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第19回:看護師のアイドルだったアイ子先生

第19回:看護師のアイドルだったアイ子先生

 

■ 記事作成日 2015/11/25 ■ 最終更新日 2017/12/5

 

明晰な頭脳と童顔のギャップ

第19回:看護師のアイドルだったアイ子先生

 

元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で出会った、看護師に好かれる医師/嫌われる医師の人物像を振り返ってみます。19回目の今回は、看護師のアイドルだったA医師です。

 

研修医、のいろいろ

 

現在の「研修医」は、1つの病院の中でおよそ2年間、色々な科を回って経験を積む、という方法になっていると思う。いつからこの方式になったのか、正確なところは分からないが、少なくても15年くらい前は、少し違ったように思う。

 

当時、私はOPE室で働いていたが、その病院の麻酔科は、いくつかの大学からの「麻酔科研修医」を受けれていた。●●大学△△科医局の若い(経験がまだ浅い)医師が、「麻酔科の研修を受ける」という名目でやってきていた。彼らは「ローテーター」と呼ばれていた。

 

期間にすると数か月、本来は違う科(とはいえ外科系)の医師が、麻酔科の研修を受けるという名目で赴任してきた。麻酔導入、挿管、硬膜外麻酔などの技術と、全身麻酔中の患者管理を学んでいく場だった。

 

2年くらいかけて本来の科で勉強しながら、そのうちの数か月を麻酔科で研修を受ける医師もいたし、麻酔科の研修だけを数か月間受けて、また大学へ戻っていく、あるいは別の病院の本来の科の医師として赴任していく、というパターンもあった。

 

見た目は子ども、頭脳は大人

 

ある時、A医師は麻酔科の研修だけを数か月受けにきた。確か、2カ月間くらいだったと思う。

 

A医師は、ストレートで某国立大学へ入学、国家試験にも1回で合格、某国立大学の整形外科の医師になった人物だ。整形外科医としては比較的優秀な方だったと聞いていたので、頭脳は超大人。

 

しかし、見た目がね…。比較的小柄で、身長は私とあまり変わらない。同じ目線で話が出来る位なので、165㎝くらいだったのではないだろうか。目がぱっちりとして、肌は色白。唇も赤く、失礼を承知でいうなら、可愛らしい女の子のようだった。女装したら、似合うな、きっと。

 

当時のOPE室看護師は全員女性だったが、誰よりも可愛らしい顔立ちだった。しかも、かなりの童顔。まるで某男性アイドルを多く輩出する芸能事務所のアイドルのようだった。

 

とはいえ、医師の国家資格を持っている訳だし、よく聞けば当時26歳。私が24歳の頃だったと思うので、自分よりも年上…。ということが、信じられない(信じたくはない?)風貌だった。

 

A医師の話では、電車やバスに乗っていると、学生と間違われるらしい。しかも高校生から大学生になりたて、くらいに思われているらしく、未成年の扱いを受けることもあるという。良くみれば無精ひげだって生えているのだが…。それくらい、見た目には可愛らしい医師だった。

 

こっそりつけられた“あだ名”

 

OPE室看護師に限らず、いや看護師と医師に限らず、職場の人たちにこっそり“あだ名”というか、勝手な呼び名を付けることは、どんな世界でもあるだろう。「佐藤さん」なら「さとちん」とか、オカダさんなら「オカピー」とか、「太陽君」という子どもをもつママさんなら「太陽ママ」とか。もちろん、年上の方や目上の方だった場合、本人には「佐藤さん」とか「岡田さん」とか、きちんとした名前で呼びかけるが、まぁ本人の居ないところでなら、色々な呼び方ってあると思う。

 

A医師に付けられたあだ名は、女の子。仮にA医師が「アイダさん」なら、「アイ子」という具合だ。男性医師なのに「アイ子」。見た目は子どもでも頭脳はとっても大人なのに、「アイ子」。賛否両論はあるかもしれないが、A医師は当時のOPE室看護師の中では、アイドルだったのだ。みな、親しみを込めて、A医師を(こっそりと)「アイ子」と呼んでいた。

 

アイ子先生は、とても優秀。麻酔科の医師からの受けが良く、OPE室看護師からも好かれていた。病棟の看護師や他科の医師からも、仕事中は「A先生」と呼ばれていたが、実はこっそり「アイ子」とも呼ばれていた。

 

時々、飲み会などの席では、本人に「アイ子!」と言ってしまう人もいたので、本人もそう呼ばれていることは知っていただろうが、「え、俺?」と言いつつも、まぁそれほど嫌な顔もしなかった。本心は分からないが。

 

アイドルの成長した姿

 

さて、A医師がそのOPE室を去ってからおよそ2年後。当直をしていると、急患のコールが。下腿開放骨折の患者さんで、洗浄・デブリが必要とのこと。手術の器械と部屋を準備し、オンコールの麻酔科も到着したので、入室を待っていた。すると、患者さんとともにやってきたのは、A医師。別の病院で勤務中(帰ろうとしているところだったらしい)に、急患を受け入れたが、夜間緊急手術が難しい状況にあったため、こちらの病院に回ってきたそうだ。

 

A医師に久しぶりに会った麻酔科医とOPE室看護師は、声を揃えて「アイ子!」と、思わず口に出してしまった。

 

一瞬、止まる空気。自院の整形外科医も、患者を搬送してきた救急外来の看護師も、「え、誰?」という感じ。患者さんも男性だったし。
しかし、当のアイ子先生は「どうもー、お久しぶりです♪」というノリ。何だか微妙な空気が、一瞬だけ流れたが、でもそこは夜間緊急手術。ゴールデンタイムまであと数時間という(本来なら)とっても緊迫した時間。きっちりと仕事をしつつ、整形外科医として成長したA医師の姿に、みんなほんのりとした感動を覚えていたに違いない。ま、見た目は変わらず、アイ子そのものだったが。

 

アイ子先生は、自分の勤務する病院には戻らなくても良いということで、手術にも立ち会った。手洗いまではしなかったが、OPE室の中には居た。その時の当直看護師は私と私の同期の2人。整形外科医として、患者さんやその場にいた医師たちと接するアイ子先生は初めて見たので、特に私の同期は「やっぱりドクターだったのね」と、何だか感動していたようだ。よく考えるとちょっと微妙だが。

 

ちなみに、A医師に「アイ子」というあだ名を付けたのも、彼女。彼女は、実家に帰って犬の散歩をしていた時、ついうっかり犬に対して「アイ子!」と呼んでしまったこともあるそうだ。どれだけ思い入れのあるあだ名なんだか。

 

いつまでも語り継がれてしまう、アイドルのアイ子先生。今はどうしているのやら?

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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