第3回:「仕事のデキる医師」の条件は、膨大な情報をうまく活用できる医師
■ 記事作成日 2014/12/25 ■ 最終更新日 2017/12/5
仕事ができる医師に共通する特徴とは
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験と、さらに約10年の一般会社員経験の中で出会った人たちの中から、「出世する医師」について考えてみたいと思います。
第3回目の今回は、「仕事のデキる医師」の1つの条件である「膨大な情報を、うまく活用できる医師」です。
一般社会でいう「仕事がデキる」とは何か
一言で「仕事がデキる」といっても、職種によっていろいろあると思います。一般社会の中でいえば、こんな感じでしょうか。
●販売業の営業マン:当然ですが、モノが売れること。但し、単に売り上げ高が高いだけでは不十分で、自社の製品や自分が売ろうとしているものが何なのか、どういう経緯で作られたものなのか、これを手にした消費者がどんな恩恵を受けることが出来るのか、それを熟知した上で「提案」しながら売ることが出来る人。
●サービス業の営業マン:単純に「サービスを提供する」といっても、そのサービスについて熟知していることが大前提。このサービスを導入することで、顧客がどんな恩恵を受けることができるのか、逆にそのサービスを受けなければどんなデメリットがあるのか、それも踏まえた上で、顧客が「受けたい」というサービスを考えて提案でき、さらに顧客との契約がきちんとできるまでが仕事。単に「このサービスがおススメです!」と契約書をちらつかせるのは、サービス業の営業マンとしては一流とはいえない。
●調理人:とにかく美味いものを提供できること。日本では特に「安くて美味い」ものが一般に受けることも多いかもしれないが、自分自身のプライドを持って調理し、お客さんに提供できるのは最低限の条件。
●職人:誰にも負けない「ウデ」があること。特にモノづくりに関しては、地道な研究を重ねて、誰にも負けない商品を作り出すことが必要。日本のモノづくり業界では、世界の誰もが真似できない技術をもった人もたくさんいる(何故か小さな町工場、ということも多い)。
と、至極当然ともいえることですが、いろいろな世界を垣間見ていると、この人は仕事がデキる人だなー、あるいは逆に口先ばっかりでダメだなー、という人が見分けられるようになります。
時々、自宅にネットワーク関連のサービスを紹介する営業マンが来ますが、その営業マンよりも自分の方がそのネットワークの仕組みだとか、他社との比較による利点とか、使い方などについての知識をもっていることもあり、言い負かしてしまうこともあります。
そういう営業マンはいつまでたってもうだつが上がらないのだろうな、と考えてしまいますよね。売りたい相手よりも商品知識が劣るというのは、致命的です。
医師にとっての「仕事がデキる」とは
では、医師にとっての「仕事がデキる」とは何でしょうか。
私自身のこれまでの経験上、結構多くの医師と知り合う機会がありましたが、「この先生なら安心だ」と感じた医師に共通して言えるのは「その患者さんのことをどこまで考えてあげられるか」ではないかと思います。
医師の場合、例えば「販売業の営業マンの評価は売上高が基準」というのとは違います。助けた患者の数、成功した手術の件数、こういったものだけでは判断できないのが本当のところだと思います。
診察した時点ですでに手遅れの患者さんであれば、当然ながら「助けた患者の数」には入らない状況になるでしょうし、手術は成功したものの術後合併症で患者が亡くなれば、「成功した手術の件数」には入りますが、やはり「助けた患者の数」には数えることが難しいと思います。
こういったことが上手くいくことも重要ではあるのですが、それだけではありません。
私自身の拙い経験から考えると、仕事がデキる医師に対する条件というのは、「人の病気やケガを治してより健康な状態に近づけること」は必須ですが、「今できる精一杯の医療を提供すること」と「死に向かう状態の人を、いかにその恐怖から救い、最期まで人らしく生きる手助けが出来るか」ということも重要なのだと思います。
例えば、「痛み」という直接的な苦痛を消し去ることが上手い医師がいます。
これも「仕事がデキる医師」です。私自身がかつてIT技術者だった頃、とある医療機関に医療システムを納入させて頂き、その紹介ビデオを作ったことがあります。
その中で緩和ケアのボスである先生のコメントを動画とともに入れたのですが、とある展示会でこのビデオを放映したところ、それを見たかなり遠方からいらした方が「この先生は、緩和ケアの分野で神様のような存在なのよ」と教えてくれました。
私自身がこの医師をすごいなと感じたポイントは、とにかく患者さんとそのご家族の話を良く聞き、その時点で最も適切な治療は何か、どうすれば患者さんとそのご家族の「肉体的だけはなく、精神的な辛さ」をも「緩和」できるのか、これを常に考えておられる、ということでした。
どこの科の医師でも必要な「患者の心まで読む力」
どんな病気やケガでも、肉体的な苦痛はいろいろあると思います。しかしそれと同等なくらい、精神的な苦痛を抱える患者さんやその家族はたくさんいます。そこまで全てを含めて、話を聞き、最適なことは何かを考えて行動に移すことが出来るのが、もっとも優れた医師なのかもしれません。
しかし、医師の仕事は過酷であることも事実ですので、そこまで全てを医師の仕事にすることはできません。でも、それはそれで良いのです。
大切なことは、それぞれの情報の出所である「担当者」と上手く連携することなのだと思います。前述の「緩和ケアの神様」も、実は患者さんやご家族からの話を、直接聞いているのはごくわずかです。
実際に話を聞いてくるのは、訪問看護師だったりケアマネージャーだったりします。しかし、この医師のすごいところは、その日のうちに書かれた記録すべてに目を通し、情報が不足している場合は記録者に逐一確認し、翌日までには状況を全て把握した上で、適切な指示を出しているところです。その前段階として、みんなで共有したい情報が一発で伝わる記録用紙を考案した、というのが大きいかもしれません。
患者の状態を把握するためには、検査データももちろん重要ですが、それだけでは患者や家族の「想い」までは把握できません。時には、それ以上に必要な情報もあります。
1人の患者に関する情報は膨大です。これを正確に把握し、上手に活用していくこと、これが「仕事のデキる医師」の1つの条件ではないかと思います。
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