循環器内科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法
■ 記事作成日 2017/7/25 ■ 最終更新日 2017/12/6
年収だけで勤務先を変える医師はいません。しかし、長年の研鑽によって身に付けた医療の知識と経験が、「正当な報酬」によって評価されることは、
当然のことです。循環器内科の先生が、次の転職で大幅年収アップを獲得する交渉術を紹介します。
循環器内科勤務医の年収上限を知る
年収交渉では、「希望年収が低すぎること」も「ふっかけること」も禁物です。また、採用面接時に病院側から予想外の高額年収が提示された場合も、業務内容をきちんと確かめないと危険です。
転職で確実に年収アップを図るには、先生自身が「循環器内科勤務医の年収の相場」を把握しておく必要があります。代表的な転職支援サイトの求人票を分析してみましょう。
リクルートドクターズキャリアの求人票から
転職支援サイトの「リクルートドクターズキャリア」には、循環器内科医の求人票が578件あります(2017年7月現在)。これは他科と比較して多い部類に入ります。
ただ、循環器内科医の募集では、求人票を出している病医院側が「一般内科医のニュアンス」で掲示していることもあるので、単純に「循環器内科医は他科に比べて引く手あまた」というわけではなさそうです。
転職の検討を始めた先生は、自分は「臓器別専門医としての循環器内科医」を極めるのか、それとも「一般内科的な要素を含む循環器内科医」に進むのかについて、決めておくとよいかもしれません。
2,000万円台の求人票は少ない。「忙しさの覚悟」が必要
リクルートドクターズキャリアの578件の循環器内科医求人票のうち、「年収2,000万円以上」を掲げているのはわずか6件しかありませんでした。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
東京都葛飾区
クリニック |
年収2,000万~2,200万円 | 新規開設の訪問診療の院長候補、1日11~17件訪問、看護師と事務員が同行、時間外もオンコールもなし、消化器内科医も同時募集 | 年120日休み |
この求人票は、東京23区内にあって2,000万円以上を提示するクリニックです。訪問診療を担当する医師を募集しています。
院長で迎え入れられますが、訪問件数は1日11~17件と、かなりハードです。しかもこの法人は、同時に消化器内科医も募集しているので、これがいわゆる「一般内科的な循環器内科医」を募集している求人といえます。
高額だけあって大変さは容易に想像できますが、訪問診療に興味がある先生には、悪い条件ではありません。年120日休みは一般サラリーパーソン並みですし、時間外もオンコールもありません。また、訪問時に看護師のほかの事務員が同行するのは、医師には心強いと配慮となるでしょう。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
千葉県市原市
病院 |
卒後10年目以上:年収2,000万~2,200万円 | 外来週2~3コマ、1コマ20~30名、病棟受け持ち20~30名、心筋梗塞、心不全、積極的な方、長期就業可の方歓迎 | 年105日休み |
かろうじて東京通勤圏といえる千葉県市原市の病院で、年収2,000万円超はうれしい金額といえるでしょう。年105日休みはややしんどいかもしれませんが、現在大学病院にお勤めの先生であれば「よりまし」の条件ではないでしょうか。
ただこの病院では、この年収を適用するのは卒後10年目以上の循環器内科医に限定しています。つまり中堅以下の先生がこの病院に応募すると、これより低い金額を提示される可能性があります。
また「積極的な方、長期就業可の方歓迎」とあるので、「臓器別専門医としての循環器内科医」を求めていることが分かります。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
静岡県焼津市
病院 |
年収2,000万~3,000万円、卒後10年目:1,500万~1,600万円 | カテ室を新規立ち上げ、外来週2~3コマ、1コマ20~25名、病棟受け持ち15~10名、心筋梗塞、心臓弁膜症、大血管病変 | 当直月1~2回、年120日休み |
より高度な専門性を求めているのが、静岡県焼津市の病院です。新規にカテーテル室を立ち上げるために、年収の上限を3,000万円に設定しています。
しかしこの求人票には、但し書きとして「卒後10年目:1,500万~1,600万円」とあります。それなら「1,500万~3,000万円と書くべきではないか」と感じるかもしれませんが、このような表記こそ「病院側のメッセージ」なのです。
つまり、病院側の本音は、「2,000万~3,000万円」クラスのベテラン循環器内科医を招聘したいのです。新規に心臓カテーテル室を立ち上げるので、その責任者になってほしいからです。
この時代に多額投資をするということは、病院側は「絶対に失敗できない」と覚悟を決めているはずです。破格の年収に、病院理事長の気持ちが表れているといってもいいでしょう。
しかし卒後10年の中堅医師も、カテ室の戦力として同時に確保したいのです。
よって、この病院で年収3,000万円を獲得するには、採用面接で「実績」をPRする必要があるでしょう。さらに、若手医師や看護師、臨床工学技士たちを率いて「カテチーム」を結成できるリーダーシップも必要になります。
このように、年収アップ交渉術は、病院側の狙いを見定めてから組み立てていくことが肝要です。
専門医資格を持つなら1,700万円は狙いたい
それでは次に、リクルートドクターズキャリアの循環器内科医求人票の中の、標準的な求人票を見てみましょう。
結論から申し上げますと、日本循環器学会認定の循環器専門医の資格をお持ちの先生なら、次の転職では1,700万円を狙いたいところです。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
北海道小樽市
病院 |
10年目以上:1,600万~1,800万円 | 専門医必須、専門外来あり、病棟受け持ち5~10名、心臓リハできる方 | 当直月3~4回、年130日休み |
埼玉県川越市
病院 |
1,600万~2,000万円 | 高齢者多、外来、病棟受け持ち20~30名 | 当直未記載、年117日休み |
東京都江東区
病院 |
10年目以上:1,600万~2,200万円 | 副院長候補歓迎、専門医歓迎、外来週3~4コマ、病棟受け持ち10~15名 | 当直なし相談可、年126日休み |
大阪市生野区
病院 |
10年目以上:1,600万以上 | 外来、病棟受け持ち20~30名 | 当直なし相談可、年108日休み |
ここに紹介した4つの求人票は、業務内容も年収額も標準的なものですが、地域がばらばらです。ここから次の3つのことが見えてきます。
- 年収1,500万円の獲得は難しくはない
- 卒後10年以上の医師が人気
- 都心部と地方の年収差は小さい
年収水準が高かったり、中堅以上の医師が人気なのは、「急性期の中の急性期」といわれる循環器内科ならば当然です。また、年収の水準が高いゆえに、都心部と地方の年収差が小さいのです。つまり、いわゆる「僻地手当」が期待できない診療科といえます。
若い循内医は気の毒なほど年収が低い
求人票に「10年目以上」と書かれることが多いのは、循環器内科の特徴のひとつです。このことは、9年目以下の循環器内科医は「人気がない」ということを意味しています。
「人気がない」という表現は言い過ぎではないかと感じるかもしれませんが、実態としてはそう表現するよりないようです。
次に紹介する2つの求人票の最低年収の低さに注目してください。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
埼玉県春日部市
病院 |
700万~1,800万円 | 不整脈専門、外来週2コマ、病棟受け持ち10名、次の資格を取得を目指す方:循環器専門医・インターベンション治療学会専門医・不整脈専門医 | 当直月3~4回、年123日休み |
東京都東大和市
病院 |
600万~1,800万円 | 外来週1~3コマ、病棟、スキルを磨きたい方歓迎 | 当直3~4日、年117日休み |
埼玉県春日部市の病院は、「循環器専門医・インターベンション治療学会専門医・不整脈専門医」の資格取得を目指す医師を募集しています。つまり、卒後間もない医師を積極的に採用したいと考えているようです。なので、年収のスタートが700万円という低さなのです。
また、東京都東大和市の病院の年収表示は、600万~1,800万円と、最低額と最高額に実に3倍の開きがあります。この開きは他科ではあまりみかけません。この病院は、スキルと卒後年数を厳格に審査したうえで年収を決める、とみるべきでしょう。
この求人票にも「スキルを磨きたい方歓迎」と書いてあるので、若い循環器内科医は限りなく600万円に近付くみるべきでしょう。
参考:「循環器内科医の求人票」(リクルートドクターズキャリア)
その病院は常勤循環器内科医に「何を求めている」のか
年収交渉で医療機関から最高額を引き出すには、「その医療機関が求めている医療」を知り、採用面接で「その医療は私の得意分野です」とPRする必要があります。
循環器内科に力を入れている病院や循環器内科クリニックの広告やホームページから「求められている医療」を探りました。
病院ランキング雑誌は「心カテ」「TAVI」「アブレーション」に注目
大手新聞社が出版している「病院ランキング雑誌」については、その趣旨に賛同できない医師も少なくないと思います。手術件数や検査件数だけで、病院の質や医師のスキルを測ることはできないのは事実です。
しかし、「ちょっと医療に詳しい一般人」が、手術件数と検査件数を「信奉」していることも事実なのです。つまり、病医院経営者としては、手術件数と検査件数を追い求めて、集患につなげたいと考えてしまうのです。
年収アップを狙う先生は、こうした病院経営者の心理を把握しておく必要があるでしょう。
手技ごとの実績をまとめたレジュメは効果的
ということは、「次の転職で大幅な年収増」を狙っている循環器内科医は、自身の「件数」についてシビアになっておいた方がよいといえます。
採用面接で病院理事長から「○○は年間どれくらい行っていますか」と尋ねられてすぐに回答できるように、これまでの実績をまとめたレジュメをつくっておけば年収交渉を有利に運べます。
読売新聞の病院ランキング雑誌「病院の実力2017総合編」の「大人の心臓病」の項目には、「心臓カテーテル治療を受けた患者数」と「心臓弁膜症のカテーテル治療(TAVI)を受けた患者数」と「カテーテル・アブレーション治療を受けた患者数」が掲載されています。
繰り返しになりますが、雑誌が注目している項目は、読者の関心が高いことを意味しています。つまり、この3つの手技に自信がある循環器内科医は、高額年収を獲得できるチャンスがある、といえそうです。
慶応大学病院の心臓系は「低侵襲」を売りにしている
慶応義塾大学病院には心臓血管外科と循環器内科があるのですが、そのほかに「心臓血管低侵襲治療センター」があります。
同センターの「売り」は
- カテーテル治療
- 内視鏡化小切開手術
- 動脈瘤に対するステントグラフト治療
- その他の先進治療
となっています。
患者の身体的な負担を減らす方法のPRは年収アップに効果的
これは、循環器内科医の先生が「年収交渉の戦略」を練るときのヒントになるでしょう。先生も「心臓系の治療では低侵襲がキイワードになっている」ことは、日々の診察の中で感じているはずです。しかし、そのことをきちんとアピールできる先生はそれほど多くありません。
そこで先生には、採用面接において、このトレンドをしっかりとらえていることをPRしていただきたいのです。
病院理事長や事務長に対して、「低侵襲の治療を心掛けている」と述べ、そのために先生が実際に行っている治療について解説しましょう。先生なりの「患者の身体的な負担を減らす」方法、「入院期間を短くする」方法、「治療費を抑える」方法がありましたら、病院の経営陣に伝えてください。
唯一のTAVI指導医と30日死亡率1%以下という圧倒的なデータ
慶応義塾大学病院「心臓血管低侵襲治療センター」の布陣は、心臓血管外科医4名、循環器内科医5名、小児科医1名、放射線診断科医1名となっていて、循環器内科医が最も多いことが分かります。
同センターのホームページで最も解説が充実しているのが心臓弁膜症のカテーテル治療「TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)」です。治療方法だけでなく「TAVIを受けた患者の声」を掲載するほどの力の入れようです。
それもそのはずで、同センターメンバーの林田健太郎・循環器内科医講師は、日本で唯一のTAVI指導医(ホームページ掲載当時)であり、ここでTAVIを受けた患者の30日死亡率は1%以下と、圧倒的な実績を残しているからです。
1件60万円以上の高額治療、4年2億4800万円?
TAVIは、診療報酬が約62万円もする高額治療です。慶応大学病院は2013年にTAVIを開始し、2017年4月に400例に達しました。単純計算ですが、入院費や検査費などを含まない、TAVIの手技料だけで2億4800万円の売上になります。
こうしたことから、循環器内科医の先生が、TAVIのスキルを習得した後に転職活動を開始することは、年収アップの近道といえるでしょう。
参考:「ハイブリッドチームとは?」(慶応義塾大学 心臓血管低侵襲治療センター)
参考:「K555-2 経カテーテル大動脈弁置換術の診療報酬」(今日の臨床サポート)
「数年以内に転職する」と考えている循環器内科医がいますべきこと
認定医や専門医の資格は、年収交渉を有利に運ぶための必須項目ですが、一朝一夕に取得できるものではありません。新薬や最新機器を使いこなすにも時間が必要です。
そこで、「数年後の転職」を検討している循環器内科医の医師が「いましておくべきこと」を考えてみます。
スター医師に学ぶものは大きい
先生が次の転職で高額年収を確実に獲得するためには、既に高額年収を獲得している医師の「何をしてきたか」と「何をしているのか」が参考になるはずです。
そこで、不整脈治療のカテーテル・アブレーション治療を年間1000件近く行っている「横須賀共済病院」の副院長、高橋淳医師について調べてみました。
「アブレーションの高橋医師」のしていること、してきたこと
有名医師である高橋氏を紹介したサイトは複数存在しますが、どのサイトでも紹介されていることは、
「世界で初めて心房細動のカテーテル手術を行ったフランス・ボルドー大学に留学した」
という履歴です。
高橋医師が留学したのは1996年で、当時の日本では不整脈に対する治療法は薬で発作を抑えるしかなく、さらに「心房細動はカテーテル・アブレーションでは治せない」とも考えられていました。
2年の留学の後、国内でカテーテル・アブレーションの治療を始めた高橋医師でしたが、「不整脈を再発してしまうなど治療成績が芳しくない」(インタビューでの高橋医師の回答から)状況でした。
そこで高橋医師は、異常信号の発信源をピンポイント焼灼する方法ではなく、発信源を広く囲むように焼灼する「拡大肺静脈隔離術」を開発し、2016年にはこの治療を受けた患者の9割が服薬なしの生活を送れるようになったのです。
カリスマ医師は必ず「チーム医療」を強調する
日本にまだ導入されていない治療法を求めて海外に出て、そこで修行して帰国する――多くのカリスマ医師たちはそのような過程を踏んでいます。
国内初登場の手技を引っ提げて帰国すれば、確かに高収入は約束されますが、しかし、こうしたアクティブな行動は誰でもできるものではありません。
そこで、高橋医師のコメントの中から「どの医師でも取り組めそうなこと」を探してみました。高橋医師は、横須賀共済病院のホームページで「チーム医療」と「何かあった時には医者が責任を取ること」を強調しています。
高橋医師は、自院の横須賀共済病院のカテーテル・アブレーションの精度が高まった要因として「良いチームをつくれたこと」を挙げています。そしてスタッフのことを「看護師や放射線技師、臨床工学技士などがいてこそ」とまで褒め称えているのです。
これは、高橋医師に限らず、多くのカリスマ医師が口にする言葉です。数多くの医療機器と医療材料を駆使しなければ実施できない循環器内科の治療では特に、医師が看護師とコメディカルをリスペクトすることは重要でしょう。
ちなみにこの高橋医師のインタビューは、正確には「横須賀病院のホームページ」に掲載されていたのではなく、「横須賀病院の看護部のホームページ」に載っていたのです。
自院の看護部のPRに、医者が顔写真付きで登場する病院は、そう多くはありません。
医師によるこうした協力姿勢は、間違いなく看護師たちの共感を集めます。患者に接する時間が長い看護師たちの態度が変われば、「治療成績の向上」「患者の信頼アップ」「患者増」が達成でき、ひいては「医師の実績」につながります。
もちろん、転職活動における年収アップ交渉で、その実績は最大の効果を発揮するでしょう。
資料:「不整脈治療を革新的に進歩させた高橋淳先生のストーリー」(Medical Note)
資料:「最先端の医療には、個人の技量よりもチームワークが重要」(横須賀共済病院)
厚生労働省の調査によると、2014年末時点の循環器内科医の人数は11,992人で、40科中9番目に多い数です。ただ、全医師に占める循環器内科医の割合は4.0%と「9位の割に占有率が低い」と感じ… 2016/10/23 |
この記事を書いた人
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