看護師のための保健医療計画のミカタ No.4 「神奈川県での看護師就業事情と、看護師確保対策を知る」
■作成日 2018/2/24 ■更新日 2018/5/9
元看護師のライター 紅花子です。
各都道府県の看護師確保状況をお伝えしているこのコラム、今回は東京に次いで人口の多い神奈川県の看護師就業状況と、同県の看護師確保対策についてお伝えします。
神奈川県の看護職員数の動向
首都東京に隣接しながら、独自の文化、商業、工業が栄えている神奈川県。海と山があり、古都鎌倉や横浜中華街をはじめ、若年層やファミリー層にも人気の高い観光スポットが揃っています。他の都道府県に比べると労働力人口の比率が高く、活気があり、今後も人口増加が見込まれているエリアです。
厚生労働省「平成22年衛生行政報告例」によると、神奈川県内の医療施設等で就業している看護職員数は、平成22年12月末時点で66,676人(保健師1,899人、助産師1,939人、看護師51,503人、准看護師11,335人)。人口10万対では736.8人と、全国で最も少ない県ではあるものの、平成20年から22年にかけての2年間での増加率は9.9%、全国でもっとも高くなっています。
「平成26年度衛生行政報告例」で最近のデータを見ると、平成26年末時点での看護職員数は75,663人(保健師2,072人、助産師2,196人、看護師61,164人、准看護師は10,231人)となり、徐々に増加していることがわかります。
神奈川県における看護師需要
神奈川県の人口比率をみると、比較的若年層が多いためか、入院受療率は全国で最も低くなっています。しかし人口増加は見込まれるものの、今後は高齢化も進んでいくため、多くの地域での増床が求められていることから、看護師の需要はますます高まっていくと予想されます。特に今後必要とされるのは、訪問看護ステーションの看護師です。下図のオレンジ色の部分がこれから拡充されていくことでしょう。
県内はどこも比較的交通の便が良く、県央医療圏では医師、看護師共に県内ではやや少ない状況ではあるものの、極端に偏るほどではなく、全体的に病院も診療所もおおよそ万遍なく配置されているようです。しかし人口が多いため、県内の看護職員はどの医療圏でも大幅に不足しており
- 養成数の増加
- 定着対策の充実
- 再就業促進
の3つに取り組んで看護職員の増加を目指しています。
また、国家戦略特区「ヘルスケア・ニューフロンティア」を重点政策として掲げ、「最先端医療・最新技術の追求」と「未病の改善」に取り組んでいるため、こうした分野に対応できる、高度で専門的な知識を持つ看護師へのニーズが高まっています。看護人材の養成においても、専門的な能力の育成が課題となっており、さまざまな対策を行っています。
神奈川県の看護師確保に向けての取り組み
それでは、神奈川県による看護師確保対策をみていきましょう。
養成数の増加
このように、県では今後の医療ニーズに対応できる看護職員の育成をはかり、〈高い実践能力を持ち、自律的に活動のできる人材を養成する「看護教育の神奈川モデル」構築〉を目指しています。また、県内就業者を確保するための修学資金の貸付を行うなどの確保・定着対策も推進しています。
また、看護職員の確保と質の向上に向けては、平成24年1月から「神奈川県における看護教育のあり方検討会」において、次のような対策が検討されています。
- 看護師養成施設の数や定員の増加
- 県のホームページに県内の看護師養成学校の詳細なリストを掲載、個々の進路に応じた進学先を提案
- 定員数を増やす看護師養成施設では専任教員のニーズも高いため、教員養成に力を入れ、新しい教育体制の導入
- 働きながら教員になるための勉強ができる夜間・休日コースの設置
- e-ラーニングの活用 など
- すでに現場で働いている准看護師が、働きながら正看護師資格を取得できるための環境整備・支援
定着対策の充実
定着対策としては、大きく3つ挙げられますが、詳細まで踏む込むと下記のような内容になっていることがわかります。
- 新人看護師がリアリティショックにより退職する事例が多い
- 臨床と連携して基礎教育の充実に取り組んでいる
- 1年目よりも3年目、5年目の離職率が高い
- 看護師としてのモチベーションアップやキャリアアップを図る
- 就業後2年目~5年目の若手看護師を対象として研修やキャリア相談システムの構築により、多様な教育体制の充実を図る
- 職場環境の改善、充実
- 職場環境改善を行う病院に対して相談窓口やアドバイザー派遣などの支援を行う
- 院内保育の運営に対して補助を行うなど、ライフステージに応じて働き続けることができる職場環境づくりを支援
再就業の促進
一度退職した看護師は、その後の所在を把握する仕組みがなく、再就業を促すことが困難となるため、看護職員が離職する際に登録し、再就業に関する情報を提供できるような仕組みづくりに取り組むほか、身近なところで再就業できる機会を確保するようです。特に、看護師としての経験を活かした活躍が期待される訪問看護ステーションや福祉施設への就業支援策について、一層力を入れていくようです。
まとめ
県の政策として最先端医療分野へ積極的に取り組む神奈川県。充実した研修環境で、専門看護師としてスキルアップを目指すにはよい県かもしれません。また、労働人口が多いとはいえ、今後の高齢化に向けて訪問看護のニーズも高まっているのは他県と同様です。海や山などの自然豊かな地域と大都市を合わせ持つ神奈川県。自身の生活スタイルに合わせて、仕事もプライベートも充実できる環境と言えるのではないでしょうか。
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参考資料
第6次神奈川県保健医療計画 第3章医療従事者の確保対策の推進
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/573934.pdf
平成26年衛生行政報告例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/14/dl/gaikyo.pdf
平成22年「衛生行政報告例」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/10/dl/h22_hojyokan.pdf
神奈川県ホームページ「看護のしごと案内――笑顔を支えるプロになろう!」
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f6323/p890707.html#three
神奈川県ホームページ「ヘルスケア・ニューフロンティアの概要」
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f534558/