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転職しても不満が解消されないその理由

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

■ 記事作成日 2015/10/23 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

医師の転職回数は平均4回以上と言われています。医局に縛られていた時代に代わり、医師が比較的自由に勤務先を選べる時代になってきた今、「医師の転職」はもはや、当り前のキャリアパスとなっているのです。

 

しかしながら、転職を機に幸せになれる医師と、転職しても変わらず不満だらけの医師がいます。いったいその差は何なのでしょうか?

 

人生の舵を幸せの方向に切るための転職アクションが、思うようにならない現実。その背景にはきっと、二つの大きな問題が潜んでいると考えられます。

 

一つ目は、転職先医療機関に人事機能が無いという問題。
二つ目は、医師が自らの市場性に無頓着という問題。

 

ドクターの転職を成功に導くには、転職活動中に、この二つの問題と対峙し、よくよく内容を吟味して結論を見据えた上で、アクションを起こす必要があるのですが…実際、それができている医師は多くありません。

 

一般的に、この二つの問題は、医業以外の業種ではあまり起こり得ない問題です。しかし、長年に渡って医局が病院人事を牛耳ってきた医師という特殊な職業下においては、これらを機にしたトラブルが頻発しています。医業における転職の受皿は、まだまだその環境が追い付いていないと言わざるを得ません。…つまり、誰もが陥ってしまう典型的な落とし穴なのです。

 

幸せな転職のためにクリアしなければならない二つの問題。そのためにはどのような視点が必要なのか、考えてみる事にしましょう。


一つ目、転職先医療機関に人事機能が無いという問題。

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

 

一般のビジネス社会から医療業界を見た時、非常に驚く事があります。一般企業には必ずある、ある大切な部署が、ほぼ存在していないのです。

 

経理部(経理機能)は必ずあります。診療報酬を計算し、患者さんから徴収しなければなりませんし、保険手続きもあります。給与や税金の支払いも必要ですから、それはどこにでもあります。

 

総務部(総務機能)も必ずあります。施設や医療機器などの維持管理は必要ですし、医業以外の全ての雑務を引き受ける事務方の役割は必須ですから、それはどこにでもあります。

 

しかし、どこを探しても、「人事部」はありません。もちろん、人事部という名称である必要も、専任の部員が何人もいる必要もありませんが、そもそも、人事機能そのものが無いケースが大多数なのです。

 

それは、どんな医師にどんな風に働いてもらいたいか、そしてそのためにどんなフォローを行って行くか?…という、組織的な視点や取り組みや機能が皆無だと言う事を意味します。

 

医師にとって転職とは、新しい人間関係の中に身を置き、新しい組織の指針に従っていく、人生の一大事です。医師の採用や人事考課に真剣に取り組んでいない医療機関に転職してしまっては、元来、当り前に受けられるフォローが受けられず、大きな歪みを生む事に成りかねないのです。

 

一般企業における人事部に相当する「人事機能」が組織的に機能していない病院には、決して転職をしてはならないのです。

 

医局のおかげで必要なかった人事部という要

 

ではなぜ、医療機関に人事部が存在しないのでしょうか?

 

答えは簡単です。「医局人事制度」が確固たる形で敷設されていたからです。これまで何十年もの間、医療機関が自ら求人をかけなくとも、必要な人材は医局が派遣してくれていました。病院は自助努力をせずとも、必要な人材を必要な数だけ確保できていたのです。

 

医師は大学病院の医局に所属する。市中の病院は、大学病院の医局に必要な医師の派遣を要請する。医局は医師を市中の病院に斡旋する。

 

医療業界を支える医局という人事制度のお陰で、市中の病院はこれまで、人事という経営の根幹に向き合う機会=必要性が無かったのです。

 

医師の人事に需給バランスという市場性が

 

ところが臨床研修制度が変わった2004年を境に、医局人事制度が崩れていきます。病院は研修医に給料を払わなければならなくなり、医師は自由に研修先を選べるようになりました。それにより、市場の法則が機能し始めます。人気のある病院・人気のない病院が明確となり、医師は必ずしも医局に属さなくて良い環境となりました。そして医療業界の人事においても、需給バランスが関係するようになったのです。

 

医師の転職活動が盛んになってきたのもこの時期です。市中の病院が医師不足に悩むようになってきたからです。

 

しかしながら、多くの病院は、事の本質をわかっていませんでした。「医局で人材確保できないならば、転職エージェントにお金を払って頼めば良い。」…という位にしか、考えが及んでいなかったのです。そのため、多くの病院では、今も尚、人事機能が充分ではない状態ですから、マッチングの低い医師を採用してすぐに退職されたり、転職後の医師たちを、充分にフォローできていないと考えられるのです。

 

需給バランスという市場性が働くようになった今、医療機関には一般企業と同じような「人事機能」が必要です。そして、医療機関のビジョンと折り合わせて“求める人材像”を明確にし、その人材の能力を組織の中で充分に発揮してもらうための“人事考課”や“人材教育”などの組織的なフォローアップが重要なのです。

 

良い医師の定義が分からない医療機関

 

転職の成功は、ドクターと医療機関のマッチング性に尽きます。どんな医師が「良い医師」で、どんな病院が「良い病院」かは、最終的に当事者同士にしか決められない事です。

 

つまり、転職エージェントを介した転職活動(採用活動)は、結婚のためのお見合いのようなものですから、どんな相手を欲しているのかを双方が主張しなければ、良い出逢いに結び付ける材料がありません。

 

ところが、当方が医師転職コンサルタントとして、医療機関のヒアリングをしていると、「とにかく、良い先生を探してください。」…と、言われる事がしばしばあります。しかしいったい、良い先生とはどんな先生なのでしょうか?

 

確かに「診療スキルの高い先生」は、良い先生だと言えるでしょう。しかし、ある特定の分野で秀でている先生が必要なのか、当該診療科において汎用的に幅広い見識がある先生が必要なのかによって、定義が変わってきます。

 

確かに「患者に優しく丁寧に接する先生」は、良い先生だと言えるでしょう。しかし、患者の話をじっくり聞くあまり、一時間に5~6人しか診療しない先生と、できるだけ患者を待たせない事をモットーに、要所を抑えて会話をし、一時間に20人以上診療する先生とでは、どちらが良い先生かなんて事は、その医療機関が置かれている市場やビジョンによって、定義が変わってきます。

 

確かに「スタッフに気さくな柔和な先生」は、良い先生だと言えるでしょう。しかし、和気藹々としすぎて緊張感に欠ける医療現場のリーダーと、無愛想だけれど、スタッフへの指示が的確でチーム医療の頼れるリーダーとでは、どちらが良い先生かなんて事は、求められる医師像によって、その定義は変わってきます。

 

確かに「残業やオンコールや当直を厭わずよく働いてくれる先生」は、良い先生だと言えるでしょう。しかし、疲労困憊して診療スキルが低下したり、燃え尽き症候群やうつ病の危険性が見え隠れする先生と、QOML(Quality of medical life)を掲げて残業をしたがらないけれど、心身共に常に健康な先生とでは、どちらが良い先生かなんて事は、医療機関が置かれている環境や、短期的・中期的・長期的とどの視点で見るかによって、定義が変わってきます。

 

医療機関が医師を採用しようとする時、本来、その医療機関が定義する「良い先生」というものを、明瞭に示す必要があります。診療科・専門・年齢・性別・QOMLの考え方・マネジメントスキル・リーダーシップ性など、できるだけ具体的にイメージできている求人を出すためには、医療機関に確固たる人事機能がなければ難しい事なのです。

 

転職したドクターへのフォローアップの重要性

 

医局による人事制度が崩壊したならば、新しい人事制度を自らの医療機関で作る必要があります。しかし、人事部(人事機能)がない医療機関は、医局人事に頼っていた時代のままの体制で転職ドクターを受け入れ、これといったフォローアップを行っていない事が原因で、せっかく入職してくれたドクターが、易々と離職していくという事態を招いているようです。

 

一般の企業の場合、新しく入職した社員に対しては、一定期間注視し、充分なフォローアップを行う事が当然です。所属する部署の長との面談機会だけでなく、人事部としての面談機会も複数回設け、入職者が現場に馴染むように導きます。その企業の風土やビジョンや就業規則の説明を充分に行ったり、歓迎会やパワーランチの機会を設けたり、スタッフから積極的に挨拶や自己紹介の声掛けを行わせたり、組織的なフォローをしっかりと行います。また、人事考課をしっかりと行って本人や上長とも共有し、給与やボーナスに反映するなどします。

 

しかし、人事部(人事機能)のない医療機関は、このようなフォローを一切行おうとはしません。そうすると、ドクターは孤独を感じ、「人間関係がつらい」…とか、「この職場で自分は評価されていないのでは?」…などという、疑心暗鬼にかられて孤立し、果てには次の転職先を考えるようになってしまうのです。

 

医局人事に頼っていた時代の慢心が、医療機関にはまだまだ根強く残っています。それは、医療機関が人事機能を発揮せずとも、人材が育ち、人材が回っていた時代です。医療機関はドクターに対して人材教育も、医師の不満や要望を調整するといったフォローアップも行わず、全て医局任せにしていました。もしも派遣された先生と反りが合わなくても、医局にクレームを出せば済み、代わりの人材を補完してくれていたからです。

 

もしもドクターが転職した医療機関に人事部(人事機能)が無かったら?…新しいスタートを切ろうと意気揚々とした志の、出鼻を挫かれる可能性が非常に高くなります。人事部(人事機能)が無いという事は、ドクター自身の自助努力だけによって、職場の人間関係が円滑になるよう、コミュニケーション力・マネジメント力・リーダーシップ力を発揮しなければならない事を意味します。

 

転職したドクターにそのスキルを如何なく発揮してもらうためには、医療チームの一員として馴染むためのフォローアップが不可欠です。それは、「挨拶をする」とか「声をかける」などという、とても小さな事と思えるアクションも、組織的に人事機能として提供する事が重要なのです。医局による人事制度が崩壊したならば、新しい人事制度を自らの医療機関で作る必要があるのです。


二つ目、医師が自らの市場性に無頓着という問題

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

 

一般のビジネス社会から医療業界を見た時、非常に驚く事がもう一つあります。それは、その経営組織に所属している人材である医師が、自らの市場性に無頓着だという点です。

 

医師の多くは、純粋かつ真面目な優等生タイプで、今、自らが歩んでいる医業という道を、何の疑問も無く真っ直ぐに進んで行こうとしています。それゆえ、医局に属していた時代の医師は、医局人事で命を受けた派遣先の病院勤務を、特に大きな疑問を持たずに受け入れ、邁進してきました。

 

もちろん、それはそれで立派な事ではありますが、医局人事が崩壊しつつある今、医師自らも、自らの市場性をきちんと把握し、医業と言う経営組織の一躍を担う人材だという意識をしっかりと持つ必要があるのです。

 

もしもドクターが人事部(人事機能)の無い病院に転職したとしましょう。医療機関側が経営組織を作れずにいる中に、経営組織の一員という自覚のない医師が入職したならば…勤務内容や時間や給与体系などの労務関係はもちろん、メンタル面においても、大きな弊害が出てくる可能性が非常に高いと考えられます。

 

しかし、雇用側に十分な人事機能がない場合でも、被雇用側(医師)がしっかりとした市場意識を持って転職活動に臨んでいれば、大きな問題は未然に防ぐ事ができるばかりか、医療機関の人事機能を正常化させるための契機になるケースもあります。これからの医師は、自らの医業という職務において、市場性をしっかりと考え、行動しなければならないのです。

 

医師としての市場価値を把握していますか?

 

医師は医業という経営組織にとって、いわば商品です。医業は聖職ではありますが、人が働き、生業としている以上、医療機関も経営をしなければなりません。その事実に目を逸らさず、医師は、自らの市場価値をしっかりと把握する必要があります。

 

では、医師の市場価値とは何でしょうか?もちろん、その基本は診療スキルだと言えるでしょう。先ずは、外形評価をしっかりと受けられる主幹の専門医資格と、サブスペシャリティの専門医資格くらいは、しっかりと取得するのは基本中の基本です。時折、優秀な医師であるにも関わらず、「時間が無い」などの理由で、専門医を取得していない医師がいます。医局勤務の間はそれでも良いかもしれませんが、いざ転職をしようとすると、大問題です。どんなに診療スキルが高くても、医局での評判が良くても、その医師が高条件で転職をするには、かなりの調整が必要な難しいものになります。

 

また、どんなにベテラン医師であっても、新しい知識や技術に触れながら、現代医療のスタンダード以上の診療を提供していく必要があります。しかしながら医療現場では、平気で旧来型の考えに基づく時代遅れの診療を行っている医師も多々見受けます。そのような医師は、たまたま現場で大きな問題に遭遇しなかったために、自らの診療が時代遅れであったり、技術が低下してしまった事に気付いていないのです。もちろん時代遅れの医師が転職活動をした場合、高条件で転職をする事は不可能です。

 

医局の組織力が幅を利かせていた時代は終わりに向っています。大きく変革した医療業界において、医師は自らが商品であるという認識を強め、日々の医業に取り組まなければなりません。さもなければ、「自分は優秀な医師だ。」「自分は高条件で働くに相応しい医師だ。」…という自負は、市場では全く通用しない、裸の王様になってしまうでしょう。

 

もちろん、医師の市場価値は診療スキルだけではありません。マネジメントスキル、リーダーシップ性、コミュニケーションスキル、ITスキル、スピード、正確性、医師不足の診療科や地域、専門性、英語力など、多角的なスキルや状況が複雑に絡み合い、その価値を形成してゆきます。従って医師は、自らの市場価値をどのように高めるか?そして、どのようにプレゼンテーションするか?…について、真剣に取り組まなければならないのです。

 

医療機関経営には、医師の年収の10倍の売上が必要

 

医師だって人間ですし、医業だって職業の一つです。医師が多くの報酬を望んだり、オンコールや残業や当直が少ない病院で働きたいと思っても全く問題はありません。しかし、学生時代から特殊で限定された世界にいる医師は、市場の法則や経営感覚に疎い人が多いと言わざるを得ません。

 

例えば、誰かがヘッドハンティングをされた噂を聞きつけ、「あの医師は年棒3000万円の契約らしい」…などと、不確実な情報を鵜呑みにし、「自分にもその価値がある」と思って転職エージェントの門戸を叩く医師がいます。「それほどハードな勤務ではなく、それなりの休みはあって、年収が高い所を紹介して下さい」と。

 

確かに、年棒3,000万円の求人もこの世には存在しますが、それは非常に稀なもので、その求人に見合う医師も稀です。一般的な医師は、年収1,500万円前後であり、それ以上の収入を望むならば、それに見合う市場価値を、医師本人が保持している事が必須です。

 

さらには、医療機関が医師に高額年棒を支払うならば、それなりの売上が必要になってきます。診療科や診療方針や医療機関が属する市場にもよりますが、一般的に、一人の医師に支払う報酬の10倍程度は売上を立てる必要があるのです。年収1,500万円の医師ならば1億5,000万円、年収3,000万円の医師ならば3億円といった具合です。

 

医師が仕事をするには、看護師や検査技師や薬剤師といったチームスタッフはもちろん、事務スタッフや清掃員、医療機器や診療室も必要です。「医師がチームの中心となってその売上を立てる戦略が立てられているか?」…という重要なジャッジを組織的に行わなければ、医師の適性年収は本来出せるはずもありません。

 

医師不足に悩む医療機関は、時折、高額年棒を提示すれば医師不足は解決されると安易に考えます。そして、「3,000万円は出すから、とにかく良い医師を早く紹介してくれ」…などと転職エージェントに要望してきます。しかし、医師不足に悩む医療機関の多くは、経営が順調で資金力があるとは言い難い状況です。仮に高額年収で医師を採用できたとしても、そもそも経営が堅調ではないケースが多いため、高額年棒の医師の採用が致命傷になり、経営破綻するケースも多いようです。

 

高額年棒で採用した医師が、それに見合う診療スキルとマネジメントスキルを持ち、その能力を如何なく発揮してくれたら良いのかもしれませんが、高額年棒にだけ興味がある医師には、往々にしてそのスキルはありません。また、一介の医師に医療機関の経営全てを一任する人事は、そもそも無理があります。それもこれも、医療機関に適性な人事機能があれば、そもそも起こり得ない問題です。

 

高額年棒は、それを支払える経営状態の組織と、組織内で充分なスキルを発揮できる医師の双方が揃わなければ、成り立たないものなのです。


新しい取組例…「医療機関内開業」

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

 

医療機関に人事部(人事機能)が無い場合、様々な弊害が起きてしまい、転職医師が困窮してしまう例は先に述べた通りです。医療市場が変化している今、医療機関と医師の双方が、意識改革をしなければならないのでしょう。

 

そんな中、医師が医療機関に定着し、存分に本分を発揮できるように評価制度を作り、新しい取組を始めている医療機関もあります。その例の一つが「医療機関内開業」です。

 

医療機関内開業とは、医師が自らが診療した患者に関係する売り上げを、医師の報酬に直接反映させるという、成功報酬型の人事考課です。売上点数から看護師など医師以外のスタッフの人件費、光熱費、地代家賃などを一定の料率で引いたものが、ダイレクトに医師の報酬になるという仕組みです。

 

勤務医の不満の代表的なものに、「自らが評価されていない」「忙しい割には報酬が低い」…などがありますが、成功報酬型の労働契約ならば、このような不満はクリアされるのかもしれません。

 

もちろん、医師間で初診の取り合いになったり、多角的なチーム医療が必要とされる入院患者には課題の多い方法かもしれませんが、外来に特定した場合、医療機関内開業はうまくいっているケースが目立ちます。

 

医師側にとっては、開業ほどの覚悟も資金も要らず、仮に忙しくともそれが報酬に反映されるならば、遣り甲斐もあるというものです。医療機関側にとっては、マネジメント感覚を持って診療にあたり、医業にサービス業の一面もあるという自覚を持ちながらも、効率性を意識した運営をする医師が増える事で、人事が上手く機能し、経営的にも好循環に向いやすいもののようです。


新しい取組例…「組織的なメンタルフォロー」

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

 

全ての医療機関にとって、ドクターはその中心的存在そのものです。ドクターがメンタル面で問題を抱えていては、良いチーム医療が提供できるはずがありません。しかしながら、人事部(人事機能)の無い医療機関では、転職した医師の多くがメンタル面で悩みを抱えているようです。

 

医局人事時代の旧来体制の医療機関の場合、新しい医師が着任しても、「ああ、また新しい先生が来たのね」…といった具合に、one of themの対応しか出来ていない現場が多く、診療以外の会話は挨拶程度しか無いというケースが目立ちます。

 

医師の多くは、お金だけに価値を求めず、「良い医師でありたい」…と願っています。自らが良い医師である事に対する承認欲求が非常に強いのです。…つまり、「医療機関の経営陣やスタッフに認めてもらいたい」、「患者さんに感謝されるような充分な医療サービスを提供したい」…と、純粋に思っているのです。

 

ですから本来、医療機関の人事が、コミュニケーションの風通しが良くなるための仕組みを作る必要があるのです。具体的には、スタッフ同士の挨拶を徹底したり、世間話ができる機会を設けたり、経営側から声をかけたり、人事担当者との面談を定期的に設けて不満や不安を吸い上げるといったアクションが重要になります。

 

「何だ?こんな事で良かったのか?」…と、思う事かもしれません。
しかし、この当たり前の事を組織的に制度化して行うには、人事機能が必要なのです。そして、この当たり前の事が徹底されるだけで、医師やコメディカルスタッフ、医師同士の関係が好循環し、よりよい医療サービス提供と、経営的な潤いを実現する事ができるのです。


新しい取組例…「発想の転換による勤務時間制度」

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

 

医師にとって、長時間勤務や時間外勤務は、職場への不満の温床です。尋常ではない忙しすぎる職務は、医師を疲弊させ、精神の安定を奪い、燃え尽き症候群へと向かわせるものです。そしてこのような勤務環境は、人事部(人事機能)がしっかりしていない医療機関で多発しています。

 

しかし一方で、患者に支持される忙しい医療機関ながら、医師や医療スタッフの無理な労働を改善できている所もあります。

 

ある病院では、診療による報酬点数の単価が、午前中の方が高いというデータに基づき(朝一番の患者は初診で緊急性が高く診療点数が高い傾向に)、診療時間を1時間早めて、午前7時半からの早朝診療を始めたそうです。浅薄に考えると、「医師をさらに疲弊させるのではないか?」…と思ってしまう施策ですが、実は、人事部の働きかけもあって実現したものだそうです。

 

ある女性医師は、保育園に通う子供を持つため、残業が出来ない状況でした。当然ながら、残業を強いられる他の医師は、女性医師に不満を持っていたそうです。しかし早朝診療を女性医師が担う事で、病院の売上点数はアップし、女性医師は保育園のお迎えに間に合うライフスタイルで、病院に貢献できるようになったと言います。

 

医療機関の経営陣と人事部が共に組織的に問題解決にあたれば、思わぬ経営方法などで、医師が働きやすい環境を整える事も出来るはずです。現場の不安を払拭し、売上も上がるならば、誰も文句のつけようはありません。そのような勤務環境で働くには、人事部(人事機能)がしっかりとした医療機関を選ぶ必要があるのです。


人事機能に無頓着な病院には転職するな!

医療機関の人事体制が転職後の医師に及ぼす影響

 

「多忙を極めて爆発しそうだ」
「こんな薄給では割に合わない」
「職場の風通しが悪くて孤立している」

 

これらに代表される医師の三大不満は、医療機関に人事部(人事機能)さえあれば解決できる事が多い問題です。人事が組織化・制度化した体制の上で、経営陣と医師が正しい認識で職務に対峙すれば、大きな軋轢など、まず起きないはずなのです。

 

転職エージェントによっては、目先の利益を追求するあまり、人事部(人事機能)の無い医療機関の、思慮浅いオーダーを鵜呑みにし、医師が転職した後のフォローアップもせずに、「高給求人」として斡旋するような例が多々あります。しかし、人事機能が回っていない段階での高給は、後々弊害を生む病巣です。また、市場性を無視したマッチングは、勤務時間・給与・勤務内容・コミュニケション環境などの不満を生み、医師と医療機関の双方にとって、大きな傷をつけるものになります。

 

私、野村龍一が、医師転職コンサルタントの立場から、口を酸っぱくして言っている事があります。それは…良い転職は、転職エージェント選択時に決まっている…という事実です。

 

そのためにも、新たな人生のスタートとなる転職活動においては、人事機能が正しく作動している医療機関組織からの求人をピックアップしてください。転職を成功に導くためにも、現場の勤務環境を熟知し、人事部を適正評価できる転職エージェントをパートナーにする事を、強くお勧めします。

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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