第7回:医院開業成功の黄金法則とは?
■ 記事作成日 2016/7/8 ■ 最終更新日 2017/12/6
医院開業準備の鉄則
以前【医院開業を実現するために必要な3つのポイント】において無床診療所は、開院数が伸びてきていることをお伝えいたしました。また、閉鎖数も開業数に迫ってきていることもお伝えいたしました。
それでは、せっかく用意周到に準備してきた医院を閉鎖させないためには、どのような対策・準備が必要なのでしょうか?前回に、マーケティングのテクニックをお教えしましたが、今回はもう少し具体的な手法をお教えしたいと思います。
1.開業場所
開業地域に関しては、一番頭の痛いところでもあります。以前勤めていた近隣の地域にするか、出身の大学病院の近くにするか、あるいは無医村で地位医療に貢献するか・・・。
現在病院に勤務している先生であれば、せっかくファンになってくれた患者さんのことを考えると、あまりにも勤務先から遠隔地になると、患者さんの健康管理のことが気になったり、開業する医院の患者「見込み」が計算できないことなども、心配です。
また、今後は地域包括ケアが中心になってきますので、連携先病院が大きなポイントになってきます。
次に検討しなければならないことは、地域医療のリサーチをしなければなりません。この辺りから開業コンサルタントにお願いする先生も多いですが、これからの運転資金や設備投資に大きなお金が必要になってきますので、自分でできることはなるべく自分でするということが必要です。いずれにしても院長になればほとんどのことを自分でやらなくてはならないのですから。
開業地域の選択は、開業後の経営状態に関して大きな影響を及ぼします。開業コンサルタントなどの意見を鵜呑みにせずに、しっかりと自分で調査することが大切です。経営がうまくいかなくてもコンサルタントは責任を取ってくれません。
結局、責任を取らなければならないのは、最終責任者である「院長先生」なのです。
開業地域のリサーチの実際
開業地域を選択する上で大切なのは、リサーチです。確固たる調査の上、開業地域を決定する意味でも調査をしっかりしておきましょう。幸い、厚生労働省がこれらの調査結果を無料で公開しています。これらをしっかり利用した方がよいでしょう。「医療圏調査」ソフトを開発している民間会社もこれらの資料を利用して、独自の調査を行っています。
また、都心型のクリニックでは、保険診療以外にも健康診断・産業医契約等の自費診療による収入も見込めます。そのため、候補地周辺の調査も大切な作業です。どれくらいの規模の会社やビルが候補地周辺に存在するのか、などもリサーチに加えていっても良いかもしれません。
候補地の目の前が大きな公園だったり庭園だったりすると、患者対象数は半減したりして、医療圏調査や事業計画書に大きなマイナスになってしまいます。都心といっても、公園内には就業人口はないので、そのようなことはないのかという点でも留意していただいた方が賢明です。
それでは、次に調査方法の基本的な手順をみてみましょう。
(ア) 地域別診療科目数調査
上図は、全国の二次医療圏における診療科目別診療所数の資料です(上図はサンプルとして北海道を表しています)。この表を分析することにより、地域別の診療科目施設の過不足が把握できます。
これから何の診療を行うか戦略的な検討資料として、かなり有効な資料でしょう。
(イ) 地域別診療科目患者数調査
上図は、地域別診療科目別患者数を表しています(上図はサンプルとして北海道を表しています)。診療所を開設する時どのような診療科目を標榜するか、悩むところです。
しかし、開業後の患者数獲得のためにも、レッドオーシャン(競合がひしめき立っているマーケット)に後発組で行うより、ブルーオーシャン(競合数が少なく、独自性を生かしたマーケット)で勝負した方が、経営効率が高いことは誰でも知っています。
そういう意味では、この資料は大きな意味を持ってきます。先生の持っている専門分野で行くのか、あるいは枯渇している診療科目を狙うのか、経営戦略の核になります。
(ウ) 地域別検査別患者数調査
上図は、診療所で行える地域別各種検査の患者数を表しています。特に地方においては、特殊な検査が診療所でできるかどうかは、大きなポイントになります。また、検査は診療所にとって売上及び利益率に大きな影響を及ぼすので、開業時にどのような医療機器を導入するか検討材料として、非常に有効な資料になります。
(エ) 医療圏調査
今まで紹介してきた資料と電子地図や国勢調査などを統合した「医療圏調査」作成ソフトも多く出回ってきています(上図サンプル参照)。医療コンサルタント会社や製薬会社・医療関連業者などに依頼すると作成してくれますので、自分で作成するのが苦手な先生は、このようなツールを利用することも可能です。
ただし、この調査を行う時の前提は、開業する場所が確定してからでないと作成は困難なのでご注意ください。
(オ) 具体的な開業物件探し
以上のリサーチを行ってはじめて、開業場所の物件探しが始められます。当初は、インターネット上で検索するのが情報収集として一番効率的でしょう。いくつか候補が上がったら、不動産仲介業者に連絡して詳しい話など情報を収集します。
オーナーなどの意向などで不動産屋にとっては、内装工事が大掛かりな医療機関を入居させたくないことや、CT・MRIなどを導入したい場合は、事前に確認が必要になります。通常のオフィスビルでは、床の耐荷重はそんなに高く設計されていないので、注意が必要です。
以上のような条件がクリアになったら、さっそく下見に出かけましょう。駐輪場や駐車場の確認、患者さんの動線、エレベーターに車イスが入るか、段差はないのか、空調・水回りなどの設備の確認、部屋の広さ・形などチェックする項目は多岐に及びます。
下見は、曜日・時間帯を変えてみて、人通りや騒音の状況などを必ずチェックしておきましょう。
これらのチェックが終わったら、物件の契約に向けて家賃・保証金・敷金などの交渉に入ります。築年数・駅からまでの距離・人通りの数などによって、家賃金額も変わってきます。交渉の自身がなければ、それらのことに詳しい人を同席することも検討します。
2.各種設備予算計画
物件が決まると、開業する部屋や院長先生のコンセプトに合わせた内装工事や医療機器に入ります。この時に見積もりをしっかりとっておき資金計画に組み込みますが、内装工事と医療機器の購入費(リース代含む)が設備投資として大きな割合を占めますので、業者の選択は慎重に行います。
医療機器は高額なので、予算的に購入するケースは少ないと思います。そのため、リース会社を利用することになります。交渉の仕方によっては、数十万から場合によっては数百万も変わることもあります。
このとき忘れがちなのが、保守にかかる経費が意外に高くつくケースがあります。医療機器の機種選択時は、購入費にばかり気を取られているとかえって高くつくことも多々あります。保守管理料も踏まえて総合的に検討しましょう。
運転資金計画
資金の中で設備投資も重要ですが、毎月のやりくりのことを考えると、運転資金の計画も忘れてはいけません。特に、各種支払い・借入金返済とスタッフの人件費の確保です。
診療報酬の振込は、社会保険支払基金や国保連合会からは2カ月後に入金になります。この間でも家賃や業者への支払い・スタッフの給料は発生します。それらを補てんするだけの運転資金がプールされていないといけません。
これらも月々の経費としてしっかりと計画を立てていなければなりません。その上、開業間もないころは新規の患者さんもほとんど見込めません。病院勤務時代に築いた患者さんをいかに来院してもらえるかという「計算」が、開業当初では非常に重要なのです。
そのため、ほとんどの医師が勤務していた病院や出身の大学病院の近くで開業したがる理由はそこにあります。そのため、6ヵ月は収入がなくても運営できるくらいの運転資金を用意しておくことが大切です。
3.資金計画
事業計画書の策定
以上のような準備を行うことで、運転資金や設備投資がどれくらい必要なのか概要が具体化してきます。それらに応じて、いくら必要なのかを算出し金融機関などと融資交渉を行うことになります。
しかし、その前に院長先生が経営者として、どのような医院にしたいのかをはっきりしたうえで、事業計画を立てることになります。これら財務的な予測の立て方が、金融機関から資金を引き出す重要な資料になります。
これらは、医療機関専門の税理士や医業経営コンサルタントなどと検討することになります。従来の金融機関は、医療機関を安定産業として捉えて信用力が絶大でした。しかし、閉鎖する診療所が相次いだことや、医療政策が医療機関にとって逆風なったことも手伝い、今までのように安易に融資することが難しくなってきています。
そのため、しっかりとした事業計画や返済計画が不可欠になってきています。今まで、「経営」にかかわってこなかった医師は、自ら勉強することともに専門家と組むことが不可欠です。
その地域での医療方針・計画・状況をしっかり踏まえたうえで、これから開業する医院の立ち位置・ポジションを明確化することが大切です。
4.開業直前までの必須準備事項
(ア) 行政関連各種手続き
これらは、法律で決められた書類を各行政(保健所・都道府県・厚生局等)に提出する手続きです。これらは、ルーチンワークなので行政書士や開業コンサルタントに委託してしまった方が賢明です。そのため、ここでの説明は割愛します。
(イ) 職員の確保
医院の運営は、院長先生ひとりではやっていけません。必ず補佐してくれる看護師・受付などの職員が必要になります。遅くとも開業の3ヵ月前には、職員の教育や実際の診療シミュレーションを行いましょう。
さて、職員募集に関してはいくつかの方法が考えられます。最初はパートでと思っていても、求人広告を出さなければいい人材を確保できることはできません。
求人広告の出稿
求人広告を出そうにもどのような媒体で出すかによって、変わってきます。基本的には、新聞チラシ・フリーペーパー広告・求人誌などに掲載するケースと、インターネットが普及したことによるWeb求人情報サイトへの掲載に分かれます。
パートなど地域限定であれば前者が有効ですが、専門分野のスキルや高いレベルでの人材を募集するのであれば、Web求人サイトを利用した方が応募数も多く、有効です。
求人広告を出稿する場合「男女雇用機会均等法」などの法律で、男女別や年齢制限などあまり露骨に表現してはいけないこともあります。広告内容に関しては、出稿する業者さんとよく相談して求人内容をよく精査することが必要です。
応募者への対応
求人広告の対応
求人広告を出すと、電話やメールでの問い合わせや応募書類管理が必要になっ てきます。また、Web求人サイトにおいては、専用URLの管理画面での対応をしなければなりません。診療中に対応しなければならないこともあるので、誰に対応してもらうのか決めておいた方が無難でしょう。
応募書類の選考・連絡
次に、応募者の書類選考及び面接日の連絡です。履歴書や職務経歴書だけで応募者を判断することになるので、それなりの判断基準が必要です。書類選考に漏れた方への連絡や送付されてきた履歴書の処遇などをきちんとしなければなりません。
特に応募書類は、個人情報なので処分する場合は、そのままゴミ箱に捨てずに必ずシュレッダーにかけるなどの厳重な処分が求められます。
いい人材ほど足が速いのはどの業界でも一緒です。応募しても、他の医院に先を越され採用されてしまったり、応募を取り消したりすることも計算して、多めに候補者を確保しましょう。短期決戦ですので連絡を密にしておかないと、なかなか採用に至らないことが多いのが現実です。
面接・採用について
面接
書類選考で通過した候補者と実際に会って実務スキルはもちろん、どのような人柄なのか、院長先生および他のスタッフとうまくやっていけるのかということを吟味する数分間です。
面接に関しては面接官の主観が優先しますので、できればコンサルタントなど利害関係のない第三者に立ち会ってもらった方が賢明です。
採用
面接選考を通過したら、速やかに選考結果を連絡します。口頭で採用結果と採用の場合は、入職初日の日程を伝え、後日文書にて採用結果を郵送します。
入職手続き
雇用契約書や社会保険・雇用保険などの手続きを行うので、可能であれば者か保険労務士などの専門家に依頼するのが常道です。
【まとめ】
今回は開業するまでの準備について、述べてきましたがいかがだったでしょうか?今まで経験がなかったことが多かった場合は、いろいろな専門家の力を借りながら進めていただければと思います。
これらの準備を病院勤務しながらすることは、ほとんど不可能です。そのために、税理士や社会保険労務士、医業経営コンサルタントなどの専門家と協力しながら乗り越えていかなければなりません。
しかし、ダイエットと一緒でやせたら終わりではないことはご存知だと思います。目標体重になってからそれを維持することがダイエットの始まりなのです。それと同じように開業してからが重要なのです。
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