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整形外科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法

■ 記事作成日 2017/6/16 ■ 最終更新日 2017/12/6

 

転職活動を始めた先生の中には「面談で報酬のことを口にするのが苦手」と感じている方が少なくないのではないでしょうか。しかし、時間とコストをかけて身に付けた知識と経験に見合った年収を得ることは、当然のことです。

 

そこで、整形外科の先生が、次の転職で大幅な年収アップを獲得する交渉術を紹介します。

 

整形外科勤務医の年収上限を知る

 

採用面接で病院経営者から年収の希望金額を尋ねられたら、先生はいくらを提示しますか。低すぎる金額は自分を安く売ることになりますし、高すぎる金額を言ってしまうと「ふっかけている」と思われてしまいます。

 

そこで先生は、転職活動を始める前に「整形外科勤務医の年収の相場」を知っておく必要があります。それと同時に、どのような「募集条件」のときにいくらくらいになるかも把握しておいてください。

 

医師転職サイトの求人票から(リクルートドクターズキャリア)

 

A社の転職サイトで「整形外科」を検索すると、1,113件の求人票が現れました。これは他の診療科に比べて「かなり多い」件数といえます。

 

次にこの1,113件の中から「年収2000万円以上」に絞り込むと、27件がヒットしました。これも「相当多い」といえます(2017年6月現在)。
整形外科は、2000万円の大台に乗せることはそれほど難しくない診療科、といえそうです。

 

2000万円の大台は難しくない、交渉は「数十万」単位の攻防か

 

2000万円以上がずらりと並ぶ整形外科医の求人でも、ひときわ目を引くのは青森県八戸市の病院で、なんと「3000万~3600万円」を提示しています。

 

ただ、それだけに病院側の要望は多くて高度です。

 

まず10年以上の経験が必要です。また求人票には「専門医歓迎(あればうれしい)」と書かれてありますが、この求人票には「院長候補」を求めているので、「要専門医(なければだめ)」と読み替えた方がいいでしょう。

 

また、この求人票の「診察内容」に「手術、手術補助」と書かれてあるので、求めているのは「統括業務がメインの院長」ではなく、「たくさん手術をして稼いでくれる院長」であると想像できます。外来患者を1コマ100人以上も持たされることからも、「医師1人当たりの売上」を強く意識している病院といえそうです。

 

場所
医療機関形態

年収 診察内容 条件 勤務と休み

青森県八戸市
病院

3000万~
3600万円

外来週9コマ、1コマ患者数100~150人、手術、手術補助 当直なし、専門医歓迎、院長候補、10年目以上 週5日勤務、年110日休み

静岡県三島市
病院

2400万~
2500万円

外来、病棟、高齢者が多い、外傷、骨折、打撲(手術に関する記載なし) 当直なし、整形外科専門医 週5~5.5日勤務

東大阪市
病院

2000万円~

外来、病棟、手術、手術補助 当直あり、整形外科センター立ち上げのため、部長職募集 週4.5~5日勤務

北海道留萌市
病院

2000万円~

外来、病棟、手術なし 当直あり、高齢者多い、ゆったり勤務 週4~5日勤務

 

資料「整形外科医の求人票例」(リクルートドクターズキャリア)

 

手術の「あり・なし」は要確認事項

 

上記の高額求人票の特徴は「都心部だから低い、地方だから高い」とは一概に言えないことです。

 

静岡県三島市の人口は11万人ですが、東海道新幹線の三島駅があります。東大阪市は人口50万人を誇りますが、北海道留萌市は人口2万人の漁師町です。

 

これだけ「マチの特徴」がばらばらなのに、この3市にある病院が整形外科医に提示する年収は「2000万~2500万円」の中に収まっています。
ただ、留萌市の病院の求人は「手術なし」をうたっていますし、三島市の病院も手術はなさそうです。「手術しなくていいのはありがたい」と感じる先生には、両院が提示する年収額は「悪くない」と映るのではないでしょうか。

 

こうした病院は、高齢患者が多いと推測できます。「大がかりな手術は回避し、QOL向上を目指した整形外科医療」の提供を医師に要望していると考えられます。

 

ということは、「手術をこなして腕を磨きたい」と考えている整形外科医には、留萌市と三島市の2病院は対象外となるでしょう。このように整形外科医の転職では、希望する病院側と本格的な話し合いに入る前に、まずは「手術の有無」を確認した方がいいでしょう。

 

医師転職サイトの求人票から(エムスリーキャリア)

 

他社の転職サイトには、整形外科医の求人票が1894件ありました(2017年6月現在)。このサイトでは、あえて「1000万円以上」の年収を提示している求人票を検索してみました。

 

場所
医療機関形態

年収 診察内容 条件 勤務と休み

福岡県小郡市
病院

1000万~
2500万円

外来数170人/日、手術1件/日(他科の医師も同時に募集) 5年目800万、10年目1600万円、15年目1800万円、日本外科学会外科専門医制度修練施設 週休2日、年間104日休日

横浜市青葉区
診療所

1400万~
1700万円

訪問診療と外来、訪問時は事務職がカルテ代打ち、手術なし(他科の医師も同時に募集) 臨床5年以上、休日・夜間対応なし 土日、祝、夏季、年末年始、慶弔が休み

京都市西京区
病院

1300万~
1700万円

外来、病棟(手術に関する記載なし) 当直あり 日、第2・4土、祝、夏季、年末年始が休み

 

資料「整形外科医の求人票例」(m3.com)

 

年収の提示額の幅が広い求人票は交渉難航も

 

福岡県小郡市は、県中央部に位置する人口6万人ほどの市です。その市にある総合病院が、他科の医師と一緒に整形外科医を募集しています。年収提示額は1000万~2500万円と、かなり幅があります。

 

こういう表示は「高額年収を獲得しにくい」と考えておいた方が無難でしょう。年収交渉は難航するかもしれません。もしくは、先生が提示する希望年収額が高すぎると「ではご縁がなかったということで」と先方からあっさり断られるかもしれません。

 

年収例を見ても、15年目で1800万円となっているので、2000万円の到達は時間が要りそうです。ただ、この病院は「日本外科学会外科専門医制度修練施設」になっているので、手術の経験は積むことができそうです。

 

訪問診療という選択がありなら、都市部でも好条件

 

横浜市青葉区のクリニックは、訪問診療を行っています。この求人票における募集科目の「整形外科」は、one of themで、同時に一般内科医、消化器内科医、消化器外科医、小児科医も募集しています。

 

「整形外科医に限らず、とにかく訪問診療に興味あるドクターに来てほしい」というメッセージでしょう。

 

訪問診療はまだ黎明期にあるので、こうした求人は散見されます。ただ、このクリニックは、横浜市という都会にあり、事務職によるカルテの代打ちや、休日・夜間対応不要という「特典」が多いのが魅力です。

 

「京都市内+1300万~1700万円」は標準か、でも手術は?

 

京都市の病院の求人票は1300万~1700万円を提示しています。地域といい、業務内容といい、この内容は標準的といえるでしょう。しかしこの求人票は、手術に関する記載がない点が気になるところです。

 

病院側としては、「手術件数が多すぎて応募が減っても嫌だな」と考えて、手術について触れていないのかもしれません。または「整形外科医を募集しているのだから『要手術』は当たり前、あえて求人票に記載しない」と考えているのかもしれません。

 

いずれにしても、整形外科医が最も気になる情報を明らかにしないのは、不親切な対応といえるでしょう。

 

その病院は整形外科医に「何を求めている」のか

 

年収交渉で医療機関から最高額を引き出すには、「その医療機関が求めている医療」を知り、採用面接で「その医療は私の得意分野です」とPRする必要があります。

 

整形外科に力を入れている病院やクリニックの広告などから「整形外科医に求められている医療」を探りました。

 

人工関節置換術をPRする病院は多い

 

整形外科領域の診療報酬で、人工関節置換術は単価が高い施術のひとつです。ちなみに「人工関節置換術(肩、股、膝)376,900円」となっています。大腿骨頸部骨折に伴う「人工骨頭挿入術」は「195,000円」です。

 

よって、この分野で活躍している先生は、転職による年収アップは容易といえるでしょう。

 

手術だけで市場規模は700億円超

 

手術件数で病院をランク分けした雑誌「病院の実力 2017総合編」(読売新聞医療部編)によると、国内で1年間に行われている人工膝関節置換術は約8万件、人工股関節置換術は約6万件、大腿骨頸部骨折の人工骨頭挿入術は約10万件です。

 

ということは、単純計算すると、以下のようになります。

 

人工膝関節置換術

 

年8万件×376,900円/件=302億円

 

人工股関節置換術

 

年6万件×376,900円/件=226億円

 

大腿骨頸部骨折の人工骨頭挿入術

 

年10万件×195,000円/件=195億円

 

たった3つの手術だけで年間723億円の売り上げ(市場規模)になるのです。

 

病棟の売上にも貢献

 

しかも、人工関節置換術を行うほとんどの病院は「7対1」または「10対1」の一般病棟入院基本料(1日につき)を取っているので、病棟の売上にも貢献します。

 

その報酬額は以下の通りです。

 

  1. 7対1入院基本料:15,910円
  2. 10対1入院基本料:13,320円
  3. 13対1入院基本料:11,210円
  4. 15対1入院基本料:9,600円

 

例えば30日の入院であれば、①と④では、患者1人当たり20万円近い売上の差が生まれるのです。

 

開業なら1本絞り、院長を目指すならオールラウンダー

 

こうしたことから、この3手術を得意とする整形外科医は、年収交渉でかなり優位に立てます。採用面接では、これまでの施術件数を積極的にPRすることをおすすめします。

 

しかしここで、若手の整形外科の先生には、はある悩みが生まれるのではないでしょうか。「股関節または膝の1本に的を絞るか、それとも股も膝も肘も扱うオールラウンダーを目指すか」という選択です。

 

これはキャリアパスを考える上で大きなテーマとなります。

 

この悩みを解消する1つの方法として、「開業するなら1本に絞る」「病院内での昇格を目指すならオールラウンダー」という基準を設けてはいかがでしょうか。

 

クリニックの開業後も手術をメインにしたい場合、「膝も股関節も肘も」というPRは、患者への訴求力が弱まってしまうからです。

 

一方、病院長や病院の整形外科部長を目指すのであれば、「膝の先生」とも「股関節の先生」ともコミュニケーションを取らないとならないので、1つの部位に絞ることはリスキーです。

 

「膝の手術だけに専念させてください」

 

膝または股関節のどちらかに絞りこんだら、転職希望先病院に「膝(または股関節)の手術だけに専念させていただくことは可能ですか」と要望を伝えてください。

 

民間病院の中には、膝だけ(または股関節だけ)に専念させてくれるだけでなく、開業支援もしてくれるところがあります。

 

「転職希望先の病院に、開業の意向があることを伝えて大丈夫?」と心配する先生もいらっしゃると思いますが、ご安心ください。進んでいる民間病院は、次のように考えています。

 

求人に応募してきた整形外科医に開業マインドがあっても気にしない病院側の心理

 

「開業志向のドクターは売上・コスト意識が高い」と思っている

「ということは病院の実績がアップする」と考える

「ということは在籍期間が短くても売上に貢献する」と思う

「どうせ逃げられてしまうなら、積極的に開業支援を行って、開業後に病診連携を結びWIN-WINの関係を築きたい」と考えられるので、開業志向の先生を歓迎したい

 

もちろん、開業前提の応募をお断りする病院もありますので、それとなく探りを入れる必要はあります。

 

ただ、もしそのような病院に開業マインドが強い整形外科医が就職してしまったら、退職時にもめることがあるので、やはり転職活動では「将来的に開業する・しない」の態度表明を行っておいた方が無難かもしれません。

 

※参考資料 「病院の実力 2017総合編」(読売新聞医療部編)

 

先生にとって「細かすぎる話」でも患者は興味深々

 

膝を専門にしている整形外科医の先生が、「後十字靭帯温存法を強調している病院広告」を目にしたら、どう感じるでしょうか。

 

「そんな治療は珍しくない」「患者にとっては細かすぎる話だ」という印象を持つでしょうか。

 

しかし膝の痛みに悩む患者は、もし次のような文章を目にしたら、「良い病院だ」と感じるでしょう。

 

「当院では、人工膝関節置換術において、従来の前十字靭帯と後十字靭帯の両方を切る方法ではなく、後十字靭帯を切らずに温存する術式を採用しています。両方切ると膝は曲がりやすくなるのですが、体重がかかると『がたつく』欠点がありました。しかし後十字靭帯を残す手術ですと、曲がりを回復させながら『がたつき』が出なくなるのです。」

 

これは、ある雑誌に掲載されていた、整形外科病院長のインタビュー記事の要約です。

 

この記事は、純粋な「報道記事」ではなく、いわゆる「記事体広告」というものです。広告規制が厳しい医療業界では、雑誌社に広告料を支払い、「報道記事の体(てい)」でインタビュー記事を掲載してもらうことがあります。

 

つまり、ここで紹介されている整形外科病院は、「後十字靭帯温存法が、膝の痛みに悩む患者の心に響く」ということを分かっているのです。

 

先生が「当たり前」と考えている治療や、「患者にはわざわざそこまで説明しない」細かな手順は、実はPR効果が高いのです。ということは、採用面接に現れた病院理事長も、施術に自信を持っている整形外科医こそを高く評価する、ということです。

 

「数年以内には転職する」と考えている整形外科医がいますべきこと

 

認定医や専門医の資格は、年収交渉を有利に運ぶための必須項目ですが、一朝一夕に取得できるものではありません。新薬や最新機器を使いこなすにも時間が必要です。

 

そこで、「数年後の転職」を検討している整形外科医の医師が「いましておくべきこと」を考えてみます。

 

病診連携が苦手な先生は病院の期待に応えられない

 

厚生労働省は盛んに病診連携を呼びかけています。国が診療報酬を変更してでもその方向に進めようとするのは、医療費の予算を削減するためです。

 

病院の経営者は、厚生労働省の意向に沿うように自院を運営しようと考える傾向が強いので、病院への転職を考えている整形外科医は、地域のクリニックとの連携に協力的であることが求められます。

 

クリニックの院長の名刺を集めよう

 

厚生労働省の意向を汲むだけではなく、病院の整形外科は、クリニックとの連絡を密にすることで大きなメリットを得ています。整形外科疾患の症状が、ほかの診療科の疾患の症状と似ているからです。

 

例えば、人口膝関節置換術につながる足の痛みは、循環器内科分野の閉塞性動脈硬化症でも見られます。ということは、循環器内科クリニックの院長は「検査したけど原因が分からない。整形外科疾患かな」と悩むことが多いので、安心して紹介できる整形外科医を確保しておきたいと考えています。

 

「安心して」には、「患者の治療をしっかりやってくれる病院」という意味の他に、「整形外科の治療が終ったら患者を戻してくれる病院」という意味もあります。

 

循環器内科だけではありません。腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアには、排尿障害の症状がありますので、泌尿器科クリニックとも連携したいところです。

 

そこで、総合病院の整形外科への転職を希望している先生は、採用面接のときに「貴院は近隣のクリニックを大切にしている病院ですね」と言うと効果的でしょう。

 

もし、先生が現在の居住地のエリアで転職先の病院を探すのであれば、いまから近隣クリニックの院長の名刺を集めるのもいいでしょう。近隣クリニックへのコネクションは、転職希望先病院の経営者にとっても「宝物」だからです。

 

逆紹介の実績はPR効果が高い

 

整形外科が強い病院にとって、近隣の整形外科クリニックはスクリーニングをしてくれる大事な存在です。しかし経営者や事務長が「クリニックを大切にしよう」と思っていても、医者が非協力的では、紹介患者の増加につながりません。

 

ですので「逆紹介がしっかりできる」整形外科医は、転職活動で高い評価を得られるでしょう。

 

というのも、整形外科の先生方にとって、逆紹介ほど面倒なものはありません。自院に一般内科や循環器内科があれば、患者を囲い込むつもりがなくても、「整形外科での治療が終ったら、自院の内科の先生にフォローしてもらおう、その方が情報を得やすい」と思いがちです。

 

ですので整形外科の先生は、採用面接で「スムーズな紹介・逆紹介のために気遣ってきたこと」を披露してみてください。

 

クリニカルパスの徹底は「武器」になる

 

整形外科分野では予定手術や予定入院が可能であり、これは病院としては売上の見通しが立てやすいので、とても重宝しています。

 

ということは、「転職して収入を増やしたい」と考えている整形外科医は、いまからクリニカルパス通りの手術・入院の実施を心掛けるといいかもしれません。

 

「すでにうちの病院ではほぼクリニカルパス通りに動いている」というケースがあるかもしれません。そういった良い病院にお勤めの先生は、「どうしてうちの病院はクリニカルパス通りに進むのか」ということを観察しておいてください。

 

そういう病院では、医師以外の「誰か」も、しっかりグリップを利かせている可能性があります。発言力が大きい看護部長や、コスト意識が高い診療情報管理士が活躍していることもありますし、リハビリ室の効率的な運営が計画的な治療に貢献している場合もあります。

 

いまお勤め先の病院でしっかりクリニカルパスが守られていても、転職先ではそうではないかもしれません。ですので、今の病院で「誰がコントロールすれば、歯車がうまく回るか」ということを把握しておけば、転職先の病院に「輸出」できるわけです。

 

整形外科医を探している病院の経営者は「うちの病院はどうしてクリニカルパスを守れないんだ?」と苛立っているかもしれません。採用面接で理事長からそういった愚痴がこぼれたら、「クリニカルパスを厳格に守るコツ」を教えてあげると、印象がグッと良くなるでしょう。

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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