
ここまでくると、アイデアを形にしようとした段階、コンソーシアムを組むタイミングで、医療機器メーカーと共同開発などの形をとらないと、実際の開発は難しいですし、商品化に至るまでには、非常に大きな壁をいくつも超えていく必要があります。
一方で、前回の当コラムでお伝えしたもう一つの医療機器はどうでしょうか。
これは、医師が身に着けて使用する医療機器ではあります。
しかし、直接、患者さんに何かの影響を与えることは少ないと考えられますので、クラスⅠ、あるいは上記の表には無い「クラス0(ゼロ)」になるでしょう。
それならば、アイデアがある程度形になった段階で商品化に向けて医療機器メーカーを巻き込む、という方法でも良い場合があります。
つまり、開発しようとしている医療機器が、患者さんにとって「どれだけ侵襲的な機器なのか」によって、スタートの仕方が変わり、開発の進みやすさも変わってくると考えた方が良いでしょう。
電子的なものか、手術の道具か
それからもう一つ、「何で出来ているか」という部分でも、開発の進めやすさが変わってきます。
ここでは「電子的な仕組みをもつ医療機器」と、「手術器械などの金属加工がメインの医療機器」で比較してみます。
例えば、「電子的な仕組みを持つ医療機器」の場合、その仕組みを開発し、カスタマイズが可能な企業を探す必要があります。
センサー技術、基盤の開発、画像認証技術、モーターの製造など、1つの企業では対応しきれない技術がたくさんあります。
これらをどう組み合わせて形にしていくのか、まずはそこから考え出さないと難しいことが、多々あるのです。
一方、「手術器械などの金属加工がメインの医療機器」の場合、いくつかの加工方法を組み合わせる必要はありますが、金属加工はある程度どこの地域でも浸透している技術です。
もちろん、加工の大変さはありますし、「限りなく真球に近い球」などは、日本でも数社ほどしかその技術を持っていませんが、「今ある鋼製小物を少し改良する」という方法であれば、加工可能な企業は見つけやすいかもしれません。
あるいは「手術中に使用するが、患者さんには直接触れない」機器、例えば「開創器を固定するための治具」のようなものであれば、手術で使用するものではありますが、クラスで言えばⅠか0(ゼロ)です。
これならば、それまでに医療機器分野での実績が無い金属加工業社でも、比較的取組みやすい加工であるといえます。
また最近では、「金属の鋼製小物を樹脂化する」という動きもあります。
このくらいになると、すでにいくつかの実績を持つ「樹脂加工業」である企業が増えてきていますので、協力企業は比較的見つけやすいかもしれません。
いくつかの加工分野の中で、代表的な基盤技術の例を挙げてみます。
開発が進みやすいのは?
「開発」と一言で言っても、全くの「新規開発」である場合と、すでにある医療機器をカスタマイズする「開発」とでは、その後の商品化までの道のりは、大きく変わってきます。
すでにある鋼製小物を「カスタマイズ」したいとき
カスタマイズする方向性によって多少の違いはありますが、少し形を変える、あるいは先端の加工方法を変える、という方法ならば、比較的開発は進みやすいかもしれません。
ただし、医療用の剪刀など「刃物」は別です。特にマイクロサージャリ―で使用するような剪刀は、製造できる企業が限られています。
新たな鋼製小物を開発したいとき
全く新しい用途や形状の鋼製小物を開発する場合は、実際にどのような加工方法が適しているのかを検討する必要があります。
この場合は、地域の「医療機器開発コーディネーター」に相談する、あるいは「自分のニーズはコレだ」ということを何らかの形で公表すると、手を挙げてくれる企業が見つけやすいかもしれません。
もしかすると、今まで思いつかなかった方法で、提案がなされる可能性があります。
電子的機構のある医療機器を開発したいとき
この場合は、「動作のトリガーは何か」「何をどう動かすか」あるいは「何をデータ化したいのか」「集めたデータをどのように“見える化”するか」など、「何をしたいのか」を明確にする必要があります。
それにより、必要な(基盤となる)技術が変わりますし、使用する部材(部品)も変わってきます。
実際の仕組み(機構)については、工学的な知識が必要ですので、最初からその道の専門家を交えて検討していくと近道かもしれません。
まとめ - 共同開発パートナーの獲得を模索する
材質の違い、用途の違い、仕組み(機構)の違いにより、「新しい医療機器の開発」は、実現までの道のりが全く違います。
しかし「医師の思いをカタチにする」ことは、決してムダにはなりません。
それが「商品化」されて世の中に広く受け入れられるかはまた別の話ではありますが、少なくとも「患者さんにとって利益となる機器」ならば、協力してくれる医療者や開発企業を見つけることは、それほど困難なことではなくなってきています。
最近では、自治体が「ニーズとシーズのマッチングサイト」などが運営されている地域が増えてきました。
こういった仕組みを利用することも、「共同開発をしてくれる企業」を探す手段の一つになるでしょう。
ほんの小さな閃きが、数年後に医療者や患者さんのメリットになって返ってくるならば、素晴らしいことではないでしょうか。
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参考資料
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療機器の承認・認証に関する基本的考え方について
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0013.html
中小企業庁 特定ものづくり基盤技術「二.精密加工技術」
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2014/download/shishin/i02.pdf
東京都HUB機構 シーズを見る
https://ikou-hub.tokyo/seeds/seeds_list/
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