看護師のための保健医療計画のミカタ No.26 「熊本県での看護師就業事情と、看護師確保対策を知る」
■作成日 2018/2/26 ■更新日 2018/5/9
元看護師のライター 紅花子です。
各都道府県の看護師確保状況をお伝えしているこのコラム、今回はくまモンで有名な熊本県の看護師就業状況と同県の看護師確保対策について、第6次保健医療計画をもとにお伝えします。
熊本県の看護職員数の動向
世界有数のカルデラを持つ阿蘇山をはじめ、雄大な自然あふれる熊本県。大観峰からの眺めはまさに絶景。広大な草原地では、牛や馬の放牧もさかんです。
2016年の熊本地震では県のシンボル・熊本城の城壁が崩落するなど甚大な被害を受けて、地域経済にも深刻な影響が出ましたが、現在はインフラも復旧し、着々と復興に向けて歩んでいます。医療面でも、災害直後から県と国が感染症対策やメンタルヘルスケアなどに取り組んで、現在は落ち着きを取り戻しているようです。
厚生労働省「衛生行政報告例」によると、平成22年12月末に県内で就業していた看護職員数は30,114人(保健師831人、助産師379人、看護師18,609人、准看護師10,295人)で、平成26年には、就業看護職員数は33,097人(保健師910人、助産師441人、看護師21,333人、准看護師10,413人)となっています。
人口10万人当たりの就業者数で見ると、看護師は1,189.1人で、全国平均855.2人よりも333.9人と大幅に上回っている状況です。
熊本県の看護師需要
熊本県内に勤務する看護師の状況は、全国平均並みといえそうです。
- 病院勤務:熊本県=73.1%、全国平均=72.8%
- 診療所勤務:熊本県=11.3%、全国平均=12.4%
- 在宅医療関連
- 訪問看護ステーション勤務:熊本県、全国平均ともに3.3%
- 介護保険施設等は:熊本県=6.8%、全国平均=6.5%
県内の就業看護師は過去30年で3倍に増加していますが、高齢化の進展や医療の高度化・専門化によって看護師の需要は高まっているため、今後も看護師数の確保と定着が大きな課題のひとつとなっています。
熊本県内の看護師養成施設の新卒者県内就職率は、平成20年3月から年々減少傾向にあり、平成24年3月の県内就職率は52.7%と全国平均の65.6%よりも低い水準でした。理由として「(県外の方が)給料が高い」「寮やアパートが完備されている」「都会へのあこがれ」「自分のキャリアアップ」などがありました。
また、20~30代の看護師の離職については、結婚・出産・育児などの理由が挙がっており、仕事と出産育児を両立できるような勤務環境の改善が必要です。
また、看護師の偏在も課題となっています。熊本県内でも他の都道府県と同様、熊本市をはじめとする都市部や大病院に看護師が集中しており、他の地域や中小医療機関での看護師確保が難しくなっています。このため、新卒の県内就職率を高めるほか、いわゆる「洗剤看護師」の就業をうながすなどの方策が必要となります。
さらに看護職員の資質の向上も求められています。熊本県内には、平成29年11月現在で、認定看護師が262人、専門看護師が18人、認定看護管理者が55人いるそうです。しかし医療の高度化・専門化や在宅医療の推進に対応するには、看護師が資質の向上に取り組める環境の整備と共に、看護師養成職員の教育指導能力を更に高めることも重要とされています。
在宅医療の推進にあたり、県が力を入れている訪問看護ステーションは、平成24年にはその3割が熊本保健医療圏に集中していました。一方で、阿蘇、芦北、球磨などには訪問看護ステーションが未設置となる町村が14町村あるなど、訪問看護の提供体制にも地域的な偏在があります。
また、介護保険サービス利用者の中で、訪問看護サービスを利用している人の割合は、平成24年の県内平均では6.6%と全国平均(9.1%)よりも低く、さらに訪問看護への理解を深める啓発活動が必要とされています。
ところが、県内の訪問看護ステーションの約7割は5人未満の小規模施設で、こういった少人数では対応できる人数やサービスが限られています。今後、在宅療養の患者が増加するにつれて夜間の訪問看護などのニーズも高まると予測され、24時間対応も含めた看護ステーションの体制づくりや機能の充実は急務と言えます。
県内の訪問看護師の割合は、平成22年末時点では1.6%と全国平均の2.2%より低い数値でしたが、平成26年には訪問看護ステーションに勤務する看護師が、全国平均と同じ3.3%まで増加しています。今後のニーズの高まりを考えると、訪問看護師のさらなる養成と確保が必要です。
熊本県の看護師確保に向けての取り組み
熊本県では、「幸せ実感くまもと4カ年戦略」の戦略指標として、訪問看護を県内全域で利用できる体制を平成29年度末までに整備することを目指しています。
そのために以下のような施策を実施しています。
- 訪問看護サービス提供体制の充実・強化
- 訪問看護師の養成確保への重点的な取り組み
- 訪問看護ステーション未整備地域での新規立ち上げを支援
- 人材確保、研修体制の充実、訪問看護ステーション間の連携促進
- がん患者の療養への対応など、認定看護師や専門看護師による相談や研修を実施
また、看護師数の確保や地域偏在の解消を目指して、以下のような対策を掲げています。
(1)人材確保に向けた対策
- 中小病院やへき地の病院・診療所への定着を図るための修学資金貸与事業
- 新卒者の就職先選定に必要な情報を提供し、県内定着を促進
- 看護師養成施設への進学促進に向けた取り組み
- 看護師養成施設への運営支援
- 短時間正規雇用などの多様な就労ニーズに対応
- 就労支援や就労環境の改善院内保育所に対する支援
- 潜在看護師の復帰に必要な知識や技術の習得に向けた研修の実施
(2)看護職員の資質の向上に向けた対策
- 認定看護師・専門看護師などの資格取得を促進
- 専門性の高い看護職員の育成に取り組む医療機関を支援
- 看護師が身近なところで資質の向上に取り組める教育環境を整備
- 継続教育研修会を開催し、専任教員の資質を向上
- 看護学生実習指導者講習会を開催
- 研修を実施し、入院から在宅への移行を担う看護人材の育成を促進
そのうえで平成29年度末をめどに掲げている目標は以下の通り。
- 看護学校新卒者の県内定着率58.0%
- 看護職員の離職率7.9%
- 看護職員の県内再就業者数530人
- 各医療圏における看護職員の継続教育体制の整備 全11医療圏
- 訪問看護師(常勤換算)630人
- 専門性の高い看護職員数 専門看護師14人、認定看護師317人、認定看護管理者26人
この中で専門性の高い看護職員数については前述のとおり、すでに目標人数を上回る結果を出しています。
訪問看護ステーションの整備のほか、看護師のキャリアアップを積極的に支援する熊本県。大幅に増えた資格取得者の数が、資格取得の勉強をしやすい勤務環境であることを証明しています。
天草や南阿蘇など、多くの地域が移住を推進しており、交流会なども盛んにおこなわれています。休日は雄大な自然の中でゆったり過ごすもよし、古くからの城下町の文化にひたった後は、名物の火の国ラーメンを味わうのもいいですね。
参考資料
第6次熊本県保健医療計画
http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_4487.html
平成22年衛生行政報告例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/10/dl/h22_toukeihyoitiran.pdf
平成26年衛生行政報告例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/14/dl/toukei.pdf
熊本県ホームページ
http://www.pref.kumamoto.jp/
熊本県看護協会ホームページ
http://www.kna.or.jp/