第8回:医院開業成功のため、先生が必ず「やるべき」事
■ 記事作成日 2016/7/13 ■ 最終更新日 2017/12/6
診療科目数の推移を把握していますか?
最新の調査(平成26年)では、全国に約10万件の診療所が存在しています。平成20年から平成26年までの診療所の推移はどのような傾向になっているのか見ていきましょう。
上記の表(全国診療所数推移)を見ると、全国的に見てもあまり変わらないようにも見えます。(注:平成23年の数字が少ないのは、東日本大震災の影響で「福島県」を加算していないため)診療科目としては、内科が60%を超えておりポピュラーな診療科目として定着していることがわかります。
診療科目別診療所数としては、内科に続いて「小児科」「消化器内科「外科」「循環器内科」「整形外科」と続いています。つまり、どの地域で開業しようが無医村でない限り、これらの診療科目を標榜すれば相当高い確率で、診療圏が重複しライバルになるということになります。
逆に、開業数の少ない診療科目は何なのでしょうか?
調べてみると「救急科」「病理診断科」「臨床検査科」「呼吸器外科」「心臓血管外科」と続きました。
「病理診断科」「臨床検査科」では、確かに開業する意味はないと思われます。また、「救急科」「呼吸器外科」「心臓血管外科」と外科系の領域が続きますが、これらは病院内での処置や手術がなければ専門領域を発揮できず、診療所単体では経営が難しそうな診療科目です。
次にこの6年間で伸びている診療科目を見てみます。
ピックアップしてみると「腎臓内科」「糖尿病内科(代謝内科)」「乳腺外科」「心療内科」「アレルギー科」あたりが非常に伸びています。
ただし、「腎臓内科」「乳腺外科」については、全国的にも診療所数が少ないので、数にしてみるとそんなに多くなっているとは言い切れません。「腎臓内科」は、平成26年調査時点で1,720施設、「乳腺外科」にいたっては664施設しかありません。
伸び率だけでみると母数の関係で、大きく伸びているように見える診療科目がありますが、その点だけには注意が必要です。しかし、日本人が抱えている病気に対する治療を反映していることは確かなようです。乳がんの急増による「乳腺外科」や、年齢を問わずアレルギー患者が増えている「アレルギー科」などが考えられます。
また、特に著しい伸びを示しているのが「心療内科」「精神科」ではないでしょうか?年齢性別問わずストレスにさらされ、精神的に病んでいることが大きな原因であると考えられます。また、経営的にも優れた医業経営母体であることも影響しているようです。
「心療内科」「精神科」は、診療所自体そんなに広くなくて済む・高価な医療機器が必要ない・人件費が少なくて済むなどの理由から開業時の初期投資が少なくて済み、経営的にも有利な面もあります。「開業しやすい診療科目」としてずいぶん前から注目されていました。
診療所の経営収支
次に、診療所の収支はどのようになっているのか調査してみました。ここから医業経営のいろいろなものが見えてきます。
上記の表(一般診療所の損益状況)を見てみましょう。統計資料が診療所全体なので一部「入院」関連が収益に計上されていますが、数字的にもが小さいので無視していいレベルだと思います。この資料をそのまま信頼していいかという根本的な問題もありますが、今回はこの資料において医業収益に考えていきたいと思います。
これを見て一番感じるのは「介護収入」が低いことです。厚生労働省が懸念しているように、訪問医療に開業医があまり参加していないことがよくわかります。地域差もあるでしょうが、一人院長だと訪問医療まで手が回らないことが原因なのでしょうか?
また、収益も経費も前年とほとんど変わらないことを考えると、成長産業ではないことがわかります。職員数・職種・患者数などは掲載していないので不明ですが、1年間営業していてほとんど収益が変わらないことを考えると、職員全体のモチベーションはどのようなものか想像に値します。
平均医業収益が約1億2千万、経費が約1億で損益差額(=利益)が2千万という計算になります。(しかし、税引き前の収益なので実際の損益差額はもう少し下がることになります。)
医業経営は人件費比率が高いことがいわれていますが、この資料を見てもそのようなことがよくわかります。
それでは次に、経費の内訳を見てみましょう。経費のうち「給与費」が総収益の約40%を占めており、続いて「医業費用」(テナント家賃や医療機器リース料など)18%、「医薬品費」16%となっています。
「医業費用」は必要経費なので、どうにもなりません。また、いわゆる売上原価にあたるのが「医薬品費」ですが、これらは削りようがありません。
そうなると、やはりクローズアップされるのがやはり「人件費」でしょうか? 診療所規模で、4,800万円の人件費をどのように解釈するかにもよりますが、数人から10人ほどの規模で民間企業ならどう感じるでしょうか?
当然、経営状態は診療科目によって大きく変わることになります。
内科などは検査・収益も多いですが、経費もそれなりにかかっています。一方、眼科・皮膚科・精神科などは、内科などの診療科目などと比べても収益は多くはないですが、人件費をはじめ必要経費が少なく、損益差額はほとんど同じに推移しています。
以上のような分析から、今後減り続ける診療報酬に対して、どのような対策を打てばいいかということが見えてきます。収益が上がらないということを前提にすることよりも、収益を上げるためにはどのようなことを積極的に進めていかないといけないかということになるのではないでしょうか?
開業前・後に向けての、やるべきこと
さて前回のまでの記事では、開業準備として職員採用までの話をいたしました。「ここまで来ればひと安心」と胸をなでおろしている院長先生もいらっしゃると思いますが、ここから始まる課題があります。それは、「どのようにして運営(経営)していくか?」ということです。
財務は、顧問税理士さんなどに任せている院長先生も多いと思います。しかし、経営はお金の管理だけではなく、患者さん・職員・地域など様々な問題を抱えながら運営していかなければならないことになります。
開業準備するにあたって知っておいた方が、よい情報をこれからお話ししていきたいと思います。
病院ではほとんどタッチしておらず開業して初めて苦労されることは、人間関係ではないかと思います。病院の場合は医師が治療に専念できる環境が整っており、資金調達からや物品の購入・雑務までなどすべて事務方がやっていました。
しかし、開業するとそれらすべて院長先生が、行わなければならないことになります。どの企業からどのくらいのものを購入すればいいのか、あるいは医療機器のメンテナンスはどうなのか、などということ諸々のことを医業関連企業の営業マン相手に交渉しなければなりません。
また、診療中でも医療機器のトラブル対処やエアコン・水道など設備についての不具合などがあれば対処しなければなりません。自分で修理できるものなのかどうかを判断して業者に来てもらう手配などもあります。
特に突発的なのは、コミュニケーションの問題ではないでしょうか? 患者さんのクレーム対処やスタッフの不平不満の問題など、挙げればキリがありません。この問題も厄介なのは、各診療所によって問題の質や量が全部異なることであり、ルーチン化できないということなのです。
その対策としてよく聞くのが、日頃からスタッフとのコミュニケーションをとることといわれています。しかし、「コミュニケーションをとるってどういうことすればいいのか?」と感じる先生多いのではないでしょうか?
そのために重要なのが、「モチベーション」ではないでしょうか? 院長先生と同じ考え方によって、スタッフ全員が突き進むというのが理想です。ですが実際の職場においてどのようにすれば良いのか? 売上も経費も毎年一緒であれば給料も上がるはずないし、毎日やることが一緒でマンネリ化する可能性も大いに考えられます。
そんな時は、院長先生の「夢」を語ることが大切です。多少突飛なことでも遠慮せずに、スタッフに「夢」を語りかけてみましょう。そしてその夢を共有しましょう。そのために、KGI・KPIというものがあります。
※マーケティングに関しては、以前記事にしたこともあります。合わせてコチラもお読みください。↓
「医療政策と医院開業戦略 第6回: 医院開業を実現するために必要な3つのポイント」
医院開業におけるKGI・KPIって何でしょうか?
さて、ここで唐突に出てきたKGI・KPIってなんのことでしょうか?
- KGI:医療事業の目標を達成するために必要な指標のことを指します。
- KPI:KGIが達成するための重要業績評価指数のことを指します。
と、定義されることが多いようです。
これだけでは何のことかよくわかりません。それでは、具体的に話を進めていきます。KGIは、「目標」です。院長先生が何のために診療所を立ち上げたのかという「夢」を具体化した指標を掲げるとよいでしょう。
KGIの決め方
間違えやすいパターンとしては、「地域に密着した医療をやりたい」などをKGIにすると、どこまでいったら到達するの?ということになってしまいます。そのため、もう少し具体的なKGIを設定するといいでしょう。スタッフ全員が達成した喜びをかみしめられるものという観点が重要です。ここがしっかりしないと、KPIの設定もできません。
KPIの決め方
KGIが決まったら、KPIを考えていきます。KGIとKPIの関係性ですが、「小さなKPI」の積み重ねが最終的に「KGI」に到達するということが一番いい設定だと思います。
KGIとKPIの設定イメージとしては、下記の図をご覧ください。
いかがでしょうか? このようなことをPDCAサイクル(下記参照)に乗せることによって、小さなKPIをひとつずつ達成し、最終的にKGIが達成できるというプロセスを重ねていくことが重要です。
※PDCAサイクルとは…事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つ。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。
KGI・KPI・PDCA成功のポイント
- KGI・KPIは数字などの具体的な目標を設定すること(非常に重要)
- 最初から高いKPIを設定しない
- 結果も重要だが、そこに至るまでのプロセスがもっと大切
- PDCAを全員で達成することによって、チームワークが形成される
- KGI・KPIは進行状況によって見直すこともある
モチベーションについて
「モチベーション」はいろいろな場面で出てくるキーワードです。仕事には必ずこの「モチベーション」が必要です。そのため、行なっていることの意味が何の目的なのかはっきりするために、しっかりとしたKPIの設定が不可欠なのです。
そこで改めて「モチベーション」の意味について考えていきたいと思います。人間だからこそできる「モチベーション」ですが、一般的にはかなり間違った認識を持っていることが多いようです。
例えばこのようなケース
「目標を達成したら、みんなで食事に行こう!」
「目標を達成したら、ミニボーナスを出すから頑張ろう!」etc・・・
よくあるパターンですね。
過去・現在でもそうですが日本の社会ではよく見られるケースです。しかし、このような「ニンジンをぶら下げる」ことでコントロールしようとする「モチベーション」はダメなのです。このような考えではモチベーションは続きません。
なぜ、このような「ニンジンをぶら下げる」ことはダメなのでしょうか?それは、人間の持って生まれてきた「行動心理学」から派生したもので、他人に強制されたことに対して、その目標に達すると努力することをやめてしまうことがわかっているからなのです。
人間という生き物は「報酬」が発生する場面で、そのような心理が働いてしまい手を抜いてしまうのです。確かに、それは人の心の中で芽生えているので、見た目にはよくわからないかもしれません。
ただし、例外もあります。突発的に発生する「報酬」はこれには当てはまらないということです。
例えば、「今日はみんな頑張ったから(目標を達成して)、飲みに行こう!」は予測できない「報酬」なので、これには当てはまりません。
「モチベーション」とは自主的に行うものであって、他人に強制されるものではないことが大原則です。自主的に行うことにより「報酬」を当てにせず、しかも「長続きする」ということが繰り返し行われることになるものなのです。
そのための絶好のツールが「PDCA」なのです。みんなで話し合って決めたことを全員で協力しながら、お互い成長していくことが「モチベーション」なのです。この「PDCA」を行うことで小さな「KPI」をクリアしながら、最終的に「KGI」を達成することを繰り返し行うプロセスが重要なのです。
※参考文献:モチベーション3.0 ダニエル・ピンク著・大前研一訳
今回のまとめ
今回は、「診療所」という小さな世界をいかに有効活用できるかとテーマで、実際に開業している診療所の診療科目の傾向や収支という現実的な話から、診療所内の問題化解決方法の考え方まで述べてきました。これから開業しようと考えている先生方の参考になれば幸いです。
この記事を書いた人
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