第15回:【医療経営士】医療経営士3級から医療経営士2級を目指す その3
■ 記事作成日 2018/3/27 ■ 最終更新日 2018/3/27
2018年の医療業界を取り巻く状況を正確に把握しておく
元看護師のライター、紅花子です。
昨年末から再開したこのコラム、前回から、3級の次のステップ、「医療経営士 2級」を目指している方に向けたコラムとして、お伝えしています。今回は少し横道ではありますが、医療経営士の実務と深い関係のある、2018年度の診療報酬改定について考えてみます。
「2018年度」は「惑星直列」の年?
2018年度は、診療報酬と介護報酬の同時改定があることは、すでにご存知かと思います。しかし、2018年度に起こる変化は、これだけではありません。
当サイトの別コラムではありますが、都道府県ごとの「保健医療計画」と「介護保険事業(支援)計画」も、次期(両計画とも、第7期)のものがスタートします。さらに、国民健康保険の都道府県化もスタートします。
これだけの大きな変化が一度に起こることから、2018年度は「惑星直列」ともよばれています。過去にも、これだけの大改革が起こったことはありませんでした。ではなぜ、2018年度はこれだけの大改革が起こることになったのでしょうか。
診療報酬と介護報酬の改訂はもともと、ちょうど「同時改定」となるタイミングでした。ところが、保健医療計画と介護保険事業(支援)計画はもともと、1年のズレが生じるはずでしたが、今回足並みをそろえることになりました。
また、国民健康保険制度の運営主体は、現行では市町村単位でしたが、都道府県に移管することで、広域化によるスケールメリットを見込み、財政基盤を立て直すことを目標として、2015年に法改正が行われています。
これらの動きの根底にあるのは、やはり日本の超高齢化社会の進展です。具体的には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になる、いわゆる「2025年問題」です。
これは、人類がこれまでに経験したことのない「超・超高齢社会」といえます。日本は、世界のどの国よりも早く、この問題に対応していく必要があるのです。
つまり、2025年を前にドラスティックなパラダイムシフトが起きるのが2018年。過去からの予定通りでいけば、この年の変化は「診療報酬と介護報酬の同時改定」と「第7期保健医療計画のスタート」だけでした。しかし2025年の前でこれらの変化が重なるのは、2018年と2024年。
2024年では直前すぎて何の準備もできないという考え方があり、その前の2018年に「惑星直列」を起こすことになった、という経緯があります
医療機関の「経営」は、どう変わるのか
医療機関は、「医療」が前提ではありますが、その先に必要となるであろう「介護」も見据えた経営としていく必要があるでしょう。例えば、診療報酬の改訂では、いくつかのポイントがありますが、特に重要と考えられるポイントを挙げてみます。
地域における「医療機能の分化と連携」が強化された
入院基本料に対する加算方法としての、「7対1、10対1」といった一般病棟入院基本料が、「急性期一般入院基本料」に名前が変わりました。具体的には「看護師の配置」よりも「実際に入院している患者の状態」により、加算の状況を変えていく方向へ、変更が行われたようです。
この他にも、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料が再編・統合される、回復期リハビリテーション病棟入院料が再編・統合される、在宅復帰率の要件が見直されるなど、地域全体における「その病院の役割」や「他の施設との連携」が、強化される方向での改訂となっています。
「遠隔医療」が算定可能になった
以前より話題にはなっていた「遠隔医療」が、今回の改訂で初めて「オンライン診察料」として算定できることになりました。ただこれにはある程度の条件があります。ある一定の管理料等を算定している患者に対して、「リアルタイムでのコミュニケーション(ビデオ通話)」が可能な「情報通信機器」を用いて、オンラインでの診察を行った場合に限り、70点が算定できることとなりました(管理料の場合は100点)。
さらに次のような点にも注意が必要です。
1.施設基準として
- オンライン診療料を算定している患者の緊急時には、「30分以内の診療が可能」な体制を築いていること
- 1カ月当たりの再診料に占める「オンライン診療料の割合」が、10%以下であること
2.対象となる管理料を初めて算定してから6ケ月間、毎月1回以上は同一医師による対面診療を行っていること
3.3カ月連続しての算定はできない
この他にも、一般企業などでは、すでに数年前から求められている「働き方改革」ですが、これがやっと医療の分野にもやってきた、というところでしょうか。
これについても、診療報酬改定の中に盛り込まれることとなりました。
これからの医療経営は、病院から地域全体を見る目が必要?
例えば、企業の経営コンサルなどもそうですが、基本的には「依頼を受けている企業の『経営』に注力する」というのが、一般的なスタンスです。もう少し範囲を広げたとしても、グループ企業や関連企業まででしょうか。
しかし、医療機関の場合は「自分のところが儲かれば良い」わけではありません。
例えば、自施設のベッド数。これを勝手にコントロールすることは出来ません。
また病床機能も、自施設の都合だけで変更するのは、難しくなるでしょう。これが出来てしまうと、ある医療圏の中には急性期病床が増えすぎる、逆にある医療圏の中には回復期病床がまったくもって不足する、などのような「地域における医療体制の崩壊」も招く可能性があります。
さらに広い目でみれば、例えば「医療スタッフが集まらないし、赤字が続いているので、感染症病棟は閉鎖します」こうした変更は、都道府県全体に影響することになります。
また、病床機能が変われば、当然ながら必要となる医師や看護師数も変わりますし、病院全体の設備も変わります。これらの「変化」は、地域全体を見て、他の施設との「兼ね合い」を考慮しながら、決めていく必要があるのです。そしてそれらの事柄は、そのまま「病院の事業計画」にも影響していくことになります。
こうした「地域全体への影響度」も考慮した医療機関の経営を行っていくのが、医療経営士の役割といえるでしょう。
まとめ
例えば「明日からあなたの収入は半分です。何とか策を立てましょう」といわれても、多くの人はそれに対応できません。
しかし「10年後には、このような患者さんが増え、このような患者さんが減ります」という予測ができれば、人材確保や病院としての体制、医療資源の確保など、ある程度の対応策が立てられるのではないでしょうか。
このような分野にて、医療経営士は必要とされているのです。
参考資料
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第389回)総-1参考2
個別改定項目について参考資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000193003.html
同上 総-1 個別改定項目について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000193708.pdf
厚生労働省 介護保険事業(支援)計画の現状と方向性について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000141614.pdf
同上 市町村職員を対象とするセミナー「国民健康保険制度改革について」
施行に向けたスケジュール
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000148610.pdf
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート