第4回:開業して性格が変わったK医師
■ 記事作成日 2015/1/24 ■ 最終更新日 2017/12/5
仕事ができる医師に共通する特徴とは
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で出会った、看護師に好かれる医師/嫌われる医師の人物像を振り返ってみます。4回目の今回は、開業したことで性格が変わった?と思われるK医師です。
暗がりでの仕事の上、看護師の好みが分かれる科
術野が明るいのは至極当然のことのように思えるが、中には手術中は基本的に暗い、という科がある。眼科だ。
患者さんの入室から消毒、覆布をかけるまでは部屋の中も明るいが、いざ手術が始まると真っ暗。術者の手元はマイクロからの光で明るいが、看護師の手元は真っ暗。術者の手元を邪魔しないために、極力看護師側の光を控えるので、直接介助看護師も間接介助看護師も暗がりの中で仕事をする。
暗がりの中でモニター類がピコピコ光っていて、マイクロからの映像を映し出すモニターに10倍くらいに拡大された眼がドーンと写っている情景は、ある意味ホラーな世界かもしれない。
そんな状況のうえ、眼科の器械はものすごく細かい。
縫合糸なんて細すぎて見えない。鑷子の先が合っているか、歪みはないか、ある程度年齢を重ねた看護師は、老眼鏡がないと見えない。肉眼では鑷子の先が合っているように見えても、マイクロ下で見るとほんの少し歪みが生じていることもあった。
そんな器械たちなので、使用後の洗浄・滅菌にも気を使う。まずは超音波で洗浄し、細心の注意を払いながら歯ブラシを使って手洗い。器械洗浄にかけようものならあっという間に破損する。
しかも眼科の器械は高い。
場合によっては修理のために1ヶ月くらい旅に出てしまうこともある。OPE室看護師は、こういったことも管理しなくてはいけないので、細かいことが好きな看護師はやりがいがあるだろうが、細かいことが嫌いな看護師はとてもうんざりする。眼科はかなり好みが分かれる科だ。
大きな身体と怒りんぼな性格なのに、繊細な手術
私が勤務していた病院の眼科に、K医師がいた。K医師はとても身体が大きい。身長は180㎝前後だと思うが、体重は少なくとも、一般サイズのガウンを着るとガウンの背部の合わせ部分は常に開いている状態。
しかもK医師はあごひげを生やしていた。大きな身体と相まって、まるで猟師やマタギ、あるいは狩られる方の熊のようだった。ものすごい威圧感。
K医師の威圧感は見た目だけではない。
まず、普段の声は小さくてボソボソ喋るので聞き取りにくいくせに、手術が始まって暗くなると急に声が大きくなる。しかも怒声。前回の当コラムで登場したT医師同様、手術が始まると人が変わる典型だ。
眼科の手術は、基本的に患者さんは眠っていない。
その枕元で、「縫合鑷子!」だの「9-0ナイロン!」などと怒鳴られたら、患者さんは恐怖だろう。
直接介助看護師だってすぐ近くに座っているわけで「そんな大声でなくとも聞こえます!」と何度抗議したことか。もちろん、患者さんの居ないところで、ではあるが。
器械が細かい眼科、身体がデカイ、すぐ怒る、しかも手術時間が比較的長い、という理由でOPE室看護師からの人気はかなり低い方だったと思う。
開業して変わったのは性格?
ある時、K医師は病院勤務をやめて隣の市内で開業した。私は病院を退職後しばらくして、パート勤務先を探しにハローワークへ行き、求人情報を見ていて、K医師が開業したことを知った。試しに面接を受けに行ってみると、やはりK医師。しかし私の知るK医師とはかなり違っていた。
眼科手術経験のある看護師を熱望していたらしく、まず「ようこそおいで下さいました」と来た。私は「あり得ない!K先生じゃない!」と叫んだ。もちろん心の中で。
とんとん拍子にパート勤務が決まり、いざ勤務を始めてみると、色々な問題が眼についた。
K医師の熊度は相変わらずで、事務のおばちゃんや開業準備からいたもう1人の看護師も「K先生ってコワイから意見できない」という。
手術器械の選定やセット化された衛生材料はともかく、それ以外の消毒薬や術野で使う生理食塩水の使い方、片付け方法がずさん。
もう1人の看護師が決めたやり方のようだが、私から見ればかなり首をかしげることが多かった。
ある日私はK医師に「お話があります」と言い、その時点で問題と思っていることを全てぶちまけた。K医師は青天の霹靂だったこともあったようだが、私の話は怒ることなく、3時間かけて熱心に聞いてくれた。
翌日からK医師の態度が変わった。
正確には変わろうと努力しているのが見えた。他のスタッフからの「怖い」という印象がなくなるまでは2か月ほどを要したが、その頃からか、患者さんの数も増えてきた。
開院当時は1日に数人、3ヵ月後に私が入職した頃も1日30人程度しかいない日もあったが、開業から2年が過ぎるころには多い時で1日150~200人になったそうだ。
自分で治療を頑張ろうとしない患者さんには相変わらず熊のように吠えることもあるが、基本的には人当たりの良い医師になった。
その辺が口コミで伝わり、ご近所の患者さんが増えたということだ。
この頃、実際にこのクリニックで働いている看護師と話す機会があったのだが、彼女は「K医師を怖いと思ったことが無い」そうだ。
時々患者さんにお説教することもあるが、基本的にスタッフには腰が低く、スタッフの意見にも耳を傾ける。こうすることで、クリニック内のギスギス感が減り、患者さんも増える、ということに気付いたらしい。
私はすでに別の職業へ転職していたが、一番古株の事務員さんにはとても感謝されたことを、今でも覚えている。
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