第12回: 良い医師がいるから良い病院となり、さらに良い医師が集まる
■ 記事作成日 2016/12/20 ■ 最終更新日 2017/12/6
良い医師と良い病院の関係
元看護師のライター紅花子です。
このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。
今回は、前回のコラムでお伝えした名医と良医からさらに一歩踏み込み、良い医師と良い病院の関係にについて考えてみたいと思います。
元医療コンサルタントから見た良い病院とは
数年前のことですが、医療コンサルティング会社にお勤めされていた元医療コンサルタント(以下、Aさん とします)の方と、お話しさせて頂く機会がありました。多くの病院のコンサルティングに従事してきたAさんのお話で印象に残ったのは
- 良い病院だから良い医師が集まってくるのではない
- 良い医師がいるから良い病院となる
- さらに連鎖反応のように良い医師が集まってくる
ということでした。つまり、医師として働く上で良い病院かどうかを見極めるためには、その病院に良い医師がいるのかどうかが、1つの判断基準となるとのこと。元医療コンサルタントの方のお話を基に、良い病院について考えてみます。
たくさんの診療科が強みの病院が良い病院とは限らない
では実際に、」医師の視点から「良い病院とは?」と考えると、地域の中核病院や、いわゆる総合病院・大学病院のような、多くの診療科が備わっていて、最先端医療が経験できるところと考えてしまうかもしれません。
しかしAさんによると、多くの診療科がある病院が必ずしも良い病院であるとは限らないのだそうです。
診療科がたくさんある病院、特にどの診療科もそれなりに有名であるところは、その診療科を全て良い地位に立たせようと、病院側が奮闘します。
すると、病院の基盤を維持するために、ポイントを置くべきところが曖昧なものとなり、そのうちの一つの診療科が傾きを見せた時に全診療科が崩壊する、いわゆる共倒れする可能性が否めないというのが、Aさんの見解でした。
医療コンサルタントが経営破綻した病院を立て直すときには、まず基盤となるであろう1診療科の基盤を築き上げる(再構築する)ことから始めるのだそうです。
1つの診療科が活気を取り戻し、ある程度の集患ができると見込んだ時点で、他の診療科をどう盛り上げていくかを考えるとのこと。
この時点までくると、医療コンサルタントとしてはその病院から撤収し、そこから先は病院独自にお任せしていくとのことでした。
つまり、1つでも良いので「確固たる地位を獲得した診療科がある病院」は、基盤が揺らぐことが少なく、安定した収入を見込めるようになります。
収入が安定しているということは、患者数が安定していることになりますので、いろいろな症例を診ることもできます。医師としての学びを深められる、ということですよね。
また、もう1点、Aさんが話されていたのは、経営難と人間関係は相関関係にあるということです。経営難にある病院はとにかく集患に注力し、現場の仕事量を顧みずに患者を集めようとします。
すると、現場の人(医療者)は馬車馬のように働くこととなり、疲弊してしまうのです。その疲弊した心が同僚や後輩たちの行動に対しての苛立ちを生み、トラブルの火種となり……という悪循環が生まれる可能性があるのだそうです。
実際に、経営難に立たされている病院の方が、経営が潤っている病院よりも、現場の人間関係は殺伐としているとのことでした。これは、看護師も同じかもしれません。
以上のことからも、多くの診療科が強みという病院が、必ずしも良い病院ということにはならない、という図式が浮かんできます。
良い医師の元には良い医師が沢山集まってくる
もう1つ、Aさんのお話しで印象的だったのは「良い病院であるから良い医師が集まっているのではなく、良い医師がいるからこそ、連鎖反応のように良い医師が集まるようになっている」ということ。
良い医師がいれば、当然その噂は患者の耳にも入り、大勢の患者が訪れることとなります。
医師の立場からみると、患者数が増えればそれだけ「いろいろな症例に出会う」機会が増えますよね。すると、その診療科で学びたいと考えているやる気のある医師が、入職を希望するようになります。
やる気のある医師が多く入職することによって、さらにその診療科は盛り上がりを見せ、患者数が増加して様々な医療に触れる機会を得ることができます。
こうして、良い医師がいる病院は評判を生み、よりよい病院へと成長していくことができる、ということのようです。ものすごく時間がかかることではありますが。
高度な最新医療を提供するわけでもなく、病床数が決して多くは無い病院であっても、来院患者数が多く、地域では「良い病院」だといわれ、病院の基盤が安定している病院が存在している理由には、この「良い医師がいる」ということが、密接に関係しているようです。
また、患者さんが考える「良い医師」は、その医療技術はもちろんですが、コミュニケーション能力や人間関係の構築にも達観している医師が多く、集まってきた良い医師達も、職場環境が功を奏するのか「離職率が低いケースが多い」と、Aさんは言います。
良い医師が安定して長期で働き続けてくれるからこそ、良い病院という地位は確立されていくのでしょう。
良い病院を作るのは良い医師である
結果的に、良い病院を作るのは良い医師である、ということのようです。
良い病院は、医者としての知識、技術の獲得だけではなく、人間関係やコミュニケーション能力を向上させる効果があるようです。良い病院で鍛えたそれらのスキルは、いつ、どのような場においても生かすことができるのでしょう。
正に、医師人生の宝ともいえることかもしれません。
次回は急変対応からみる医師の素質について、看護師の視点から考えていきたいと思います。
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