第6回:スタッフ全員からカリスマとよばれたN医師
■ 記事作成日 2015/2/20 ■ 最終更新日 2017/12/5
若い頃はスポーツマン、現在はダンディ
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験と、さらに約10年の一般会社員経験の中で出会った人たちの中から、「出世する医師」について考えてみたいと思います。第6回目の今回は、「カリスマ医師N氏について」です。
齢70後半にしてダンディという言葉がピッタリ
N医師は現在、70歳代も後半に差し掛かっている。それなりに加齢現象は起きているのだろうが、とにかくダンディという言葉がぴったりな医師である。
基本的に物腰が柔らかく、背筋もピンと伸び、彫の深い顔立ちに白髪混じりの髪形が良く似合う。
N医師の娘であるY医師に話を聞くと、若い頃はスキーで活躍したスポーツマンだったそうだ。某大学病院の眼科医としてバリバリと勤務し、冬は山に籠る。
現在でも時間ができれば、家族で冬山へ行き、スキーを楽しむこともある。若い頃はさぞかしスマートで、人気があったのだろうと、たやすく想像できる。
しかしY医師いわく「今はかなり丸くなったけど、若い頃は頭に血が上りやすいのか、しょっちゅう怒っていたらしいよ」だそうだ。うんうん、若い時って「どうしてそんなことで?」という些細なことでも気になるよね。
N医師は、今でいうモンスターペイシェントかというような患者さんを怒鳴りとばしたことも多々あった。
基本的には正論で怒るタイプらしい。Y医師自身は「あまり怒られた記憶はない」そうだが、クリニックのスタッフには怒るシーンも時々みかけたらしく、「怒らせると怖い」人物ではあったようだ。
しかし私の知る限り、N医師は基本的に優しい。
これが年を取って丸くなったということなのか。内弁慶か外弁慶かと聞かれたら、内弁慶な人物なのだろう。身内とそうでない人への対応が、全く違うこともあるそうだ。
クリニックを開業、地域医療の発展を目指す?
N医師は眼科専門医であり、現在は自分が開業したクリニックの院長だ。
現在の地で開業から30年余り、常に待合室は患者さんで溢れている。N医師を慕ってくる患者さんが後を絶たないからだ。
なぜこの地に開業したのか、ということまでは聞き取れなかったが、同じ市内の総合病院でかつて医局長を務めていたらしい。
そういった縁もあって、40代になる頃に地域医療を念頭において開業した。街の中心からは少し離れるが、手術室や入院ベッドも備える、当時の眼科クリニックとしては規模の大きなクリニックだったといえる。
最初の頃は総合病院の患者さんが流れてくることが多かったようだが、現在は総合病院との連携ももちろんあるし、古巣ともいえる大学の医局との繋がりもある。
隣の都道府県からの患者さんもいるし、転居で遠くへ行ってしまっても「眼科はN先生に診てもらいたい」という患者さんが、家族に付き添われて定期的に受診してくることもある。
患者さんには優しいだけではなく、時には怒ることも
標榜科としては眼科オンリーなので、患者さんは高齢者の方が多い。
私がこのクリニックでお世話になったのは1年くらいだが、その少し前にY医師が副院長に就任している。患者さんから見れば院長先生の娘という先入観もあるのかもしれないが、院長をご指名で受診する人が本当に多かった。
よくある医療機関の口コミでも、近所ではとても有名、腕が良いと評判が高い。実際に何人かの患者さんに聞いてみたが、みな同じような答えが返ってきた。
「はっきりものをいうけど、話は分かりやすい」「口は悪いがキッパリ言い切ってくれるので安心」などという言葉も聞かれた。
外来診察の介助をしていると、確かに時々だが、患者さんにはキッパリと「それはダメ」といっていることもあったし、きちんと治療しようを続けようとしない患者さんには「ウチでは面倒見れなくなっちゃうよ」と諭しているシーンも見たことがある。
何が良くて何がダメなのか、まさに「正論で怒る人」なので、患者さんからみても安心感があるのだろう。
スタッフにとっても“カリスマ”
ではN医師のスタッフからの評判はどうか。このクリニックには当時、看護師が3名、医療事務の方が3名、視能訓練士の方が3名、経理などを取り仕切っている事務方が2名いた。それとなくN医師について尋ねると、みんな口をそろえて「スゴイ先生だよね」という。
ではどこがどうスゴイのか。
まず、眼科医としての腕が良い。ここのスタッフが全て、他のクリニック等での勤務経験があるわけではないのだが、「見えなかった人が見えるようになった」という、眼科ならではの治療後の経過がある。
特に古くから通い詰めている患者さんにからは、こういった意味での感謝の言葉を聞くことが多いそうだ。
また、他の眼科では分からなかった疾患の確定診断をしたり、他の病院では治らなかったが、このクリニックでの治療により「見える」ようになった患者さんも数多い。常に待合室が患者さんで溢れているのが、良い指標なのではないだろうか。
それからもう1つは、常に患者さんのことを考えている点だ。
医師としては当たり前のことかもしれないが、患者さんのライフスタイルや生活習慣、そういった治療の本質というよりも、患者さんそれぞれが持つ背景を事細かに覚えている。
それを念頭に置いた上で、治療方針を立てたり、患者さんへの指導をする。
時にははっきりとものをいうし、家族も含めて怒ることもあるが、すべては患者さんの眼を治したいという信念からくるもの。それがスタッフにも伝わっているので、「良い先生」であり「ついて行きたくなる先生」なのだそうだ。
一番古株の男性スタッフに聞くと、若いころは今よりもっと怖かったらしい。それでも辞めずにずっとついてきているのは「スタッフの事も身内のように考えてくれるから」だそうだ。
人は大人になると、なかなか他人から怒られることはない。
それでも本当に必要な時に自分を怒ってくれるN医師は、やっぱりどこかカリスマ的存在なのかもしれない。
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