第14回:看護師からの評価が分かれた医師その2 H医師
■ 記事作成日 2015/8/25 ■ 最終更新日 2017/12/5
標榜科や医局によって細分化される医師たち
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で出会った、看護師に好かれる医師/嫌われる医師の人物像を振り返ってみます。14回目の今回は、OPE室看護師からの好みが分かれてしまったH医師です。
細分化は是か非か
OPE室というところは、とても多くの科の医師たちとともに働く職場であり、病院の中全体を見渡しても、これだけ多くの医師と日常的に接するところは少ないかもしれない。
当時、私が勤務していたOPE室には、13の部屋があり、外科、整形外科、脳外科、産婦人科など、合わせて8つの科が手術を行えるようになっていた。それぞれの部屋に少しずつ特徴があり、外科は何番の部屋、整形外科は何番の部屋など、どの科の手術でどの部屋を使うかは、何となく決まっていた。
科としては8つだったが、中には同じ科でも複数の医局から医師が派遣されている科もあり、それぞれに何となくだが細分化されているようだった。例えば、同じ外科でも第一外科と第二外科では医局が違い、同じ外科でも実際に行う手術は少しずつ違っていた。
整形外科も2つの医局から医師が派遣されていたので、何となく医師たちの持つ雰囲気や、会話の内容が変わってくる。わずかな違いではあるのだが、長くOPE室に勤務していると、だんだんとその違いを肌で感じるようになっていた。
バブルの名残か?金の鎖
中でも整形外科は、ヒップ(股関節)を得意とする医師、ハンド(手)を得意とする医師、脊椎の専門、膝の専門などが分かれている。研修医や比較的若い医師はあらゆる手術に助手として入るのだが、例えばハンドを専門とする医師は膝の手術はしないし、ヒップの医師は脊椎の手術はしない。夜間の急患でも、緊急手術が必要になれば、その道の専門家である医師をわざわざ呼び出すこともあるくらい、徹底していた。
ところで、今回の中心人物は整形外科のH医師。彼の専門は脊椎だった。
H医師は、口ひげをはやし、金縁メガネを愛用。なぜか首にはぶっとい金の鎖状ネックレス。普段の外来や病棟での診療の際は、いわゆるベンケーシーのような首が隠れる白衣か、ワイシャツにネクタイなので、確かにぶっとい金の鎖は見えない。しかし、OPE室でスクラブ型の術衣に着替えると、金ぴかな鎖が嫌でも目に入る。…ま、個人の趣味だから良いんですけどね。
当時はバブル崩壊から数年が経過した頃だったので、「(数年前ならいっぱいいたけど)今時あんまりいないよね」というのが、OPE室看護師から見た印象だった。この時点で、OPE室看護師からの評価は、2分していたかもしれない。
とにかく覚えられない借物の器械
整形外科の手術は、借物が多い。例えば、股関節の全置換術(THR)や人工骨頭置換術、髄内釘の挿入など、手術の前日に大量の借物器械が手術室に届くと、内容を確認してから滅菌に出す。膝の全置換術(TKR)なんて、器械点数は半端ない。
一度に両膝の手術をすることもあり、器械拡げだって一苦労だった。しかし、中には整形外科の手術につくことが多いOPE室看護師というのもいて、借物器械による手術にくり返し付くことで、かなり覚えることができた。私自身もその1人で、TKR×両膝というのも何回か経験したので、両膝で同時進行されても、まぁそれほど問題なく出来た方だと思う。
しかし、本当に覚えられなかったのが、脊椎の借物だった。
脊椎の借物器械は、術式の違いにより借物器械が変わるし、メーカーによっても違う。中には似ているものはあるのだが、件数がそれほど多くはないので、当ることが少ない。
それでも、私自身はなぜか脊椎固定術の直接介助に着くことが多かったので、そこそこ覚えた方だったとは思うが、なかなか当たらないOPE室看護師は、借物器械を覚えるのが難しかった。
とっても長くなったが、ここまでが前提。
細かいところがいろいろと「嫌」と思われてしまったH医師
私は何故か脊椎の手術で直接介助をすることが多かったため、H医師ともそこそこコミュニケーションは取れていた。当時のOPE室には骨格模型があり、脊椎の手術の時は毎回、H医師が部屋の中に連れてきていた。当時のOPE室でいちばんやせていたのが私だったためか、H医師はこの骨格模型を「○○(私の事)2号」と呼んでおり、術中に脊椎の形状を確認するために使っていた。
私が脊椎の手術につかない時でも、「○○2号、連れてきて」と、間接介助の看護師に言うこともあった。整形外科以外の医師にもこの呼び方が広まったのはかなり恥ずかしかったが、まぁ医師に嫌われるよりは良いかと考え、さらりと流していた。
ところが、こういったことが嫌いなOPE室看護師もいた。脊椎固定の手術は時間が長い(定時で終わらないこともある)、借物器械がややこしい(覚えられない)、H医師の見た目がちゃらちゃらしている、骨格模型にOPE室看護師の名前からあだ名を付ける、これらの言動などから、H医師は一部のOPE室看護師からは、嫌われてしまったようだ。
彼女たちからは「マスクをとったら口ひげがウザイ」とか、「金のじゃらじゃらが微妙」とか、「声がでかくてウルサイ」とかに始まり、「脊椎固定のOPEって長いから嫌」とか、「また借物が(大量に)届いてうんざり」とか、まぁ散々な声が聞かれていたと記憶している。
H医師自身の性格は、それほど悪くはなかったと思う。ただ、H医師自身がいろいろな「好み」に拘るところがあったので、中には上手くコミュニケーションが取れないOPE室看護師もいたのだろう。私から見れば(失礼な言い方ではあるが)可愛げのあるオッサン先生だったのが、どうやら一部のOPE室看護師からは嫌われていたようだ。残念。
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