第7回: ムンテラは“中学生にも分かる言葉”で
■ 記事作成日 2016/7/11 ■ 最終更新日 2017/12/6
医師資質の中で「コミュニケーション能力」が持つ重要性は高い
元看護師のライター紅花子です。
このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。
以前、診察室での場面における、患者さんとのコミュニケーションについて、「してはいけない3つのこと」をお伝えしました。今回は、さらに1歩進んで、医師から患者さんへの病状説明、いわゆる「ムンテラ」におけるコミュニケーションについて考えてみます。
診察室では、対等な立場なのか?
外来診察室で、あるいは患者さんが入院しているベッドサイドで、患者さんの病状を確認したり、主訴を聞き出すためには、ある程度のコミュニケーション能力が必要です。そこには、医師 vs 患者 という間柄において、対等な関係があるはずです。
ここ数年、看護師のホスピタリティ、いわゆる「おもてなし」についての改善が図られている病院が増えています。患者さんをお客様と捕らえる必要はありませんが、そもそも「患者さんが何をしてほしいのか」は、看護師が察するだけでは完結しません。
そこには「患者さんから教えてもらう」というスタンスも必要なのです。その前段階として、「患者さんへのおもてなしの心を持つころで、信頼関係を築き、より良いコミュニケーションにつなげる」という考え方があります。
これを、医師の立場で考えてみます。
診察室での診療時、あるいはベッドサイドへの訪問時、医師としては、ある程度のデータもありますし、おおよその病状についての予測はできているでしょう。
しかしそこには「患者さんの思い」は入っていません。これを上手く引き出すのが、医師のコミュニケーション能力にかかっているわけです。そこには看護師同様、「患者さんから教えてもらう」というスタンスも考慮されるものではないでしょうか。
一昔前とは違い、「問診」は、単なる医師にとっての情報収集の場ではなく、患者さんとの信頼関係を築く、あるいは患者教育や、治療への参加を促す場となってきているのです。
ムンテラは、医師から患者への一方通行?
しかし、ムンテラはどうでしょう?
患者さんの主訴、さまざまなデータなどから、患者さんの病状を推測し、患者さんの思いを加味した治療方針を立てました。ここまでは、医師の知識と経験のなせる業かもしれません。
しかし、この「病状説明」と「治療方針の説明」は本来、医師から患者さんへの一方通行で伝わるものです。もちろん、ムンテラ途中に患者さんの訴えがあって、治療方針等が多少は変わることもあるでしょう。
そこには医師の知識と経験があるわけですから、やはり変わった内容を伝えるとしても、あくまで「医師から患者さんへ伝える」というスタンスは変わりません。一方通行で、言葉を投げかけることが、一般的なムンテラのスタイルではないでしょうか。
ところで、ある民間企業の調査によると、患者さんの6割以上の人が「診療中に聞きたいことを聞けないことがある」と回答しており、医師とのコミュニケーションに満足していない状況が明らかとなったそうです。
さらに、どこに不満があったのかを聞いたところ、「病状・診断結果の説明が不十分」、「質問がしづらい」、「医師の言葉遣いが悪い・きつい」、「治療・処置方針の説明が不十分」という回答が、上位を占めていました。言葉遣いが悪い・きついは、本人の性格などにもよりますよね。先ほどの「ホスピタリティ」とは、かけ離れたものであることは確かです。
では、「説明が不十分」である背景には、何があるのでしょうか。
医師に求められるのは、知識や経験よりもコミュニケーション?
厚生労働省が管轄している有識者会議に「医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」というものがあります。ここでは、2015年12月の会議において「医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方について」という議論がなされています。
それによると、今後の研修医の臨床研修の到達目標として、「資質・能力」という大項目があり、その中の筆頭としてあがっているのが「コミュニケーション」です。次が「チーム医療」で、「医学知識と問題対応能力」はさらに次です。
ここで、先ほどの民間調査結果に戻ると、医師からの「説明が不十分」なところに、患者さんは不満を抱いています。これはつまり、医師の視点と患者の視点がかみ合っていないことから、患者さん(相手)が知りたいと思うことを、患者さん(相手)に分かる言葉で説明する、という本来の「コミュニケーション」のあり方から、離れてしまっているためではないでしょうか。
これをわざわざ、臨床研修の目標に掲げるということは、今、国(厚生労働省)や日本の社会全体が、こういうことに長けた医師を求めている、ということなのだと思います。
患者さんの「説明が不十分」という感情を減らすために
私が新人看護師だったころ、患者さんへの説明が上手い医師から、「患者さんに説明するときは、中学生くらいに話す気持ちで」といわれたことがあります。
たとえば「腫瘍とともにリンパ節も隔清します」という言葉は、中学生にはさすがに通じません。そんなときその医師は「腫瘍と、その周りにある“がんの種”がありそうな部分も、一緒に切除します」という言い回しに変えていました。
こういう、ちょっとした気遣いだけでも、患者さんの「説明が不十分」という感情を、減らすことができるのではないでしょうか。
参考資料
厚生労働省 2015年12月24日 平成27年度第2回医道審議会医師分科会医師臨床研修部会議事録
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000112683.html
同上 資料1-1.臨床研修の到達目標、方略及び評価の骨格案
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000108015.pdf
医療安全推進者ネットワーク 研修医に求められるコミュニケーション力とは?
http://www.medsafe.net/contents/recent/77kensyu.html
株式会社ギミック 通院患者に関する調査レポート 2014年版
http://gimic.co.jp/_data/dflabo/pdf/20140203_01.pdf
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