脳神経外科医の現状(厚労省医師数調査から)
■ 記事作成日 2016/11/17 ■ 最終更新日 2017/12/6
医師数は多い方だが、増加率はそれほどでもない
厚生労働省の調査によると、2014年の脳神経外科医の人数は7,147人で、全医師数296,845人に占める割合は2.4%でした。「少ない」と感じるかもしれませんが、40科中14番目に多い数です。
2004年との比較では、脳神経外科医は860人増え増加率は13.7%でした。医師全体が2004年から2014年までの10年で15.7%増えているので、脳神経外科医の伸び率は高いとはいえません。
医師数 | 2004年 | 2014年 | 増加率 |
---|---|---|---|
脳神経外科医 | 6,287人(13位) | 7,147人(14位) | 860人(13.7)% |
医師全体 | 256,668人 | 296,845人 | 15.7% |
医師全体の平均年齢より若いが高齢化のスピードが速い
脳神経外科医の2014年の平均年齢は48.9歳と、医師全体の平均年齢49.3歳より0.4歳若い結果となりました。
ただ2004年の脳神経外科医の平均年齢は44.4歳でしたので、10年で4.5歳上昇したことになります。若い順ランキングでは、2004年には12位でしたが、2014年には23位まで落ちています。
2014年のランキングには、2004年にはなかった「臨床研修医」「救急科」「感染症内科」など若い医師が多い科が登場していますが、それでも脳神経外科医の高齢化のスピードは速いといえます。
その傾向は、医師全体の平均年齢と比べるとくっきりします。医師全体の平均年齢は2004年の47.8歳から2014年の49.3歳へと、1.5歳しか上昇していないのです。
このことから「研修医ら若い医師の『脳神経外科医人気』はかつてほどではない」ことが推測されます。
平均年齢 | 2004年(若さ順位) | 2014年(若さ順位) | 高齢化 |
---|---|---|---|
脳神経外科医 | 44.4歳(12位) | 48.9歳(23位) | 4.5歳 |
医師全体 | 47.8歳 | 49.3歳 | 1.5歳 |
脳神経外科医の求人票ひろい読み
手術スキルで最大3倍の年収差! 「手術補助」レベルだと1000万円割れか
医師求人サイトの「リクルートドクターズキャリア」に掲載されている脳神経外科医の求人票の数は532件で、他科と比べて多い方です(2016年11月現在)。
脳神経外科医の年収の特徴は「差が大きい」ことと「高くない」ことの2点です。
「850万~2500万円」「900万~1800万円」という提示をする求人票もありました。注目したいのは1000万円を割り込んでいることだけでなく「幅」です。2~3倍もの年収差を公にする求人票は他科ではあまりみかけません。
これは雇用主である病院側が、手術スキルによって年収を決めたいと考えているからではないでしょうか。脳神経外科は臨床現場だけでなく、収入面でもシビアな世界であるといえるでしょう。
2000万円以上はかなりのハード業務が予想される
次に「高くない」についてですが、同サイトで「全国」「脳神経外科」「年収2,000万円以上」で条件を絞り込むと、6件しか該当しませんでした。母数が532件ですので1%ほどです。他科に比べてかなり寂しい数字といえます。
そんな中で、東京都八王子市の病院は「2000万~3000万円」という破格の条件を提示しています。
ただこの求人票を読み解くと、激務が容易に推測できます。また休みも週休2日制ではなく、日曜と祝日と長期休暇しかないのです。
地域 |
年収 | 業務内容 | 当直 | 勤務/休み |
---|---|---|---|---|
札幌市西区 |
850万~2500万円 | 手術、外来、病棟 | 月2~3回 | 4~5日/週、応談 |
大阪市浪速区 |
900万~1800万円 | 手術(脳卒中、脊椎脊髄)、外来病棟 | 有 | 週休2日+祝日 |
広島県福山市 |
1200万~2000万円 | 手術、外来、病棟、救急車9台/日 | 有 | 週休5日 |
東京都八王子市 |
2000万~3000万円 | 手術(脊椎、1日2~3件)、外来、病棟 | 有 | 日、祝、年末年始、夏季 |
学会トップ嘉山理事長はかく語りき
脳神経外科分野を代表する学会は、一般社団法人日本脳神経外科学会です。
同学会の理事長は2016年11月現在、嘉山孝正氏医師で、山形大学医学部参与という地位にあります。嘉山氏は国立がん研究センター理事長などを歴任した日本を代表する医師です。
ただ氏は、一般の人がイメージしている「偉大な医師」とは一線を画するところがあります。あの日本経済新聞が「国立がん研究センターの改革に辣腕をふるった人物としても知られる」と評するほどです。
さらに週刊誌の批判記事にも毅然とした態度を示すなど、「モノ言う学会トップ」といえるのではないでしょうか。
氏の功績などを追いました。
山形に最新がん治療装置がやってくる
日経新聞電子版は2016年5月、「最新がん治療、山形の学生に夢」と題する記事を掲載しました。
内容は、山形大学医学部に東北で初めて重粒子線がん治療装置が導入される、というものですが、記事のスポットは嘉山氏に当たっています。
つまり、最新の医療機器が東北大学医学部ではなく、山形大学医学部に導入されることになったのは、嘉山氏の功績が大きい、というのです。
記事が出たときの嘉山氏の肩書は山形大学医学部参与ですが、以前は同大学の医学部長を務めていました。このときも「辣腕」をふるい、附属病院への救急搬送件数をそれまでの年200台から10倍の2000台に増やしたのです。
こうした「馬力」が、重粒子線がん治療装置の導入でもいかんなく発揮され、サッカー場ほどの広さが必要な巨大加速器の設置が課題になったとき、嘉山氏は東芝と共同で新たな加速器を作ってこれを乗り越えたのです。
嘉山氏がこれほどまでに情熱を傾けることができたのは、最新医療機器を導入すれば世界の学者が山形に集まるようになり、そうなれば山形大学の医学部生のやる気が出る、と考えたからです。
重粒子線がん治療装置は2019年10月に稼働予定です。
週刊現代の批判記事に真っ向反論
週刊現代は2010年に「『国立がんセンター』にがんが巣くっているらしい」というタイトルの記事を掲載し、当時国立がん研究センター理事長だった嘉山氏のことを批判しました。
この記事の背景には、ある国会議員が「嘉山氏は脳外科専門で、がん研究ではほとんど実績がない」と発言したことがあります。
つまり週刊現代は、「そのような人物を国立がん研究センター理事長に就かせたのは政治的な意図が働いたのではないか」と邪推したのです。
しかし嘉山氏は、がんの低酸素状態を証明し、この研究分野での特許も取っています。
これは世界初の画期的な研究といえます。
また「がん医」としても、日本脳腫瘍学会や日本脳腫瘍の外科学会の会長を歴任していて、基礎研究でも手術でも十分な業績を挙げているのです。
嘉山氏は週刊現代の記事の後すぐに、国立がん研究センターのホームページに上記のような内容の反論を掲載しました。
この反論の中では「政治的な意図が働いたのでは」という疑念についても、別の政党が政権与党のときにも政府委員を務めたと「不偏不党」「公正中立」の立場を明確に宣言しています。
こうした「ガッツ」はどこから生まれてくるのかと調べたところ、嘉山氏が山形大学医学部長に就任したときの「あいさつ」にその答えがあるように思いました。
とても味のある文章で、研究のために140頭の犬と寝食を共にしたとのエピソードを紹介しています。
また、教授に就任したときは「資金調達と人事の仕事ができなければ、いくら研究や手術ができても教授職をまっとうしているとはいえない」と思ったそうです。
さらに医学部長になった「いま」は「若い時代の仕事は自分のためでしたが、いまは学部長にしかできない仕事を行いたい」と力強い抱負を述べています。
嘉山孝正氏医師はとても熱い方でもあるようです。
【関連】
ある転職支援サイトで「脳神経外科」「年収2000万円以上」で検索したところ、4件がヒットしました(2017年7月現在)。これはとても少ない数で、これだけとってみても、「脳神経外科医が2,0… 2017/7/10 |
参考資料:
●厚生労働省「診療科別にみた医師数」2014年
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/kekka_1.pdf
●厚生労働省「診療科別にみた医師数」2004年
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/index.html
●リクルートドクターズキャリア
https://www.recruit-dc.co.jp/agent/jokin/list/?status=1&dept=14
●山形大学「医学部長に嘉山孝正教授が就任」
http://www.yamagata-u.ac.jp/topics/1510/ibucho.htm
●日経新聞「最新がん治療、学生に夢、山形大・嘉山孝正さん」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB16HG1_X10C16A5L01000/
●CBnews「週刊現代の記事が物議、嘉山理事長が反論」
http://cbr-www.cabrain.net/news/regist.do;jsessionid=5AB81B6F1558642148442F7B7DE9FA87
●国立がん研究センター「4月24日号週刊現代の記事に対する見解について」
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/20100412.pdf
この記事を書いた人
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