第18回: 「高齢医師の働き方と働く場所」に関する一考察
■ 記事作成日 2017/6/14 ■ 最終更新日 2017/12/6
高齢医師の働き方と働く場所
元看護師のライター紅花子です。
このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。
今回は、「高齢医師の働き方と働く場所」について、実際に現役で働いていらっしゃる70歳以上の医師(3名)から、実際に聞いた話を基に推察していきます。
高齢医師が働きやすい職場は介護老人保健施設
高齢医師が働きやすい職場として挙げているのが、福祉施設の一つであり、医師が常駐する「介護老人保健施設」です。その理由として、次のようなことが挙がりました。
- 急変が少ない
- 患者さんと実際に関わる業務より、時間をかけて作業できる「書類」の業務が多い
- ほとんどの勤務日で、定時退勤が可能
- 食事や間食、自宅までの送迎の補助がある
また、出勤したとしても、普段は医師専用の部屋に居ることが多く、書類作成などの業務が終われば、基本的には「待機」となるので、比較的ゆっくりと時間を使うことができるのだそうです。
医師自身も、加齢により心身への疲労が出やすくなりますので、業務内容や時間の使い方に余裕があり、定時で帰れるというところは、働く条件として魅力的なのだそうです。
自分の身体を労わりながら医療に携われるという「介護老人保健施設」は、実際に従事する高齢医師が、長く働き続けたいと思う職場といえるのではないでしょうか。
高齢医師が働き続けにくい職場は、自分が開業したクリニック?
一方で、高齢医師が「働き続けにくい」との声を上げるのが、クリニックでの勤務です。特に、「クリニックに雇用される」立場ではなく、自らが開業をしている医師の場合、多くの苦労があるようです。その理由として、以下のようなことが挙がりました。
- 自分が体調不良となったときでも、急に“休診”できないのがしんどい
- 経理の部分など、自分以外のスタッフを雇用する必要があり、管理がしんどい
- 患者の訴えが聞こえにくい(自分の聴力が落ちた……)
- 老眼により、過去に書いたカルテが見えない、電子カルテの文字が見えない
このほか、「紙のカルテを今さら電子化するのは難しい」という側面もあるようです。
特に若いうちに開業した医師は、若いうちの感覚で使いやすいように、設備を整えてしまっているので、高齢になってから「使いにくい」と感じる部分もあるようです。
また、自分一人で診察を行っているクリニックの医師は、クリニックそのものの信用や、雇用者への給与面に影響を及ぼすため、自分の都合では休みにくい状況がずっと続いていると言います。
そのため、体力的な面や、開業しているという経営者の面、診療業務を行う医師としての面で、高齢になってからは特に「働き続けにくい職場」として挙がるようです。
“往診”は若いうちだからこそ出来る仕事
お話を伺う中で、こちらからも質問を投げかげてみました。
「国の方針として、【患者さんはなるべく自宅へ、在宅療養を推進する】という流れがありますが、これについてはどう感じますか?」という質問です。
これに対し、ある高齢の医師からは「“家で最期を迎えたい”という気持ちは分かるし、国の状況として【自宅での療養を推進】というのも、理解は出来る。しかし【在宅療養】【在宅医療】となると、看護師さんだけではなく、医師による“往診”の需要も高くなる。
ところが“往診に行く医師も高齢化”しているのは事実であり、やってみるとこれが結構しんどい。(患者さんとはいえ)“人の生活スペースに入る”ことや、短時間で複数の移動を繰り返すのは、年をとるとやりにくくなるよ」とのこと。
これはあくまでの一人の医師の考え方ではありますが、「“往診”は、若いうちだからこそ出来る仕事だと思うよ」と仰っていました。
高齢医師達の”働き方”の一考察
お話を伺った高齢医師の方たちが、最後に話して下さったのは「長く医療に従事していたいと思うならば、ある程度の年齢になったら、非常勤として働くのが最適な働き方である」ということでした。
非常勤での雇用なれば、契約内容によっては平日の5日間丸ごと勤務しなくても良いわけですから、医療に携わりつつも、自分の心身を労わって働き続けることが出来るのだそうです。また、雇用面や経済面といった、“診療”という仕事以外のことに気を揉むことなく、働き続けることも出来るのだといいます。
多くの医療施設が65歳の定年を迎えた後も再雇用という形をとれば、非常勤で働き続けることはできますが、自分で開業してしまうと、一生現役で働き続けるケースが多くなります。
もちろん、途中で上手く「代替わり」が出来れば良いのですが、自分で「引き際」を見極めることが必要です。
厚生労働省の行った調査によると平成26年時点で医療施設に従事する70歳以上の医師は26,725人で、医師全体の9%を占めており、病院以外の勤務先も含めると9.8%、およそ1割という結果でした。
日本は全体的に高齢化が進んでいるのは事実ですが、時系列でみると「高齢医師」が占める割合は、徐々に減ってきているように見えます。しかしこれは、「若年~中堅の医師数が増えた」結果でもあります。
医師の中には、生涯現役という考えの方がいらっしゃいますから、例えば現在の50歳代以上の医師が70歳代になるころには、この「構成割合」も大きく変わることでしょう。
ある程度の年齢を過ぎたら、自分の身体を大切にしながら医療に従事していたいという医師は「非常勤として雇用されることで働き続ける」ことができるでしょう。あるいは、第一線で働き続けたいという医師は「開業して生涯現役」という道もあるようです。
ライフワークバランスを保つということは、若い世代だけでなく、高齢となっても働き続ける秘訣となるのかもしれません。
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