第4回:【医療経営士】3級のテキストより その3 日本の医療関連法規
■ 記事作成日 2016/8/30 ■ 最終更新日 2017/12/5
医療経営士3級のテキストより 日本の医療関連法規
元看護師のライター、紅花子です。前回から、【医療経営士】という資格についてお伝えしている当コラム。第4回目の今回は、医療経営士3級用のテキストの3冊目、「日本の医療関連法規」です。
日本の医療制度は、いつでもどこでもフリーアクセス
日本は、「国民皆保険」という制度の元、世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を誇っているといわれています。具合が悪くなったら、いつでもフリーアクセスが可能。国民には、いつでもどの医療機関でも、自由に受診する権利が確保されています。
ただ、国民の間には今でも大病院信仰が根強く残っており、コンビニ受診や「3時間待ち3分診療」などが社会問題化しています。
さらに、保険制度そのものも複雑化し、いわゆる「混合診療」という問題も生じています。諸外国に比べて、病床数が多い、入院患者の平均在院日数が長い、という状況にもあるようです。
複雑化する医療計画
日本の医療の大元となっている医療法ですが、これは1948年、第二次世界大戦後に制定されたものです。その後、時代の流れや医療ニーズの多様化などに伴い、改正が行われています。
最初の改正は、1985年(昭和60年 第1次医療法改正)。医療法の制定から、実に40年近く経過していました。
この時の大きな改正点は、都道府県ごとに医療計画を定めるとともに、病床数の総量規制が行われることでした。
この時より、現在の「都道府県ごとの医療計画」が制定されるようになり、一次・二次・三次医療圏が決められるようになりました。
さらに、1992年(平成4年)に第2次医療法改正、1997年(平成7年)に第3次医療法改正、2000年(平成12年)に第4次医療法改正、2006年(平成18年)に第5次医療法改正が行われています。
医療経営士のテキストにはここまでしか記載がありませんが、実は2015年9月に第7次医療法改正が可決されています。
それぞれの改正のポイントは、次の通りです。
- 第2次改正:特定機能病院と療養型病床群の制度化など
- 第3次改正:介護保険制度とともに成立、地域医療支援病院の制度化など
- 第4次改正:一般病床と療養病床を区分化、人員・施設配置の見直し、医師・歯科医師の臨床研修の必修化など
- 第5次改正:地域における医療機能の分化・連携、病院機能の明確化、疾患別、医療事業別に医療連携の在り方を示すなど「地域完結型医療」への転換、医師確保対策の推進など
医療法の改正の背景には、少子高齢化、家庭での介護の限界による介護保険制度のスタート、医師不足・看護師不足など医療者側の人員不足など、さまざまな時代の変化が絡んでいます。
特に高齢者の増加とそれにともなう慢性疾患患者の増加、それに対応できる医療者の減少などからも、病院完結型医療から地域完結型医療に大きく舵が切られたのが、第5次改正だったようです。
その後、第6次、第7次改正も進んでいますが、第7次の改正では、地域医療連携推進法人制度の創設と、医療法人制度の見直しが行われています。
これは、複数の医療機関等を統括し、一体的な経営を行うことで、経営効率を向上させる目的と、地域医療・地域包括ケアを充実させることにあるようです。
さらに地域医療構想を達成するための一つの選択肢として、地方創生につなげたいという狙いがあります。
このように、医療機関等における「経営」が変わろうとしています。現在の時代の流れの中では今後、医療経営士という職業へのニーズが高まるのかもしれません
少子高齢化が進む日本はどこへ行く?
日本は、高齢化社会となって久しいですが、現在のところもっとも高齢化が進行しているのはどの都道府県でしょうか。何となく、イメージ的には地方の都道府県ではないかとも考えられるのですが、実際はどうなのでしょうか。
国立社会保障・人口問題研究所 「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」より作図
2010年の実数値、2025年の推計値、2040年の推計値ともに、65歳以上の人口がもっとも多いのは東京都です。
これに、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県、千葉県、北海道…と続きます。5位までに、関東地方の3つの都道府県がランクインしています。
しかし、東京都はもともとの人口も多いエリアですので、現在の40代の人たちがそのまま東京都に住み続けていれば、30年後には高齢者の仲間入りですから、高齢者人口が増えるのも分かります。
では、都道府県ごとの人口に占める65歳以上の人の割合を見てみます。
図2 都道府県別 65歳以上人口割合の推移
国立社会保障・人口問題研究所 「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」より作図
2040年に「65歳以上の人口が多い都道府県」の上位5位、下位5位が、人口割合でみるとどう変化するか、マーキングしてみました。
赤い丸は上位5位、緑の丸は下位5位です。見事に逆転しています。つまり、高齢者が人口が多い地域は、生産年齢人口も多いことになります。
一方で、高齢者人口は少なくても、結果的に生産年齢人口が少ない地域は、高齢者人口の割合が非常に高くなるということです。
こういった背景があり、地域によって医師など医療者の確保対策が必要になったり、医療経営の見直しが図られるなど、地域の特性を鑑みた施策が、各都道府県で進められています。
これらは医療法改正によって始まったことではありますが、医療法は今後も、少子高齢化の進行に対応すべく、改正がなされていくでしょう。
受験者は今後の医療法の改正についても情報入手が必要
今回は、医療経営士3級用のテキストの第3巻、「日本の医療関連法規」についてみてきました。医療者の根底にあるべき医療法の改正は、医療者それぞれの今後の働き方にも、大きな影響を与える可能性があります。
医療機関を経営する上では、現在の医療関連法規について熟知する必要がありますが、今後どのように変化していくのか、ある程度予測できる能力も、必要なのかもしれません。
参考資料
一般社団法人 日本医療経営実践協会
医療経営士とは
http://www.jmmpa.jp/about/
初級テキスト第3巻【第3版】「日本の医療関連法規」
2013年7月10日 第2版第1刷発行 編著者代表: 平井謙二 医療経営コンサルタント
国立社会保障・人口問題研究所 『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp
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