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呼吸器外科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法

■ 記事作成日 2017/12/20 ■ 最終更新日 2017/12/20

 

年収だけで勤務先を変える医師はいません。しかし、長年の研鑽によって身に付けた医療の知識と経験が、「正当な報酬」によって評価されることは、当然のことです。
呼吸器外科の先生が、次の転職で大幅年収アップを獲得する交渉術を紹介します。

 

呼吸器外科の勤務医の年収上限を知る

 

医師が病院と年収交渉するときに、「希望年収が低すぎること」も「ふっかけること」も禁物です。
希望年収が低いことは自身を安く売ることを意味しますし、希望年収が高すぎると自身の品位を汚すことになりかねません。

 

気を付けたいのは、ふっかけるつもりなどなかったのに、年収の相場を知らなかったためにあてずっぽうで高めの希望年収を提示してしまった場合です。

 

また、採用面接時に病院側から予想外の高額年収が提示された場合も、業務内容をきちんと確かめないと危険です。予想外の仕事を課せられ、高額年収でも見合わないことがあります。

 

転職で確実に年収アップを図るには、先生自身が「呼吸器外科勤務医の年収の相場」を把握しておく必要があります。

 

医師専用の転職支援サービスで定評があるエムスリーキャリアエージェントの呼吸器外科医を募集する求人票から、年収の相場を分析してみましょう。

 

呼吸器外科医の求人票からは年収を上げにくい傾向が読み取れる

 

エムスリーキャリアエージェントには呼吸器外科医を募集する求人票が183件あります(2017年12月現在)。
呼吸器内科が3,979件もあることから比較すると、かなり少ない数字といえます。

 

労働市場には、求人が多い職種ほど収入が高くなるという法則があります。企業がその仕事ができる労働者を奪い合うようになるためです。
医師の転職市場でも同じ傾向が見られますので、求人票の数が少ない呼吸器外科は、高い収入を望みにくい診療科といえます。

 

呼吸器外科医が年収2,000万円の大台に乗るためには…

 

求人票に掲載する年収額は、例えば「1,500万~1,800万円」といったように幅を持たせてあります。
これは求人票を出している医療機関が、医師のスキルを査定した後に年収を決めたい考えているからです。

 

高い年収で知られている眼科や透析センターの求人票ですと、「2,000万円~」という、年収の下限額が2,000万円を超えているものが散見されます。
ところがエムスリーキャリアエージェントの呼吸器外科医の求人票183件の中で下限が2,000万円を超えていたのは、次の1件だけでした。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務形態
山梨県富士吉田市

クリニック

2,100万円~

外来
整形外科のクリニック

週5日勤務

当直なし

 

整形外科のクリニックが呼吸器外科医を募集している意図は不明ですが、いずれにしましてもこの金額は例外と考えるべきでしょう。

 

呼吸器外科医が年収2,000万円を突破することは簡単ではなさそうです。

 

手術スキルを厳密に査定されるのか、下限が低い

 

次に年収提示額の上限が2,000万円付近の求人票を調べてみました。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務形態
さいたま市北区

病院

1,000万~

2,000万円

手術、外来、病棟管理、各種専門検査、日本呼吸器学会関連施設

週4~5日勤務

当直月0~2回

茨城県牛久市

病院

1,000万~

2,000万円

手術、外来、病棟管理、各種専門検査、化学療法センター開設予定

週5日勤務

当直月1~4回

愛知県一宮市

病院

1,100万~

1,900万円

手術、外来、病棟管理、各種専門検査
開胸・腹腔鏡による肺がん手術は年40~50件
日本呼吸器学会認定施設

週40時間労働制

当直月2~3回

 

さいたま市の病院と茨城県牛久市の病院は、ともに下限が1,000万円です。
愛知県一宮市の病院も下限額が1,100万円ととても低い金額になっています。

 

もちろん他科でも下限額が1,000万円の求人票はたくさんあります。

 

しかし、下限が1,000万円付近で、上限が2,000万円付近という求人票は、他科ではまれです。

 

ところが呼吸器外科医を募集しているこれらの求人票は、上限額が2,000万円と1,900万円ですので、下限と上限では1.7~2倍の開きがあるわけです。

 

下限額と上限額がこれだけ開いている求人票が多いのは、呼吸器外科求人の良くない特徴の1つといえるでしょう。
なぜ良くないのかというと、これでは求人票を見た医師がどれだけもらえるのかまったく見当がつかないからです。

 

しかしこの年収額の表示は仕方がない部分があります。

 

それは、呼吸器外科の売上が手術数に大きく左右されるため、病院側には「手術を多く執刀してもらえるなら多額の年収を支払いたいが、手術件数をこなせないなら年収は低く抑えたい」という心理が働くからです。

 

呼吸器外科領域の大きな手術の1つに肺切除がありますが、肺悪性腫瘍の場合は部分切除でも1件の売上が60万~70万円になります。

 

さらに気管支や気管分岐を含む切除だと100万円をゆうに超えます。
ちなみに肺悪性腫瘍瘍手術・気管分岐部再建を伴う肺切除は1,271,300円です。

 

肺がん治療は、手術代だけでなく入院基本料や検査料も含めると、相当な金額になります。
呼吸器外科を標榜する病院にとっては、手術を1件でも多く行うことが重要な経営戦略になってくるわけです。

 

呼吸器外科医の腕が経営を握っている病院もあるでしょう。

 

それで病院は呼吸器外科医の年収を決めるときに、厳格に手術スキルを査定することになるのです。
呼吸器外科医が年収を上げるには、手術スキルを高めることが欠かせません。

 

インセンティブが200万円の病院も

 

手術件数が多い呼吸器外科医ほど高収入を得るという傾向がはっきり出ているのが、長野県駒ケ根市の病院の求人票です。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務形態
長野県駒ケ根市

病院

1,500万~1,900万円+インセンティブ年20~200万円

手術、外来、病棟管理、各種専門検査

週5日勤務

当直月3回

 

この病院はインセンティブを設定していて、呼吸器外科医は最高200万円を、年収以外に獲得できます。

 

駒ケ根市は人口3万2千人の小さな自治体です。この街の病院に呼吸器外科手術がしっかりできる医師を呼ぶ場合、やはり2,000万円超えの年収を提示しなければならないのでしょう。

 

しかし、東京からJRで4時間以上かかる小さな街なのに、手術スキルが高くない呼吸器外科医には1,500万円を提示しているのです。

 

1,500万円はすべての医師の年収を見渡せば決して低い金額ではありませんが、呼吸器外科医に都会の生活から離れることを決断させるのに十分な金額と言えるかどうかは判断が分かれるところでしょう。

 

医療機関は呼吸器外科医に何を求めているのか

 

年収交渉で医療機関から最高額を引き出すには、「その医療機関が求めている医療」を知り、採用面接で「その医療は私の得意分野です」とPRする必要があります。

 

呼吸器外科に力を入れている病院のホームページなどから「求められている医療」を探りました。

 

胸腔鏡下手術は年収アップの近道

「手術の傷が小さく、術後の痛みも少ない。早期退院も可能 」

 

(東京慈恵会医科大学付属柏病院)

 

「開胸手術は肋骨を切り、筋肉を切り、万力のような道具で胸を開ける必要がありますが、こちらの手術方法は骨も筋肉も切りません」

 

(神奈川県立循環器呼吸器病センター)

 

「手術翌日から歩けます 」

 

(国立病院機構埼玉病院)

 

これらの集患コピーはいずれも、病院による胸腔鏡下手術のPRです。
この3院だけでなく胸腔鏡下手術を行っている多くの病院のホームページは、開胸手術よりも胸腔下手術のメリットのほうが大きいと述べています。

 

兵庫県の姫路医療センターでは、2013年までに行った肺がん胸腔鏡下手術は2,300例に及び、そのうち手術中に出血量が多くなったり、病巣が心臓に近いことが分かったりして開胸手術に切り替えた例はわずか70例(約3%)にすぎませんでした。

 

胸腔鏡下手術はメリットが大きいうえに、実績も上がっているのです。

 

そして胸腔鏡下手術には、単価が高いという病院にとってかけがえのないメリットもあります。

 

気管支まで切除するときは開胸手術が必要で、こちらの単価は胸腔鏡下手術より高くなりますが、しかし一般的な肺がん手術である肺葉切除では、胸腔鏡下手術のほうが開胸手術より単価が高いのです。

 

国立病院機構埼玉病院はホームページで、次のように説明しています。
「手術料だけの比較では、標準的な肺がん手術の場合、開胸手術は約70万円、胸腔鏡下手術では90万円くらいです」

 

もちろん肺がん治療で胸腔鏡下手術が求められているのは、治療効果が高いからです。治療効果も治療単価も高いことは、病院にとってメリットが大きい治療法といえます。

 

病院にメリットがある治療を得意とする医師の年収が減るわけがありません。
年収アップを狙う呼吸器外科医は、胸腔鏡下手術のスキルを高めたほうがよい、という結論になります。

 

呼吸器外科医にとっての胸腔鏡下手術スキル獲得の年収上のデメリットとは

 

病院の収益を考えた場合、メリットが多い胸腔鏡下手術ですが、呼吸器外科医の立場になって考えるとデメリットが見えてきます。
それは、胸腔鏡下手術はスキルの獲得が難しいということです。

 

国立病院機構埼玉病院は「開胸手術より胸腔下手術の手術代のほうが高いのは、難易度が高いという意味での技術的評価が含まれているから」と解説しています。

 

胸腔下手術は執刀医の視野が狭くなる上に、長い鉗子を操らなければならないため、より高い精度の操作技術が求められます。
手術の難易度が高いということはスキル獲得に時間を要することを意味し、それは高額年収を得るまでの時間の長さとイコールになります。

 

先ほど、呼吸器外科医の年収は、同じ病院内でも手術スキルの高さによって2倍の差が生じることを見ました。

 

年収2,000万円の獲得には胸腔鏡下手術のスキルは欠かせないものの、そこに至るまでの道のりは遠いといえそうです。

 

抗がん剤治療の拡大は収入アップの好機といえる

 

呼吸器外科医の中には、積極的に抗がん剤治療に取り組んでいる方も多いと思います。

 

大規模病院や大学病院の消化器外科でも、手術前後の化学療法適応患者を腫瘍内科に任せるのではなく、自科で行うことは珍しくありません。
外科医が抗がん剤を扱うのは、日本の外科の伝統でもあります。

 

肺がんの抗がん剤の経済面での将来性は、かなり明るいといえそうです。
例えば超高額薬として多くの人の記憶に新しい免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」は、2017年2月に半額になり、2018年にはさらに6%ほど下がりますが、それでも32万円もします。

 

日本経済新聞の報道によると、肺がんを含むすべてのがんの抗がん剤の市場規模は2025年には1兆4,367億円に達し、これは2016年比で35%増となります。

 

そして肺がんの抗がん剤に限っていうと、2025年には3,707億円になり、2016年比78.9%増という驚異的な伸びを示すと予測しているのです。

 

その根拠としては、オプジーボのような免疫チェックポイント阻害剤が増えることや、分子標的治療剤の開発競争の激化などが挙げられています。

 

規模が大きい市場に参加するプレイヤーの収入が増えることは、資本主義社会では当然のことであり、医療でも例外ではありません。
薬価が高い薬は、病院の収益の押上効果に大きく貢献します。

 

しかも呼吸器外科医が肺がんの抗がん剤治療に詳しくなることは、手術から化学療法へのシームレスな治療の提供を意味し、患者のメリットも増やすのです。

 

呼吸器外科医の収入はもっと高くてもよい

 

肺がんの死亡数は、男性で1位、女性で2位、男女計で1位という多さです。
呼吸器外科医は、日本で最も恐れられている病気の1つを治療しているわけです。

 

その呼吸器外科医の年収が、他科の医師より見劣りしてよいわけがありません。
呼吸器外科医にとっての年収2,000万円は、当然すぎる目標であるといえるのではないでしょうか。

 

 

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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