消化器外科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法
■ 記事作成日 2017/8/11 ■ 最終更新日 2017/12/6
年収だけで勤務先を変える医師はいません。しかし、長年の研鑽によって身に付けた医療の知識と経験が、「正当な報酬」によって評価されることは、当然のことです。
消化器外科の先生が、次の転職で大幅年収アップを獲得する交渉術を紹介します。
消化器外科勤務医の年収上限を知る
年収交渉では、「希望年収が低すぎること」も「ふっかけること」も禁物です。また、採用面接時に病院側から予想外の高額年収が提示された場合も、業務内容をきちんと確かめないと危険です。
転職で確実に年収アップを図るには、先生自身が「消化器外科勤務医の年収の相場」を把握しておく必要があります。代表的な転職支援サイトの求人票を分析してみましょう。
リクルートドクターズキャリアの求人票から
医師専門の転職支援サイト大手の「リクルートドクターズキャリア」には、消化器外科医だけの求人票を集めたページがなく、肛門外科医と肝胆膵外科医の3科を合わせた表示になっています。
その3科を合わせた求人数は218件で、これは他科と比べて少ない数字といえるでしょう(2017年8月現在)。
2,000万円以上はわずか2件
そしてこの218件から「年収2,000万円以上」で絞り込むと、2件しか残りませんでした。これも、他科と比べると格段に少ない数字で、消化器外科医が2,000万円の大台にのせることは、容易ではないことが分かります。
2つの求人内容をみていきましょう。
消化器外科医に内視鏡スキルを求めるクリニックがある
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
横浜市都筑区
クリニック |
10年目:2,000万円~ | ポリペクできる方、胃・大腸内視鏡必須、セデーション | 週4~5日勤務、年120日休み |
年収2,000万円以上を提示している消化器外科医の2件の求人票は、いずれも「件数をこなせる医師」を求めていることが分かります。
この横浜市のクリニックは、消化器外科医を募集していますが、胃・大腸内視鏡のスキルが必須となっています。しかもポリペクトミーまでを強調していることから、内視鏡を使った治療を得意としているクリニックであると推測できます。
そこで、グーグルで「内視鏡」「横浜」「クリニック」を検索してみました。
すると綺麗なホームページを持つクリニックがいくつかヒットし、そのうちのひとつである「Lクリニック」は、院内に内視鏡センターを開設していました。
その内視鏡センターの案内文には、「最高水準の内視鏡設備」とありました。さらに読み進めると、「大学病院の内視鏡設備よりも充実」「全国に先駆けてオリンパス社の最上位機種を導入」と書かれてあります。
こうしたことから、内視鏡治療に特化したクリニックは、しっかりと投資を行い、しっかりと売上を確保する方針であることが分かります。
よって、消化器外科医が次の転職で年収を上げるには、次のことが言えます。
消化器外科医が次の転職で年収アップを確実にするためのコツ【その1】
- 消化器外科医でも内視鏡スキルの獲得は有益
手術に専念できる医師は大台の年収を獲得できる
2件目の「2,000万円以上」求人票は、京都府福知山市の病院です。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
京都府福知山市
病院 |
10年目:2,000万円~ | 手術必須、外来週「~1コマ」、1コマ20~30人、病棟受け持ち「~10人」 | 週4~5日勤務、年120日休み、当直なし可 |
この求人票の特徴は「手術必須」を掲げていることでしょう。先ほどの横浜市のクリニック同様、「件数」に強くこだわっている様子です。手術件数を増やしたいという気持ちが強く表れているのは、「外来週~1コマ」と「病棟受け持ち患者~10人」という表示です。
このような表記はとても珍しいといえます。
「~1コマ」ということは外来がない週もあるということですし、「~10人」ということは病棟受け持ち患者が0人のときもあるということを意味しています。ここからは病院経営者の「その代り手術室にこもりっきりになって、手術件数を増やしてほしい」という意向が伝わってきます。
この求人票からは、次のことが分かります。
消化器外科医が次の転職で年収アップを確実にするためのコツ【その2】
- 手術に専念することをいとわない先生は、年収交渉を有利に運べる
それでは次に、消化器外科医の「標準的」な求人票をみていきましょう。
ハードな業務が予想されても1,300万円近辺
リクルートドクターズキャリアの218件の消化器外科医の求人票を「給料の高い順」に並べて、その中の中央付近に位置する求人票を3件ピックアップしてみました。つまりこの3件の求人票に提示されている年収額が、消化器外科医の相場とみることができます。
まずは埼玉県久喜市の300床クラスの総合病院の求人票です。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
埼玉県久喜市
300床総合病院 |
10年目:1,300万円~ | 手術必須、手術件数増加中、症例を重ねたい方歓迎、救急対応必須。外来週「~4コマ」、1コマ「~10人」、病棟受け持ち10~15名、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんなど | 週4~5日勤務、年117日休み、当直なし可 |
この求人票も外来コマ数が「~4」となっているので、外来がない週があることを示しています。手術に集中していただける先生を探していることが分かります。
しかも「手術必須」「手術件数増加中」「症例を重ねたい方」「救急対応必須」とあることから、病院全体が消化器疾患の治療に力を入れていることが推測できます。
消化器がんの患者が多いことを告知していることから、「がん診療連携拠点病院」または「地域がん診療病院」かもしれません。
いずれにしましても仕事内容はかなりハードであることは想像に難くありません。それでも卒後10年目の先生への提示額は「年収1,300万円~」とあり、2,000万円には遠く及びません。
ちなみに「~」という表記は「上限額は青天井」という意味ではなく、求人票の慣習としては「大体1,300万円ぐらいです」という意味です。「1,300万円~」の表記がある病院で、ここに100万円以上を上乗せすることは、相当難しいといえるでしょう。
「仕事がよりハード」ならその分の年収の上乗せを狙う
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
千葉県松戸市
300床以上の病院 |
10年目:1,200万~1,500万円 | 手術必須、患者・スタッフとのコミュニケーションを大切にし、熱意のある方。外来週3~4コマ、1コマ20~30人、病棟受け持ち20~30人、食道がん、胃がん、結腸がん、胆石、甲状腺がんなど。 | 週5日勤務、年120日休み、当直必須 |
この千葉県松戸市の病院も300床以上の大きな病院です。消化器がんの治療に力を入れていたり、手術必須であることから、業務内容としては上で見た埼玉県久喜市の病院と似ています。
しかし病棟受け持ち患者数が、埼玉県久喜市の病院は10~15名でしたが、こちらの千葉県松戸市の病院は20~30人と倍です。しかも埼玉県久喜市の病院は当直なしを選択することもできますが、こちらの千葉県松戸市の病院は当直必須です。
つまり、千葉県松戸市の病院の仕事の方がよりハードであるといえます。立地も、千葉県と埼玉県なので、大きな違いはありません。そうなると、年収が気になるところですが、微妙な設定になっていることが分かります。
千葉県松戸市:300床以上の病院 | 10年目:1,200万~1,500万円 | よりハードな業務内容が予想される |
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埼玉県久喜市:300床総合病院 | 10年目:1,300万円~ | 上記に比べるとマイルドな就業環境か |
「年収と仕事のハードさ」のみの観点で申し上げますと、千葉県松戸市の病院に転職を希望する10年目の医師は、「1,300万円以上を獲得しないと、損をした気持ちになる」かもしれません。
つまり、千葉県松戸市の病院の採用面接では、先生からしっかりと次のような内容を伝える必要があります。
「1,200万円では不足感があります。最低でも1,300万円を希望します。上限額の1,500万円をいただける医師は、どのようなスキルや成果が求められるのでしょうか」
このように似たような労働環境の他院と比較することで、根拠に基づいた希望年収額が提示できるのです。
もちろん、先生自身が病院理事長にこのようにきっぱりと言うことは難しいと思います。そこで、転職コンサルタントを使い、転職コンサルタントの口からこのような内容を先方に伝えてもらうとよいでしょう。
消化器外科医が次の転職で年収アップを確実にするためのコツ【その3】
- 似たような土地、似たような病院規模、似たような業務内容の病院の「年収」と「仕事のハードさ」を確認しておくと、根拠に基づいた希望年収額を提示できる。
人気の札幌で1,800万円を獲得する方法とは
次は、福岡市と並んで医師に人気が高い札幌市の求人票を見てみましょう。
地域、機関 | 年収 | 業務内容 | 勤務日 |
---|---|---|---|
札幌市西区
病院 |
10年目以上:1,200万~1,800万円 | 腹腔鏡手術実施、低侵襲かつ先進的な診断治療技術を学びたい医師、内視鏡検査月200件、外来週2コマ、1コマ15人、病棟受け持ち10人~、消化器がん | 週4.5~5日勤務、年123日休み、当直なし可 |
年収額は「標準」といえます。しかし年間123日の休日数は「多い」といえますし、週4.5日勤務や当直なしを選択できることからも、ドクター・フレンドリーな病院といえるでしょう。
この病院の目玉は、内視鏡検査の実施件数が月200件に達していることと、腹腔鏡手術をアピールしていることです。これだけ多くのスクリーニングがなされていれば、消化器外科の先生も症例数を増やしやすいでしょう。
腹腔鏡手術については、マスコミが大きくクローズアップしたおかげで、一般市民の認知度はかなり高まっています。患者のニーズが高い治療法を積極的に行っている病院は、収益が良くなるはずです。
この病院ではないのですが、別の札幌市内の「がん診療連携拠点病院」では、消化器外科医が患者向けに、「大腸がんの手術で腹腔鏡を使用している」といった内容の講座を開催しています。
札幌市のがん診療連携拠点病院が自院で開催する患者向け講座のチラシ。腹腔鏡手術についての啓蒙活動を行っている。
この市民講座は、自院の医師が自院内のロビーで開いているのです。
病院が主催する市民講座は、広告規制が厳しい医療業界において、とても有効なPR手段です。その市民講座で腹腔鏡手術を取り上げているということは、この病院がこの手術の症例を増やしたがっている、ということが分かります。
ということはつまり、腹腔鏡手術が得意な消化器外科医は、病院から歓迎されるということです。
消化器外科医が次の転職で年収アップを確実にするためのコツ【その4】
- 国民の腹腔鏡手術への認知度は高く、この術式を行っている病院もアピールに力を入れている。
- 採用面接で腹腔鏡手術のスキルをアピールできれば、年収提示額の上限が狙える。
その病院は常勤消化器外科医に「何を求めている」のか
年収交渉で医療機関から最高額を引き出すには、「その医療機関が求めている医療」を知り、採用面接で「その医療は私の得意分野です」とPRする必要があります。また、求職側の医療機関が患者にプロモートしたい分野、強みについて「あなたがその力になれる人材であること」を証明する必要があります。
消化器外科に力を入れている病院や消化器外科クリニックの広告やホームページから「求められている医療」を探りました。
A病院は広告で「消化器内科・内視鏡外科・消化器外科の連携」をPRしている
大阪府のA病院は、読売新聞社が発行している病院ランキング雑誌「病院の実力2017総合編」に記事体広告を出していて、そこでは消化器内科医と消化器外科医の連携ぶりをアピールしています。
ちなみに記事体広告とは、広告費を支払って入るのですが、雑誌編集者が取材をしている形態の記事のことで「単なる宣伝」とは異なります。
2センチ以下の胃がんは原則ESD適応
A病院では、2センチ以下の胃がんは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で治療しています。その症例数は年間130件に達します。つまり、そもそもこの病院は、ESDの実績がかなり多いという「基礎」があるのです。そこに消化器外科とのコラボという「発展形」をのせているのです。
A病院の胃がん治療の概念図
- 発展形:消化器外科とのコラボ(LECS)
- 基礎:ESDの年間施術数130件の実績
内視鏡と腹腔鏡を組み合わせた最新治療LECSも
A病院では、2センチを超えたがんにも、極力低侵襲の治療を心掛けています。それが、内視鏡と腹腔鏡を組み合わせたLECSです。ちなみに正式名称は、Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery:腹腔鏡・内視鏡合同手術、です。
ESDでは粘膜に穴を開けないように慎重に施術する必要がありますが、LECSであれば、粘膜までしっかり病巣を切り取り、空いた穴を腹腔鏡手術で塞ぐことができます。
また腹腔鏡だけを使う手術では、消化管の外から進むことになり、腫瘍部分を正確に把握することが困難でした。そのため、胃壁を大きく切除することになり、胃の変形をきたします。
そこにESDを組み合わせれば消化管の中から「視認」できるので、切除部位が最小限で済むのです別の病院は、LECSで5センチ以下の胃がん・十二指腸がんに対応しています。
消化器内科治療の知識を獲得することで連携を強化する
LECSは消化器外科医と消化器内科医の連携の「象徴的な意味」があるといえます。内視鏡技術の発展で、かつての消化器外科疾患の多くが、消化器内科領域に組み込まれました。
しかし当然のことながら、難治症例においては、消化器外科の治療が欠かせません。
つまり、消化器外科医が積極的に消化器内科医と協力することは、どちらの科の医師にとっても「良いこと」をもたらすのです。患者の利益を最大化することができるのです。
よって、消化器外科医の先生が次の転職で高額年収を獲得するためには、次のことが大切になります。
消化器外科医が次の転職で年収アップを確実にするためのコツ【その5】
- 消化器外科医が内視鏡に関する知識をもっておくと、消化器内科との連携がスムーズにいく。
- 難治症例での「消化器外科への移行」のタイミングが、遅すぎることも早すぎることもない病院は、患者の利益を最大化している、といえる。
「数年以内に転職する」と考えている消化器外科医がいますべきこと
認定医や専門医の資格は、年収交渉を有利に運ぶための必須項目ですが、一朝一夕に取得できるものではありません。新薬や最新機器を使いこなすにも時間が必要です。
そこで、「2年後の転職」を検討している消化器外科医の医師が「いましておくべきこと」を考えてみます。
マスコミは「腹腔鏡」を信奉している。「合併症が気になる」という医師はつらい立場かも
消化器がんの手術において、腹腔鏡に懐疑的な先生もいます。術後の縫合不全などの合併症の発生頻度において、開腹手術の方が腹腔鏡手術より安全性が高い、と感じているからです。
ある消化器外科医は「術後の腹膜炎リスクを考え、内視鏡手術が無理な患者には極力開腹手術をすすめている」と明かします。
「内視鏡の次は腹腔鏡手術へ」という流れは強まる一方…
「腹腔鏡手術より開腹手術」という選択をするのは、消化器外科医の考えとして尊重されてしかるべきですが、マスコミは完全に「腹腔鏡至上主義」のようです。例えば「病院の実力2017総合編」(読売新聞)の「大腸がん」や「胃がん」のコーナーでは、次のような見出しが躍っています。
- 大腸がん:腹腔鏡手術が普及。医師に技術差、経験豊富な医療機関へ
- 胃がん:粘膜下層を超えたら手術。腹腔鏡手術は実績数参考に
こうしたトレンドはマスコミだけではなく、病院側も重視しています。
もちろん、医療機関が「良い治療法」と太鼓判を押すので、マスコミがそれを強調する、という流れもあるでしょう。しかし、マスコミが腹腔鏡手術を絶賛する→患者が腹腔鏡手術を選択したがる→病院が腹腔鏡手術の体制を整備する、という流れもあるでしょう。
消化器外科医が次の転職で年収アップを確実にするためのコツ【その6】
- 胃がん、大腸がんでの腹腔鏡手術トレンドは変えがたく、採用面接では病院理事長から、腹腔鏡スキルについて尋ねられる確率は高い。
- いまから症例資料をまとめておき、採用面接で事例報告ができると年収アップに近付く。
腹腔鏡手術のリスクについては、東京慈恵会医科大学の下部消化管外科のホームページがとても参考になりました。ここに書いてある「注意書き」を編集してみました。腹腔鏡手術が重視される中で、マスコミにはなかなか登場しづらい文面ですので、とても貴重です。
東京慈恵会医科病院、下部消化管外科の腹腔鏡手術に対する見解
- 腹腔鏡手術は長所ばかりではない
- 開腹手術よりも時間がかかる
- 腹腔内に二酸化炭素を注入する腹腔鏡手術は、心機能が低下した患者には不向き
- 欧米での、大腸がん治療における腹腔鏡手術と開腹手術との術後の比較では、短期的には腹腔鏡の方が優れ、長期的には両者は同等だった。ただ、日本の研究結果はまだ出ていない
- 東京慈恵会医科大学では独自に「鏡視下手術トレーニングシステム」を導入し、医師に対する腹腔鏡手術の「資格制度」を構築した。この資格を持っていない医師には、腹腔鏡手術を行わせていない
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