勤務医よりフリーのほうが収入が多い矛盾
■ 記事作成日 2014/1/12 ■ 最終更新日 2020/11/17
医療業界はやはり特殊な世界です。長く医療業界に関わったりその中で暮らしたりしているとどうしても感覚が鈍りますが、世間一般的に見てもフリーランスが常勤勤務医の3倍も収入を得ている世界などは稀です。
その昔は「業界から外れてしまった医師」のみがフリーランスとして働いていましたが、今では全く状況が変わってしまいました。やりがいを求め、マイペースな勤務体系や収入倍増化といったよりよい就業条件を求め、結構な数の医師が自らの意思でフリーランス医師として働き始めています。
大ヒットドラマ「ドクターX」などの影響もあり、今でこそ医療業界内外から注目されることの多いフリーランス医師ですが、常勤に加えてアルバイト先(いわゆる、外勤先)があるといったように、もともと複数の職場を持つ医師は数多く存在していました。
そういった先生が様々なきっかけで常勤勤務先を離職し、非常勤やアルバイト先のみで生計を立て始めると、フリーランス医師という立場になります。特に結婚や出産という家庭の事情でフリーランスになる女性の医師は昔から珍しくありませんでした。
医局の影響力低下が拍車をかける
フリーランスというと医局の話が必ずセット出でてきます。医局とは医師の出身大学での恩師でもある教授をトップとした組織であり、関連病院への人事権を総括する力があります。
簡単に言えば、医局に属する医師は、上席である教授の意向ならばどのような地方の関連病院でにでも半ば強制的に赴任させられる可能性があります。
明治時代より続くこの医局制度(医局講座制ともいいます)によって、特に医師の人材不足に悩みがちな地方の関連病院では必要な医師を満たすことが可能となってきたため、地域医療を支える重要なシステムの中核でした。
反面、医局の医師は個人の意志に関わらず地方病院だろうと、望まないキャリアコースであろうと、文句一つ言わず赴任をしなければなりません。教授の意思に逆らうこと、すなわち医局内での出世の道は途絶え、博士号の取得すらおぼつか無くなる可能性があるからです。
その後、2004年施行の新医師臨床研修制度によって、研修先病院を研修医がある程度自由に選べるようになると、医局に属さない自由が拡大する結果となりました。
そして近年は、医局を離れたいがためにフリーランスになったり、固定的な勤務先に縛られるのに飽き飽きした方、また、診療科によっては遥かにフリーランスのほうが稼げることに気づいた医師が、男女問わずフリーランスになるケースが目立ってきたという話です。
医局という「組織ヒエラルキー」から思い切って外れてしまったほうが比較的簡単に収入アップを得ることができる珍しい世界、それが医師業界です。
フリーランス医師になって収入3倍は本当か?
結論から言うと、かなり専門診療科目に左右されるものの、実際に収入を3倍にした医師の先生はわりと普通に存在しています。
東洋経済オンラインに連載「ノマドドクターXは見た!」を持つ麻酔科医 筒井富美さんは、フリーランス医師になることによって収入が勤務医時代の3倍になり、なおかつ、1年のうち350日は自宅で寝られるようになったと言っています。
筒井さんは女優米倉涼子さん主演の人気ドラマ「ドクターXシリーズ」の制作協力をつとめた医師としても有名です。
また、日本初の個人救急病院として話題となった、川越救急クリニックの上原淳先生も、開業時の借入金返済のために麻酔診療のアルバイトで生計を立てていたと聞きます。
双方ともに「麻酔医」という希少価値のある業務(ニーズが高い診療科)を有効に活かすことで、年収を3倍にさせたり、開業収入とは完全別途で、十分な生活費を稼ぐことに成功されておられます。収入3倍は良く出来た話ですが嘘ではないわけです。麻酔医以外の医師も、私の周囲では1.5倍、2倍くらいならそれなりに存在しています。
常勤勤務医として働いている方ならよくお分かりかと思いますが、勤務医は結構な量のサービス残業を強いられています。時間外勤務手当を付時間以上カットされていた医師もいらっしゃいます。
この麻酔科医の先生は、フリーランスになることで大凡2倍の年収を得ているとのこと。
加えて、一昔前は医局に逆らう医師にはアルバイトすら紹介をしてもらうことができない時代が長く続きました。ところが医師紹介会社、とりわけ、アルバイト求人の紹介に強い医師紹介会社の登場により、医師免許を持つものならばどのような方でも、それなりに良い給与(日給5~10万円以上)のアルバイトが簡単に得られます。
時間外労働賃金のカットはどの医療機関でも珍しくない状況です。近年ではこの状態の職場を「ブラック病院」称として少しずつ認知が高まってきました。もちろん、某国会議員をトップとした居酒屋チェーン社員の就労状況がブラック企業として注目されてきたことから、ついにというかようやくというか、医療の現場についても労働条件を見直すべきでは?という議論が生まれてきた訳です。
「やりたくない仕事をやらされている」「希望しない地方勤務をしいられ酷使されても報われない」「そして給与が勤務状況に見合わない!」という医師の怒りは、結局は医局からの脱出につながっていくわけです。
メルセデス・ベンツAMG位は簡単に買える
このように、医局勤務への拘りを辞めた医師が本気で稼ぎにかかれば、最高位のメルセデスベンツ、チューンドモデルの「AMG S65」クラス(3000万強程度)なら割と簡単に購入することができてしまいます。
純粋なフリーランス医師の事例ではないですが、常勤医師の方でベンツを買うためにアルバイトをされていた方の事例がこちらで紹介されています。この方がもしも完全なフリーランス医師だったら、より簡単に手早くベンツ購入資金の貯蓄ができたことでしょうね。
おかげさまで(?)私もメルセデス・ベンツは随分と長い間愛用させて頂いておりますが、馴染みの外車ショップ「Bond Car」の某店長さんによると、1000万以上の高級価格帯輸入車を現金でポンと買うようなお客さんの半分くらいが医師だそうで、特に最近はフリーランス医師の方が目立つようになってきたと証言しています。
ちなみに、顧客のもう半分は社長や不動産関連投資家等が多いそうですが、そういった方々は割と堅実で高級車などを買わない人も多い一方、医師の方は結構あっさりと高級車をお買い求めになります。
もちろん、開業医としての成功こそが医師のキャリアとしては最も経済的には潤うのですが、それはまた全く違う角度の話ですので割愛します。ただ、開業医として成功するのとフリーランス医師として成功するのでは、圧倒的に後者のほうが簡単です。
これからフリーランス医師になる方へ
フリーランス医師になる方のタイプには2パターンあるようです。
1.仮に失敗してもまあなんとかなるだろうと考える「お気楽派フリーランス医師」
2.絶対に失敗したくないので石橋を叩きまくる「超保守派フリーランス医師」
どちらが正しいということではなく、私がこれまで出会ってきたフリーランス医師には両方のタイプが同じような割合で存在していたということです。あなたはどちらのタイプでしょうか?どちらのタイプにせよ、共通して少なくともこれだけはフリーランス医師になる前に用意、準備しておくほうが良いという事をピックアップしてみましょう。
クレジットカードは勤務医時代に入会しておく
医師免許保持者だからいつでもクレジットカードに入れると思っている方、案外多いようです。残念ながら、フリーランス医師になるとクレジットカード入会審査が間違いなくおりづらくなります。医師といえども、勤務医とフリーランスでは金融機関、クレジットカード会社等の与信審査で組織力によるバックボーンの有無で差別化がされている現実を知っておくべきでしょう。
とはいえ、日々の生活にクレジットカードは絶対に必要なもの。フリーランス医師になる方は、勤務医のうちにクレジットカードを2枚程度入会しておくべきでしょう。これだけは絶対に忘れないで下さい。
尚、医師に人気のクレジットカードについては当研究所の「医師ライフコンシェルジュ」のカテゴリーでも記事にしていますが、勤務医の方ならすんなり審査が通るクレジットカードで、且つ、医師のライフスタイルに役立つカード(学会での渡航時にマイルが多く貯まるなどの海外旅行に強いカードがベスト)などを勤務医時代に入手しておくとよいでしょう。
離職のタイミングを逃さない
医師の離職には診療科、ポジション、勤務先などによってその準備期間が異なります。最もラクな病院勤務の先生の場合でも、最低3~6ヶ月は転職準備期間としてスケジューリングしておくべきでしょう。大学教授クラスになると、2年~2年半の転職準備期間をとってもいいくらいです。
準備期間にすることは、新しい就業先候補のリサーチから直接コンタクトはもちろん、既存の患者様のケアや同僚医師、上司への引き継ぎやケアの時間として当てるべきです。とはいえ、医局勤務の医師の場合は離職タイミングを逃さないことも重要です。辞めるべき時に辞めなかったため、結局はずるずると元の職場に残り続けることになるケースは珍しくありません。注意しましょう。
いつでも勤務医に戻れる心構えを
フリーランスの麻酔科医のように、週3、4日の勤務で十分な給与を稼ぐ生活に使ってしまうと、どうしても元のハードな常勤勤務に戻ることが、気持ち的に難しくなってしまいます。
フリーランスは気楽なポジションですが、いつ何時外部環境が激変し、フリーランスでの生活が続けられなくなるかもしれません。未来は誰にもわからないのです。できるだけ、いつでも常勤のハードワークに戻ることができる気構えを持って、フリーランス医師としての人生に挑戦してみるべきでしょう。
気がついたら単なる「怠惰な医師免許保有者」になってしまっていたのでは、せっかくの先生のキャリアが単に傷つくだけで終わってしまう結果となるでしょう。要注意です。
儲かっているフリーランス医師には必須のクラウド会計ソフト
フリーランス医師にとって確定申告は必須ですが、普段より自分自身(もしくは有料で外注して)経費の記帳を行わなければなりません。これが非常に時間を食って余計な手間になってしまっていることは間違いありません。
しかし、近年は収入と経費記帳や確定申告作業を自動でサポートしてくれるクラウド会計サービスが大きな進化を遂げています。特に、当研究所が医師の方にお勧めしているクラウド会計ソフトのは「freee(フリー)」で、無料お試しダウンロードでのテスト利用をまず進めています。
※クラウド会計に関する詳細はこちらの記事で徹底比較調査をしております。
今後はどうなる?フリーランス医師の立場
つい最近まで、フリーランス医師というものは、ある意味都市伝説のように捉えられてきました。本当にそんな奴いるのかよ?というのが結構メジャーな感想だったのではないでしょうか。ブラックジャックじゃないだからさ(笑)という笑い話で済まされていました。
ところが先の「ドクターX」を始めとするフリーランス医師にスポットを当てたメディアが増え始め、実際に「私はフリーランス医師で食べています」「しかも、勤務医よりもこんなに美味しい条件で気楽に働いています」と証言する医師が現れてしまいましたから大変です。右へ倣えとばかりに、先輩フリーランス医師の後に続く、若手医局員が増えてきてしまったのも止む方無い話です。
一度動き出した流れはなかなか止められません。古い体質である医局組織は、今後こういう潮流にどのように対抗していくのでしょうか。個人的には大変に興味津々です。
「医師不足」が解消されると話が全く異なってくる
しかしながら、医師不足というフリーランス医師が生きていくための社会的絶対条件がもしも崩れてしまった場合は、必ずしもその限りではありません。
今後は地方を中心に病院の統廃合が始まると予想されており、医師人材の需要減少に大きく影響を及ぼすだろうとの予測も聞こえてくるようになりました。そうなるとフリーランス医師に対する需要が目に見えて減ってくることも、想像に難くないといえます。
フリーランス医師を志望する方は、現在の医局状況のみならず、社会的な外部環境変化についてもマクロな視点でウォッチングしておくべきでしょう。医局との軋轢などを原因として、その場だけの感情でフリーランス医師の生活に突入してしまうと、後々深刻な状況に陥る可能性も考えられます。
既にお話をしましたが、将来いつでも常勤に戻れるように医師としての技術、経験、知識を磨いておくことは、勤務医よりもフリーランス医師にこそ重要となってくるのではないでしょうか。
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
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