消化器内科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法
■ 記事作成日 2017/6/2 ■ 最終更新日 2017/12/6
年収だけで勤務先を変える医師はいませんが、長年の研鑽によって身に付けた医療の知識と経験が「正当な報酬」によって評価されることはある意味当然のことでではないでしょうか。
今回のコラムでは、医療機関との転職面接で大幅年収アップを獲得するために活用できる具体的な交渉術(消化器内科医師 編)を紹介します。
医師転職サイトの担当者ともこの記事内容でじっくりと情報共有しておくと、より有利な転職候補先の求人案件を探してきてくれることを保証いたします。
消化器内科勤務医の年収上限を知る
医師の転職面接における年収交渉には2つのタブーがあります。1つ目は「自らが提示する希望年収が低すぎること」で、これでは正当な金額を当然引き出すことはかないません。
2つ目は「相場観を外れた高額年収を提示すること(ふっかけること)」で、これは先生の品位を汚しかねませんし、現実的には就業してから人材費用対効果を医療機関経営陣が過度に意識することとなり(要は「期待値」が上がりすぎてしまい)、上層部からの業務成果を必要以上に厳しく問われるようになったり、人間関係を保つのが難しいケースに陥る危険があります。
また、採用面接で先方から予想外の高額年収が提示されても、その裏に潜む「予想外な高額報酬の理由」には注意を測っておくべきです。むやみに業務の忙しさが倍増してしまったらワーク・ライフ・バランスが崩れてしまい、生活破綻の可能性が出てきます。
そこで、「消化器内科勤務医の年収の相場」と「募集条件」を把握するために、代表的な医師転職サイトの求人票をリサーチして相場観を涵養することから始めます。
医師転職サイトの求人票から(リクルートドクターズキャリア)
転職サイト「リクルートドクターズキャリア」で「消化器内科医」を検索すると737件の求人票が現れます。そこからさらに「年収2000万円以上」で絞ると、9件が残りました(※2017年6月現在)。
地方の村では年収3000万円も、患者は高齢者
リクルートドクターズキャリアに掲載されている消化器内科医求人の最高額は「2000万~3000万円」を提示する、福島県平田村の100~199床の病院です。平田村は都心から車で約3時間の距離にある人口6千人ほどの小さな村です。高額年収は「僻地手当」の意味合いがあるのでしょう。
受け持つ外来は週2~3コマで、1コマ40~50名の患者が来ます。外来患者も入院患者も、ほとんどは高齢者です。当直は「相談可」とあるので「当直なし」を選択することもできますし、年間休日数120日は魅力的な数字です。
こうした情報から、病院側が消化器内科医のオールマイティさに期待していることや、腰を据えて地域医療に取り組んでくれる医師を求めていることが読み取れます。
さらに「専門医歓迎」とありますので、消化器科病専門医と消化器内視鏡専門医の両方を保有していると3000万円に近付き、いずれも保有していないと2000万円に近付くということです。
ポリペクが得意な医師は「横浜」「外来のみ」で2000万円以上
横浜市都筑区のクリニックは、週8~10コマの外来診療を担当してくれる消化器内科医を募集しています。勤務場所といい、外来のみで「2000万円以上」という提示といい、他科ではあまり見られない好条件ぶりです。
高額年収を提示しているのは、同クリニックがポリペクトミーに特化した内視鏡センターを開設しているからです。求人票ではEMRやESDのスキルは特に要求していませんが、ポリペクは上部と下部の両方できる必要があります。
暗に「胃内視鏡しかやってこなかったドクターはお断り」と言っているようなものです。これを医師目線で読み返すと「大腸内視鏡のスキルは年収交渉を有利に運ぶ」と理解できます。
なぜこんなに安い?東京で「年収600万円」の消化器内科常勤求人
737件の消化器内科医求人の中で、最安年収は「600万円以上」を提示している東大和市の病院です。
同市は東京都なので年収に「僻地手当」が期待できないのは当然としても、埼玉に隣接した立地を考えると「都心部だから年収が低い」という理屈にも当てはまりません。
なぜこんなに安いのでしょうか。
求人票では「消化器内科医募集」と明記していますが、「外来の患者層」の欄を見ると、食道がん、胃がん、大腸がんと一緒に「乳癌、鼠径ヘルニア」が並んでいるので、「なんでも診ることができる先生に来てほしい」ということでしょう。
給与例に「5年目、800万円」「10年目、1,300万円」とあるので、最低年収の600万円は卒後数年の医師を想定しているものと思われますが、それにしても厳しい金額でしょ。
ちなみに、この病院では医師であっても駐車場利用料が月3,000円徴収されます。
内視鏡学会認定施設は「年収1000万~2000万円」
静岡県浜松市の500床以上の総合病院は、良い意味で「平均的」といえそうです。浜松市は医師に人気の土地ですし、年収の提示額「1000万~2000万円」も低からず高すぎずといったところです。
この求人票には年収事例も紹介されていて「卒後10年目、1100万~1200万円」となっています。これだけ見ると「意外に低い」と感じるかもしれませんが、当直手当の1回21,260円は別途支給です。当直を月3回行えば、年間765,360円(=3回/月×12カ月×21,260円)が上乗せされます。
しかも同院は内視鏡学会認定施設に登録されています。外来業務も消化器疾患に専念できる内容が記されているので、収入以上に「腕を磨くチャンス」が魅力的です。
他科の医師がうらやむ「2000万円」連発の消化器内科医師常勤求人
リクルートドクターズキャリアの737件の「消化器内科医の求人票」を概観して言えることは「2000万円の文字が頻出している」ということです。これは他科の医師がうらやむ金額でしょう。
消化器内科は胃・大腸がんというメジャー疾患を扱ううえに、内視鏡検査という「短時間かつ高単価」な医療行為が多く行われるからです。
消化器内科医が転職によって年収アップを実現することは、それほど難しくなさそうです。
医師転職サイトの求人票から(エムスリーキャリア)
守備範囲が広い消化器内科医は訪問診療にも
一方、他の医師紹介会社の求人状況も見てみます。「m3.com」が運営する転職支援サイトの特徴は「訪問診療」の求人の多さです。東京都北区の訪問診療クリニックの求人票を見てみましょう。
ここでは消化器内科のほか、一般内科、循環器内科、呼吸器内科の医師も併せて募集しています。求人票のキャッチコピーは「全身管理、診療科にこだわらず総合的な診療をお願いします」です。
診療内容は、疼痛管理、在宅緩和ケア、IVH、人工呼吸器、胃瘻、気管切開などです。つまり「専門家」ではなく「ゼネラリスト」な医師を求めています。
提示年収は週5日勤務が1500万~2400万円、週4日勤務が1100万~1600万円となっています。消化器内科医の年収としては、「悪くない」と「すごく良い」の間くらいです。
この求人で注目したいのは、勤務形態です。
午前9時に出勤し、30分後から訪問診療を開始します。訪問には看護師と専属ドライバーが同行するので、医師は治療に専念できます。
退勤時間は17時で、当直なしも選択可能です。訪問診療で欠かせない「移動ストレス」を補って余りある働く環境といえるでしょう。
さらにこのクリニックでは、「クラウド型カルテ」や「ウェアラブル機器」といったハードも充実させています。訪問診療とITはとても相性がよく、同クリニックの取り組みは医師の負担減に寄与するはずです。
そもそも訪問診療は厚生労働省も力を入れていて、将来性が高い医療分野といえます。テレビ番組でも訪問診療医の奮闘ぶりと工夫が頻繁に取り上げられ、注目されています。
ですので、先生がもし、緩和ケアや看取り医療に興味があるのであれば、訪問診療の黎明期である「いま」はこの分野に飛び込むチャンスといえます。
その病院は消化器内科医に「何を求めている」のか
年収交渉で医療機関から最高額を引き出すには、「その医療機関が求めている医療」を知り、採用面接で「その医療は私の得意分野です」とPRする必要があります。
消化器内科に力を入れている病院やクリニックの広告やホームページから「求められている医療」を探りました。
A医院は広告で「日帰りポリペク」をPRしている
福島県会津若松市で消化器内科を標榜するA医院は広告で、年間3,000件ほどの胃・大腸内視鏡検査を行っている、とうたっています。同検査の診療報酬は1万数千円ですので、これだけで3,000万~4,000万円の売上となります。
しかも、内視鏡検査からポリペクトミーに移行した場合、診療報酬は5万~7万円に上昇します。そこでA医院は「日帰りポリペク」を強くPRしています。
医療機器で差別化し検査件数を増やすメリット
消化器内科では、医療機器で差別化を図ろうとする動きがあり、千葉県市原市のBクリニックは、「NBIシステム」を搭載した高画質拡大内視鏡を使っていることをアピールしています。
Bクリニックの胃・大腸内視鏡検査の年間実施件数は1,500件で、これも素晴らしい数字です。これだけの件数をこなしていれば悪性腫瘍疑いの症例が格段に増えるので、おのずと総合病院の消化器外科への紹介も増えるでしょう。
そうなれば総合病院からの逆紹介が期待できます。
総合病院で胃・大腸がんの外科手術を行えば、経過観察の中で必ず胃・大腸内視鏡検査が必要になるので、逆紹介はクリニックにとって大きな収入源となります。
狭帯域光観察(NBI)はそれだけで、がんの栄養補給路である毛細血管を強調表示する画期的な機能ですが、さらにモニターを高画質化することで、がんのさらなる早期発見が可能になります。
消化器内科領域は、ハードへの投資効果が現れやすい分野といえるでしょう。
つまり、「内視鏡検査件数アップ」→「がんの発見」→「総合病院への紹介」→「総合病院からの逆紹介」→「内視鏡検査件数のさらなるアップ」→「収入増」→「ハードへの投資拡充」→「内視鏡検査の評判向上」→「内視鏡検査件数の飛躍的なアップ」――という好循環を生むのです。
オリンパスはすでに、家庭用テレビでおなじみの4K画像を内視鏡に導入しています。ただ消化器内科医の先生にとって残念なのは、同社の4K内視鏡は外科手術用に限定されていることです。しかしオリンパスが「テレビのソニー」と合弁会社をつくったことから、消化管内視鏡への4K投入もそう遠くない将来、実現するでしょう。
内視鏡システムに強い医師は相応のポストを期待できる
消化器内科の病院やクリニックがこれだけ最新機器をPRするのは、ハードには患者を引きつける力があるからです。
ですので転職活動においても、内視鏡システムの知識を豊富にお持ちの消化器内科医は、年収交渉を有利に運ぶことができるでしょう。
安くて性能が良い医療機器を見極める力
例えば、横浜市の聖隷横浜病院は500万人の診療圏を抱える300床の総合病院ですが、同院の消化器内科では最近まで、患者説明の際に、ポラロイドカメラで撮影した写真を使っていたそうです。内視鏡が映しだした画像を、医師や看護師がポラロイドカメラで「パシャリ」とやっていたのです。
さらに画像の保存や管理には、家庭用のDVD機を使っていました。同院の消化器内科部長が自嘲気味に「プアな環境でした」と振り返るほどです。
そして聖隷横浜病院の消化器内科は、2014年に生まれ変わりました。富士フイルム製の「内視鏡情報管理システム」を導入し、一気に「リッチな環境」になったのです。
新内視鏡システムでは、内視鏡画像とレポートを合体させたり、内視鏡画像とX線写真を比較したりすることが容易になりました。さらに、止血術式の様子を動画で撮影したり、医師が予約情報にアクセスできたりと、至れり尽くせりの状況です。
治療の効率化と、患者サービスの向上が同時に達成できたのです。
内視鏡業界では、オリンパスが圧倒的なシェアを持っていますが、富士フイルムは価格で攻勢をかけています。機能面でも「富士フイルムの内視鏡の方が使いやすい」と断言する医師も現れ始めました。
安くて性能が良い医療機器を導入することは病院の利益に直結しますので、この分野に明るい消化器内科医が、例えば内視鏡検査センターの新設を検討している病院に転職すれば、相応の役職を用意してもらえる可能性があります。
「数年以内には転職する」と考えている消化器内科医がいますべきこと
認定医や専門医の資格は、年収交渉を有利に運ぶための必須ですが、一朝一夕に取得できるものではありません。新薬や最新機器を使いこなすにも時間が必要です。
そこで「数年以内には転職して年収の大幅増を狙う」と考えている消化器内科医が「いましておくべきこと」を考えてみます。
3つの専門医資格は「年収大幅アップの武器」になる
医師が年収交渉をする場合、交渉相手となる病院には2つの相反する心理が働きます。1つは、「良い先生に来てほしいから、年収はケチりたくない」という考えです。理事長や院長など医療機関の経営トップはこう考える傾向にあります。というのも、理事長たちにとって採用する医師は「労働者」であると同時に、「医師仲間」でもあります。なので「医者には裕福な生活を送ってもらいたい」という気持ちが芽生えてしまうのです。
しかし、金庫番である事務長は、年収を抑えることしか頭にありません。採用面接前に医師の症例数やスキルなどを調べ、「値下げのネタ」を探します。
事務長が「値下げのネタ」を持っているなら、理事長や院長に「値上げのネタ」を与えましょう。それが、次の3つの専門医資格で、消化器内科医の年収交渉では、強力な武器になります。
名称 | 認定学会 |
---|---|
消化器内視鏡専門医 | 日本消化器内視鏡学会 |
総合内科専門医 | 日本内科学会 |
合内科専門医 | 日本内科学会 |
インパクトが強いのは総合内科医専門医
消化器内科医の採用面接を控えた病院では、理事長と事務長はこんな会話をしています。
事務長「理事長、明日面接する消化器内科の先生の年収ですが、まだお若いので1000万円を割り込む金額を提示しようと思います」
理事長「いやいや、国立大を出ているし、経歴も立派じゃないか。俺は1200万あたりを考えていたぞ」
事務長「そんな金額を提示したら、うちの先生たちが黙っていませんよ。年齢もまだお若いので、どんなに譲歩しても1000万円が限界です」
理事長「でも、消化器内視鏡専門医と消化器病専門医と、それに総合内科専門医まで持ってるんだろ。それぞれ50万円として、1,150万円でどうだ」
事務長「…」
総合内科専門医の資格はかなり高いポイントといえます。消化器内視鏡専門医と消化器病専門医は、「消化器内科医なら持っていて当然」と考えられてしまいます。
しかし、病院の経営陣は、新しく入職する消化器内科医が、患者の評判が固まって内視鏡検査の予約がいっぱいになるまでにはタイムラグがあるので、その間一般内科医として活躍してもらいたいと考えます。
なので、消化器内科医が、認定内科医よりグレードが高い総合内科専門医を持っていると、病院としては、最初から内科医長のポストを用意することができます。
消化器外科医とのコミュニケーションの渉外力が問われる
大阪府高槻市の約240床の中堅総合病院は、自院の特長として「消化器内科と消化器外科のコラボ」を打ち出しています。近隣に200床以上の病院が複数あることから、「消化器疾患といえば」という評判の獲得することで、生き残ろうとしているのです。
消化器内科医と消化器外科医がいる病院では、消化器内科医が内視鏡でがんを見つけ、病変が小さければそのままESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などで摘出し、がんが進行していれば消化器外科医が手術をする――という流れになります。
しかしこの流れはスムーズにいかないこともあります。医師の年収に占めるインセンティブの割合が多い病院だと、消化器内科と消化器外科の間で「このがん治療はどちらの実績に計上するのか」という争いが生じます。
ひどい病院ですと、消化器内科医が「うちの消化器外科医では手に負えない症例なので、大学病院に紹介する」と言い出します。これでは、理事長も事務長もたまったものではありません。
そこで高槻市の中堅総合病院は、消化器内科・外科の合同カンファレンスを毎週開き、患者にとってベストな治療法を話し合っているのです。
そこで、消化器内科の先生が「2年後を目途に転職するぞ」と思い立ったら、消化器外科医とのコミュニケーション力(コミュ力)を高めておいてください。
消化器外科医が「消化器内科は手術の前さばき」と考え、消化器内科医が「最新の内視鏡があれば消化器外科は不要」と考えてしまっては、患者を含むすべての関係者が不幸になります。
しかし、消化器外科医が「自分たちは消化器内科治療のバックアップ」と考え、消化器内科医が「うちの病院の消化器外科が優秀だから、攻めの内科治療ができる」と考えると、全員が幸せになります。
採用面接で消化器内科医の先生の口から「消化器外科とのコミュニケーション戦略」が語られれば、理事長や事務長は将来の管理職候補として期待するかもしれません。
厚生労働省の調査によると2014年の胃腸内科医を含む消化器内科医の人数は13,805人でした。国内の医師総数は296,845人ですので消化器内科医は4.7%を占めます。最も医師数が多い診療科は一般内科医の61,317… 2017/10/21 |
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