耳鼻咽喉科医の現状(厚労省医師数調査から)
■ 記事作成日 2016/12/16 ■ 最終更新日 2017/12/6
医師数は微増、飽和状態に近いか?
厚生労働省の調査によると2014年の耳鼻咽喉科医の人数は9,211人でした。医師の多さランキングでは全40科中11位ですので「国内に多くいる医師」といえます。全医師296,845人に占める割合は3.1%でした。
ただ、増加率には鈍化が見られます。耳鼻咽喉科医は、2004年から2014年の間に135人しか増えてなく、増加率は1.5%の微増でした。医師全体では15.7%も増加しているので、臨床研修医の人気は落ちているのかもしれません。
一般的なビジネスの世界では、働き手が多いのに働き手の数が増えていない市場は「成熟産業」「低成長分野」とみなされます。この考えを応用すると「耳鼻咽喉科医は飽和状態にある」と予測できそうです。
医師数 | 2004年(32科中順位) | 2014年(40科中順位) | 増加数(率) |
---|---|---|---|
耳鼻咽喉科医 | 9,076人(9位/32) | 9,211人(11位/40) | 135人(1.5%) |
全医師合計 | 256,668人 | 296,845人 | 40,177人(15.7%) |
医師全体を上回る高齢化のスピード、研修医は耳鼻咽喉科には興味薄?
2014年の耳鼻咽喉科医の平均年齢は51.9歳で、医師全体の平均年齢49.3歳より、2.6歳「年上」です。さらに2004年から耳鼻咽喉科医の平均年齢は2.1歳上昇していて、医師全体の1.5歳上昇を上回る高齢化のスピードです。若さランキングでは、2004年の26位から2014年は32位に落ちています。
この高齢化トレンドと、先ほど導き出した「耳鼻咽喉科医は飽和状態にある」という予測は、整合性が取れています。
臨床研修医に「飽和状態にある」という認識があるため、耳鼻咽喉科に進む人が少なく、それで高齢化していると考えられるからです。
平均年齢 | 2004年(若さ順位) | 2014年(若さ順位) | 増減 |
---|---|---|---|
耳鼻咽喉科医 | 49.8歳(26位/32) | 51.9歳(32位/40) | 2.1歳 | 全医師 | 47.8歳 | 49.3歳 | +1.5歳 |
診療所医≒開業医の人気が高く、開業マインドも上々
それでは次に、耳鼻咽喉科医の病院医と診療所医の比率をみてみると、2014年は病院医数が3,741人(40.6%)、診療所医が5,470人(59.4%)という結果でした。
圧倒的に診療所医が多く、診療所医≒開業医とすると「耳鼻咽喉科は独立開業しやすい診療科」といえるでしょう。
2004年の耳鼻咽喉科医の診療所医の比率は57.7%でしたので、2014年までの10年間で1.7ポイント増加しています。つまり「開業マインド」は強まっているといえます。
しかし、全医師に占める診療所医の割合は2004年の36.2%から2014年の34.3%に減っているのです。これは将来的に「医師余剰時代」「診療所倒産時代」が訪れると言われている中で、当然の数字といえそうです。
全体的な診療所医離れのトレンドの中で、耳鼻咽喉科医の開業マインドは衰えていないということです。ちなみに眼科医も耳鼻科医と同じ傾向を示しています。
病院医・診療所医比 | 2004年 | 2014年 | 増減(増減率) |
---|---|---|---|
耳鼻咽喉科医数 | 9,076人(100%) | 9,211人(100%) | - |
うち病院医数 | 3,836人(42.3%) | 3,741人(40.6%) | 1.7ポイント減 | うち診療所医数 | 5,240人(57.7%) | 5,470人(59.4%) | 1.7ポイント増 |
病院医・診療所医比 | 2004年 | 2014年 | 増減(増減率) |
---|---|---|---|
全医数 | 256,668人(100%) | 296,845人(100%) | - |
うち病院医数 | 163,683人(63.8%) | 194,961人(65.7%) | 1.9ポイント増 | うち診療所医数 | 92,985人(36.2%) | 101,884人(34.3%) | 1.9ポイント減 |
耳鼻咽喉科医の求人票ひろい読み
専門医なら2000万円台は難しくない
医師求人サイトの「リクルートドクターズキャリア」には、耳鼻咽喉科医の求人が146件掲載されています(2016年12月時点)。
この診療科の求人票の特徴は「2000万円台は難しくない」ということでしょう。年収の上限額が2000万円を超えているのに、「耳鼻咽喉科専門医」を必須にしない求人票が目立ちます。
他科ではあまり見られない傾向で、特に外科系の求人票では、執刀医か手術助手かで年収が2.5倍近く異なることが珍しくありません。
さらに、年収の下限額が1000万円を切る求人票が少ないので、耳鼻咽喉科医の転職環境は良いといえるでしょう。
目立つ都会の求人、ワークライフバランスは保てそう
耳鼻咽喉科には、都心部の求人が多いという特徴もあります。
また、病院医であっても当直がなかったり、年間休日数が120日以上だったりと、求人票を概観した範囲では労働環境に欠点が見つかりません。ワークライフバランスが良い診療科といえそうです。
地域 |
年収 | 業務内容 | 当直 | 勤務/休み |
---|---|---|---|---|
東京都世田谷区 |
1000万~ | 専門医、外来 | なし | 週4.5or5日勤務 年129日休 |
東京都中央区 |
900万~
1500万円 |
外来 | なし | 週5日勤務
年120日休 |
東京都多摩市 |
1100万~
2500万円 |
専門医、外来 | なし | 週4or5日勤務
年105日休 |
大阪市阿倍野区 |
2160万円~ | 外来 | なし | 週5.5日勤務 |
鳥取県 |
1200万~
1400万円 |
記載なし | 記載なし | 日、祝休 |
佐賀県武雄市 |
1800万円~ | 外来 | なし | 週4or4.5or5日勤務 |
耳鼻咽喉科の気になる最新トピックス
高校生の「聞こえない」は「聞こえている」?
高校生が「聞こえが悪い」と訴える場合そのほとんどは正常の聴力を有している、というユニークな研究結果を、耳鼻咽喉科専門医、浅野尚氏(浅野耳鼻咽喉科医院院長、千葉県香取市)が発表しました。
一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会が2016年1月に発表した「耳鼻咽喉科学校保健の動向」に掲載されました。
浅野医師は2015年に、千葉県香取市内の公立高校で、聴力に関するアンケート調査を行いました。その結果、生徒の2.6%が「聞こえが悪い」などの難聴を訴えました。
しかもその聞こえの悪さは、「いつも難聴」(16.0%)や「とても不便」(16.0%)、「治療してぜひ治したい」(32.0%)、「先生の話がときどき聞こえない」(20.0%)と、かなり深刻でした。
( )のパーセンテージは、難聴を訴えた生徒の内数です。難聴に加えて耳鳴りやめまい、頭痛、腹痛を訴える生徒もいました。
そこで浅野医師が難聴を訴えた生徒に聴力検査を行ったのでずが、なんと全例で「正常」という結果が出たのです。
原因は特定できていないのですが、浅野医師は「あくまで印象」としながら、次のような傾向があったといいます。
- 難聴を訴えた生徒は皆優秀そうだった
- 部活が盛んな高校ほど難聴を訴える生徒は少ない
- 男子より女子の方が多い
浅野医師はこの調査結果を受けて、「聴力が正常でも、聞こえが悪いと感じている生徒が存在する。今後も面談を重ねて、症状の解消に務めたい」と述べています。
「老舗」の耳鼻咽喉科医は頑なに自由診療を貫く
「自由診療」というと、混合診療問題を連想すると思いますが、ここで紹介するのはそれとは違ったお話しです。2014年10月の日本経済新聞に掲載されていました。
蓄膿症に悩む73歳の男性患者は、耳鼻咽喉科クリニックに長年通って薬を飲み続けてきましたが、一向に改善しません。そこでかかりつけ医を、横浜市の仁保耳鼻咽喉科医院に変えたのですが、1年ほどで症状が軽くなったそうです。
同院の仁保正和院長が行った施術は、「上顎洞穿刺洗浄」でした。
この治療法は効果が知られていますが、診療報酬はわずか60点。ところが医師が行う手技はというと、鼻の穴から注射針を入れて生理食塩水で流すという、とても手間がかかる内容です。
それでこの治療法を採用する医療機関は多くないそうです。
しかし仁保耳鼻咽喉科医院は一貫して自由診療を行っています。初診料は5000円とかなり割高な設定です。日経新聞の取材に対し仁保院長は「質の高い治療には自由診療が欠かせない」と答えています。
仁保耳鼻咽喉科医院は1919年(大正8年)に、仁保正和院長の祖父が開設しました。仁保院長の父親も同院院長でした。
仁保院長は、患者から「一生のかかりつけ医」として選ばれる理由について「自由診療を行うことで守り続けている医療の質」と述べています。
参考資料:
●厚生労働省「診療科別にみた医師数」2014年
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/kekka_1.pdf
●厚生労働省「診療科別にみた医師数」2004年
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/index.html
●リクルートドクターズキャリア
https://www.recruit-dc.co.jp/jokin/search/
●「平成28年1月 耳鼻咽喉科学校保健の動向」(一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会・学校保健委員会)
http://www.jibika.or.jp/members/iinkaikara/pdf/doukou_201601.pdf
●「保険外でも質の高い治療、自由診療という選択肢」(日本経済新聞、2014年10月)
http://style.nikkei.com/article/DGXKZO79081270Q4A031C1NNMP01?channel=DF140920160921&style=1
●仁保耳鼻咽喉科医院院長ごあいさつ(仁保正和)
http://www.niho-jibika.com/about_us/career/
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