看護師のための保健医療計画のミカタ No.32 「山梨県での看護師就業事情と、看護師確保対策を知る」

山梨県の看護師求人事情と、看護師確保対策を知る

■作成日 2018/2/26 ■更新日 2018/5/9

 

元看護師のライター 紅花子です。

 

各都道府県の看護師確保状況をお伝えしているこのコラム、今回は甲州ワインで有名な山梨県の看護師就業状況と同県の看護師確保対策について、山梨県地域保健医療計画(平成25年度~平成29年度)をもとにお伝えします。

 

山梨県の看護職員数の動向

 

日本一の富士山をはじめ、南アルプス、清里など、雄大で美しい自然が豊かな山梨県。風林火山で有名な戦国名将・武田信玄ゆかりの地であり、武田神社や乾徳山恵林寺など、さまざまな史跡が残されています。

 

特産物では桃やぶどうなど果物が有名ですが、和紙や硯(すずり)、鯉のぼりなど伝統工芸の産業も多数。また、古くから水晶の産地だったことからジュエリーの製作も盛んです。

 

山梨県は人口が全国で6番目に少なく、高齢化率は27.5%(平成26年)と全国平均を超えており、今後はさらに高齢化が急速に進むでしょう。県民の死亡原因を見ると、1位は悪性新生物、2位は心疾患、3位が脳血管疾患と、全国平均と比べると、循環器系の疾患による死亡率が高くなっているのが特徴です。

 

こうした背景からか、県民が充実を望む保健衛生サービスとして「がん検診の実施(39.7%)」に次いで「寝たきりの高齢者等のための保健師や看護師の家庭訪問(36.0%)」などが挙げられています。

 

厚生労働省「衛生行政報告例」によると、平成22年12月末に県内で就業していた看護職員数は9,564人(保健師552人、助産師190人、看護師6,483人、准看護師2,339人)で、平成26年には、就業看護職員数は10,447人(保健師589人、助産師232人、看護師7,344人、准看護師2,282人)となっています。

 

人口10万人当たりの就業者数で見ると、看護師は873.2人で、全国平均855.2人よりわずかですが上回っています。しかし実際には、県内での看護師の需要が高まる中で、まだまだ人数が足りていない状況です。

 


山梨県の看護師需要

 

山梨県では病院勤務の看護師が最も多く70.1%で、全国の72.8%をわずかに下回っています。一方、診療所に勤務する看護師は全国で12.4%であるのに対して11.4%ですが、在宅医療関連を見ると、訪問看護ステーション勤務は全国3.3%に対し3.5%、介護保険施設等は全国6.5%に対し9.9%となっています。

 

全国平均と比較すると病院勤務の割合が少なく、在宅医療関連の施設に勤務する看護師が、やや多くなっていることがわかります。

 

山梨県も他の都道府県と同様に、少子・高齢化の進展、疾病構造の変化、医療の高度化・専門化や看護師のニーズの多様化によって、看護師の役割はますます重要になってきました。さらに平成18年度からの7対1看護体制などによって、看護師の需要はますます高まっています。

 

しかしその一方で、県内では新人看護師の退職が多くなっているのが現実です。理由としては、「夜勤など勤務条件の厳しさ」「病気」「結婚、出産、育児」などのほかに、「学校で習ったことと看護現場で求められる能力のギャップ」などを原因とする退職も増えています。

 

看護師数は年々増加しているものの、まだ十分ではないため、県は新人看護師など若手看護師の離職防止対策や、資格を持ちながら看護師として働いていない潜在看護師の再就業の促進などによって、看護師の確保に取り組んでいます。

 

同時に、看護師として特定分野における専門知識の習得や、在宅医療・訪問看護への対応などを的確に判断し職務を行うといった看護師の能力向上に、引き続き取り組んでいくことが必要と考えています。

 

山梨県には平成29年12月現在で、認定看護師が177人、専門看護師が27人、認定看護管理者が37人います。

 

 

山梨県の二次医療圏は中北医療圏、峡東医療圏、峡南医療圏、富士・東部医療圏の4つに分かれていますが、峡南医療圏からの患者流出率が50.4%、峡東医療圏への流入が48.1%など、圏域をまたいだ患者の流出入率が非常に大きくなっているのが課題です。

 

各医療圏は山で分断されており、患者の移動は非常に負担が大きいため、県では各圏域内で完結できる医療体制の整備を進めています。


山梨県の看護師確保に向けての取り組み

このような状況の下で、山梨県では次のような看護師確保策を進めています。

 

看護師の養成に対する支援
  • 県内への就業をうながす看護師養成施設への助成
  • 県内就業を目指す看護学生への修学資金の貸与
  • 臨地実習受入施設の担当者への研修

 

潜在看護師の職場復帰支援
  • ナースバンク事業の実施
  • 再就業をうながす臨床実務研修の実施

 

看護師等の定着対策
  • 看護管理者研修・新人看護師研修などの実施
  • 院内保育所の運営費助成

 

普及啓発活動の実施
  • 「看護の心」を普及・啓発する活動
  • 県内の高等学校の生徒を対象とした1日看護師体験

 

看護師等の資質向上
  • 医療の高度化・専門分野に対応できるための研修会・講習会を実施
  • 在宅医療の充実に向けた訪問看護師の養成
  • 専門分野の知識や技術を深めた認定看護師などの確保に向けた支援

 

高齢化が進み、看護師数も十分とは言えない山梨県。県内で長く働ける若手の看護師はもちろん、訪問看護や高度・専門的な医療に対応できる看護師も歓迎されることでしょう。

 

また、山梨県では県内どこでも利用できる病児・病後児保育体制の整備を本格的に進めており、今後、小児医療の経験が豊かな看護師も需要があると思われます。それに子育て中の看護師にとっては、子供を預けて安心して働ける環境と言えますね。

 

豊かな自然と清らかな水に恵まれた山梨県では、数多くの甲州ワインのワイナリーやウイスキーの蒸留所など、酒類の工場が数多くあります。

 

富岳風穴や河口湖など大自然を感じる見所も多く、山頂から富士山や甲府盆地の絶景を眺める「ほったらかし温泉」は、一度立ち寄ってみたくなる人気スポット。オフの時も充実した1日を過ごせそうです。

 

 

参考資料

 

山梨県地域保健医療計画(平成25年度~平成29年年度)
http://www.pref.yamanashi.jp/imuka/documents/h25iryoukeikakuhyousi-4.pdf

 

平成22年衛生行政報告例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/10/dl/h22_toukeihyoitiran.pdf

 

平成26年衛生行政報告例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/14/dl/toukei.pdf

 

山梨県ホームページ
http://www.pref.yamanashi.jp/

 

山梨県看護協会ホームページ
http://www.yna.or.jp/

 

この記事をかいた人


紅 花子 (べに はなこ)
正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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