一般外科医師の現状(厚労省医師数調査から)
■ 記事作成日 2017/5/24 ■ 最終更新日 2017/12/6
「メジャーな診療科」は変わらないが医師数は10年で3割減
厚生労働省の調査によると2014年の一般外科医の人数は15,383人でした。医師の多さランキングでは全40科中4位で、全医師296,845人に占める割合は5.2%でした。
数字の上からも一般外科は「かなりメジャーな診療科」といえますが、ちょっとした「異変」が起きています。
というのは、2004年の一般外科医数は23,240人でランキングは2位、全医師256,668人に占める割合は9.1%もありました。
つまりこの10年間に、「7,857人減り」「ランキングが2つダウンして」「その減少率は33.8%に達した」ということがわかります。
しかも、医師全体の人数は2004年の256,668人から2014年には296,845人に4万人以上増えているのです。その中で3割以上も減少した一般外科医は、「医師離れが進んでいる診療科」といえます。
医師数 | 2004年(多い順) | 2014年(多い順) | 増加数(率) |
---|---|---|---|
一般外科医 | 23,240人(2/32位) | 15,383人(4/40位) | 7,857人減(▲33.8%) |
医師全体 | 256,668人 | 296,845人 | 40,177人増(△15.7%) |
2位から4位に落ちた一般外科を抜いたのは、整形外科と小児科です。ちなみに医師数ランキングでは、2004年も2014年もトップは内科医でした。トップ10は以下の通りです
医師数の順位 | 2004年 | 2014年 |
---|---|---|
1位 | 内科 | 内科 |
2位 | 一般外科 | 整形外科 |
3位 | 整形外科 | 小児科 |
4位 | 小児科 | 一般外科 |
5位 | 眼科 | 臨床研修医 |
6位 | 精神科 | 精神科 |
7位 | 消化器科(内科外科区別なし) | 消化器内科 |
8位 | 産婦人科 | 眼科 |
9位 | 耳鼻咽喉科 | 循環器内科 |
10位 | 循環器科(=循環器内科) | 産婦人科 |
「3無」志望のあおりを受けて志望者減に悩む一般外科界
一般外科医の「もうひとつの異変」は高齢化です。一般外科医の平均年齢は、2004年の時点では47.9歳で、若さランキングでは40科中20位と「真ん中の年齢」でした。
しかし2014年は52.2歳、33位でした。
10年間で4.3歳の「高齢化」は、医師全体の1.5歳上昇をはるかに上回る数字です。
平均年齢 | 2004年(若さ順) | 2014年(若さ順) | 差 |
---|---|---|---|
一般外科医 | 47.9歳(20位/32) | 52.2歳(33位/40) | 4.3歳 |
医師全体 | 47.8歳 | 49.3歳 | 1.5歳 |
医師数の減少と、平均年齢の上昇から「一般外科ではベテラン医師の転科が進み、新人のなり手も少ない」と推測できます。
一般外科医の減少については、2013年ごろから問題視されるようになりました。専門家は「このままでは産科医の減少の二の舞になりかねない」と警鐘を鳴らしています。
著名な医師らでつくる「NPO法人日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」は、一般外科医を志望する人が絶対的に不足している要因として次の3点を挙げています。
- きつい、汚い、厳しいの「3K」診療科
- 新人医師は「当直無い、救急無い、癌無い」の「3無」職場を志望するが、一般外科は「3有」職場
- 政府の医療費抑制策が一般外科医の労働環境を悪化させている
8割が病院医だが独立開業マインドは強まる傾向に
治療領域が消化器や乳腺などの疾患の待機的手術や、外傷や急性腹症などへの緊急手術であることから、一般外科医の勤務先が手術施設が充実している病院に集中するのは当然でしょう。
2014年のデータをみても、一般外科医の8割近くが病院医となっています。
一般外科医数
病院医・診療所医比 | 2004年 | 2014年 | 増減(増減率) |
---|---|---|---|
一般外科医数 | 23,240人(100%) | 15,383人(100%) | - |
うち病院医数 | 18,147人(78.1%) | 11,930人(77.6%) | 0.5ポイント減 |
うち診療所医数 | 5,093人(21.9%) | 3,453人(22.4%) | 0.5ポイント増 |
全医師数
病院医・診療所医比 | 2004年 | 2014年 | 増減(増減率) |
---|---|---|---|
全医数 | 256,668人(100%) | 296,845人(100%) | - |
うち病院医数 | 163,683人63.8%) | 194,961人(65.7%) | 1.9ポイント増 |
うち診療所医数 | 92,985人(36.2%) | 101,884人(34.3%) | 1.9ポイント減 |
しかし、他の外科分野と比べると「一般外科医の病院医の割合はそれほど高くない」と感じるでしょう。2014年の外科分野の中で最も病院医の比率が高いのは98.9%の呼吸器外科医です。4位の気管食道外科までが病院医率9割超となっていて、これらと比較すると、一般外科医の診療所医率22.4%(2014年)は、「意外に独立開業意識が高い診療科」という印象です。
外科分野で病院医の比率が高い診療科(2014年)
順位 | 科名 | 病院医の比率 | 診療所医の比率 |
---|---|---|---|
1位 | 呼吸器外科 | 98.9% | 1.1% |
2位 | 心臓血管外科 | 97.1% | 2.9% |
3位 | 消化器外科 | 94.5% | 5.5% |
4位 | 気管食道外科 | 92.4% | 7.6% |
しかも微増ながら、一般外科の診療所医率は2004年の21.9%から2014年の22.4%に上昇しているのです。全医師でみると、診療所医の比率は同期間で1.9ポイントダウンしているだけに、一般外科医の独立開業マインドは強まっているといえそうです。
一般外科医の年収水準と求人内容
60代の半数が2000万円以上の「夢がある年収」。
一般外科医の年収に関するデータには「夢」があります。医師転職を支援するサイトの調べでは、「1400万~2000万円未満」の年収は、30代では29%にすぎませんが、40代は36%、50代は38%、60代は50%に上昇します。
年収2000万円以上でみると、40代は21%、50代は24%、そして60代になると50%になります。
1.50代から60代に移行しても年収が増える傾向があり、2.40代で2000万円以上が2割以上――という年収トレンドは、他科の医師からすると「うらやましい数字」といえるでしょう。もちろん「年収だけを見れば」という条件付きですが。
外科医年収 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 |
---|---|---|---|---|
1400万~2000万円未満が占める率 | 29% | 36% | 38% | 50% |
2000万円以上が占める率 | 0% | 21% | 24% | 50% |
「転科OK、未経験OK」や「当直なし」など待遇は期待大
医師転職支援サイトの「リクルートドクターズキャリア」には、一般外科医の求人が388件掲載されています(2017年5月時点)。これは「かなり求人票が多い診療科」といえ、人手不足の深刻化が透けて見えます。
その中からいくつかピックアップして紹介します。
地域
病院or診療所 |
年収 | 業務内容 | 当直有無 | 勤務日数 |
---|---|---|---|---|
北海道室蘭市
病院 |
1200万~2500万円 | 外来、病棟、手術、高齢者医療に関心がある方 | あり | 週5日勤務 |
神奈川県大和市
病院 |
1300万~2000万円 | 外来、病棟、手術、転科可、未経験可 | なし | 週5日勤務 |
東京都世田谷区
病院 |
1000万~1600万円 | 外来、病棟、手術、腹腔鏡メイン | あり | 週4.5日勤務 |
名古屋市 | 1200万~1800万円 | 外来、病棟、手術 | なし | 週4~5日勤務 |
地方では2000万円の大台を大幅に超える2500万円の提示もあります。首都圏でも、上限は1500万円を超え、2000万円台も珍しくありません。
また、「当直なし」の求人が散見されるのも、一般外科医求人の特徴といえます。「手術に専念してもらおう」「一般外科医を消耗させたくない」という雇い主側の意図がうかがえます。
神奈川県大和市の病院は「他科から一般外科医に転科する医師」も「一般外科未経験の医師」も受け入れています。しかも年収下限額は1300万円、さらに「当直なし」です。
近年の一般外科医関連のトレンド
引用:http://www.city.kawasaki.jp
ダヴィンチの活用で外科医はより長期活躍できる?
手術支援ロボットのダヴィンチの保険適用が広がっています。当初は、前立腺がんのみが対象でしたが、2016年に腎臓がんの手術でも医療保険が使えるようになりました。現在は胃がんの臨床試験も始まっています。
ダヴィンチによる腎臓がんの部分切除の手術は、入院費を含め150万円ほどかかります。保険適用外のころはこの全額が患者の自己負担でしたが、保険が使えると3割の45万円しかかからない上に、さらに高額療養費制度を使うこともできます。
ダヴィンチによる胃がん切除の臨床試験を行っている藤田保健衛生大学は「腹腔鏡手術の合併症の発生率を半減させる」目標を掲げています。その目標が達成できれば、ロボット手術がリスクを軽減することを証明できます。
ダヴィンチを普及させることで、一般外科医不足の問題を解消しようとする動きもあります。聖路加国際病院では、自費診療でダヴィンチによる大腸がん手術を行っています。同病院の一般外科部長は「ロボット手術なら高齢の一般外科医でも活躍できるかもしれない」と期待しています。
国産化の動きに政府も支援を打ち出す
ダヴィンチを販売しているのは、アメリカのインテュイティブ・サージカル社です。ロボット手術の拡大を阻むのはコストで、ダヴィンチは1台2億5千万円もします。しかし「不当に高い価格か?」と言われると、そうとも言い切れません。
ここで、単純なコスト計算をしてみましょう。
ダヴィンチによる手術を行った病院の売り上げが、1件当たり150万円だとすると、2億5千万円の投資を回収するには、「167件」の手術を行わなければなりません。
国内には2016年時点で「228台」のダヴィンチがあり、手術実績は「約3万件」です。「228台×167件/台=約3万8千件」ですので、もう少しで「元」が取れるようになります。
また手術支援ロボットの「国産化」の動きもあります。
東工大や東京医科歯科大の教授たちが立ち上げた「リバーフィールド株式会社」は、「力覚提示機能を有する小型かつ高機能な次世代低侵襲手術支援ロボットシステム」の開発・製造を手掛けています。これは文部科学省も支援しています。
一般外科医たちのダヴィンチへの評価だけでなく、国や産業界の動きからも、ロボット手術の拡大は「そこまで来ている未来」といえるでしょう。
参考資料:
「診療科別にみた医師数、2014年」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/kekka_1.pdf
「診療科別にみた医師数、2004年」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/index.html
「一般外科の年収事情」(リクルートドクターズキャリア)
https://www.recruit-dc.co.jp/contents_nenshuu/geka/
「外科医減少の危惧、現実に」(m3.com)
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/173777/
「NPO法人日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」
http://www.npo-cens.org/outline/director.html
「リクルートドクターズキャリア」
https://www.recruit-dc.co.jp/jokin/search/
「ダヴィンチ、主流への道、着々」(日経スタイル、2016.12.25)
http://style.nikkei.com/article/DGXKZO10999610S6A221C1TZT001?channel=DF130120166089
「国産手術支援ロボットシステムを事業化、文部科学省START事業発のベンチャー企業の設立」(東京工業大学、文部科学省、2014年6月2日)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chiiki/daigaku/1348328.htm
この記事を書いた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート