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第1回:2025年に完結するといわれる医療政策は本物か?(2025年までのロードマップ)

2025年に完結するといわれる医療政策は本物か?(2025年までのロードマップ)

 

■ 記事作成日 2016/5/13 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

はじめに:医療介護一括法と地域包括ケア

2025年に完結するといわれる医療政策は本物か?(2025年までのロードマップ)

 

1:高齢化社会を迎えるにあたって

 

医療費が年々上昇していることは、ニュースや新聞でよくご存じのことと思います。今後、団塊の世代が高齢化に差しかかり、年金・税金・福祉・医療は一体として考えていかなくてはならない時代なりつつあります。

 

医療費も上昇の一途であり、将来的な年齢層別人口のアンバランスさを考えると、このままでは医療・福祉も競争が激化し、今までのような国民皆保険制度の崩壊が問題となるのではないでしょうか?現在の健康保険制度は、個人負担や社会保険支払基金や国保連合会などから支払われる健康保険料で成り立っています。

 

しかし、国保連合会や後期高齢者医療制度には40~50%の税金も投入されており、国としても看過できない問題として取り上げてきております。そのため、医療・介護のグランドデザインの議論として「社会保障制度改革国民会議」が2012年11月に発足し、最終報告書(2013年8月)を安倍内閣に提出されました。

 

2:社会保障制度改革国民会議の中身

 

2025年には、65歳以上の国民が全体の60%に達するというシュミレーションの結果から、次のような結論が導き出されました。

 

医療提供体制の見直し

 

・病床機能情報報告制度の早期導入
各病院は、平成27年秋までに病床機能を報告すること。

 

・病床機能の分化と連携の推進
平成28年3月まで、診療報酬が高かったため、急性期を手掛ける病院が多かった。しかし、今後は、病床機能を見極め、地域内での医療システムの連携を高めていく。

 

・在宅医療の推進
高齢者が増えることにより、在宅医療が今後ますます需要が増加すると推測される。その体制を地域医療という枠組みでカバーする構想。

 

・地域包括ケアシステムの推進
地域単位で医療・介護を完結する「地域包括ケアシステム」の実現を目指す。

 

・医療職種の業務範囲の見直し
医師・看護師の負担を減らし、分散化する。

 

・総合診療医の養成と国民への周知
診療所については、病気を見つけるスクリーニングの大切な役割を担う。そのため、「総合診療医」としてレベルアップを図り、早期発見・早期治療をめざす。

 

・都道府県の役割強化

 

・医療提供体制の構築に関する都道府県の役割強化
医療計画をはじめ、医療に関する権限を都道府県に移譲し、スピーディーな医療体制を構築する。

 

・国民健康保険の運営業務の都道府県への移行
国で管轄していた「国民健康保険」の運営を都道府県単位に移行し、医療費の抑制を図る。

 

・医療法人間の再編・統合をしやすくするための制度見直し
医療法人の分類を簡素化し、病院・診療所が再編・統合しやすい法整備を目指す。

 

出典元:武藤 正樹「2025年へのロードマップ~4月診療報酬改定と病床機能分化~」2014.3
http://masaki.muto.net/lecture/201403071.pdf

 

どうして地域包括ケアが必要なのか?

 

1:医療介護のケアサイクル

 

後期高齢者で医療・介護は不可分、医療と介護のケアサイクルを循環すると想定できます。例えば、男性は死亡するまでに3~5回のケアサイクル、女性は5~7回のケアサイクルの回転が必要と考えられます。

※ ケアサイクルとは?

 

急性期ケア → 回復期ケア → 長期ケア 
これらのケアには、「病院」「診療所」「介護支援センター」「デイケア」などが協力して高齢者ケアの仕組みを保つ ためには、地域内で完結する「地域包括ケア」が必要になります。

 

また、下記の問題も解決しなければならない問題です。

  • 医療保険と介護保険は75歳以上は統合すべきか?
  • 支払方式は医療・介護包括支払方式「地域包括ケア払い」を導入すべきか?

 

2:団塊世代の大量死

 

現在の医療体制では、2030年に47万人分の病床が足らないことが予測されることがわかってきました。これは、終末期のターミナルケアを自宅で迎えなければいけないことを示唆します。

 

そのため、地域社会全体で死を迎える受け入れ態勢を整えなければなりません。そのために考案されたのが「地域包括ケア」というシステムです。

 

出典元:武藤 正樹「2025年へのロードマップ~4月診療報酬改定と病床機能分化~」2014.3
http://masaki.muto.net/lecture/201403071.pdf

 

2025年のロードマップとは?

 

2016年診療報酬の変更点

 

平成28年4月に診療報改定があったことは、ご存知だと思います。診療所については、今後展開する「地域包括ケア」の準備段階として特に大きな影響はありませんでした。しかし、病院については、入院医療を中心に診療及び病床機能分化についてメスが入れられました。

 

特に、急性期病床維持に関して基準が非常に厳しくなり、本来の機能分化において急性期ではない病院は、「地域包括ケア病床」・「回復期リハビリテーション病棟」・「療養病棟」への転換を迫られることになります。

 

詳細な変更点については割愛しますが、急性期病床7:1看護基準の厳格化、看護師の業務軽減や小児医療の優遇などが盛り込まれています。

 

第一関門:2018年介護報酬・診療報酬同時改定

 

今回の医療改革についてまず超えなけばならない第一関門が、2018年に行われる介護報酬・診療報酬同時改定と医療計画の変更になります。

 

「介護報酬」は3年に1回、「診療報酬」は2年に1回改訂されますので、6年に1回は同時改定されることになります。それに合わせるようにして、各都道府県で作成する「地域医療介護計画」も6年に一度改定されます。

 

この時に医療機関は、地域包括ケアに向けた医療体制づくりが一段と進められることが推測されます。現在の段階では、病床機能分化に関しては各病院の判断にゆだねられてます。しかし、この頃になると地域包括エリアの詳細な区割りや、各地域における「中核病院」や「専門病院」の格付けが進み、中途半端な経営方針できた病院はふるい分けにかけられる可能性が高くなります。

 

また、認知症に罹患する患者が増加することが予測されるため、医療機関が認知症の治療を担当することが、2016年の診療報酬ではっきりと明文化されたました。しかし、完治する治療法の確立していない医療機関が認知症患者をどう扱っていくのかは不透明な問題です。

 

今後は、国及び各都道府県が認知症患者に対して、医療機関単体ではなく介護施設も含めた連携を図っていくことになりそうです。その間に、完治するような治療方法が確立することが一番先決なことは確かのようです。

 

病床機能分化と連携

 

以上のことを踏まえると、高い診療報酬欲しさに急性期に走った小規模~中堅医療機関の将来が危ういということが言えそうです。経営再建のために始めた急性期病棟に関しては、医療機器などの設備投資と救急医の確保や7:1の看護基準をクリアするために、看護師を大量採用したツケがジワジワと効いてきそうです。

 

病床総数も減らされる上、慢性期病棟では診療報酬が低く、赤字経営に耐え切れずに閉鎖する病院も出てくるのではないでしょうか。そのような病院に勤務している職員がどこに向かうのでしょうか?

 

医師・看護師など国家資格を所持している医療従事者に関しては、一般職と違い他のキャリア転換というわけにはいきません。そのため、地域包括ケアに貢献するため、診療所を開設することがという選択肢が多くなると考えられます。

 

その鍵となるのは、病院機能分化がどのように行われるのかということに尽きそうです。厚生労働省の調査に対して、まだ報告していない病院もあり、急性期病床の代わりにどの病床機能区分になるかということで理事長・院長先生は決断を迫られることとなります。

 

勤務医の先生方は、今後の身の振り方を準備しなければならないことになるため、診療以外にマネージメントや経営などを勉強しなければならないことになるでしょう。また、診療所を開設したとしても、「総合診療医」として医療を極めることが必須となり、中核病院や診療所との連携など営業的なセンスも問われることになるでしょう。

 

まさに、「ノアの箱舟」にの乗り込めるかどうか、これから2年間が正念場になります。厚生労働省が、今後後のような政策を展開していくのかに注視し、先回りした医療経営戦略が必要になります。

 

第二関門:2024年までの診療報酬改定

 

2018年に診療報酬・介護報酬同時改定から、次回の同時改定を迎えるのが2024年になります。前述したとおり2025年に、65歳以上の国民が全体の60%に達する直前の年に当たります。政府案では、地域包括ケアが確実に実施され、高齢者のターミナルケアも病院から自宅に移っているという計画になっているはずです。

 

出典元:加納 繁照「地域医療構想~地域包括ケアシステム構築に向けて何が必要か~」2015.11
https://ikss.net/about_ikss/pdf/225_2.pdf

 

今後のカギはICT技術と訪問型看護

 

医療機関は法律に規制され、独特な進化を遂げてきました。特に、民間企業の経営参加が認められていないため、効率的な経営や独自の患者サービスがおざなりになってきました。最近では、医療の質では差別化が難しいとし、独自の患者サービスを取り入れている医療機関も出現し始めました。

 

しかし、患者様が本当にどのようなサービス、どのようなホスピタリティー・ユーザビリティーを望んでいるのかリサーチしている医療機関が日本にどれくらいあるでしょうか?今まで、「医療機関はつぶれない」という神話の中で経営をしてきてしまっているので、民間企業のマーケティング理論を取り入れる必要があるのではないかと考えます。

 

診療報酬制度の裏表

 

また、「診療報酬」制度が臨床現場をスポイルさせ、全国どこに行っても同じ処置・同じような処方箋・同じ料金ということを実現させてきましたが、逆な視点から言うと「金太郎飴」診療をはびこらせた原因ではないかと推測されます。

 

何しろ、国が決めた診療報酬は、決まった処置・決まった検査・決まった薬剤を細かく取り決めてしまっています。つまり、電子カルテ通りに診療していれば良いという「診療報酬ルール」でしか物事を判断できない思考を長く続けてきました。これが、臨床技術を停滞させた原因ではないかと考えます。

 

そのような中、特に地域包括ケアを実現するためには、様々なIT技術を応用した「ICT技術」が必要になってくるのではないでしょうか?これからは、コンピュータの時代です。ディープラーニングをはじめとする「AI技術」の発達により、医療現場は大きく変わるかもしれません。

 

法則性のある診療報酬体系は、簡単にプログラミングできますので、医師の頭脳がロボットにとって代わることも可能な時代になってきました。治療方法の決定ロジックは、ほとんどが「消去法」であるためロボットが導き出した治療法の方が迅速かつ正確なことさえ出てきます。

 

この恩恵は、都市部より遠隔地(特に離島などの無医村)などに効力を発揮するでしょう。また、光回線などインターネットなどのインフラが整備されれば、テレビ電話などで診察や処方箋などを遠くから実施することも可能になります。

 

医師法・薬事法など法的規制もありますが、そのようなポータブル型の機器があれば、医師がいなくとも看護師だけで訪問看護ができる可能性も秘めています。また、地域完結型のクラウドコンピュータによる電子カルテが考えられます。それにより、どの医療機関でどのような治療・検査・投薬をしてきたかが把握できるようになるでしょう。

 

その結果、無駄な検査・投薬が把握され、ドクターショッピングを繰り返し初診料を払わくても済むようになれば、医療費は格段に削減するでしょう。

 

現在、訪問診療や訪問看護現場において薬剤師が同行し、残った薬剤のチェックや服用の仕方の指導なども行われています。特に、高齢者においては、嚥下指導は歯科医師が担当するなど、医師会と歯科医師会などの団体が協力し、今までの既成概念の壁を超えた取り組みが求められています。

 

2025年問題を迎えるにあたり

 

フリーアクセスと地域包括ケアの矛盾

 

夢に描いた地域包括ケアですが、現在の医療システムでは矛盾が生じます。なぜなら、フリーアクセス制(どこの医療機関に受診するかは、患者に選択権があり、日本全国どこの医療機関を受診してもよい制度)を採用している日本の医療制度では地域包括ケアにおける医療が当てはまらないということです。
OECD本部からも矛盾点の指摘を受けておりますが、厚生労働省は未だ回答を濁したままです。また、今回の地域包括ケア等の医療政策においても何ら触れられておりません。このまま、地域包括ケアに本格的に突入すると、地域で完結する理想的なスタイルが「絵に描いた餅」になりかねません。

 

なぜなら、「大病院信仰=高度医療」と考えている国民は非常に多く、従来と同じように大病院受診希望の患者が後を絶たない可能性があるからです。たとえ、大病院を初診で受診する場合、いくら初診料を高く設定してもお金を払えば受診できることには変わりがない訳です。

 

規制緩和への期待

 

現在の医療制度では、一部の医療機関を除いて混合診療を禁止しています。しかし、フィールドの異なった歯科に置ける治療に関してはどうでしょうか?同じ歯の治療でなければ、混合診療は認められています。例えば、う蝕の治療とインプラントの治療が認められているという事例があげられます。

 

医科の外来診療についても、同じようなことがなぜ実現できないのでしょうか?主治医が目指す診療は、そこにあるのではないでしょうか?全額自費診療では、患者負担がますます大きくなるばかりです。しかし、併用することができれば、抗がん剤の治療と免疫療法の治療が同時に実施することも夢ではないということが可能になります。

 

この混合診療が解禁することによってはじめて、各医療機関の強み・弱み・医療業界内での立ち位置などマーケティング的な要素が加味され、独自の差別化戦略がはじめて構築されます。

 

この記事を書いた人


山崎 裕史 (医業経営コンサルタント)

医療業界に20年以上かかわり、クリニック事務長7年経験。クリニック開業後専門の経営戦略コンサルタント・クリニック専門Webコンサルタント・医療専門のWebライターとして活動中。クリニック事務長経験とアクセス解析士の資格・知識を生かした独自の「事務長不在クリニックのWeb&リアル経営戦略提案」が専門。

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