第5回:部下を成長させ、部下に好かれることも出世の条件
■ 記事作成日 2015/1/30 ■ 最終更新日 2017/12/5
仕事ができる医師に共通する特徴とは
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験と、さらに約10年の一般会社員経験の中で出会った人たちの中から、「出世する医師」について考えてみたいと思います。第5回目の今回は、「部下を成長させ、部下に好かれる」です。
上司になる人は、部下から好かれることも条件
医療者という世界でもそうですが、一般社会でも「部下から好かれる」「部下から尊敬される」「部下の目標にしたい人物でる」ことも、仕事ができる条件かもしれません。
書店にいけば、「部下に好かれるには」とか「理想の上司になるには」といった趣旨の書籍が並んでいるし、いわゆるビジネス雑誌などにも時々、特集が組まれることもありますね。
ある程度の部下を持つべき年齢となった社会人にとって、部下の存在と上司の存在は、自分自身の立場を確立させるために避けては通れない課題ともいえるでしょう。
自分の部下を上手く操り、自分の業績を上げていくことが、出世する条件ではありますが、これはもちろん、部下に媚を売るということではありません。
この辺をはき違えている会社員は、実は結構いたりします。観察するには面白いのですが、いざ自分の上司になると、仕事がやりにくいのが実情です。
「部下に嫌われる医師」とは
では、私が過去の看護師人生の中で、出会った「部下に嫌われてしまう医師」を思い出してみます。
医師の世界はみなさん大人ですし、あからさまに「この人嫌い」という態度には出しません。
少なくとも研修医の立場であれば、逆に上司となる専門医たちに「どれだけ好かれるか」が、その後の研修期間を左右するといっても過言ではないでしょう。しかし、研修医の医師が変わるたびに、ウラでの評判を落としていく医師もいます。
外科系の科で部長を務めていたB医師は、そんな「部下に嫌われてしまう医師」の典型のような人でした。
手術になれば人が変わるというのはよくありましたが、B医師は手術以外の時も、ご機嫌によって態度が全く違うのです。
機嫌が良い時は、手術中でもニコニコしています。私たち看護師も名前で呼び、「〇〇出してくれる?」と優しい声で話しかけてきます。
外来や病棟でも、患者さんの話をじっくり聞きますし、研修医や若い医師にも「こういう時は、こうした方が良い」という指導もしてくれたりするそうです。
しかしB医師のご機嫌は、ほんの小さなきっかけでガラリと変わります。その切替のポイントは、長年一緒に働いている医師でも分からないそうです。
ご機嫌の悪い時のB医師は、話しかけてもむすっとして何も答えてくれません。
返事すらしてくれませんでした。手術中に器械を要求する時も「3-0ナイロン!!」と大声を出し(だから、そんな声でなくても聞こえますって)、器械を返す時は投げてよこすような人です。当然、手術に慣れていない研修医の先生が執刀医として付いているような手術なら、いつの間にかB医師が全て取り上げ、自分で手術を進めてしまいます。
最初は面食らいながらも反論するという、気骨のある若い医師も中にはいましたが、そうなると次の手術には第2助手としてすら入れてもらえず、「お前は見学!」と怒鳴っているシーンは何度もみかけました。別に、若い先生が失敗したわけでは無かったのですけどね。
そんなお人柄なので、同じ部長といっても部下の数は一番少なく(医局の関係もあったとは思いますが)、B医師+医局から派遣されてきた中堅の医師+研修医(多くて2名)という、こじんまりとしたグループでした。
「部下に好かれた医師」とは
では今度は、部下に好かれた医師の例をあげてみましょう。B医師と同じ科でやはり同じく部長であったW医師です。
W医師の元には、常に3人の中堅どころの医師がいて、さらに研修医が2~3名いました。
B医師とは医局(大学)が違うので、なぜ人数がそこまで違うのか、細かいことは看護師の私にはわかりませんでしたが、印象としてW医師のグループは非常に華やかというか、朗らかだった気がします。
W医師とその下の中堅どころの医師たちは、とにかく研修医や若い医師に優しかった記憶があります。
基本的には「若い人には勉強のためにどんどん手を出してもらう」というスタンスです。
もちろん肝臓切除だったり、膵頭十二指腸切除術の再建などの、非常に手技が細かくて複雑な技術を要するようなところは、W医師や中堅医師のお仕事です。
しかし、そこに至るまでの過程、例えば開腹から膵臓まで露出する間の剥離や血管処理、あるいは洗浄後のドレーン挿入や閉腹などの、比較的簡単そうな部分は、若い医師に率先してやらせるという懐の深さがありました。
B先生の場合、ご機嫌が悪いと、こういったあたりも全部自分でやってしまうんですよね。
もちろん、W医師だって怒る時は怒ります。全身麻酔の手術中に、研修医を怒鳴りとばすこともありましたし、なかなか器械を覚えられない看護師に対しては、「ちゃんとやってよ」というお言葉を頂いたこともありました。
しかし、W医師はB医師のように、常に大声だったり、器械を投げて返すことは絶対にしませんでした。怒るといっても、それは患者さんにとってのリスクと成り得る動作をしようとした時です。
これを「事前に止める」こともW先生や中堅の医師のお仕事であり、研修医の先生たちは常に前向きに頑張っていたように思います。
W医師のその後
私がW医師と知り合った時は、40代後半くらいでした。その病院ではすでに5年以上、部長先生だったそうです。比較的規模の大きな、地域の中核病院でしたが、40歳そこそこで、外科系の部長先生になっていたわけです。
その後7年足らずで私はその病院を退職しましたが、聞くところによるとW医師は50歳代後半で、系列病院の院長先生になったそうです。
そちらの病院も規模はあまり変わらないところですので、そこそこ大きな病院の院長先生に抜擢されたことになります。W医師の外科医としての腕も良かったのだと思いますが、中堅の医師や研修医の方たちに聞くと、「W先生の下で修業するのは名誉なこと」といわれていたそうです。
理由は「とにかく技術を身に付けることができる」「患者さんへの接し方など、勉強になることが多い」でした。つまり、「自分自身が成長できるから」が一番大きかったのだと思います。
ちなみに、手術室看護師からも「手術中に汗を拭いてあげたい医師」No.2でしたし、「手術中の姿が凛々しい医師」ではNo.1だったこともありました。手術室看護師の目からみると、見た目もある程度は大事だったんですね。
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