第11回:ちょいワルオヤジは人気の先生!?
■ 記事作成日 2015/5/20 ■ 最終更新日 2017/12/5
リア充医師の条件とは・・
元看護師のライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で出会った、看護師に好かれる医師/嫌われる医師の人物像を振り返ってみます。11回目の今回は、看護師だけではなく、患者さんや他職種からも人気のあった、M医師です。
誰もが認める“ちょい不良オヤジ
私がM医師と一緒に働いていたのは、今を遡ること〇十年前。当時はそんな言葉は無かったが、今の言葉でいえば、誰もが認める“ちょい不良オヤジ”だったと思う。
この言葉を最初に提唱したのは、40代以上の男性をターゲットにしたファッション誌「LEON」。雑誌の公式サイトをみてみると、確かに、通勤中やオフでの飲み会などでのM医師のファッションと似ている。
仕事中はオペ着かセパレートの白衣を着ていたが、時々見かける私服は、他の同年代の医師たちとは明らかに違った。私自身がイタリアだのブランドだのに詳しくないので詳細は不明だが、いつも仕立ての良いポロシャツや、チノなのに折り目正しいパンツスタイルだった。
たまたま街中で会った女性患者さんがうっとりと見送っていた、という噂もあった。その時なら“ジローラモと大親友”とか言われても、信じていたかもしれない。
街中で一緒に歩きたい医師No.1
手術室というところは、忘年会や暑気払いの規模が大きい。看護師の数は病棟とあまり変わらないが、出入りする医師が非常に多いためだ。そんなわけで、手術室の忘年会では、さまざまなイベントを催す必要がある。
私はある年の忘年会で幹事になり、“OPE室看護師が選ぶ、〇〇したい医師ランキング”というイベントを催した。事前のOPE室看護師へのアンケートによりランキングを決定し、1位だった医師に粗品を贈るというものだ。
例えば「術中に汗を拭いてあげたい医師」、「プライベートでもゴルフを教えてもらいたい医師」などだ。かなりフザケた質問もあったことは、大目に見て頂きたい。
その中で「休日の街中を一緒に歩いてみたい医師」という質問で、M医師は1位を獲得した。また「夜間の緊急手術でも喜んで受け入れたくなる医師」では2位、「術中にかける音楽のセンスが良い医師」では3位だった。
犬とサッカーとブラジル音楽をこよなく愛す
M医師は、学生時代から続けているサッカーと、サンバやボサノバなどのブラジル音楽が大好き。愛犬の写真を手帳に挟んで持ち歩いている。そんなことを、決して自慢気にではなく、さらりと話す。
“自分の好きなモノ語り”を延々としてもウルサイといわれないのは、やはりM医師の人徳だったのだろう。
一度、複数の医師や看護師たちと、Jリーグの試合を観戦したことがある。M医師は、「どのチーム」とか、「どの選手」とかにコダワリがあるのではなく、純粋にサッカーが好きだったようだ。
スタジアムについてから帰るまで、ずーっとハイテンション。お酒を飲んでいないのにこのテンションって一体……と、一緒に行った看護師に若干だが呆れられたことは言うまでもない。
ルパン3世のような2面性
そんな少年のような心を持つM医師だが、仕事に関しては真剣だった。
手術中も冗談を言うことはあるが、ここぞという時は必要な言葉以外は聞こえて来ない。マイクロ下での手術も多かったが、その間は無駄口一切禁止。
看護師の方も状況を理解し、ただ淡々と器械を出す。室内に聞こえるのは、M医師の好みであるボサノバと、モニターの音だけ。
しかし、それ以外のM医師を知る看護師からみると、その落差が面白い。
ある時、M医師の手術で器械出しについていた時、外回りの先輩看護師が「S先生って、ルパン3世みたいだよね」と書いた紙をこっそり私だけに見せた。
ちょうど前日の忘年会で、M医師が女性にモテるテクニックを惜しげもなく出し切り、看護師・看護助手・他科の女医に囲まれて、はしゃいでいるところを見たばかりだったからだ。
ものすごく真剣だった時間帯なのに、思い切り吹き出してしまった。OPEの中断には至らなかったのは幸いだったけど。
医師としても本物だった
ある夜、当直の仕事を終えた午前0時頃、休憩室でまったりしていると、M医師からの緊急OPE連絡が来た。20代男性の指切断だった。
OPE室看護師、麻酔科医、助手の医師が、何となく疲労感を隠せない状況で患者さんが入室した。
全身麻酔がスタートした時、M医師はおもむろに「この患者さんはまだ若い。何としても元通りにしてあげないとダメだ。朝までコースだけど、よし、やるぞ」と言った。M医師は多分、独り言を言ったのだと思う。しかしこの言葉で、そこにいる全員が覚醒した。
結局、マイクロも入りつつ、患者さんが退出したのは、翌日の日勤帯だった。数本の指を切断した患者さんは、その後のリハビリにも真剣に取り組み、1年後には社会復帰をしたという。
私は今でも、この時のM医師の真剣な眼を覚えている。
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート