奈良県の看護師求人事情と、看護師確保対策を知る

元看護師のライター　紅花子です。

各都道府県の看護師確保状況をお伝えしているこのコラム、今回は東大寺や奈良漬で有名な、奈良県の看護師就業状況と同県の看護師確保対策について、平成25年度から施行された奈良県保健医療計画をもとにお伝えします。

奈良県の看護職員数の動向

万葉の昔、古都として栄えた奈良県。東大寺や唐招提寺、春日大社をはじめ、由緒ある神社仏閣などの建造物の数は全国随一です。土産物にも蘇、ひしお、柚べしといった古来より伝わる伝統的な食品から、歴史的遺物をモチーフにした富本銭せんべいや大仏プリンまで、いにしえの文化を感じさせるものが目を引きます。

厚生労働省「衛生行政報告例」によると、平成22年12月末に県内で就業していた看護職員数は13,782人（保健師473人、助産師309人、看護師10,036人、准看護師2,964人）で、平成26年には、就業看護職員数は14,713人（保健師476人、助産師326人、看護師11,429人、准看護師2,482人）となっています。

人口10万人当たりの就業者数で見ると、看護師は830.6人で、全国平均855.2人よりも24.6人下回っている状況です。

奈良県では病院勤務の看護師が最も多く73.7％で、全国の72.8％をわずかに上回っています。一方、診療所に勤務する看護師は全国で12.4％であるのに対して11.2％と少なくなっています。在宅医療関連を見ると、訪問看護ステーション勤務は全国3.3％に対し4.3％、介護保険施設等は全国6.5％に対し6.6％となっています。

全国平均と比較すると、在宅医療関連の比率がやや高くなっていますが、ほぼ全国平均に近い状況です。

奈良県は、平成22年の県外での受診率が、入院で全国3位、外来で全国4位にのぼり、また、平成18年・19年に妊産婦の救急搬送を受け入れられず、死亡・死産につながる事案が起こったこともあり、以後は県内の救急医療と周産期医療体制の改善を進めてきました。

平成28年には奈良県立医科大学附属病院の新病棟がオープンし、平成30年には高度救急医療や先進医療に対応する新奈良総合医療センターが開院するなど、高度医療を担う施設が着々と整備されています。

近年は、生活習慣病の増加・少子高齢化などによる疾病構造の変化、技術の発達による医療の高度化･専門化、在宅医療のニーズの高まりなどによって、看護師に求められる役割にも様々な変化が見られています。

そのため、看護についての基礎教育の充実、新人・中堅・管理職など、それぞれの段階や役職に応じた研修や、専門分野の研修をさらに行っていくことで、看護師としての資質を高めていくことが求められています。特に上記のような高度医療を行う施設が増えている現在、専門的な知識と技術を持つ看護師のニーズは非常に高いと言えるでしょう。

こうした医療現場に対応していくために、専門看護師、認定看護師を目指すなどキャリアアップ志向が高まっています。

奈良県には平成29年12月現在で、認定看護師が180人、専門看護師が18人、認定看護管理者が38人いますが、こうした資格の取得には経済的な負担が大きいのが現状です。

次に、看護師の定着状況について見ていきましょう。奈良県が調査した看護師の離職理由を見ると、「結婚」「出産･育児」といったライフステージの変化ばかりでなく、「職場の人間関係」「勤務時間が長い」「超過勤務が多い」「休暇が取れない」などの、働く環境や働き方に関する理由が多くなっていました。

県は、こうした状況を受けて働きやすい職場環境づくりが必要と指摘し、実質的に現場を運営している看護師長や主任といった中間管理者が働き方の管理に関する知識を身につけることで、より働きやすい職場環境へ改善するための支援が必要と指摘しています。

また、看護師資格を必要としない業務については、他職種のスタッフと役割分担するなどの形で連携することで、看護師の業務負担が重くならないよう配慮し、より質の高い看護サービスを提供することを目指しています。

奈良県の看護職員の離職率は、平成20年度には13.4％と全国平均の11.9％より高い割合でした。しかしこの数値は年々改善し、平成 22 年度には9.1％と全国平均の11.0％を下回っています。看護師が働き続けやすい環境を作り出すために、管理者側、行政側がかなり努力していることがうかがえます。

地域ごとの医療状況を見ると、奈良県の二次保険医療圏は奈良医療圏、東和医療圏、西和医療圏、中和医療圏、南和医療圏の5地域に分かれています。県南部や東部は過疎化が進んでおり、医療の確保が難しいへき地が県全体の約7割を占めています。こうした地域での医療従事者の確保に県は力を入れています。

奈良県では、関係各機関が連携して、以下のような看護師確保策に取り組んでいます。

1.看護師の質と人数を確保できる効果的な卒前・卒後教育システムの構築

• 看護教員研修の実施や実習指導者の養成による看護基礎教育の充実
• 新人卒後研修など研修体制の整備・充実で県内就業の魅力を向上

2.看護学生に対し修学資金を貸与で県内定着を促進

3.医療の高度化・専門化・安全の確保・ニーズの多様化に対応

• 看護師の各階層での研修や専門分野の研修を充実

4.専門看護師、認定看護師資格の取得などのキャリアアップ支援

5.看護師に対するメンタル・ケア

6.結婚、出産、介護などのライフステージに対応し、働き続けられる環境を整備

• 院内保育所の導入促進
• 短時間正規雇用制度などの多様な働き方の導入促進

7.チーム医療による業務分担やアウトソーシングでワークライフバランスの実現

8.離職ナースへの情報発信、復職支援研修などで復職を支援

また、県は在宅医療や訪問看護に関しても、県内の現状を踏まえた「訪問看護師の確保対策」を進めています。福祉施設で働く看護師の確保も視野に入れて、県全体での看護師確保対策を強化する方針です。

県立病院が整備され、医療体制の変革が着々と進められている奈良県。最新設備の整った病院では、高度で多様な医療に対応できるスキルの高い看護師は、活躍の場が広がることでしょう。看護師の離職率を大幅に低下させた、看護師が働きやすい環境づくりへの取り組みも要チェックです。

ワークライフバランスの実現に力を入れる奈良県。休日は奈良国立公園の鹿とたわむれながら、古都の神社仏閣を巡っていくのも楽しいですね。

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