第12回:保険診療以外の収益を上げる4つの方法
■ 記事作成日 2016/10/6 ■ 最終更新日 2017/12/6
保険診療報酬のみに頼れない時代
いま日本の診療所は年間5,000件の新規開業がある一方同じくらいの診療所が何らかの理由で閉院しています。この傾向は、歯科診療所ではもっと動きが早く廃業が相次いでいます。コンビニ店舗とより多いといわれた時代は廃業率の高さを鑑みると、既に終わりを告げようとしているのかもしれません。
今後の医療政策の不透明さ
現在・未来の医療費の推移を見てみても、天井知らずのような状況であり、国費をいつまで投入するのか疑問が残ります。
最も医療費がかかる75歳以上の「後期高齢者医療制度」の患者負担を1割負担や、保険診療についても生死に関わる高度医療を優先して利用し、緊急性が低いものは自費診療になるなどの改革の可能性もないとも限りません。
地域包括ケア制度に関しても、都心部もとより地方においては人手不足が深刻化しており、特に介護職の報酬アップが非常に重要になります。
また、医療費高騰の原因は、日本独自の医療制度である「フリーアクセス」、すなわち医療機関を患者さんは自由に選ぶことが可能でその上、いくつもの医療機関を自由に利用できるということが、診療および投薬処方箋の重複化を招いています。
逆に考えれば、医療機関はその恩恵を受けて収入が増えたともいえるでしょう。
さらに心配ことに、自分の身体に関して自己管理がまだまだできていない患者予備軍が非常に多いということが医療費を押し上げていることも付け加えなければなりません。
発症初期のうちにタバコ・運動・食習慣など生活習慣全体を見直し、血液検査の結果を再評価するような習慣がまだ日本人にはついていないということです。
ここにも国民皆保険制度のほころびが見てとれます。
海外のように、医療費が高いことで健康に関する自己管理能力が研ぎ澄まされるという結果を生むことは実証済みです。
しかし、国民皆保険制度で医療費の自己負担の軽い日本においては、重症化してから医療機関を受診するというケースが多く、治療費の高騰と治療日数の長期化を招いています。
国民皆保険は、戦後間もないころに蔓延した結核などの感染症対策のために作られた制度です。そのため、経済成長を見込んだ前提で作られた経緯がありますので、現在の状況とはかなり目的がかけ離れているといわざるを得ません。
また、制度だけではなく医師個人の働き方にも変化ができつつあるのかもしれません。
これから先は、医師や診療科目の中でも仕事や収入に差が出るのではないかと推測されます。医師1人で活躍できるような治療技術などの付加価値がつけれることになるかもしれません。
そのようにして差別化が図られた診療科目や医師とそうではないものの格差がますます大きくなるでしょう。
医療業界の構造として並び主義でここまできましたが、きちんとマーケティングができて経営戦略を描ける医療機関が、頭一つ抜け出るという結果になるでしょう。それが、民主主義において当たり前のイデオロギーにやっと近づいたといえるのではないでしょうか?
保険診療の収益力
この現象は、かつてのいい時代の名残を踏襲した結果ではないからではないでしょうか?診療報酬という土俵の上で経営を行ってきた医療機関は、転換期を迎えているのかもしれません。開業すれば儲かるという方程式が崩れつつあります。
診療報酬・介護報酬の同時改定に加え、各都道府県ごとの医療計画も改定することになっている2018年は、大きな転換期になることは間違いありません。
診療報酬の改定といえば、2年ごとに行われ、毎回数%かの引き下げが行われてきました。しかも、医療費には消費税を加えることができないため、特に固定費の高い大都市圏の医療機関に関して収益を減らす結果につながっています。
後期高齢者や特定疾患療養管理料などが多い医療機関に関しては、定期的に来院することがあるため、毎月ある程度の収入保障が得られます。
しかし、開業間もない診療所や大都市圏に多い、ビルの診療所のようなスタイルの診療所では、再診患者の少ないという弱みがあげられます。
つまり、新規の患者を増やし続けなければ、収入は伸びていかないという医療機関独特の収入構図が浮かび上がります。しかし、保険診療ではこれが限界です。広告は規制され他診療所との差別化戦略がほとんどできない中、埋もれてしまう例が非常に多いのでないでしょうか?
そのような環境下、保険診療以外でなおかつ医療サービスで収入を得る方法をピックアップしました。今でできるもの、できないものといろいろありますが、今後開業を検討している先生方に向けて参考にしていただければと思います。
自費診療その他
診療報酬に定められていない医療サービス・治療を行い、治療費という収入を得るために、自費診療での安定収入は大切です。例えば歯科診療所がいい例だと思います。
コンビニの店舗より多いといわれた歯科医院ですが、ここ5年ほどは開設数が頭打ちの状態です。閉院・休止の数も年間に約1,300件以上にも上り、医科系診療所の約2.6倍にも上ります。
歯科の診療報酬は技術料が低く、患者さんにかかる診療平均時間時間も医科系の診察より長いため、非効率な診療スタイルを余儀なくされています。
そのため、歯科医院の大半は自費診療(歯科では自由診療と呼ぶことが多いようですが)を診療費収入の柱にスライドする歯科医院も多くなってきています。
従って、広告規制もほとんどなくなり、インターネット上での広告掲載が日常化しています。この事実は、いずれ医科系の診療所にも影を落とし始めることは、それほど時間がかからないでしょう。
これから、開業を計画している勤務医の先生も多くいらっしゃると思いますが、保険診療だけに頼ると経営的にも大変厳しい状況になることは、目に見えています。
民間企業でも、本業以外の収益が多いことはざらにあるので、医療機関のコンテンツ多様化ということが重要であるということを、筆者は提案いたします。
保険診療に頼らない道 =産業医=
今後は、患者個人だけではなく法人(企業)との関わりが非常に重要になってきます。そのひとつが、日本医師会が実施している「産業医」の資格取得です。
資格取得はそんなに大変ではありませんが、更新制になっており、5年間に20単位の取得が必要になります。
産業医の活動
産業医はどのような活動を行うのでしょうか?産業医は、「労働安全衛生法 第13条」によって50名以上の事業所に産業医の選任を義務づけています。
また、衛生管理者の選任も必要になります。事業所は産業医を選任すると、管轄している労基署に届け出ることになっています。
産業医の業務は以下のようになります。
- 月1回行われる安全衛生委員会の出席
- 安全衛生委員会のメンバーと職場巡視
- 社員の健康管理全般の権限
- 事業に対して、労働環境改善に関する勧告権
- 職場復帰を希望する社員の復帰許可
- 健康診断の結果確認と、その指導
- 長時間労働社員との面談 など
このようなご業務がありますが、産業医を請け負っている開業医の先生も、昼休みの時間帯に訪問や書類作成を行うだけで、月々の契約料と訪問料が毎月定期的に振り込まれてきます。原価がほとんどかかりませんので、粗利率は非常に大きいのです。
特に、メンタルヘルスに関しては厚生労働省の方針もあり、50名以上の事業所にはストレスチェックの実施が義務づけられています。これらの抑うつ状態の社員に関して、フォローする必要があります。
企業の人事・総務担当者には手に負えないことになるので、産業医の存在意義は非常に大きいでしょう。
参考URL:産業医になるには
http://www.zsisz.or.jp/insurance/naruniwa/
保険診療に頼らない道 =健康診断・人間ドック=
自治体による住民検診・がん検診
健康診断というと、各自治体が行う住民検診や各種がん検診は開業医の先生ならよく知られているところです。医師会に入れば、ほとんど行うことになるでしょう。
施設や医療機器の有無によって可能な範囲が決められていますが、地域によっては受診率が低いのが難点です(特にがん検診の受診率は非常に低いのが現状です ※下記参照)。
企業健診
一方、企業に勤める社員の健康診断を行うという手段もあります。通常は、病院などによりレントゲン車などを使って企業の会議室などを会場にした巡回を行うのが通例です。
しかし、レントゲン車の駐車スペースがなかったり、事業所の社員数が少ないなどの理由で健康診断ができない事業所が存在します。
そのような事業所の社員は、どこかの医療機関に行って健康診断を行うことになります。そのような事業所の社員は、クリニックなどで受診することになります。
特に、産業医を契約している事業所に関しては、比較的容易に健康診断を受診することが可能ですので、産業医契約と健康診断受診料の両方の収入が見込めます。
また、健康診断を行うことによって、再検査や精密検査などを新患として保険診療で検査などを行うことが可能です。通常、医療機関では健康診断を行うことで、収入を確保すると同時に、このような新患を増やす目的で行うことも手段のひとつです。
さらに高単価な人間ドックであれば、胃部レントゲンや胃部内視鏡検査などの設備があれば実施が可能です。
人間ドックの場合、女性では婦人科検診や乳がん検診あるいは各種腫瘍マーカーなどのがん関連検査をオプションで行うことも多いので、さらに収益アップに貢献します。
定期健康診断は法令で決められた年齢に応じた検査項目しかできず、低単価です。しかし、人間ドックでは、検査項目は医師の専門性に応じて医療機関によって自由に組み合わせることも可能です。
例えば、レディースドックやがんドックなど名称・メニュー・金額も工夫次第で、自由に作ることが可能です。
保険診療に頼らない道 =各種がん検診やがん治療(免疫療法など)=
検査方法の進化によって、腫瘍マーカー以外でもがんのスクリーニングや初期の動脈硬化から脳梗塞の発症リスクを評価する検査項目があります。「アミノインデックス」や「Lox-Index」などが代表的ものです。
検査方法のエビデンスを確認して、各医師が導入するかどうか決定すればよいのではないでしょうか。
がん治療を専門に近年注目されている「免疫療法」を取り入れている診療所が増えています。医師とのカウンセリングの後に、各種検査の他に、採血によって採取した免疫細胞を培養し、注射や点滴するという治療です。
医療機関によってバラつきがありますが、治療費に関しては3ヵ月ほどで約200~300万かなり高価格な治療法です。最近は日本人だけではなく、東南アジアからの患者さんも増えているようですので、これからインバウンド関連の患者さんが増えてくることが想定されています。
保険診療に頼らない道 =MS(メディカルサービス)法人=
医療機関では医療サービス以外の収益をあげることが禁止されています。その対策として、民間会社を設立することもよく利用されている手法です。
特に、法人化して入れば節税効果も高く、このような目的の法人をMS法人と呼びます。株式会社や一般社団法人などを設立することが多いようです。
地方の場合ですと、病院や診療所の土地・建物などの固定資産をMS法人が取得し、医療機関が賃借しているようなケースや、院内やWebサイトでのサプリメントなどの物品の販売・医療関連サービス・健康産業サービスなどの無形商材も扱うことも可能です。
資金力があれば、医療機器の購入や人件費もMS法人で負担し、医療機関にリース及び業務委託を行い、マージンを利益とする手法も取られています。
いずれにしても、法人を複数にすることにより節税を計ることが可能です。これらの詳細は、顧問税理士と相談しながら進めると良いでしょう。
このように、医療政策に左右されないMS法人の営業利益は、医療法人にとって安定した経営グループを構築することになるはずです。アイデア次第で医療機関ではできなかったような医療サービスを展開できます。
しかし、過去にもそれを悪用して動産などの購入・売却などその他の社会問題になったケースも少なくないため、医療グループとしての品格を保ち品位のある経営を行なっていたればと思います。
まとめ
以上のように日本の国民皆保険は、制度上の疲弊を露呈しています。経済成長してきた日本では、それまでは良かったですがこれからはそうもいかなくなってきています。
地域の健康を預かる診療所の役割を果たすために、自費診療・自由診療という言わば「聖域」に積極的に取り入れた施設だけが生き残る、そんな時代の入り口に差しかかってきたような気がしてなりません。
この記事を書いた人
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