ドクターXの影響でフリーランス医師は爆増中
画像引用:https://www.tv-asahi.co.jp/doctor-x/
■作成日 2020/12/10 ■更新日 2020/12/20
「私、失敗しないので」のセリフで大ヒットとなった、米倉涼子さん主演の医療ドラマ「ドクターX 外科医・大門未知子」。毎回20%を超えるような視聴率を記録したこのドラマのおかげで、「フリーランスの医師」という職業に注目が集まりました。
ドクターXが始まる前は「医師のフリーランスなんているの?ブラックジャックみたいな漫画の中だけでしょ?」といった半信半疑の声が非常に多かったのですが、放送開始の2012年以降、このドラマをきっかけに新たにフリーランス医師になった先生は数多く、まさにフリーランス医師は爆増中という状況です。
ついに年収5000万円フリーランス医師も登場
画像引用:https://president.jp/articles/-/30310
私も以前よりフリーランス医師が勤務医より高給取りであるということは様々な情報元から聞かされておりましたが、上記の記事によるとついに年収5000万円を超える産婦人科のフリーランス医師も登場しているとのこと。
フリーランス医師といえば麻酔科医が中心でしたが、最近は診療科の枠を超えて様々な方がフリー宣言をされていることをひしひしと感じます。
そこで今回は、フリーランス医師および、その対局といえる常勤勤務医師を相対比較して、同じ働くならばどちらが得なのか、損なのかを客観考察してみます。
※尚、フリーランス医師には、同一職場での週2、3日の固定勤務日が決まっている「定期非常勤」と完全に職場や勤務時間がバラバラな「スポット(単発業務)」の2種類を使い分けたり併用したりしている人が多いです。今回は「スポット中心」で働いている医師を比較対象とします。
今回は
- 働き方と勤務ルーティーン – ブラック職場はどっち?
- 具体的な給与条件 – どちらが高給とり?
- 福利厚生とその手厚さ - 万が一のときに安全なのは?
- 将来性とリスクの予測 - 近い将来に起こる事態
この4点に絞ってお話していきますので、是非最後までご覧ください。
※この記事は動画でもご覧になれます
フリーランス医師と常勤勤務医比較1 働き方と勤務ルーティーン
まず職場の数が違います。フリーランス医師はフルタイム勤務ではないので、それぞれ「何時~何時まで」と時間を区切った複数の職場を掛け持ちするのが普通です。一般的なイメージは単発仕事中心のフリーアルバイターと同じです。
定期非常勤という業務で週数日だけ同じ勤務先で働く方法もありますが、スポット(単発仕事)で完全にすべてのスケジュールを埋めて、今日はこの病院、明日はあの病院と動き回っている方も多いです。フリーランス医師にも残業や当直はありますが、常勤勤務医と比較するとほぼ0に近いです。
一方、常勤勤務医のイメージは「サラリーマン」そのもの。特定の同一病院と雇用契約を結び、その病院だけで勤務します。アルバイトをしたいならば所定の休日や業務終了後に行います。
常勤勤務医は残業時間がとても長く、患者さんの健康や命に関わる業務内容であるため、個人的都合で残業を断ったり、当直を拒否したりすることができません。勤務を終えて家でひとやすみしていても、夜中に急患が入って電話で呼び出される(オンコール)ことも珍しくありません。
そのため、医師の長時間労働問題はしばしば社会問題化しますが、現状では医師人材不足でもあるため、効果的な問題解決には至っていません。
フリーランスへと転向する常勤勤務医の多くが、ほとんど家にも帰れず家族とも会えないような長時間労働に耐えかねることを理由に、時間的自由を満喫できるフリーランスへと転身しています。
フリーランス医師と常勤勤務医比較2 給与条件
一般的なアルバイターや自由業と同じように、フリーランス医師は働いたら働いただけ給与が入ってきます。フリーランス医師は時給制がメインで、その相場は時給1万円です。診療科によっては2万円を超える時給も見受けられ、この高い時給こそがフリーランス医師を高給取りにしている理由です。
※参考:CareNet 医師の時給は平均1万~1万2千円
https://www.carenet.com/news/general/carenet/46508
時給1万円で1日8時間5日勤務なら、8万×5日×4週間=月収160万円。12ヶ月をかけると年収1920万円となりますので、常勤勤務医の平均年収1230万円(2017年度厚労省調べ)を遥かにしのぎます。
少々非現実的ですが、全ての業務が時給2万円の好条件求人のみで働く単純計算で年収3840万円となります。
ただ冒頭で話したように、産婦人科医のフリーランス医師などは年収5000万円を超える例なども出ているため、やはりフリーランス医師は高給取りであると言わざるを得ません。
ただし、フリーランス契約の医師には退職金がありません。
一方、常勤勤務医の平均年収は1230万円。もちろん診療科や勤務先、残業時間で年収は変化しますが、大学医局に勤務する医師は年収1000万円に届かない事がほとんど。10年目選手の医師でも800万円~1200万円程度ですので、この位の年収ならばサラリーマンの世界でも普通に存在している収入レベルです。
退職金はきちんと支払われることが通常ですので、このあたりもサラリーマンの雇用形態と全く変わりません。
社会問題化するほど長時間働かなければならないのに、給与は割と普通。それが一般的な常勤勤務の医師像です。
フリーランス医師と常勤勤務医比較3 福利厚生
福利厚生はフリーランス医師にとっての1番の弱みです。加入は国民年金になりますから、満期加入したとしても年額78万(月6万5千円)が将来もらえる老齢年金の上限となります。
雇用条件としても雇い主側の病院都合や、昨今の世界的な感染症流行などの外部要因を原因として、求人そのものが減ってしまったり、勤務条件や給与が劣悪化してしまったりするリスクがあります。
また、国民健康保険等についても自分の給与内で全てやりくりする必要があります。雇用保険もないので、失職しても失業手当はありませんし、医療事故に遭遇したときは自分で自分の身を守る必要が出てくるでしょう。
高い給与を背景とした税金対策も必須ですし、毎年年度末に確定申告を自分自身で行わなければなりません。
一方、福利厚生こそ常勤医師のストロングポイントです。
加入する年金は国民年金に加えて厚生年金の2階建てとなっており、老後の年金もフリーランス医師とは比較できないほど多いことが予想されます。一般サラリーマンでも老齢年金平均は月14万円ですから、比較的高給与が多い医師の年金はさらに増えると思われます。
他にも健康保険、雇用保険、労災保険などの社会保険も勤務先できちんと加入してもらえますし、交通費等の経費や確定申告についても考える必要はありません。万が一医療事故があった際も勤務先がきちんと盾になってくれることが期待できます。
フリーランス医師と常勤勤務医比較4 将来性やリスクの予測
現状、麻酔科や産婦人科だけでなく、一般的な内科でも外来対応のためのスポット診療求人は数多いです。内視鏡などの専門資格や勤務経験による技術があれば、更に求人数は増えます。
ただし、人口減少とともに将来的には地方を中心に医療機関の統廃合が進むと見られており、その際には地方で医師不足が一定解消する可能性があるようです。
もしそうなれば、単純にフリーランス医師の働き口が減ることに直結するでしょう。
更に、稼げる代表だったフリーランス麻酔科医師ですが、新制度によって専門医資格を得るためには「同一勤務先で週3日は働かないとならない」というルールができました。今までのように、給与の高いスポット先だけを行脚して歩くことが難しくなるでしょう。
他の診療科にも同様なルールが今後できないとも言い切れません。
因みに、ドラマドクターXのような外科専門のフリーランス医師はほぼいないと言われます。現実的に外科手術は時間をかけた準備や他の医師、ナースなどスタッフの協力、患者家族とのコミュニケーションが必要であり、事前準備もなくその場だけ登場して手術をして即帰宅…というのはドラマ上の演出でしかあり得ません。
一方、常勤勤務医の将来性は、医業が国家の統制下で行われる経済特殊性を持つため、相当程度確保されています。国家に保護されないサラリーマンやフリーランス医師と違い、ある日突然仕事に困る確率は非常に低いといえます。
良い勤務先を選べば、「ただそこで働いている」だけでフリーランスでは会得できない新しい知識や経験が得られるのも大きいメリットです。
結論:フリーランス医師と勤務医師、どちらかを選ぶなら?
あくまで最終的には医師それぞれのチョイスですが、高級を得ながらプライベートや家族の時間を有意義に使いたいならフリーランス医師。長期的に安定雇用が欲しかったり、大学病院などで最先端技術に腰を据えて接したりしたいなら常勤勤務医でしょう。
一つフリーランス医師を選ぶ先生にアドバイスするならば、「いつでも常勤に戻れるよう、技術を磨き知識と情報を収集しておくこと」です。フリーランス医師にとって1番の悩み「将来への不安」を解消する方法は、まさにこれに付きると言えるでしょう。
それでは本日のまとめです。
今回はフリーランス医師と常勤勤務医師の労働条件や将来性について比較しました。
「余裕のあるフリーランス」と「ブラック激務な勤務医」
「高給フリーランス」と「案外普通な勤務医」
「脆弱なフリーランス」と「保障が手厚い勤務医」
「求人が減る?フリーランス」と「安定度高い勤務医」
このような結論になっています。
常勤勤務医かフリーランスかで悩んでいる医師の先生は、是非今回の動画を参考にご自身の生き方の参考にしてみてください。
この記事を書いた人
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