第20回:【再検証】ドクターX的なフリーランス外科医師は本当に存在するのか?
■ 記事作成日 2017/8/8 ■ 最終更新日 2017/12/6
外科医がフリーランス医師として生きることは可能なのか?
元看護師のライター紅花子です。
このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。
今回は、一般的に拡大しつつある「フリーランス」という働き方が、「外科医師」という職業でも可能なのかどうかを、調べてみました。
※当サイトでは過去の記事においてフリーランス医師を様々な角度から検証していますが、今回はあくまで「外科医師」のケースに関する調査記事となります。
フリーランスの外科医師はどこにいる?
「フリーランスで働く医師」として、数年前からTVドラマ等で話題になっている「ドクターX」、ご存知の方も多いかと思います。ドクターXとは、2012年に第1シリーズが放送されて以来、大ヒットを重ね、2016年に第4シリーズが放送された、「ドクターX 外科医大門未知子」というTVドラマです。
フリーランスの外科医師が「私、失敗しないので」という名セリフとともに、どの分野のどんな手術でも行ってしまい、そして成功するというドラマです。まるで、ブラックジャックのようですよね。ドクターXは、無免許ではありませんが(設定上)。
しかし、現在は専門医制度が普及したためなんでもどこでもオペしますという大門未知子のような医師は、減っているのだそうです。しかしそれ以前に、ドクターXのような医師は現在、本当に存在するのでしょうか。
「ドクターX」のモデルとは
ノンフィクションドラマの場合、モデルとなる人物は存在しないことが多いのですが、ドクターXにはモデルとなる医師が存在しているようです。その医師は現在、ニューヨークを拠点として、世界的に有名な移植外科医としてご活躍されています(2017年7月現在)。
このプロフィールを見てお分かりいただけるように、この医師はニューヨークの病院に籍を置く、移植外科医です。日本では、あまり馴染みの無い科ですよね。
世界中から、手術のオファーが届くほどですから、ドクターXのような失敗もほとんどしない「確かな腕」はあるのでしょう。しかし、結局のところは「移植外科」の専門医であり、脳からつま先まで様々な部位のオペを、一人でいくつも経験した、ということとは少し違うようです。
結論として、ドクターXにモデルとなる医師は実在しているものの、ドクターXと同様のキャリアを持った医師は、少なくとも日本には存在していない、ということになるようです。
日本で働く医師は「ドクターX」になることができるのか
このことから、日本にいる医師がドクターXになることができるのかを考えていきます。
現在、日本には専門医制度があり、各学会の課題や試験などをクリアすることで、認定されています。
「○○専門医」という称号を与えられ、その分野の診療のスペシャリストに成り得る、という制度があります。一方、この認定基準は学会によって大きく異なっており、専門医の技量にばらつきが見られることから、「専門医」の質を担保し公的な資格とすべく、中立的な第三者機関である「一般社団法人日本専門医機構」が設置する19(基本18分野+総合診療科)の専門医を認定する、と定義した「新専門医制度」の制度化に向けて、現在まさに検討・準備がなされているところです。
これらの資格を得るためには、やはりその分野での大病院での勤務が必要となり、フリーランスの医師での取得は、ほぼ難しいと考えられます。
これらのことから、日本では専門医がその専門分野の治療にあたるという流れが一般的であり、例えば「胃と腸の手術を同時に行う」ことはあり得るものの、「脳と開腹手術というような診療科が異なる部位の手術を、一人の医師がすべて行う」ということは、ほぼありません。
また、医師の技量という視点のみならず、診療算定という報酬の面からも、決まった部位や症例でない限り、複数部位を同時に手術しても、実際に算定できるのは一つの術式のみ、が原則のようです。
例外として、高次救命医療センターなどでは、救急搬送された患者の同時手術を実施するケースもあるようですが、これに関しても一人の医師が全ての手術を同時に行っているわけではなく、これまでの例を見る限りでは、それぞの診療科の医師が、それぞれの部位の手術を行っている、ということになります。
つまり、現在の日本でドクターXのような外科医師になることは、ほぼ不可能ではないでしょうか。
ただし、外科系の医師としては不可能に近い世界ではあるものの、麻酔科医に関してはフリーランスになり、医師転職情報会社から求人情報を得ながら、契約に応じて出張麻酔科医として働く実例があります。つまり、TVドラマの中にも出てきたように、麻酔科医はフリーランスとして働くという働き方はできるということです。
まとめ:外科医のドクターXになりたければ、救急分野で働くことが得策か
上記のことから予定手術の場合、脳外科と耳鼻科など、一部は同時手術を行う例もありますが、それ以外では「一度に複数部位の同時手術を行うこと」は、稀といえます。唯一、高度の救急医療を担う分野では、一度に複数部位の手術をする機会があるため、後学のために、もしくはドクターXのような医師になりたいという場合は、救急分野に携わることが得策なのかもしれません。
しかし、ドクターXのようにフリーランスで外科医となり、同時に複数部位を手術したいと思う医師が本当にいるかどうかは、疑問ではあります。
まとめ
結局のところ「人間関係が開業のすべてを支えている」と言っても過言ではありません。したがって、早期開業はもちろん、医師自身にとって“得”が多いものかもしれませんが、勤務医の間に人間関係のノウハウを十分に学び、「人間関係の部分で損をしないマネジメント力」をつけてから開業するというのが、1番「得をする道」なのかもしれません。
参考資料
厚生労働省 新しい専門医制度
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000080199.pdf
日本環境感染学会 JHAIS 委員会 手術部位感染サーベイランスマニュアル
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/jhais_SSI-manual.pdf
岐阜大学医学部附属病院 高次救命医療センター
https://www1.gifu-u.ac.jp/~qqa/section.html
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